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1.恋愛初心者
43.靄
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翌日、本を読んでいたら急に影が落ちた。
見上げると、仁王立ちしている佐藤さんがいた。
「空井さん、この間のあたしの話、覚えてる?」
「えっと…」
「先週、あたしが永那を好きだって話、したよね?」
2人きりで話すと、佐藤さんは敬語じゃなくなるらしい。
私が頷くと、佐藤さんがしゃがむ。
うぅ…やっぱり目のやり場に困る。
「あのとき、話が途中で終わっちゃったと思うんだけど」
…あれ、途中だったんだ。
確かに、チャイムが鳴って遮られたのかも、しれない…?
「あたし、中学のときから永那とずっと一緒にいたの。永那のことは学校の誰よりもわかってると思っているし、ノートだって、永那にわかりやすいように書いてる」
“永那のことは学校の誰よりもわかってる”
これは彼女が胸を張ってずっと言い続けていることだ。
…でも、永那ちゃんは、お母さんのことは誰にも言っていないと言っていた。
前までは気にしていなかった佐藤さんの言葉に、引っ掛かりを覚える。
「正直、永那は優しいからあなたのことを気にかけているだけだと思う。ノートだって本当は必要ないはずだし、あたしのノートがあれば十分なの」
「…あの、佐藤さん」
佐藤さんの眉間にシワが寄る。
「ごめんなさい。まずは第二ボタンを留めてくれるかな?」
「は?」
大きな瞳が飛び出そうなくらいに大きくなる。
「その…胸が、見えそうで」
カーッと顔が赤くなり「今、そんな話してないでしょ?!」と声を張り、立ち上がる。
教室がシンと静まり返って、永那ちゃんも飛び起きた。
佐藤さんは、教室を一周見た後、俯いた。
「あの…今、けっこう事件とかもあるし、身なりには気をつけたほうが…」
「うるさい!あんたに関係ないでしょ!」
“佐藤さん、可愛いんだし”と言おうとして、遮られてしまう。
慌てて永那ちゃんが走ってくる。
「どうした?」
佐藤さんの拳が握りしめられていて、少し震えてる。
永那ちゃんは私を見て、不安そうな顔をしている。
「なにがあった?」
「私が、佐藤さんの胸元が開きすぎているから注意したの」
そう言うと、クラスメイトの大半は自分達の会話に戻ったようだった。
それを確認して、永那ちゃんが佐藤さんの頭をポンポンと撫でる。
私は思わず奥歯を食いしばった。
頭で理解していても、永那ちゃんが私以外の人にそういうことをしているのは、見ていて辛い。
「千陽、私も普段から言ってるじゃん、それ」
佐藤さんがボタンを留める。
「これでいいんでしょ」
そう言って、教室から出て行ってしまった。
「ハァ」と永那ちゃんがため息をついて「ごめんね」と眉をハの字にしながら言う。
「いや、私が余計なことを言ったから…」
「余計なことじゃないよ、大事なことでしょ」
永那ちゃんは後頭部をボリボリ掻いて「ちょっと行ってくるわ」と、佐藤さんを追いかけて行った。
その後ろ姿が、愛しくも、寂しくて、行かないでと言いたくなる気持ちを必死に堪える。
ああ、そうだ。
また佐藤さんの話を遮ってしまったかもしれない。
前回はチャイムが遮ったのだけれど。
この前から、一体佐藤さんが私に何を伝えたいのかわからない。
“私のほうが先に好きだったんだから、盗らないで”とか?
前に読んだ、大流行したというインターネット上で書かれた恋愛小説に、そんなシーンがあったような気がする。
あるいは“私○○が好きだから、応援してね”という、遠回しの牽制?
最後まで佐藤さんの話を聞いてから、胸元のことを言えばよかったと後悔する。
次の授業で、2人は戻ってこなかった。
2人がどこにいるのか、何をしているのか、何を話しているのか、気になって、授業に身が入らなかった。
なんとか黒板を書き写すことはできたし、先生の言っていることも聞き取れた。
それでも、すぐに気がそれそうになって、頬をつねった。
放課後になって、2人は戻ってきた。
私が帰ろうと鞄を肩にかけたときだった。
佐藤さんは泣いたのか、少し目が腫れている。
永那ちゃんと一瞬目が合って、困ったように笑った。
私は話しかけるべきか少し迷って、永那ちゃんが、席についた佐藤さんの頭を撫でるのを見て、教室から出た。
佐藤さんは嬉しそうに笑って、撫でられていた。
心に薄い靄がかかる。
見上げると、仁王立ちしている佐藤さんがいた。
「空井さん、この間のあたしの話、覚えてる?」
「えっと…」
「先週、あたしが永那を好きだって話、したよね?」
2人きりで話すと、佐藤さんは敬語じゃなくなるらしい。
私が頷くと、佐藤さんがしゃがむ。
うぅ…やっぱり目のやり場に困る。
「あのとき、話が途中で終わっちゃったと思うんだけど」
…あれ、途中だったんだ。
確かに、チャイムが鳴って遮られたのかも、しれない…?
