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1.恋愛初心者
41.靄
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もう時計は10時を指していた。
「そろそろ帰らないと」
3時間も話していたら長いようにも思えるけど、数日間全然話せなかったことを考えるとあまりに短くて、もっと一緒にいたかった。
握った彼女の手を離したくなくて、ギュッと力を込める。
「穂?」
公園には、ちょうど親子がやって来た。
「帰りたくない」
駄々をこねる子供のように呟くと、永那ちゃんが抱きしめてくれる。
「可愛い」
頭を撫でてくれる。
「食べちゃいたいくらい、可愛い」
その優しい声音で、胸がいっぱいになる。
「いいよ、食べても」
そう言うと、彼女の頬が赤く染まって、目を泳がせる。
いっそ、食べられてしまえば、永那ちゃんとずっと一緒にいられるかも…なんて。
「ハァ」と深いため息をついた後、永那ちゃんは私の首筋に顔をうずめた。
「ずるいよ」
「なにが?」
「今日の穂は、なんだかとことん甘えん坊なんだね」
「嫌?」
「嫌じゃ…ない。全然、嫌じゃない」
子供が砂場ではしゃぐ声が公園に響く。
「じゃあ今度、ね」
永那ちゃんが顔を上げる。
「え?」
「食べるのは、今度のお楽しみ」
私は目をパチクリさせて、ハテナマークが浮かぶ。
食べるって、またかじるってこと?
永那ちゃんが、目を細めて、薄っすら笑みを浮かべながら首を傾げる。
次第に口角が上がっていき、目線を下に向ける。
「穂、もしかして、自分が何言ったかわかってない?」
上目遣いに私を見て、聞く。
私は必死に頭を回転させる。
“食べちゃいたい”と言われたから、“いっそ食べられれば永那ちゃんと一緒にいられるのに”と思った。
永那ちゃんの一部になれたら…なんて、ありえないことを考えた。
一般的に“食べちゃいたいくらい可愛い”という表現は、赤ちゃんとかペットにも使われて、比喩として“それくらい可愛い”という意味で表現されると思うんだけど。
「まあいいや」
その一言で、思考が止まる。
「とにかく、また今度…穂の家に遊びに行かせてもらうときにでも、答えを教えてあげるね。後で“嫌だ”って言っても、もう無理だからね」
そんな、ある種恐怖の宣言をされて、私は目を白黒させる。
永那ちゃんが私の手を引いて、駅まで送ってくれる。
私が改札を通って、曲がり角を曲がるまで、手を振り続けてくれた。
それが嬉しくて、喜びを噛みしめるように、バッグの紐を握りしめた。
電車のなかでも、家に帰ってからも、永那ちゃんの言葉の意図が知りたくて、スマホで調べた。
でも検索して出てくるのは、主に、やっぱり私が最初に考えた意味合いで。
あとは実際に人を食べた人の恐怖の記事だったり、恋人と食事するときのアドバイスや、おすすめのお店が出てくるだけだった。
「ハァ」とため息をつく。
ベッドに寝転がりながら、今日のことを思い返す。
唇に触れる。
永那ちゃんのぬくもりが、簡単に蘇ってくる。
体を丸まらせる。
永那ちゃんと話すようになってから、私の体はなんだかおかしい。
特に体育祭の日に、初めてキスをしてから。
熱があるんじゃないかと思うほどに体が火照る。
何度か体温計で計ってみたけど、全然熱はなかった。
太ももと太ももの間に手を挟んで丸まると、少し落ち着くような気がしてる。
少しだけ…ほんの少しだけ手を動かすと、体がゾクッとする。
「ハァ」と息が溢れる。
早く永那ちゃんに会いたい。
最初の刺激的なキスも、今日の優しいキスも、どっちも好き。
ずっとしていられると思うほどに。
キスがこんなにも心地良いものだとは知らなかった。
実際に体験してみないとわからないことってたくさんあるんだな、と改めて思う。
映画や小説でキスシーンがあるけど、恋愛がわからなかった今までは、その行為の意味がわからなかった。
いっそ、そういうシーンはいらないとさえ思っていたのだから、我ながら重症だと思う。
どうしてこんなことする必要があるんだろう?なんて考えたこともあった。
今なら、なんとなく、わかる気がする。
永那ちゃんに、大切に思われてるんだって、実感できる。
永那ちゃんは昔、ストレス発散のためにそういうことをしてきたと言っていた。
きっとそこに“相手を大切にしよう”とする気持ちはあまりなくて、まだ私にはその違いはわからない。
私にとっては永那ちゃんが与えてくれたものが全てで、彼女が言ってくれる言葉が全てで、そのどれもが優しさや好意に基づいていると信じてる。
私が感じているこの心地よさは、彼女が私を大切にしてくれようとしている証なのだと思いたい。
…今度2人で話せたとき、前の他の人たちと、私とで違いがあるのか聞いてみようかな?
いずれは、エッチなことも…するんだよね?
