ー密 会ー溺れる前に抱き止めて 【最後にSS】

光月海愛(こうつきみあ)

文字の大きさ
108 / 134
determination 決意

名前

しおりを挟む
 「鷲ちゃん! NITTANプリンス世田谷店の長里さんから電話!」

 「はい!」

   出社するなり、先日、室岡さんと挨拶回りに出掛けた所から、五月発表の新商品予約発注の電話があった。

 「一度、危機にさらされた御社だからこそ、見直した商品に期待したい」

   そんな言葉を頂けて、とても嬉しくなった。

 「ありがとうございます。早速、御見積を作ってお送り致しますね」

   営業としては、まだちゃんと機能していない。
   それでも、窓口になれた事で、やる気が起きてくる。

 「室岡さん、見積の確認をお願いします」

 「お? 早速 営業らしい仕事してるな。公表されてる範囲でいいんだろ?」

 「はい」

   営業って、気持ち次第では、とてもやりがいがある仕事なのでは、と思い始めていた。

  ″ 四月から伊織は営業異動だろ? その前にやっぱり事務職に変えてもらおう ″


  ……葉築さんの提案……私、室岡さんに話してないや。



   葉築さんの考えは、彼にとっては、利にかなってる。

   結婚するのなら、私が同じ職場だとやりづらいだろうし、退職自体を希望してるのかもしれない。

 ……でも、……私は、どうなの?

   事務職から営業職への異動を受け入れて、そこそこ準備も進めてる。
   担当顧客に挨拶もしてきた。

  今さら、また事務職に戻るなんて、できる?

  そもそも、葉築さんとの結婚生活のイメージはできる?

  ……。

  だめだ。
  何だか、始終セックスしてるイメージしか湧かない。昨夜が強烈だったからかな。

  「銀行と郵便局に行ってきます」

    気分転換も兼ねて、事務職としての雑務もこなしに外出することに。

  「あ、鷲ちゃん!、出るならアレも買っておいてよ!」

  「アレ?」

   私の足を止めた室岡さんは、水槽の方を指差した。

  「メダカの餌、俺がさっき、ばらまいちまったんだ」

 「なにやってんですか」

 「忙しくてテンパってんだよー。ほら、頼むよ」

 「わかりました」

 「風、冷たいからなー、気を付けろよ」

 「はい」

   室岡さんが言うように、今日のビル風は冷たさが半端なかった。
   今朝、葉築さんが使ったショールを羽織って、寒さをしのいで歩く。

   数百メートル先のATMを出たところで、

 「伊織? 伊織じゃない?」

  久しく聞く声に呼び止められた。

   高校時代の親友の茉美だった。

 「久しぶりねー、その格好は仕事中? 伊織って事務だっけ?」

 「そう。雑用で外出。茉美は?」

 「私は買い物。それより、伊織ってば、あれから電話かけてこないんだもん!」


   以前、電話をかけたら信の話になって、面倒臭くなって切ったんだった。

 「……なんか、バタバタと忙しくてね」

 「そうなの? あ、来月なんだけど同窓会あるのよ、急なんだけど。伊織に回す手間省けたわ」

   茉美はスマホを取り出して、そんな内容のメールを私に見せた。


  < 3/19 PM12:00より

道具屋ホテル 桜の間 ○○高等学校 第○○期生
同窓会……>



 「先生とかにも連絡とってるんだ、私幹事だったから。伊織も日曜日は休みでしょ? 来るよね?」

 「……」

   私は、首を横に振った。

 「ごめん、せっかくだけど」

  行けない。

  信が来てたら、気まずいもの。

   別れた事を話していた茉美は、強制するわけでもなく、

  「そっかー」

  と、ちょっと残念そうにしてスマホを仕舞っていた。

  そして。

 「あ、ねぇ、橋元先生のこと、知ってる?」

  何かを思い出して、その特別な名前を出してきた。









しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)

久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。 しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。 「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」 ――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。 なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……? 溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。 王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ! *全28話完結 *辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。 *他誌にも掲載中です。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~

cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。 同棲はかれこれもう7年目。 お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。 合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。 焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。 何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。 美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。 私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな? そしてわたしの30歳の誕生日。 「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」 「なに言ってるの?」 優しかったはずの隼人が豹変。 「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」 彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。 「絶対に逃がさないよ?」

それは、ホントに不可抗力で。

樹沙都
恋愛
これ以上他人に振り回されるのはまっぴらごめんと一大決意。人生における全ての無駄を排除し、おひとりさまを謳歌する歩夢の前に、ひとりの男が立ちはだかった。 「まさか、夫の顔……を、忘れたとは言わないだろうな? 奥さん」 その婚姻は、天の啓示か、はたまた……ついうっかり、か。 恋に仕事に人間関係にと翻弄されるお人好しオンナ関口歩夢と腹黒大魔王小林尊の攻防戦。 まさにいま、開始のゴングが鳴った。 まあね、所詮、人生は不可抗力でできている。わけよ。とほほっ。

溺愛ダーリンと逆シークレットベビー

吉野葉月
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。 立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。 優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?

子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちだというのに。 入社して配属一日目。 直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。 中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。 彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。 それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。 「俺が、悪いのか」 人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。 けれど。 「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」 あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちなのに。 星谷桐子 22歳 システム開発会社営業事務 中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手 自分の非はちゃんと認める子 頑張り屋さん × 京塚大介 32歳 システム開発会社営業事務 主任 ツンツンあたまで目つき悪い 態度もでかくて人に恐怖を与えがち 5歳の娘にデレデレな愛妻家 いまでも亡くなった妻を愛している 私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...