いたずらはため息と共に

常森 楽

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2.変化

71.王子様

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永那が珍しく、宿題をやってこなかったと言っていたから、これ幸いと2人の間に割って入る。
空井さんを見ると、目が合った。
ジッと見つめられて、逃げるようにあたしは永那を見た。
なんか空井さん、少し雰囲気変わった?
生まれた不安をかき消すように永那の腕に抱きついて、「期末終わったらどっかデートしよ?」と誘った。
永那はハッキリ断らないで、「どうしよっかなあ」なんて呑気に言った。
あーあ。空井さん、怒らせちゃったんじゃない?
あたしは1人、ほくそ笑んだ。
永那はいつもテスト期間中楽しそうにしてる。
「門限が厳しい」と言っていたから、少しでも長く友達といられるのが楽しいのだと言っていた。
最終日以外は2人で過ごして、最終日に複数人のクラスメイトと遊ぶのが定番になってる。
空井さんは真面目だから、勉強するのかなあ?
永那はきっと空井さんを誘うだろうけど、彼女が断ってくれることを期待する。
…もし永那と空井さんが2人で過ごす、なんてことになったらどうしよう?
2人のなかに割り込むしかないかあ。

次の日、永那がやたら上の空だった。
朝も寝ないし、「どうしたの?」って聞いても、「なんでもない」しか答えてくれない。
空井さんが教室に入ってくるとソワソワし始めて、あたしが話してるのに空井さんのところに行く。
コソコソ話し始めたと思ったら、急に永那が顔を真っ赤にして、しゃがみ込んだ。
あたしはビックリして、永那のそばに行く。
「どういうこと?」と聞くと、空井さんが落ち着いた表情で「佐藤さんには関係ないよね?」なんて言った。
なに?
やっぱり空井さんの雰囲気が変わってる。
前までは少し自信なさげだったのに、それこそ優里が言ったように“大人っぽく”て。
2人の間にあたしが入れる隙なんてないみたいで。
何も言えないことが悔しい。
空井さんは、あたしの目の前で、しゃがみ込んでる永那の髪を梳いた。
完全に喧嘩を売られた。
彼女が勉強を始めて、永那を放置してることに腹が立つ。
“大人の余裕”みたいなのを見せつけられてるみたいで、いちいち苛つく。

永那にキスしたこと、言ってやろうか?と思った瞬間、永那が立ち上がった。
永那に「何があったの?」と聞いたら、見たことない笑顔で「秘密」と言われた。
あたしが迫ったら、あんなにあたしの胸に釘付けだったくせに…!
またあたしに秘密にするの?
しかも今度は堂々と言っちゃって…。
敵わないという絶望感と、絶対奪ってやるという闘争心がゴチャ混ぜになる。
席について空井さんを見ると、首を擦りながらノートに目を通していた。
その仕草が、どこかで見覚えがあるように感じた。
そして彼女が手を机に戻した瞬間、首筋にあるシミみたいなものが、強調されるように見えた。
席は離れているはずなのに、そこだけやけによく見える。
目に涙が溜まっていくのを、必死に奥歯を噛みしめて堪える。
キスマーク。
永那が“恋人面されて腹が立つ”と言ったことを…“わかりやすいところにつけられて”嫌がっていたことを、永那が彼女にした?
鼓動が速くなって、息苦しくなった。

でも、永那が先輩につけられたキスマークは、次の日には消えていた。
痕にも残っていなかった。
どうやったらあんなふうになるの?
本当にあれはキスマークなのかな?と自分の直感を疑って、すぐにその疑念を払拭するように頭を横にぶんぶん振った。
あれは絶対キスマークだ。
そう確信する理由はわからないけど、なんとなくそうだと思う。
永那が手を出すのが早いのはわかっていたはずなのに。
…もう?
っていうか、空井さんって…実はやり手なの?
真面目でそういうの・・・・・に興味なさそうなフリして、すんなり受け入れたってこと?

あたしの予想が正しければ、永那が空井さんの手を掴んで教室から出て行ったあの日から、まだ3週間くらいしか経ってない。
あの日に付き合い始めたのだとすれば…いつそんな暇あった?
空井さんって体育祭の準備で忙しかったはずだよね?
それとも、もっと前から付き合ってたってこと?
いや、でも…永那が名前呼びしたのがあの日近辺ってことは、あたしの予想は当たってる確率のほうが高い。
…そうだ。
そもそも永那が空井さんを好きになったのだって、彼女が寝ている永那に“いたずらする”なんて言ったからだった。
空井さんって、実はビッチ?
だとすれば、あたしの取ってつけたような知識なんて、絶対敵わないんじゃない?
あの経験豊富な永那が、たかだか“エロい”だけで落ちるなんて、信じられなかったもん。

涙がスーッと引いていく。
良い意味で吹っ切れる。
ちょっと自信なさげだったのも演技?
え、永那騙されてない?
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