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2.変化
61.王子様
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中学のときのいじめは陰湿だった。
でも、そのおかげで永那と出会えたのなら…あたしにとっては王子様に出会うための過程でしかないと思えた。
あたしは勉強もそこそこ出来たし、ママがお洒落だから、その影響であたしもお洒落が好きになった。
小学4年生くらいまでは、大人からも同級生からも「可愛い」ともてはやされて生きてきた。
でも高学年になって、みんなが恋をするようになって、変わった。
興味もない、名前も知らない、顔も知らない、そんな人達に「好き」「彼女になってほしい」「付き合ってほしい」と言われた。
最初は悪い気はしなかった。
でも友達に無視され始めて、最初は理解できなくて、そのうち悪口を言われて、気づいた。
強がれるのも、1年くらいだった。
学校に行けなくなって、お洒落も嫌いになった。
「お腹痛い」という言葉をママが信じてくれたのは1週間くらいだった。
「早く学校行けよ」
そんな言葉を投げつけられて、あたしは家を出る。
でも学校には行けないから、公園で時間を潰した。
公園で1人で遊んでいたら、大人の男に話しかけられた。
寂しかったから話し相手をしていたら、体を触られた。
気持ち悪かったけど、どうすればいいかわからなくて、逃げられなかった。
あたしは泣いて帰った。
ママは彼氏と電話していて、あたしが帰ったことにも気づかなかった。
パパにも彼女がいるみたいだった。
2人ともあたしじゃなくて、スマホに夢中だった。
たまにママがあたしの写真を撮って「かわいい~」と褒めてくれた。
それがあたしにとっての日常だった。
あの男に会わないように、別の公園に行くようになった。
そこそこ大きな公園で、たくさん人がいたから、しばらくは安心できた。
でもあるとき「千陽ちゃんだよね?」と声をかけられた。
その男はヒョロッとしていて、優しそうな笑顔を浮かべていた。
「誰?」
「お兄さんね、君のママのお友達なんだよ」
「…もしかして、ママの彼氏?」
男の目が見開いて、ニマッと笑った。
「そうそう、ママの彼氏」
ママの彼氏にしては地味だなあと思ったけど、そのときのあたしは自分の名前を知られていたことで、信じてしまった。
「ママに頼まれて、千陽ちゃんのお迎えに来たんだよ?」
そう言われてついていくと、見たこともないアパートだった。
「さあ、行こう」
怖くなって、男に引かれた手を振り払った。
また捕まりそうになったけど、必死に走った。
男に掴まれた手がジンジン痛んだ。
怖くて怖くて仕方なかった。
帰ってママに彼氏の写真を見せてもらったら、顔が全然違った。
ママは呑気に「パパには内緒だよ」と言った。
手が震えた。
震えが止まらなくて、そのときばかりはママも心配してくれたけど、理由は話せなかった。
中学生になってスマホを買ってもらって知った。
ママはSNSであたしのことを晒していた。
SNS上では「優しいママ」とか「育児頑張っててえらい!」とかママに対する賞賛のコメントと共に「千陽ちゃん可愛すぎ」「芸能界入れるんじゃない?」とか、勝手にあたしのことが書かれていて、吐き気がした。
あの男はきっと、ママのSNSからあたしを特定したのだろう。
もう公園は怖くて、仕方なく学校に行った。
相変わらず無視されていたけど、気にしないように努めた。
ふと、むしろ男子に好かれて守ってもらったほうがいいんじゃない?と閃いた。
それからあたしはまたお洒落を始めて、ママが彼氏に甘えるみたいに男子に甘えた。
そうしたらすぐに彼氏ができた。簡単だった。
手を繋ぐのは気持ち悪かったけど、我慢した。
中学生になってもあたしは同じようにした。
でも、小学生のときの無視や悪口とは違って、机やノートに落書きされ始めて、物が隠されたり捨てられたりするようにもなった。
どうせ付き合うならイケメンがいいと思って声をかけた男子には彼女がいたらしく、その女から執拗にいじめを受けるようにもなった。
今時こんないじめあるの?って笑っちゃうくらい。
トイレの便器の中に顔を突っ込まれたときは、さすがに泣いた。
中学生にもなると、みんなセックスに興味を持ち始める。
イケメン彼氏も例外ではなく、そういう雰囲気になって、あたしは逃げ出した。
何度か曖昧に濁していたら、避けていると振られた。
そしてその後はだいたい、悪口の嵐。男からも女からも。
これ幸いと言い寄ってくる男もいた。
最初はそいつらと付き合ったけど、やっぱりみんな体目当てで、あたしは何度も1人で吐いた。
クラスのグループメッセージで、授業中にあたしの悪口が飛び交う。
あたしの成績はどんどん下がっていき、自分の存在意義がわからなくなった。
そんなときだった。
まだ肩くらいまで髪があった永那が声をかけてくれたのは。
永那を見た瞬間、綺麗な人だと思った。
冷めたような目で、吐くあたしを見下ろして「なにやってんの?」と聞いてきた。
「大丈夫?」
背中をさすってくれる手が優しくて。
でも最初は信じられなくて、少し怖かった。
