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夢ならさめないで
予感
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普段は富裕層よりも一般的な客層が多いだけに、テレビにも出る青年実業家の来店は、やはり珍しい。
「なんかオーラが違う」
「そーいや、神城社長ってテニスの雛形夢子と噂なかった?」
「あんだけ金持ってたら女も選び放題なんだろうな」
キッチンで料理人達がホールを見ながら話していた。
その選び放題のはずの彼が、こんな普通のアラサーとも関係してた、なんて絶対に知られてはいけない。
神城くんとの短い同居生活は、今となっては奇跡みたいに思えてくる。
「やっぱり役員秘書って顔で選ばれるもんなのかね」
ついで、男性陣は倉林さんを見てウットリしている。(これまた自分が彼の専属秘書だったなんて話せない)
「口より手を動かしなさいよ!」
冬美がひと睨みすると、「はいはい」と皆作業に集中し始めた。
取引先となる農協の方が上座にいる。
私も粗相をしないように気をつけよう。
ウェルカムドリンクを持ってテーブルに寄っていくと、視線を上げた長野さんと目が合った。
「……………え、」
案の定、目を丸くしている。
「失礼します」
軽く会釈をしてドリンクを置いていく。
「ありがとうございます」
礼を言う倉林さんと神城くんも、このとき私に気が付いた。
「鈴木さん……」
と、驚く声を出したのは倉林さんだ。
「先日は失礼しました」
伏せ目がちに、小さく微笑んで見せる。
なるべく視野に入れないようにしていたから、神城くんがどんな顔をしていたか分からなかった。
「お知り合いですか?」
ウェイトレスエプロン姿の私を見て、農協の方がさほど興味なさそうに尋ねた。
「元、同僚です」
倉林さんと長野さんがハモって、はにかんだ笑いを見せ合う。その打ち解けた雰囲気が、もしかしたら長野さんの片想いが両想いへと変わったんじゃないかと思えてしまった。
……喜ばしいことのはずなのに。
なんだか、私だけ一年前から時間が止まってるみたいで複雑だ。
厨房に入って、はぁ……と深い息をつく。
たったあれだけの接触なのに、めちゃくちゃ緊張した。
「予約貰った時には気が付かなかったよ。スマート・グッドってなつみちゃんの前の職場だったんだよね。気まずいよね、ゴメン」
三川さんが料理をよそおいながら、ボソッと言った。
「履歴書なしで雇ってくださったんですから、当然ですよ」
そんな話を入社前にしたけれど、興味のない分野ならば社名聞いたってピンとはこないはず。
「よし。前菜持って行こうか。俺、説明しないといけない」
「はい」
色鮮やかな、無農薬野菜と厳選された地元の魚を使ったオードブルバリエ。
それを五人分持っていく。
「私も行くわ」
厨房から冬美が出てきた。
もともとホール専門なので当然なのだが、なんか嫌な予感がする。
「テレビカメラもあるんだから、へんなことしないでよ?」
「へんなことってなにさ。私だって恥かきたくないわよ」
「……ならいいけど」
「なんかオーラが違う」
「そーいや、神城社長ってテニスの雛形夢子と噂なかった?」
「あんだけ金持ってたら女も選び放題なんだろうな」
キッチンで料理人達がホールを見ながら話していた。
その選び放題のはずの彼が、こんな普通のアラサーとも関係してた、なんて絶対に知られてはいけない。
神城くんとの短い同居生活は、今となっては奇跡みたいに思えてくる。
「やっぱり役員秘書って顔で選ばれるもんなのかね」
ついで、男性陣は倉林さんを見てウットリしている。(これまた自分が彼の専属秘書だったなんて話せない)
「口より手を動かしなさいよ!」
冬美がひと睨みすると、「はいはい」と皆作業に集中し始めた。
取引先となる農協の方が上座にいる。
私も粗相をしないように気をつけよう。
ウェルカムドリンクを持ってテーブルに寄っていくと、視線を上げた長野さんと目が合った。
「……………え、」
案の定、目を丸くしている。
「失礼します」
軽く会釈をしてドリンクを置いていく。
「ありがとうございます」
礼を言う倉林さんと神城くんも、このとき私に気が付いた。
「鈴木さん……」
と、驚く声を出したのは倉林さんだ。
「先日は失礼しました」
伏せ目がちに、小さく微笑んで見せる。
なるべく視野に入れないようにしていたから、神城くんがどんな顔をしていたか分からなかった。
「お知り合いですか?」
ウェイトレスエプロン姿の私を見て、農協の方がさほど興味なさそうに尋ねた。
「元、同僚です」
倉林さんと長野さんがハモって、はにかんだ笑いを見せ合う。その打ち解けた雰囲気が、もしかしたら長野さんの片想いが両想いへと変わったんじゃないかと思えてしまった。
……喜ばしいことのはずなのに。
なんだか、私だけ一年前から時間が止まってるみたいで複雑だ。
厨房に入って、はぁ……と深い息をつく。
たったあれだけの接触なのに、めちゃくちゃ緊張した。
「予約貰った時には気が付かなかったよ。スマート・グッドってなつみちゃんの前の職場だったんだよね。気まずいよね、ゴメン」
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「履歴書なしで雇ってくださったんですから、当然ですよ」
そんな話を入社前にしたけれど、興味のない分野ならば社名聞いたってピンとはこないはず。
「よし。前菜持って行こうか。俺、説明しないといけない」
「はい」
色鮮やかな、無農薬野菜と厳選された地元の魚を使ったオードブルバリエ。
それを五人分持っていく。
「私も行くわ」
厨房から冬美が出てきた。
もともとホール専門なので当然なのだが、なんか嫌な予感がする。
「テレビカメラもあるんだから、へんなことしないでよ?」
「へんなことってなにさ。私だって恥かきたくないわよ」
「……ならいいけど」
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