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2.変化
59.初めて
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その後「しょうがないから帰るかー」と言って、永那ちゃんは帰り支度をした。
駅まで送ろうとしたけど、「可愛い彼女がちゃんと帰れるか心配になるから大丈夫」と断られた。
家から駅までの道なんて、何度も1人で往復しているのに…その少し大袈裟な優しさも好きだと思った。
手を繋いでマンションの下までおりる。
エレベーターの中で、彼女の唇が私のに重なった。
頬を両手で包まれて、名残惜しそうに長く触れ合った。
彼女の背中が見えなくなるまでずっと立っていた。
彼女は何度も振り向いて手を振ってくれる。
それがどうしようもなく愛しくて、絶対に手放したくないと強く思った。
部屋に戻った私は、すぐにベッドに寝転んだ。
彼女の匂いがする。
ドキドキして、息苦しい。
布団をギュッと握りしめて、彼女の存在を確かめるように目一杯空気を吸い込む。
まるで夢みたいだった。
彼女の濃艶な表情も、匂いも、体も、手つきも、全部、全部、まるで夢を見ていたみたいな。
でも確かに子宮に残る彼女の指の感覚が、夢じゃなかったのだと教えてくれる。
疲れきっているはずの体が、まだ彼女を求めている。
私は自分の手を太ももの間に挟む。
「永那ちゃん…」
もう会いたい。
気づけば私は眠っていて、目が覚めたのはお母さん達が帰ってきてからだった。
誉が「姉ちゃん寝てるー!」と大声を出すから、目が覚めた。
お母さんがお弁当をテーブルに置く。
「お姉ちゃん、どっちがいい?」
「俺はね、唐揚げ弁当にしたんだー!」
「へえ、良かったね」
私は並べられた焼き鮭の弁当といろんな惣菜が少しずつ入っている弁当を眺めた。
「お母さんは?」
「私はどっちでもいいから、選んじゃって」
焼き鮭の弁当を選んで、椅子に座る。
「いっただっきまーっす!」
誉がご飯をかき込む。
「誉、よく噛んで」
永那ちゃんを思い出す。
眠りから覚めても、私の下腹部の感覚は残ったままだった。
こんなにも感覚が鮮明に残ったままなのは、家族の前ではかなり気恥ずかしい。
誉が遊園地でのことを楽しげに話す。
お母さんとお出かけなんてほとんどないから、よっぽど楽しかったのだと伝わってくる。
お母さんも、そんな誉の様子を嬉しそうに眺めている。
今日は3人にとって良い日になったんだなあ、と思うと、私も嬉しくなる。
「姉ちゃんは?」
ふいに話を振られて驚く。
「友達と何したの?」
一瞬ドキッとして、すぐに冷静になる。
「勉強だよ、テスト前だからね。お昼に一緒にご飯も作ったけど」
「なんだー。姉ちゃんが友達連れてくるなんて初めてだったから、何して遊ぶんだろう?って思ったけど。やっぱ姉ちゃんは姉ちゃんだな」
「なにそれ」
お母さんが笑ってる。
「ああ、そうだ」
お母さんと誉の視線がこちらに向く。
「その…来週1週間、一緒に勉強しないか?って話になったんだけど…さすがに毎日家に呼ぶのは無理だよね?」
誉が眉間にシワを寄せる。
「なんで無理なの?」
誉が答えを求めるようにお母さんを見る。
お母さんも首を傾げながら「お母さんは全然平気だけど?そんなに夜遅くまでいるわけじゃないんでしょ?」と聞く。
「うん、まあ…たぶん4時半くらいには帰ると思う…」
予想外に2人とも呆気なく了承してくれて、拍子抜けする。
「早っ!俺の友達でも5時半に帰るよ」
誉が楽しげに笑ってる。
「テスト期間中は午前中に終わる日が多いから」
体育や美術などテストがない科目もあって、テスト期間中はそれらの授業が行われないから、学校が早く終わる。
だから帰るのが4時半だったとしても、昼過ぎからずっと一緒にいられると思うと、かなり長く一緒にいられる。
ご飯を食べ終えて、お風呂に入る。
永那ちゃんがつけた発疹は、まだほんのり赤い。
永那ちゃんが体を洗ってくれたことも思い出すし、あの行為も同時に思い出して、「うわああ」と声が漏れ出る。