その恐怖心は、彼女の笑顔で全てかき消えたけど。
中学のときのいじめは陰湿だった。
でも、そのおかげで永那と出会えたのなら…あたしにとっては王子様に出会うための過程でしかないと思えた。
あたしは勉強もそこそこ出来たし、ママがお洒落だから、その影響であたしもお洒落が好きになった。
小学4年生くらいまでは、大人からも同級生からも「可愛い」ともてはやされて生きてきた。
でも高学年になって、みんなが恋をするようになって、変わった。
興味もない、名前も知らない、顔も知らない、そんな人達に「好き」「彼女になってほしい」「付き合ってほしい」と言われた。
最初は悪い気はしなかった。
でも友達に無視され始めて、最初は理解できなくて、そのうち悪口を言われて、気づいた。
強がれるのも、1年くらいだった。
学校に行けなくなって、お洒落も嫌いになった。
「お腹痛い」という言葉をママが信じてくれたのは1週間くらいだった。
「早く学校行けよ」
そんな言葉を投げつけられて、あたしは家を出る。
でも学校には行けないから、公園で時間を潰した。
公園で1人で遊んでいたら、大人の男に話しかけられた。
寂しかったから話し相手をしていたら、体を触られた。
気持ち悪かったけど、どうすればいいかわからなくて、逃げられなかった。
あたしは泣いて帰った。
ママは彼氏と電話していて、あたしが帰ったことにも気づかなかった。
パパにも彼女がいるみたいだった。
2人ともあたしじゃなくて、スマホに夢中だった。
たまにママがあたしの写真を撮って「かわいい~」と褒めてくれた。
それがあたしにとっての日常だった。
あの男に会わないように、別の公園に行くようになった。
そこそこ大きな公園で、たくさん人がいたから、しばらくは安心できた。
でもあるとき「千陽ちゃんだよね?」と声をかけられた。
その男はヒョロッとしていて、優しそうな笑顔を浮かべていた。
「誰?」
「お兄さんね、君のママのお友達なんだよ」
「…もしかして、ママの彼氏?」
男の目が見開いて、ニマッと笑った。
「そうそう、ママの彼氏」
ママの彼氏にしては地味だなあと思ったけど、そのときのあたしは自分の名前を知られていたことで、信じてしまった。
「ママに頼まれて、千陽ちゃんのお迎えに来たんだよ?」
そう言われてついていくと、見たこともないアパートだった。
「さあ、行こう」
怖くなって、男に引かれた手を振り払った。
また捕まりそうになったけど、必死に走った。
男に掴まれた手がジンジン痛んだ。
怖くて怖くて仕方なかった。
帰ってママに彼氏の写真を見せてもらったら、顔が全然違った。
ママは呑気に「パパには内緒だよ」と言った。
手が震えた。
震えが止まらなくて、そのときばかりはママも心配してくれたけど、理由は話せなかった。
中学生になってスマホを買ってもらって知った。
ママはSNSであたしのことを晒していた。
SNS上では「優しいママ」とか「育児頑張っててえらい!」とかママに対する賞賛のコメントと共に「千陽ちゃん可愛すぎ」「芸能界入れるんじゃない?」とか、勝手にあたしのことが書かれていて、吐き気がした。
あの男はきっと、ママのSNSからあたしを特定したのだろう。
もう公園は怖くて、仕方なく学校に行った。
相変わらず無視されていたけど、気にしないように努めた。
ふと、むしろ男子に好かれて守ってもらったほうがいいんじゃない?と閃いた。
それからあたしはまたお洒落を始めて、ママが彼氏に甘えるみたいに男子に甘えた。
そうしたらすぐに彼氏ができた。簡単だった。
手を繋ぐのは気持ち悪かったけど、我慢した。
中学生になってもあたしは同じようにした。
でも、小学生のときの無視や悪口とは違って、机やノートに落書きされ始めて、物が隠されたり捨てられたりするようにもなった。
どうせ付き合うならイケメンがいいと思って声をかけた男子には彼女がいたらしく、その女から執拗にいじめを受けるようにもなった。
今時こんないじめあるの?って笑っちゃうくらい。
トイレの便器の中に顔を突っ込まれたときは、さすがに泣いた。
中学生にもなると、みんなセックスに興味を持ち始める。
イケメン彼氏も例外ではなく、そういう雰囲気になって、あたしは逃げ出した。
何度か曖昧に濁していたら、避けていると振られた。
そしてその後はだいたい、悪口の嵐。男からも女からも。
これ幸いと言い寄ってくる男もいた。
最初はそいつらと付き合ったけど、やっぱりみんな体目当てで、あたしは何度も1人で吐いた。
クラスのグループメッセージで、授業中にあたしの悪口が飛び交う。
あたしの成績はどんどん下がっていき、自分の存在意義がわからなくなった。
そんなときだった。
まだ肩くらいまで髪があった永那が声をかけてくれたのは。
永那を見た瞬間、綺麗な人だと思った。
冷めたような目で、吐くあたしを見下ろして「なにやってんの?」と聞いてきた。
「大丈夫?」
背中をさすってくれる手が優しくて。
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その恐怖心は、彼女の笑顔で全てかき消えたけど。
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