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裏切りと恋 3
慰め
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【スマートグッド製品 欠陥】
【殺人VR】
まだ示談中だというのに、カフェ・バーではなくスマートグッドを批判する投稿が掲示板にも見られるようになる。
「まるで人が死んだみたいな騒ぎだな。転倒して骨折したのは酔っ払ったオッサンだろ? 利用者や店への批判が無いのが気になる」
メディアの取材対応をした長野さんが苦い顔をしていたが、私もそこが気になっていた。
怪我をしたお客様には、神城くんと一緒にお見舞いに行き、誠意を持って怪我の保障はすることは伝えている。その時のお客様の態度から、ネットに書き込みをするようには見えなかった。
「競合会社がやってる可能性はあるな」
長野さんが腕を組んでしかめ面をする。
「ステマですか?」
「そうとも言う。……啓社長、この件どうする?」
「そうだな」
問われた神城くんは、見ていたパソコンから長野さんに視線を移して、「ステマ規制の様子見で暫く放置」と答えた。
何故なら、名誉毀損からの記事削除に達するまでの経験を積んだ弁護士がそう多くはないからだそう。
けれど、会社のトラブルはこれだけに留まらなかった。
「ただいま……起きてたんだね」
その日、神城くんの帰宅は深夜となった。
専属秘書とはいえ、彼の身の回りに起こる全ての事を把握しているわけではなく、だから、疲弊した様子の神城くんを見てとても心配になった。
「うん、眠れなくてランと遊んでた。ご飯は食べる? 鴨そばだけど」
「いや。今日はいいや。朝から食べるよ」
私の手元から離れたランが彼のそばに移動し、目を瞬きさせる。
「ケイ、ゲンキない。何かやらかしたの?」
ペットロボでさえ、彼の声の調子や歩き方で感じ取っているのだ。
「ちょっとつまづくと、これだからな俺は。慰めてくれよ」
上着を脱いでソファーに置くと、神城くんはランではなく私に甘えてきた。ソファーで熱めの茶をすすっていた私は、抱きつく彼にかからないように、そっと湯呑みを置いた。
「……何かあったの?」
空いた両手で神城くんの髪を触る。整髪料で固まってない襟足部分は柔らかくて小動物の背中みたいだ。
私の胸に顔を埋めたまま、くぐもった声で彼が答えた。
「カフェ・バーのは完全に言いがかりだったけど、今度は自社製品による健康被害の記事が出るみたいなんだ」
「……え、どんな記事?」
健康被害?
それはやっぱりヘッドマウントディスプレイによるものだろうか。
長時間使用で乗り物酔いに似た症状が出ると、この前のカフェ・バーでも利用前に説明があった。
「一応、子供の使用開始年齢は明記してるけど、説明不足だったみたいだね。うちのゲーム機普及と子供の斜視の増加に関連性があると某メディアが取り上げるらしい」
業界大手の【スマートグッド】が槍玉にあげられるのは仕方ないにしても、今までそういった警告指摘は多々あったはずだ。
急に手のひら返したみたいな扱いはなぜ?
しかし、大変な時なのに、言葉のボキャブラリーが少ない私はこんな事しか言えない。
「……大丈夫?」
「大丈夫じゃないかも……」
茶化した風に答えた神城くんは、まるで乳児のようにパジャマの上から胸を吸い始めた。
【殺人VR】
まだ示談中だというのに、カフェ・バーではなくスマートグッドを批判する投稿が掲示板にも見られるようになる。
「まるで人が死んだみたいな騒ぎだな。転倒して骨折したのは酔っ払ったオッサンだろ? 利用者や店への批判が無いのが気になる」
メディアの取材対応をした長野さんが苦い顔をしていたが、私もそこが気になっていた。
怪我をしたお客様には、神城くんと一緒にお見舞いに行き、誠意を持って怪我の保障はすることは伝えている。その時のお客様の態度から、ネットに書き込みをするようには見えなかった。
「競合会社がやってる可能性はあるな」
長野さんが腕を組んでしかめ面をする。
「ステマですか?」
「そうとも言う。……啓社長、この件どうする?」
「そうだな」
問われた神城くんは、見ていたパソコンから長野さんに視線を移して、「ステマ規制の様子見で暫く放置」と答えた。
何故なら、名誉毀損からの記事削除に達するまでの経験を積んだ弁護士がそう多くはないからだそう。
けれど、会社のトラブルはこれだけに留まらなかった。
「ただいま……起きてたんだね」
その日、神城くんの帰宅は深夜となった。
専属秘書とはいえ、彼の身の回りに起こる全ての事を把握しているわけではなく、だから、疲弊した様子の神城くんを見てとても心配になった。
「うん、眠れなくてランと遊んでた。ご飯は食べる? 鴨そばだけど」
「いや。今日はいいや。朝から食べるよ」
私の手元から離れたランが彼のそばに移動し、目を瞬きさせる。
「ケイ、ゲンキない。何かやらかしたの?」
ペットロボでさえ、彼の声の調子や歩き方で感じ取っているのだ。
「ちょっとつまづくと、これだからな俺は。慰めてくれよ」
上着を脱いでソファーに置くと、神城くんはランではなく私に甘えてきた。ソファーで熱めの茶をすすっていた私は、抱きつく彼にかからないように、そっと湯呑みを置いた。
「……何かあったの?」
空いた両手で神城くんの髪を触る。整髪料で固まってない襟足部分は柔らかくて小動物の背中みたいだ。
私の胸に顔を埋めたまま、くぐもった声で彼が答えた。
「カフェ・バーのは完全に言いがかりだったけど、今度は自社製品による健康被害の記事が出るみたいなんだ」
「……え、どんな記事?」
健康被害?
それはやっぱりヘッドマウントディスプレイによるものだろうか。
長時間使用で乗り物酔いに似た症状が出ると、この前のカフェ・バーでも利用前に説明があった。
「一応、子供の使用開始年齢は明記してるけど、説明不足だったみたいだね。うちのゲーム機普及と子供の斜視の増加に関連性があると某メディアが取り上げるらしい」
業界大手の【スマートグッド】が槍玉にあげられるのは仕方ないにしても、今までそういった警告指摘は多々あったはずだ。
急に手のひら返したみたいな扱いはなぜ?
しかし、大変な時なのに、言葉のボキャブラリーが少ない私はこんな事しか言えない。
「……大丈夫?」
「大丈夫じゃないかも……」
茶化した風に答えた神城くんは、まるで乳児のようにパジャマの上から胸を吸い始めた。
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