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2.変化
101.夏休み
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バイトが終わってスマホを見ると『どうしたの?』と穂から連絡がきていた。
穂は夏休みも、学校と同じ時間に起きてるんだなあ…と思うと、なんだか癒やされる。
『服、洗濯してなくて。着るものがないです…』
自分で入力して、自分が惨めに思えてくる。
すぐに既読がつく。
『バイトはどうしたの?』
『パジャマのスウェットで行った。怒られた』
泣き笑いしている絵文字を添える。
『そうなんだ、おつかれさま。来るの、何時頃になりそう?』
簡素だなあ。可愛い。
『11時くらいかな?ごめんね』
『じゃあ、私が、永那ちゃんに会いに行ってもいい?』
全く予想していなかった展開。
そんな…会いに行っても…なんて…嬉しすぎて、よだれ出そう。っていうか、出てた。
服の袖で口元を拭う。
『来てくれるの?』
『うん』
『駅で待ってればいい?』
『うん』
『わかった、待ってるね』
駅前のベンチに座って目を閉じた。
気づけば「永那ちゃん」と優しい声が隣から聞こえて、顔が綻ぶ。
「おはよう、穂」
「おはよう、永那ちゃん」
髪をハーフアップにして、サラサラの黒い髪がなびく。
「今日も可愛いね」
そう言うと、嬉しそうに目を伏せた。
「永那ちゃん、眼鏡なんだね」
「ああ、うん。穂の家で寝るなら、眼鏡のほうがいいかなって思って」
「そっか」
「変?」
「ううん。…なんか、新鮮で。…かっこいい」
照れくさそうに言う姿が可愛すぎて、ため息が出る。
思わず彼女をギュッと抱きしめた。
彼女の手は少し宙を彷徨った後、私の背に回る。
時計を見ると9時過ぎで、穂がすぐに来てくれたことがわかった。
「穂、早くない?」
「そう?もう朝ご飯は食べ終えていたし、あとは着替えるだけだったから」
「そっか」
「…あ」
穂が手に持っている袋を差し出す。
「ん?」
「あの…昨日わたせばよかったなって、ちょっと後悔してる。いつわたそうか、迷ってたんだけど」
へへへと照れながら、私の膝に袋を乗せた。
私は紙袋を開けて、中身を見る。
綺麗に包装されているそれを開けていいのかわからず、彼女を見ると、頷かれた。
開けると、カーキ色のカーゴパンツだった。
「え?」
それは、4人で水着を見に行った日に、私が眺めていた物だった。
水着を買い終えて、暇だからみんなでブラブラ歩いていたときの。
「…遅くなっちゃったけど、1ヶ月記念の、プレゼント」
「え?え?…なんで?」
「水着買った後、みんなでお昼食べたでしょ?…そのとき、こっそり買いに行ったの。…いらなかった、かな?」
「いや…嬉しすぎて…あ…どう反応すればいいか…わからなくて」
心臓がドクドクと音を立てて、頭が真っ白になって、何も出てこない。
友達が誕生日プレゼントをくれることはあった。
千陽も毎年くれる。
どれも嬉しかったけど、でも、服をプレゼントされたのは初めてだった。
「喜んでもらえてよかった」
彼女が微笑むから、私の息は荒くなる。
好きがどんどん膨らんでいく。
穴があくか、縮むか、毛玉まみれになるか…とにかく、着れなくなるまで、私は同じ服を着続ける。
普段は制服だし、土日にたくさん出かけるわけでもないから、べつにそれでよかった。
でも、私だってまだ17歳だ。
みんなみたいに、服が欲しいと思ったことだって、何度もある。
「…高かったんじゃない?」
やっと出てくる言葉がそれだ。我ながら呆れる。
「んー…どうかな?」
穂は困ったように笑う。
そりゃあ、困るよね。ごめん。
「あ、ありがとう。すごい嬉しい」
やっと冷静になって、お礼が言える。
「ねえ、着てよ」
彼女をジッと見てしまう。
「着る服、洗濯してなくて、なかったんでしょ?…あ、でも、下じゃなくて上だったかな?」
彼女が心配そうに、首を傾げる。
正直、脳の処理が追いつかなくて、ただただボーッと彼女を見つめることしかできない自分が恥ずかしい。
「永那ちゃん?」
「…あ、うん。下…パンツがなかった」
「そっか。じゃあ、よかった」
「えっと…どこで着替えるか」
「永那ちゃんの家は?」
家はここからそんなに遠くない。
「…お母さん寝てるから、家に人、あげられなくて」
「私は、外で待ってるよ」
穂の優しさと、自分の不甲斐なさみたいなものに、押しつぶされそうになる。
「ごめん」
「え!?全然、気にしないで。私が突然来たいって言ったんだし」
私が頷いて笑うと、彼女も笑う。
私は服を紙袋にしまって、立ち上がる。
彼女に手を差し出す。