「あたし、中学のときから永那とずっと一緒にいたの。永那のことは学校の誰よりもわかってると思っているし、ノートだって、永那にわかりやすいように書いてる」
“永那のことは学校の誰よりもわかってる”
これは彼女が胸を張ってずっと言い続けていることだ。
…でも、永那ちゃんは、お母さんのことは誰にも言っていないと言っていた。
前までは気にしていなかった佐藤さんの言葉に、引っ掛かりを覚える。
「正直、永那は優しいからあなたのことを気にかけているだけだと思う。ノートだって本当は必要ないはずだし、あたしのノートがあれば十分なの」
「…あの、佐藤さん」
佐藤さんの眉間にシワが寄る。
「ごめんなさい。まずは第二ボタンを留めてくれるかな?」
「は?」
大きな瞳が飛び出そうなくらいに大きくなる。
「その…胸が、見えそうで」
カーッと顔が赤くなり「今、そんな話してないでしょ?!」と声を張り、立ち上がる。
教室がシンと静まり返って、永那ちゃんも飛び起きた。
佐藤さんは、教室を一周見た後、俯いた。
「あの…今、けっこう事件とかもあるし、身なりには気をつけたほうが…」
「うるさい!あんたに関係ないでしょ!」
“佐藤さん、可愛いんだし”と言おうとして、遮られてしまう。
慌てて永那ちゃんが走ってくる。
「どうした?」
佐藤さんの拳が握りしめられていて、少し震えてる。
永那ちゃんは私を見て、不安そうな顔をしている。
「なにがあった?」
「私が、佐藤さんの胸元が開きすぎているから注意したの」
そう言うと、クラスメイトの大半は自分達の会話に戻ったようだった。
それを確認して、永那ちゃんが佐藤さんの頭をポンポンと撫でる。
私は思わず奥歯を食いしばった。
頭で理解していても、永那ちゃんが私以外の人にそういうことをしているのは、見ていて辛い。
「千陽、私も普段から言ってるじゃん、それ」
佐藤さんがボタンを留める。
「これでいいんでしょ」
そう言って、教室から出て行ってしまった。
「ハァ」と永那ちゃんがため息をついて「ごめんね」と眉をハの字にしながら言う。
「いや、私が余計なことを言ったから…」
「余計なことじゃないよ、大事なことでしょ」
永那ちゃんは後頭部をボリボリ掻いて「ちょっと行ってくるわ」と、佐藤さんを追いかけて行った。
その後ろ姿が、愛しくも、寂しくて、行かないでと言いたくなる気持ちを必死に堪える。
ああ、そうだ。
また佐藤さんの話を遮ってしまったかもしれない。
前回はチャイムが遮ったのだけれど。
この前から、一体佐藤さんが私に何を伝えたいのかわからない。
“私のほうが先に好きだったんだから、盗らないで”とか?
前に読んだ、大流行したというインターネット上で書かれた恋愛小説に、そんなシーンがあったような気がする。
あるいは“私○○が好きだから、応援してね”という、遠回しの牽制?
最後まで佐藤さんの話を聞いてから、胸元のことを言えばよかったと後悔する。
次の授業で、2人は戻ってこなかった。
2人がどこにいるのか、何をしているのか、何を話しているのか、気になって、授業に身が入らなかった。
なんとか黒板を書き写すことはできたし、先生の言っていることも聞き取れた。
それでも、すぐに気がそれそうになって、頬をつねった。
放課後になって、2人は戻ってきた。
私が帰ろうと鞄を肩にかけたときだった。
佐藤さんは泣いたのか、少し目が腫れている。
永那ちゃんと一瞬目が合って、困ったように笑った。
私は話しかけるべきか少し迷って、永那ちゃんが、席についた佐藤さんの頭を撫でるのを見て、教室から出た。
佐藤さんは嬉しそうに笑って、撫でられていた。
心に薄い靄がかかる。
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