そう考えた途端に、胸がギュゥッと締めつけられるように痛んで、心臓がバクバクと音を立て始めた。
下腹部の辺りか、それよりもう少し下か、疼くような感覚があって、太ももに挟んだ手を、より力を込めて挟む。
しばらく火照った体は冷めそうにない。
私はまた、ため息を溢した。
「そろそろ帰らないと」
3時間も話していたら長いようにも思えるけど、数日間全然話せなかったことを考えるとあまりに短くて、もっと一緒にいたかった。
握った彼女の手を離したくなくて、ギュッと力を込める。
「穂?」
公園には、ちょうど親子がやって来た。
「帰りたくない」
駄々をこねる子供のように呟くと、永那ちゃんが抱きしめてくれる。
「可愛い」
頭を撫でてくれる。
「食べちゃいたいくらい、可愛い」
その優しい声音で、胸がいっぱいになる。
「いいよ、食べても」
そう言うと、彼女の頬が赤く染まって、目を泳がせる。
いっそ、食べられてしまえば、永那ちゃんとずっと一緒にいられるかも…なんて。
「ハァ」と深いため息をついた後、永那ちゃんは私の首筋に顔をうずめた。
「ずるいよ」
「なにが?」
「今日の穂は、なんだかとことん甘えん坊なんだね」
「嫌?」
「嫌じゃ…ない。全然、嫌じゃない」
子供が砂場ではしゃぐ声が公園に響く。
「じゃあ今度、ね」
永那ちゃんが顔を上げる。
「え?」
「食べるのは、今度のお楽しみ」
私は目をパチクリさせて、ハテナマークが浮かぶ。
食べるって、またかじるってこと?
永那ちゃんが、目を細めて、薄っすら笑みを浮かべながら首を傾げる。
次第に口角が上がっていき、目線を下に向ける。
「穂、もしかして、自分が何言ったかわかってない?」
上目遣いに私を見て、聞く。
私は必死に頭を回転させる。
“食べちゃいたい”と言われたから、“いっそ食べられれば永那ちゃんと一緒にいられるのに”と思った。
永那ちゃんの一部になれたら…なんて、ありえないことを考えた。
一般的に“食べちゃいたいくらい可愛い”という表現は、赤ちゃんとかペットにも使われて、比喩として“それくらい可愛い”という意味で表現されると思うんだけど。
「まあいいや」
その一言で、思考が止まる。
「とにかく、また今度…穂の家に遊びに行かせてもらうときにでも、答えを教えてあげるね。後で“嫌だ”って言っても、もう無理だからね」
そんな、ある種恐怖の宣言をされて、私は目を白黒させる。
永那ちゃんが私の手を引いて、駅まで送ってくれる。
私が改札を通って、曲がり角を曲がるまで、手を振り続けてくれた。
それが嬉しくて、喜びを噛みしめるように、バッグの紐を握りしめた。
電車のなかでも、家に帰ってからも、永那ちゃんの言葉の意図が知りたくて、スマホで調べた。
でも検索して出てくるのは、主に、やっぱり私が最初に考えた意味合いで。
あとは実際に人を食べた人の恐怖の記事だったり、恋人と食事するときのアドバイスや、おすすめのお店が出てくるだけだった。
「ハァ」とため息をつく。
ベッドに寝転がりながら、今日のことを思い返す。
唇に触れる。
永那ちゃんのぬくもりが、簡単に蘇ってくる。
体を丸まらせる。
永那ちゃんと話すようになってから、私の体はなんだかおかしい。
特に体育祭の日に、初めてキスをしてから。
熱があるんじゃないかと思うほどに体が火照る。
何度か体温計で計ってみたけど、全然熱はなかった。
太ももと太ももの間に手を挟んで丸まると、少し落ち着くような気がしてる。
少しだけ…ほんの少しだけ手を動かすと、体がゾクッとする。
「ハァ」と息が溢れる。
早く永那ちゃんに会いたい。
最初の刺激的なキスも、今日の優しいキスも、どっちも好き。
ずっとしていられると思うほどに。
キスがこんなにも心地良いものだとは知らなかった。
実際に体験してみないとわからないことってたくさんあるんだな、と改めて思う。
映画や小説でキスシーンがあるけど、恋愛がわからなかった今までは、その行為の意味がわからなかった。
いっそ、そういうシーンはいらないとさえ思っていたのだから、我ながら重症だと思う。
どうしてこんなことする必要があるんだろう?なんて考えたこともあった。
今なら、なんとなく、わかる気がする。
永那ちゃんに、大切に思われてるんだって、実感できる。
永那ちゃんは昔、ストレス発散のためにそういうことをしてきたと言っていた。
きっとそこに“相手を大切にしよう”とする気持ちはあまりなくて、まだ私にはその違いはわからない。
私にとっては永那ちゃんが与えてくれたものが全てで、彼女が言ってくれる言葉が全てで、そのどれもが優しさや好意に基づいていると信じてる。
私が感じているこの心地よさは、彼女が私を大切にしてくれようとしている証なのだと思いたい。
…今度2人で話せたとき、前の他の人たちと、私とで違いがあるのか聞いてみようかな?
いずれは、エッチなことも…するんだよね?
そう考えた途端に、胸がギュゥッと締めつけられるように痛んで、心臓がバクバクと音を立て始めた。
下腹部の辺りか、それよりもう少し下か、疼くような感覚があって、太ももに挟んだ手を、より力を込めて挟む。
しばらく火照った体は冷めそうにない。
私はまた、ため息を溢した。
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