家のどこもかしこも、永那ちゃんが思い出されて、今更パニックになる。
私は壁に手をついた。
シャワーから出るお湯が頭上から降り注がれて、少しもったいないと思いつつも、水に打たれていたい。
部屋に戻ったら、よりリアルに思い出しちゃうんだろうな…と想像すると、背筋がゾワリとする。
いつになったら消えるのかもわからない彼女の指の感触を、お腹を撫でて紛らわす。
でも目を閉じると、自分の手が永那ちゃんの手に重なって思えて、慌てて離した。
「ハァ」
自分で“だめ”と言っておきながら、お風呂での中途半端に終わった触れ合いを思い出して、ため息をつく。
「自分が怖い…」
今まで、そういうことに全く興味がなかったと言えば嘘になる。
でも、そもそも恋愛そのものが未知のものだったし、わからなかったから意識的に遠ざけていた。
ダメなこととすら思っていた節もある。
汚らわしい…とまではいかないけれど、不設楽なこととは思っていた。
とにかく、私にとって恋愛に関する全てが未知のもので、不設楽なことで、縁のないものだと思っていた。
それがいざこうなると、歯止めが効かなくなったみたいに、どんどん欲が溢れてくる。
帰り際の“いたずら”だって、本当はお風呂で中途半端にされた仕返しで。
でも自分で仕返ししておきながら、永那ちゃんに“襲いたくなっちゃう”と言われて、満更でもなくて。
本当はそうしてほしくてたまらない気持ちを必死に理性で抑えた。
足りない。
あんなにしたのに、こんなに体は疲れているのに、永那ちゃんが、もっとほしい。
まるで今まで抑え込んできた全てが爆発しているみたいな気分だ。
こんなんじゃ、永那ちゃんに引かれるかも。なんて。
いつか日住君と話した。
“好きな人と付き合えたら、寂しさが埋まる”
むしろ逆のようにも思えた。
好きな人ともっと一緒にいたくて、時間が惜しくて、絶対に手放したくなくなって、私だけを見ていてほしくて、余裕がなくなって。
こうやって後になって、永那ちゃんに引かれるかもなんて考えて、怖くなる。
…だから、きっと、日住君は“束縛したくなる”と言ったのかもしれない。
駅まで送ろうとしたけど、「可愛い彼女がちゃんと帰れるか心配になるから大丈夫」と断られた。
家から駅までの道なんて、何度も1人で往復しているのに…その少し大袈裟な優しさも好きだと思った。
手を繋いでマンションの下までおりる。
エレベーターの中で、彼女の唇が私のに重なった。
頬を両手で包まれて、名残惜しそうに長く触れ合った。
彼女の背中が見えなくなるまでずっと立っていた。
彼女は何度も振り向いて手を振ってくれる。
それがどうしようもなく愛しくて、絶対に手放したくないと強く思った。
部屋に戻った私は、すぐにベッドに寝転んだ。
彼女の匂いがする。
ドキドキして、息苦しい。
布団をギュッと握りしめて、彼女の存在を確かめるように目一杯空気を吸い込む。
まるで夢みたいだった。
彼女の濃艶な表情も、匂いも、体も、手つきも、全部、全部、まるで夢を見ていたみたいな。
でも確かに子宮に残る彼女の指の感覚が、夢じゃなかったのだと教えてくれる。
疲れきっているはずの体が、まだ彼女を求めている。
私は自分の手を太ももの間に挟む。
「永那ちゃん…」
もう会いたい。
気づけば私は眠っていて、目が覚めたのはお母さん達が帰ってきてからだった。
誉が「姉ちゃん寝てるー!」と大声を出すから、目が覚めた。
お母さんがお弁当をテーブルに置く。
「お姉ちゃん、どっちがいい?」
「俺はね、唐揚げ弁当にしたんだー!」
「へえ、良かったね」
私は並べられた焼き鮭の弁当といろんな惣菜が少しずつ入っている弁当を眺めた。
「お母さんは?」
「私はどっちでもいいから、選んじゃって」
焼き鮭の弁当を選んで、椅子に座る。
「いっただっきまーっす!」
誉がご飯をかき込む。
「誉、よく噛んで」
永那ちゃんを思い出す。
眠りから覚めても、私の下腹部の感覚は残ったままだった。
こんなにも感覚が鮮明に残ったままなのは、家族の前ではかなり気恥ずかしい。
