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2.変化
60.初めて
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寝ようとベッドに寝転んでも、ふわりと彼女の香りに包まれて目が冴える。
結局今日1日、ほとんど勉強ができなかった。
明日はちゃんとやらないと…と思うのに、全然眠れなくて焦る。
焦れば焦るほど目が冴えてくるのはなぜだろう?
体を起こして、スタンドライトをつけた。
ローテーブルに教材を広げて、勉強を始める。
そうして始めてしまえば、5分もすれば集中できた。
寝たのは3時近くになってからだった。
不思議と集中が続いて、気づけばそんな時間になっていた。
お茶を飲んで、トイレに行って、ベッドに寝転がるとすぐに意識がなくなった。
日曜日、起きた瞬間から全身が筋肉痛で起き上がれなかった。
なんとなく…なんとなくだけれど、昨日から体が少し痛かった。
寝れば治るだろうと思っていたら、次の日のほうが痛みが酷かった。
なんとか痛みを堪えながら起き上がると、もう11時で、ため息をつく。
お母さんは土曜日に仕事をしなかったからと、リビングでパソコンを開いていた。
私は顔を洗ってから、キッチンに立つ。
簡単な野菜炒めを作ると、匂いにつられて誉が部屋から出てきた。
体の痛み以外は、いつもの日常で少しホッとする。
永那ちゃんに連絡する。
『お母さん達に確認したら、テスト期間中、家に来ても大丈夫だって』
返事はたぶん、明日の朝だ。
永那ちゃんの喜ぶ姿が想像できて顔が綻ぶ。
ふとした瞬間に昨日のことを思い出して悶えては、頬をペチペチ叩いて勉強をした。
普段から予習復習しておいてよかったと心底思う。
いつもは念には念を入れて、教科書の隅々まで確認するように勉強していた。
教科書の隅々まで確認したところで、そんなところがテストに出るのは稀で、出るのはほとんどが復習した内容だ。
たまに引っ掛けみたいな、絶対に満点を取らせないぞという先生の意地の悪さから出題されることもある。
それがわかると、いつも私は勝ったような気持ちになって嬉しかった。
…今回は、土曜日が教科書を確認する時間に当てられなかったから、科目を絞って勉強することにした。
月曜日の朝、案の定永那ちゃんが喜んだ。
『やったーーー!!!めっちゃ楽しみ!テスト期間最高!』
一般的には、テスト期間って嫌がられるものだと思うけれど…。
永那ちゃんの家の事情から考えれば、自由時間ができるというだけで喜ばしいことなのかもしれない。
どちらにしても、永那ちゃんが私と一緒にいたがってくれることが嬉しい。
永那ちゃんが“最高”と言うのなら、私にとっても最高だ。
教室について席に座ると、スマホの通知がきた。
『ごめん、千陽にバレた』
永那ちゃんを見ると、あからさまにションボリした顔と目が合う。
『それで?』
『千陽も穂の家に行きたいとか言い始めた…』
思わず目を白黒させる。
どうすればいいかわからず、永那ちゃんを見る。
顔を机に突っ伏してしまっている。
その姿に苦笑して、佐藤さんを見た。
彼女は状況を察しているかのように、私と目が合って笑みを浮かべた。
そっと目をそらす。
とりあえず保留にすることにして、私はバインダーを開く。
テストは12時に終わった。
「ねえ、永那から聞いたでしょ?」
片付けをしていたら、そう話しかけられた。
声のするほうに顔を向けると、佐藤さんが立っていた。
「ああ…家に来たいって」
「そう。…あたしはだめ、なんてことはないよね?」
その断れない聞き方に、少し胸がザワつく。
「穂、無理だったら全然いいよ」
佐藤さんの後ろから永那ちゃんが顔を出す。
「え?あたし、ハブられるの?」
佐藤さんの声が、不安そうに震える。
「違うよ。そもそも私も行くのやめるって話」
永那ちゃんの急な提案に、私は唖然とする。
想像以上に、私は永那ちゃんと過ごすことを楽しみにしていたのだと知る。
佐藤さんがいてもかまわない。…それでも一緒にいたい。
「あ、いや…大丈夫だよ」
2人の視線が同時に私に向く。
片方は笑顔を作って、片方は困ったようにハの字眉になった。
結局3人で私の家に向かう。
本当だったら永那ちゃんと手を繋いで帰れたのだろうけれど、佐藤さんがいる手前、それは叶わない。
佐藤さんが永那ちゃんの腕に抱きつく。
彼女の豊かなそれが、なんだか妬ましい。
途中コンビニに寄ってお昼を買う。
…そういえば、前に佐藤さんが教室を出て行って永那ちゃんが追いかけたときの話、まだ聞いていないな。
2人でどんな話をしていたんだろう?
モヤモヤした気持ちを抱えたまま、私は無言で歩く。
2人の会話についていけないから。
永那ちゃんが何度か話題を振ってくれるけれど、つい素っ気なくしてしまう。
そのうち私だけが1人で前を歩いて、2人がついてくるような形になった。
永那ちゃんが隣を歩こうとするけれど、佐藤さんがそれを阻む。
永那ちゃんは私のなのに。
暗い渦がグルグルと脳内を巡る。
結局今日1日、ほとんど勉強ができなかった。
明日はちゃんとやらないと…と思うのに、全然眠れなくて焦る。
焦れば焦るほど目が冴えてくるのはなぜだろう?