彼女は嬉しそうに笑って、私の手に手を重ねた。
私達は歩き出す。
やっぱり今年の夏は、最高だ。
穂は夏休みも、学校と同じ時間に起きてるんだなあ…と思うと、なんだか癒やされる。
『服、洗濯してなくて。着るものがないです…』
自分で入力して、自分が惨めに思えてくる。
すぐに既読がつく。
『バイトはどうしたの?』
『パジャマのスウェットで行った。怒られた』
泣き笑いしている絵文字を添える。
『そうなんだ、おつかれさま。来るの、何時頃になりそう?』
簡素だなあ。可愛い。
『11時くらいかな?ごめんね』
『じゃあ、私が、永那ちゃんに会いに行ってもいい?』
全く予想していなかった展開。
そんな…会いに行っても…なんて…嬉しすぎて、よだれ出そう。っていうか、出てた。
服の袖で口元を拭う。
『来てくれるの?』
『うん』
『駅で待ってればいい?』
『うん』
『わかった、待ってるね』
駅前のベンチに座って目を閉じた。
気づけば「永那ちゃん」と優しい声が隣から聞こえて、顔が綻ぶ。
「おはよう、穂」
「おはよう、永那ちゃん」
髪をハーフアップにして、サラサラの黒い髪がなびく。
「今日も可愛いね」
そう言うと、嬉しそうに目を伏せた。
「永那ちゃん、眼鏡なんだね」
「ああ、うん。穂の家で寝るなら、眼鏡のほうがいいかなって思って」
「そっか」
「変?」
「ううん。…なんか、新鮮で。…かっこいい」
照れくさそうに言う姿が可愛すぎて、ため息が出る。
思わず彼女をギュッと抱きしめた。
彼女の手は少し宙を彷徨った後、私の背に回る。
時計を見ると9時過ぎで、穂がすぐに来てくれたことがわかった。
「穂、早くない?」
「そう?もう朝ご飯は食べ終えていたし、あとは着替えるだけだったから」
「そっか」
「…あ」
穂が手に持っている袋を差し出す。
「ん?」
「あの…昨日わたせばよかったなって、ちょっと後悔してる。いつわたそうか、迷ってたんだけど」
へへへと照れながら、私の膝に袋を乗せた。
私は紙袋を開けて、中身を見る。
綺麗に包装されているそれを開けていいのかわからず、彼女を見ると、頷かれた。
開けると、カーキ色のカーゴパンツだった。
「え?」
それは、4人で水着を見に行った日に、私が眺めていた物だった。
水着を買い終えて、暇だからみんなでブラブラ歩いていたときの。
「…遅くなっちゃったけど、1ヶ月記念の、プレゼント」
「え?え?…なんで?」
「水着買った後、みんなでお昼食べたでしょ?…そのとき、こっそり買いに行ったの。…いらなかった、かな?」
「いや…嬉しすぎて…あ…どう反応すればいいか…わからなくて」
心臓がドクドクと音を立てて、頭が真っ白になって、何も出てこない。
友達が誕生日プレゼントをくれることはあった。
千陽も毎年くれる。
どれも嬉しかったけど、でも、服をプレゼントされたのは初めてだった。
「喜んでもらえてよかった」
彼女が微笑むから、私の息は荒くなる。
好きがどんどん膨らんでいく。
穴があくか、縮むか、毛玉まみれになるか…とにかく、着れなくなるまで、私は同じ服を着続ける。
普段は制服だし、土日にたくさん出かけるわけでもないから、べつにそれでよかった。
でも、私だってまだ17歳だ。
みんなみたいに、服が欲しいと思ったことだって、何度もある。
「…高かったんじゃない?」
やっと出てくる言葉がそれだ。我ながら呆れる。
「んー…どうかな?」
穂は困ったように笑う。
そりゃあ、困るよね。ごめん。
「あ、ありがとう。すごい嬉しい」
やっと冷静になって、お礼が言える。
「ねえ、着てよ」
彼女をジッと見てしまう。
「着る服、洗濯してなくて、なかったんでしょ?…あ、でも、下じゃなくて上だったかな?」
彼女が心配そうに、首を傾げる。
正直、脳の処理が追いつかなくて、ただただボーッと彼女を見つめることしかできない自分が恥ずかしい。
「永那ちゃん?」
「…あ、うん。下…パンツがなかった」
「そっか。じゃあ、よかった」
「えっと…どこで着替えるか」
「永那ちゃんの家は?」
家はここからそんなに遠くない。
「…お母さん寝てるから、家に人、あげられなくて」
「私は、外で待ってるよ」
穂の優しさと、自分の不甲斐なさみたいなものに、押しつぶされそうになる。
「ごめん」
「え!?全然、気にしないで。私が突然来たいって言ったんだし」
私が頷いて笑うと、彼女も笑う。
私は服を紙袋にしまって、立ち上がる。
彼女に手を差し出す。
彼女は嬉しそうに笑って、私の手に手を重ねた。
私達は歩き出す。
やっぱり今年の夏は、最高だ。
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