誉が遊園地でのことを楽しげに話す。
お母さんとお出かけなんてほとんどないから、よっぽど楽しかったのだと伝わってくる。
お母さんも、そんな誉の様子を嬉しそうに眺めている。
今日は3人にとって良い日になったんだなあ、と思うと、私も嬉しくなる。
「姉ちゃんは?」
ふいに話を振られて驚く。
「友達と何したの?」
一瞬ドキッとして、すぐに冷静になる。
「勉強だよ、テスト前だからね。お昼に一緒にご飯も作ったけど」
「なんだー。姉ちゃんが友達連れてくるなんて初めてだったから、何して遊ぶんだろう?って思ったけど。やっぱ姉ちゃんは姉ちゃんだな」
「なにそれ」
お母さんが笑ってる。
「ああ、そうだ」
お母さんと誉の視線がこちらに向く。
「その…来週1週間、一緒に勉強しないか?って話になったんだけど…さすがに毎日家に呼ぶのは無理だよね?」
誉が眉間にシワを寄せる。
「なんで無理なの?」
誉が答えを求めるようにお母さんを見る。
お母さんも首を傾げながら「お母さんは全然平気だけど?そんなに夜遅くまでいるわけじゃないんでしょ?」と聞く。
「うん、まあ…たぶん4時半くらいには帰ると思う…」
予想外に2人とも呆気なく了承してくれて、拍子抜けする。
「早っ!俺の友達でも5時半に帰るよ」
誉が楽しげに笑ってる。
「テスト期間中は午前中に終わる日が多いから」
体育や美術などテストがない科目もあって、テスト期間中はそれらの授業が行われないから、学校が早く終わる。
だから帰るのが4時半だったとしても、昼過ぎからずっと一緒にいられると思うと、かなり長く一緒にいられる。
ご飯を食べ終えて、お風呂に入る。
永那ちゃんがつけた発疹は、まだほんのり赤い。
永那ちゃんが体を洗ってくれたことも思い出すし、あの行為も同時に思い出して、「うわああ」と声が漏れ出る。
家のどこもかしこも、永那ちゃんが思い出されて、今更パニックになる。
私は壁に手をついた。
シャワーから出るお湯が頭上から降り注がれて、少しもったいないと思いつつも、水に打たれていたい。
部屋に戻ったら、よりリアルに思い出しちゃうんだろうな…と想像すると、背筋がゾワリとする。
いつになったら消えるのかもわからない彼女の指の感触を、お腹を撫でて紛らわす。
でも目を閉じると、自分の手が永那ちゃんの手に重なって思えて、慌てて離した。
「ハァ」
自分で“だめ”と言っておきながら、お風呂での中途半端に終わった触れ合いを思い出して、ため息をつく。
「自分が怖い…」
今まで、そういうことに全く興味がなかったと言えば嘘になる。
でも、そもそも恋愛そのものが未知のものだったし、わからなかったから意識的に遠ざけていた。
ダメなこととすら思っていた節もある。
汚らわしい…とまではいかないけれど、不設楽なこととは思っていた。
とにかく、私にとって恋愛に関する全てが未知のもので、不設楽なことで、縁のないものだと思っていた。
それがいざこうなると、歯止めが効かなくなったみたいに、どんどん欲が溢れてくる。
帰り際の“いたずら”だって、本当はお風呂で中途半端にされた仕返しで。
でも自分で仕返ししておきながら、永那ちゃんに“襲いたくなっちゃう”と言われて、満更でもなくて。
本当はそうしてほしくてたまらない気持ちを必死に理性で抑えた。
足りない。
あんなにしたのに、こんなに体は疲れているのに、永那ちゃんが、もっとほしい。
まるで今まで抑え込んできた全てが爆発しているみたいな気分だ。
こんなんじゃ、永那ちゃんに引かれるかも。なんて。
いつか日住君と話した。
“好きな人と付き合えたら、寂しさが埋まる”
むしろ逆のようにも思えた。
好きな人ともっと一緒にいたくて、時間が惜しくて、絶対に手放したくなくなって、私だけを見ていてほしくて、余裕がなくなって。
こうやって後になって、永那ちゃんに引かれるかもなんて考えて、怖くなる。
…だから、きっと、日住君は“束縛したくなる”と言ったのかもしれない。
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