体を起こして、スタンドライトをつけた。
ローテーブルに教材を広げて、勉強を始める。
そうして始めてしまえば、5分もすれば集中できた。
寝たのは3時近くになってからだった。
不思議と集中が続いて、気づけばそんな時間になっていた。
お茶を飲んで、トイレに行って、ベッドに寝転がるとすぐに意識がなくなった。
日曜日、起きた瞬間から全身が筋肉痛で起き上がれなかった。
なんとなく…なんとなくだけれど、昨日から体が少し痛かった。
寝れば治るだろうと思っていたら、次の日のほうが痛みが酷かった。
なんとか痛みを堪えながら起き上がると、もう11時で、ため息をつく。
お母さんは土曜日に仕事をしなかったからと、リビングでパソコンを開いていた。
私は顔を洗ってから、キッチンに立つ。
簡単な野菜炒めを作ると、匂いにつられて誉が部屋から出てきた。
体の痛み以外は、いつもの日常で少しホッとする。
永那ちゃんに連絡する。
『お母さん達に確認したら、テスト期間中、家に来ても大丈夫だって』
返事はたぶん、明日の朝だ。
永那ちゃんの喜ぶ姿が想像できて顔が綻ぶ。
ふとした瞬間に昨日のことを思い出して悶えては、頬をペチペチ叩いて勉強をした。
普段から予習復習しておいてよかったと心底思う。
いつもは念には念を入れて、教科書の隅々まで確認するように勉強していた。
教科書の隅々まで確認したところで、そんなところがテストに出るのは稀で、出るのはほとんどが復習した内容だ。
たまに引っ掛けみたいな、絶対に満点を取らせないぞという先生の意地の悪さから出題されることもある。
それがわかると、いつも私は勝ったような気持ちになって嬉しかった。
…今回は、土曜日が教科書を確認する時間に当てられなかったから、科目を絞って勉強することにした。
月曜日の朝、案の定永那ちゃんが喜んだ。
『やったーーー!!!めっちゃ楽しみ!テスト期間最高!』
一般的には、テスト期間って嫌がられるものだと思うけれど…。
永那ちゃんの家の事情から考えれば、自由時間ができるというだけで喜ばしいことなのかもしれない。
どちらにしても、永那ちゃんが私と一緒にいたがってくれることが嬉しい。
永那ちゃんが“最高”と言うのなら、私にとっても最高だ。
教室について席に座ると、スマホの通知がきた。
『ごめん、千陽にバレた』
永那ちゃんを見ると、あからさまにションボリした顔と目が合う。
『それで?』
『千陽も穂の家に行きたいとか言い始めた…』
思わず目を白黒させる。
どうすればいいかわからず、永那ちゃんを見る。
顔を机に突っ伏してしまっている。
その姿に苦笑して、佐藤さんを見た。
彼女は状況を察しているかのように、私と目が合って笑みを浮かべた。
そっと目をそらす。
とりあえず保留にすることにして、私はバインダーを開く。
テストは12時に終わった。
「ねえ、永那から聞いたでしょ?」
片付けをしていたら、そう話しかけられた。
声のするほうに顔を向けると、佐藤さんが立っていた。
「ああ…家に来たいって」
「そう。…あたしはだめ、なんてことはないよね?」
その断れない聞き方に、少し胸がザワつく。
「穂、無理だったら全然いいよ」
佐藤さんの後ろから永那ちゃんが顔を出す。
「え?あたし、ハブられるの?」
佐藤さんの声が、不安そうに震える。
「違うよ。そもそも私も行くのやめるって話」
永那ちゃんの急な提案に、私は唖然とする。
想像以上に、私は永那ちゃんと過ごすことを楽しみにしていたのだと知る。
佐藤さんがいてもかまわない。…それでも一緒にいたい。
「あ、いや…大丈夫だよ」
2人の視線が同時に私に向く。
片方は笑顔を作って、片方は困ったようにハの字眉になった。
結局3人で私の家に向かう。
本当だったら永那ちゃんと手を繋いで帰れたのだろうけれど、佐藤さんがいる手前、それは叶わない。
佐藤さんが永那ちゃんの腕に抱きつく。
彼女の豊かなそれが、なんだか妬ましい。
途中コンビニに寄ってお昼を買う。
…そういえば、前に佐藤さんが教室を出て行って永那ちゃんが追いかけたときの話、まだ聞いていないな。
2人でどんな話をしていたんだろう?
モヤモヤした気持ちを抱えたまま、私は無言で歩く。
2人の会話についていけないから。
永那ちゃんが何度か話題を振ってくれるけれど、つい素っ気なくしてしまう。
そのうち私だけが1人で前を歩いて、2人がついてくるような形になった。
永那ちゃんが隣を歩こうとするけれど、佐藤さんがそれを阻む。
永那ちゃんは私のなのに。
暗い渦がグルグルと脳内を巡る。
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