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1.恋愛初心者
8.好きってなに?
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食事を済ませて、ブラブラとお店を見て回った。同級生と服を見るなんてこともしたことがなかったから、両角さんが「これ、空井さんに似合うね」と服を当ててくれるのが嬉しかった。
私には、お小遣いを使う機会がほとんどない。だから今日は貯めてきたお小遣いを、少し多めに持ってきていた。
似合うと言ってくれた服を買うと決めたら、彼女がすごく喜んでくれた。
一通り店を見終えて、クレープ屋に寄った。
人生で初めてのクレープだった。
そう伝えたら、両角さんは盛大に驚いて、奢ってくれた。
「ハハハッ。空井さん、口にクリームついてるよ」
指で拭ってくれる。
「ご、ごめん」
なんだか恋人同士がすることみたいで、恥ずかしい。
チラリと彼女を見ると、彼女の口端にもチョコがついている。だから私も真似して、指で拭ってあげた。
「両角さんだって、チョコついてる」
すると彼女の耳が真っ赤に染まり、目をそらされてしまった。
無言でパクパクと勢い良くクレープを食べて、紙で口元を拭く。
両角さんがクレープを食べ終えてしまったから、私も急がなければ…と思い、一生懸命クレープを口に運んだ。
「空井さん」
「何?」
口元を手で押さえて、まだ食べ終わりそうにないクレープを頬張る。
「私さ、空井さんともっと仲良くなりたい」
目をそらされてから、一度もこちらを見ない両角さん。
「だから…空井さんじゃなくて、穂って呼んじゃダメかな?」
急に名前を呼ばれて鼓動が速くなる。滅多に呼ばれることのない名前。
お母さんくらいしか呼ばない。そのお母さんも、誉と3人で話すときは「お姉ちゃん」と呼ぶから、数は少ない。
「私のことも、名前で呼んでほしい」
「永那…ちゃん?」
パッと勢い良くこちらを見た彼女は、頬を赤く染めている。
フフッと笑って「ちゃん付けなんて、いつぶりだろう?」と口元をさする。
「ああ。クレープ食べるの、急がなくていいよ。ごめんね、急がせちゃって」
その言葉に頷いて、ホッと一息つく。
「それで…さ、穂って呼んでもいい?」
「う、うん。お母さん以外にあんまり呼ばれないから、なんか新鮮」
「そっか。じゃあ私って、けっこう特別…かな?」
自信なさげに、彼女は目を彷徨わせている。
「そう…だね」
「穂」
彼女は安心したような、落ち着いた表情で笑みを浮かべている。
弧を描いて肩から落ちかかっている髪を耳にかけてくれる。
恥ずかしくて、クレープを口に運ぶ。
「穂、また2人で遊ぼうね」
「うん、楽しみ」
宙を見ながら、クレープを噛みしめる。
「可愛い」小さく呟いたのが、彼女の本心をそのまま表しているようで、全身が火照った。
「今海に戻ったらさ、夕日が見られるかもよ」
私がクレープを食べ終えたのを見て、永那ちゃんはまた私の手を握った。
外に出ると、空がオレンジ色に染まっていた。
私達は小走りで海に向かって、日が沈む前に砂浜に座った。
ゆっくりと太陽が海に沈んでいく。
その様子を私達は無言で眺めた。
「今日、楽しかったな」
夕方と夜の境。まだ水平線の辺りはオレンジ色だけど、見上げると星が瞬いていた。
「私も、楽しかった」
私達は顔を見合わせて笑った。
ふいに彼女が真剣な顔になる。
「穂。私、穂が好きだよ」
ゴクリと唾を飲む。
「いつも一生懸命なところ、ちゃんと相手に自分の意見を伝えられるところ、ちょっと不器用なところ、意外とお茶目なところ。白い肌も、長い綺麗な黒髪も、そのつぶらな瞳も…好き。友達の好きじゃなくて」
彼女は握っていた手の指を絡ませて、私に向き合った。
ドクドクと私の鼓動が速くなる。
「穂も私のこと、好きになってくれたら嬉しい。でも、そんなすぐに好きになってもらいたいとも思ってない。私達、話すようになってまだ数日しか経ってないし。…でも、いつか、私と同じように、穂も私を好きになってくれたら嬉しいなって思う」
「うん」
その告白があまりに真っ直ぐで、照れもするけれど、嬉しさのほうが込み上げて来る。
「そろそろ帰ろうか」
あっという間に水平線のオレンジ色はなくなって、夜の始まりが告げられる。
永那ちゃんはポンポンとお尻を叩いて、砂を落とした。
私が立ち上がると、私の服も払ってくれる。
そっと彼女の顔が近づく。
ギュッと目を瞑ると、彼女の香りがふわりと漂う。
「正直言えば、穂の“いたずらしちゃいますよ”にめっちゃときめいたってのもある」
彼女の息が耳にかかる。くすぐったくて、もっと強く目を瞑った。
「そ、そんなに…?」
「うん!…なんか、ゾクゾクした」
うぅ…と、自分のしたことを思い出して、思わず口を尖らせる。
彼女は私の背に腕を回して抱きしめた。
「2人で、もっと楽しいこと、たくさんしたいなあ」
湿った風が吹く。2人の髪がなびいて、顔にかかって笑い合う。
私も…。私も、永那ちゃんと2人でいっぱい楽しいことがしたい。
彼女の背に腕を回して、抱きしめ合う。
ドキドキして、でも楽しくて、幸せな1日はあっという間に過ぎた。こんな風に思えたのはいつぶりだろう?
