ー密 会ー溺れる前に抱き止めて 【最後にSS】

光月海愛(こうつきみあ)

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fluctuation 変動Ⅱ

深いキス

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 「……え? お礼を言わなきゃいけないのは……」

  ーー私なのに。

  抱きしめられて、戸惑った。
  新年会の時の泥酔状態とは違うから。

 「もう、鷲塚さんの玉子焼きは食べられないと思ってた」

 「あー……そんなこと…」

 「……そんなこと、じゃないよ」

  耳元で囁いた葉築さんは、私の背中に回した手に力を入れた。

 「鷲塚さんが心細いなら、俺はここに留まるよ」

  この前まで、私のこと、″ どうでもいい ″ って言ってたのに。
  同じ人とは思えない。

  やっぱり、この人、優しいんだよ。

  先生とおんなじ、情に脆いのかもしれない。

 「大丈夫、防犯グッズ完璧だし、それに……流石に今夜は、信は現れないと思う」

  私が知ってる信は、いい意味でも悪い意味でも、そんなに度胸のある男じゃない。


 「そうか、分かった。……なら、帰るよ」

  帰る、といいながら葉築さんは私を離さない。

 「タクシー、呼ぼうか?」

   少し顔を離して、持っていたスマホで電話をかけようとすると、

 「……その前に……」

   顔を両手で挟むように掴まれ、躊躇いや迷いも許されないまま、唇を葉築さんのもので覆われた。

   私の記憶する葉築さんとのキスの中で、一番、熱いキスだった。


  この人と、ちゃんとキスをしたのは何ヵ月ぶりだろう?
  唇を合わせながら、そんなことを思った。

 「歯、閉じないで……舌にも会わせて」

   少し顔を離した葉築さんから、甘い言葉……。

    顔を固定されて、拒むことを許されない私は、もう何度もそうしたはずの行為に、トキメキさえ覚えながら、言われた通りに舌の通り道を作った。

   途端に、長い舌が侵入してくる。

   私の口の中を、くすぐるように優しく、そして、粘膜を剥ぎ取るとかのように、段々激しくなぞっていく。
  舌の付け根に、生き物のような彼の舌が何度も圧力を加える。

   口元も、溢れたものでべたべたで、それも吸われて、葉築さんでいっぱいになった。


 「おやすみ……今度こそ帰る」

  キスだけをして、葉築さんは、少し照れ臭そうに再びドアを開ける。

 「あ、あの」

 「ん?」

 「……もし、終電間に合わなかったり、タクシーがつかまらなかったら……」

  キスだけしかしてないのに、とても名残惜しい。

   同じ言葉で、こんな風に引き止めようとする自分の感情に戸惑う。


 「わかった、そん時は泊めて。戸締まりちゃんとしろよ」


  ″  愛しさ ″ だった。

  軽く微笑んで、葉築さんは帰っていく。

 ドアを閉め、聞こえなくなるまで、足音に耳を澄ませた。
  チェーンをかけながら、小さな溜め息が出る。

  また、恋人のいる人と禁断の恋に走ってしまいそうで、少し怖くなった。


  でも。それよりも、心を占めたのは、

  ″ ありがとう ″

  彼の優しさだった。

  今日はこのまま寝よう。
  彼の香りが残ったまま、幸せな気持ちのまま……。

  そう思った矢先、アパートの外で、耳を切り裂くような、大きな車のブレーキ音が聞こえてきた。

  続けて、何かが落ちる音ーー

  ……今の、なに?


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