同級生がCEO―クールな彼は夢見るように愛に溺れたい(らしい)【番外編非公開中】

光月海愛(こうつきみあ)

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夢ならさめないで

会いたかった

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 体温計を神城くんに渡し、問診票にはまるで保護者のように代筆する。
 生年月日もすらすら書ける。
(秘書時代に書いていたから覚えてた)

「症状はいつから?」

「………頭痛は今朝から、……熱はわからない……」

「関節は痛い?」

「……いや」

 ピピッとアラームが鳴り、体温計を見ると三十八度だった。思ったより低かった。
 ビニールハウスは暑かったし蒸せてたから、もしかしたら熱中症みたいになってたのかもしれない。

「神城さん、三番診察室へどうぞ」

 名前を呼ばれて立ち上がる。

「………もう一人で大丈夫だから、帰って」

 ゆっくり起き上がった神城くんが、笑みを見せて診察室に入って行った。

 そうだよね。
 子供じゃないんだから。
 なんで、こんなに必死になって病院に来ちゃったんだろう?
 待合の椅子にストン……と腰を降ろし、スマホの時間を見て、今なら遅くならずに帰ることが出来るな、と思った。

 ……でも。

 ビニールハウスで倒れた神城くんを見た時、そばにいたいと強く思った。

 私では、大した力になれないこともわかってるのに、冬美が言ったからではないけれど、今素直にならないと、ずっと絡んでいたものが解けない気がしたのだ。

 神城くんが診察室に入ってから数分後。
 中から看護師が私を呼んだ。

「付き添いの方にも、先生からの説明がありますので」

「え………は、い……」

 付き添い人にも話さないといけないような状況?
 まさか、命に関わるような重病?
 ただの夏風邪か熱中症かなと思っていたから、心の準備が出来ないまま、診察室に入った。
 神城くんが、申し訳なさげな目をしている。

「お姉さん?」

 医師に尋ねられ、「いえ……」と言い淀むと、

「妻です」

 と、何食わぬ顔で神城くんが答えた。
 ここで違いますと言うのもあれだし、私は黙って彼の隣に座った。

「えーと、奥さん、ご主人ね、念の為検査入院した方がいいと思うんだけど」

「どこを検査するんですか?」

「脳」

 医師が自身の頭を指して言った。

「え」

「スマート脳ドッグってわかる?」

「い、いいえ」

 不安になって神城くんを見ると、気怠そうに「大袈裟なんだよ」と軽く息をついていた。

「風邪やウィルス感染症でない発熱や心拍、呼吸、血圧の乱れが見られる場合は、自律神経中枢の消耗が考えられるから」

 医師の言う ″自律神経″にいまいちピンとこない。

「気温だけでなくて、過労や肉体疲労や身体的なストレスが溜まると、脳が発熱しやすくなるの。脳のオーバーヒートって言えばわかるかな」

「はい………」

 私は頷いた。頭の中では車のエンジンルームから煙が上がっている。つまり、脳の熱中症?

「あんまり酷くなると脳梗塞を起こす可能性もあるから、その予防として一回くらいはスマート脳ドッグを受けたほうがいいと思うんですよ」

 脳梗塞!

 ビビった私は、「はい、お願いします!」とまさに妻気取りで検査の承諾をしてしまった。医師はニヤリとして、神城くんの肩をポンポンと叩いた。

「仕事もプライベートも切り離して適温の病室でゆっくり過ごすのも悪くないよ。お金に困ってないならなおさら。一日くらいの入院は退院後のパフォーマンスに吉と出るから」

 離れていたから分からないが、この一年、神城くんは多忙を極めていたのだろう。医師の言う通り、検査入院という名の休息もアリかもしれない。

「明日は脳ドッグ以外にも血液検査や尿検査と健康診断と変わらない全身の検査がありますから、九時以降は水とお茶以外は口にしないでくださいね」

 神城くんに点滴を打ちながら、看護師が早口で告げる。

「はい」

 神城くんは看護師が部屋から出ていくのを見守ってから吐き捨てるように言った。

「熱中症用の点滴だよな? もうこれだけで良くないか? 脳ドッグで金儲けしたいんだろうな」

「検索したら三万円から五万円とか出てきた。人間ドッグもプラスすると十万円だって」

「マジか。……有無も言わさず、わりと立派な個室に入れるし。それは、まぁいいんだけど」

「大部屋ってどんな人がいるかわかんないから」  


 屈託のない会話。
 こんなふうに自然に話す日が来るなんて、思ってなかった。
 神城くんが点滴を打ってない方の手で、私の頬に触れてきた。


「会いたかった………」


 
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