私には、お小遣いを使う機会がほとんどない。だから今日は貯めてきたお小遣いを、少し多めに持ってきていた。
似合うと言ってくれた服を買うと決めたら、彼女がすごく喜んでくれた。
一通り店を見終えて、クレープ屋に寄った。
人生で初めてのクレープだった。
そう伝えたら、両角さんは盛大に驚いて、奢ってくれた。
「ハハハッ。空井さん、口にクリームついてるよ」
指で拭ってくれる。
「ご、ごめん」
なんだか恋人同士がすることみたいで、恥ずかしい。
チラリと彼女を見ると、彼女の口端にもチョコがついている。だから私も真似して、指で拭ってあげた。
「両角さんだって、チョコついてる」
すると彼女の耳が真っ赤に染まり、目をそらされてしまった。
無言でパクパクと勢い良くクレープを食べて、紙で口元を拭く。
両角さんがクレープを食べ終えてしまったから、私も急がなければ…と思い、一生懸命クレープを口に運んだ。
「空井さん」
「何?」
口元を手で押さえて、まだ食べ終わりそうにないクレープを頬張る。
「私さ、空井さんともっと仲良くなりたい」
目をそらされてから、一度もこちらを見ない両角さん。
「だから…空井さんじゃなくて、穂って呼んじゃダメかな?」
急に名前を呼ばれて鼓動が速くなる。滅多に呼ばれることのない名前。
お母さんくらいしか呼ばない。そのお母さんも、誉と3人で話すときは「お姉ちゃん」と呼ぶから、数は少ない。
「私のことも、名前で呼んでほしい」
「永那…ちゃん?」
パッと勢い良くこちらを見た彼女は、頬を赤く染めている。
フフッと笑って「ちゃん付けなんて、いつぶりだろう?」と口元をさする。
「ああ。クレープ食べるの、急がなくていいよ。ごめんね、急がせちゃって」
その言葉に頷いて、ホッと一息つく。
「それで…さ、穂って呼んでもいい?」
「う、うん。お母さん以外にあんまり呼ばれないから、なんか新鮮」
「そっか。じゃあ私って、けっこう特別…かな?」
自信なさげに、彼女は目を彷徨わせている。
「そう…だね」
「穂」
彼女は安心したような、落ち着いた表情で笑みを浮かべている。
弧を描いて肩から落ちかかっている髪を耳にかけてくれる。
恥ずかしくて、クレープを口に運ぶ。
「穂、また2人で遊ぼうね」
「うん、楽しみ」
宙を見ながら、クレープを噛みしめる。
「可愛い」小さく呟いたのが、彼女の本心をそのまま表しているようで、全身が火照った。
「今海に戻ったらさ、夕日が見られるかもよ」
私がクレープを食べ終えたのを見て、永那ちゃんはまた私の手を握った。
外に出ると、空がオレンジ色に染まっていた。
私達は小走りで海に向かって、日が沈む前に砂浜に座った。
ゆっくりと太陽が海に沈んでいく。
その様子を私達は無言で眺めた。
「今日、楽しかったな」
夕方と夜の境。まだ水平線の辺りはオレンジ色だけど、見上げると星が瞬いていた。
「私も、楽しかった」
私達は顔を見合わせて笑った。
ふいに彼女が真剣な顔になる。
「穂。私、穂が好きだよ」
ゴクリと唾を飲む。
「いつも一生懸命なところ、ちゃんと相手に自分の意見を伝えられるところ、ちょっと不器用なところ、意外とお茶目なところ。白い肌も、長い綺麗な黒髪も、そのつぶらな瞳も…好き。友達の好きじゃなくて」
彼女は握っていた手の指を絡ませて、私に向き合った。
ドクドクと私の鼓動が速くなる。
「穂も私のこと、好きになってくれたら嬉しい。でも、そんなすぐに好きになってもらいたいとも思ってない。私達、話すようになってまだ数日しか経ってないし。…でも、いつか、私と同じように、穂も私を好きになってくれたら嬉しいなって思う」
「うん」
その告白があまりに真っ直ぐで、照れもするけれど、嬉しさのほうが込み上げて来る。
「そろそろ帰ろうか」
あっという間に水平線のオレンジ色はなくなって、夜の始まりが告げられる。
永那ちゃんはポンポンとお尻を叩いて、砂を落とした。
私が立ち上がると、私の服も払ってくれる。
そっと彼女の顔が近づく。
ギュッと目を瞑ると、彼女の香りがふわりと漂う。
「正直言えば、穂の“いたずらしちゃいますよ”にめっちゃときめいたってのもある」
彼女の息が耳にかかる。くすぐったくて、もっと強く目を瞑った。
「そ、そんなに…?」
「うん!…なんか、ゾクゾクした」
うぅ…と、自分のしたことを思い出して、思わず口を尖らせる。
彼女は私の背に腕を回して抱きしめた。
「2人で、もっと楽しいこと、たくさんしたいなあ」
湿った風が吹く。2人の髪がなびいて、顔にかかって笑い合う。
私も…。私も、永那ちゃんと2人でいっぱい楽しいことがしたい。
彼女の背に腕を回して、抱きしめ合う。
ドキドキして、でも楽しくて、幸せな1日はあっという間に過ぎた。こんな風に思えたのはいつぶりだろう?
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