いたずらはため息と共に

常森 楽

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2.変化

92.友達

終業式が終わると、クラスの誰かが「夏休み、みんなでプール行こうよ!」と言った。
「参加する人はここに名前書いてー!」
優里ちゃんが日付を確認して、私を誘ってくれる。
永那ちゃんを見ると笑いながら頷いていた。
優里ちゃんが佐藤さんの腕を強引に引っ張りながら名前を書きに行く。
佐藤さんは男子も参加するのが嫌みたいだった。
「あたし達だけで行けばいいじゃん」と膨れっ面になったから、永那ちゃんが「私達だけでも行こ?」と笑いかけていた。
「そうしよ、そうしよ」と優里ちゃんが頷いて、スケジュール帳をまた開く。
「来週の水曜日はどうかな?3人とも予定あいてる?」
4人のなかで唯一部活動をしている優里ちゃんが、1番忙しそうだった。
私も永那ちゃんも頷く。
佐藤さんは頬杖をついて不機嫌そうにそっぽを向きながら「べつにいいけど」と言っていた。

「あ」
私が言うと、3人の視線が私に向けられる。
「どうしたの?なんか予定あった?」
「…いや、そういうわけじゃないんだけど」
永那ちゃんと優里ちゃんの頭にハテナマークが浮かぶ。
佐藤さんは興味なさげだ。
「私、水着持ってないなって…」
永那ちゃんと優里ちゃんの顔がパァッと明るくなる。
「じゃあ、一緒に買いに行こう!」
「穂の水着、私が選ぶ」
ムフムフしている永那ちゃんには、絶対選ばせたくない。
「明後日の日曜はどうかな?」
優里ちゃんが聞いてくれる。
私はすぐに頷いて、永那ちゃんは少し考えた後、頷いた。
メッセージでも、会うのは月曜から金曜と指定されていたし、永那ちゃんとしてはなるべく土日はあけておきたいのかもしれない。
「千陽も行くでしょ?」
優里ちゃんが笑いかける。
「なんであたしも?」と言いながらも、来てくれるようだった。
「私、新しい水着買っちゃおうかなあ。千陽も買ったら?」
佐藤さんは少し思案して、頷く。

日曜日、駅で優里ちゃんと待ち合わせた。
どうせなら少し遠出しようということになって、都心に向かう。
途中駅で永那ちゃんと佐藤さんと合流する予定だ。
最近お母さんがやたら張り切っていて、服をたくさん買ってきてくれる。
私には特に好みがないからそれはかまわないのだけれど、少し甘やかし過ぎなのでは?と思ったりもする。
「今までが少なすぎたの!」となぜか叱られ、私は苦笑した。
そんなこんなで、今日もおろしたての服を着ている。
「わあ!穂ちゃん可愛いねえ!」
パタパタと走ってきた優里ちゃんが開口一番そう言ってくれる。
恥ずかしくなって、前髪に触れる。
「あ、ありがとう。…優里ちゃんも、可愛いね」
そう言うと、優里ちゃんは目をまん丸く開いて、少し頰を赤らめた。
「へへへ、そんなことあんまり言われないから嬉しいや」
優里ちゃんは藍色のワンピースタイプのサロペットの下に、白いTシャツを着ている。

2人で電車に乗り込むと、エアコンの涼しい風が汗を冷やしてくれる。
「ねえ、穂ちゃん?」
「ん?」
「穂ちゃんってさ、永那以外に誰かと付き合ったこととかある?」
やっぱりみんな、恋話が好きなんだなあと心の中で苦笑する。
私は永那ちゃんと付き合ってから、そういう話を積極的にしよう・聞こう、と意識しているけれど、意識しなければ話題にしようとも思わない。
じゃあ何を話すのか?と聞かれても、何も思い浮かばないのだけれど。
「ないよ」
「えー!本当に?」
「え、うん。どうして?」
「いやー…」
優里ちゃんがポリポリと頭を掻きながら、頰をピンク色に染めて俯く。
「永那の起こし方がさ、手慣れてたっていうか、大人っぽいなあ…なんて思ったりして」
その言葉に、私はただ目を白黒させる。
そして時間を経て理解して、ボッと顔が熱くなる。

「あ、あれは…永那ちゃんとのノリ、というか。あんなこと、永那ちゃんにしかしたことないよ」
「そっかあ。…私、思わず見惚れちゃったんだよねえ」
「見惚れる?」
「なんか、2人が、綺麗だなあって。絵になるってこういうことを言うのかな?って」
理解が追いつかなくて、首を傾げる。
「あ、ごめんね。こんなこと言われても困るよね」
へへへと優里ちゃんが笑うから、私も笑い返す。
「優里ちゃんは、誰かと付き合ったりは?」
「ないない!1回もない!」
「そうなんだ。…好きな人は?」
「それがいないんだよねえ。好きがよくわからなくて」
私は深く頷く。
永那ちゃんに出会う前の私も、同じだった。
永那ちゃんを好きだと、なんとなく思っていたときにも、それが本当に恋なのか、それとも他の違う感情なのか、わからなかった。
ただ彼女の寝顔が綺麗だと思って、ただ掃除のときに1人だけ私のそばにいてくれるのが嬉しかった。
話しかければ、普通に話してくれて、笑いかけてくれる。
2人で話してみたら、たくさんドキドキして、私と話しているときは私だけを見てほしいと思えて、離れてほしくないと思った。

「みんな恋してて、ちょっと羨ましい」
優里ちゃんが困ったような笑顔を浮かべる。
「だって、みんなキラキラしてるんだもん。…私には部活があるけど、すごく強いってわけでもないし。本気でやってるけど…やっぱり、みんなが恋していろんなことを考えたり行動してるのを見てると、いいなあって思うよ」
私はただ頷くことしかできなくて、どう答えてあげればいいかわからない。
「これ言うとさ、千陽が“そのうちできるから気にしなくていい”って言うんだけど、そのうちっていつよ!って感じだよ」
「私は優里ちゃんと一緒にいて居心地がいいし、きっと優里ちゃんを好きだと思う人もたくさんいて、今は気づかなくても、誰かから突然告白されて相手を好きだってハッキリわかることもあるのかも」
優里ちゃんは足を宙に浮かせて「ほぅ?」と考える。
バンッと足を床について、私が肩をビクッとさせると、急に抱きつかれた。
「穂ちゃん、好き!」
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