いたずらはため息と共に

常森 楽

文字の大きさ
175 / 595
3.成長

174.まだまだ終わらなかった夏

しおりを挟む
「あいつの、寂しさを…埋めてあげたいと思ってるのも、本当なんだ」
永那ちゃんは宙を見る。
「できれば、穂以外の人を見つけてほしかったけど…きっと、あいつは、私が穂を好きになったから、安心してあいつも穂を好きになれたところもあるんだと思う」
私は、まだ、2人がどういう絆で結ばれているのか、あまりよくわかっていない。
ただ、佐藤さんが中学のときにいじめられていて、永那ちゃんがそれを助けた…ということしか、わからない。
そして、今でも永那ちゃんは佐藤さんを守り続けている。
…なぜ?
永那ちゃんは、佐藤さんがひとりぼっちだと言ったけど、ひとりぼっちなのは…佐藤さんだけ?
もう、佐藤さんは誰からもいじめられていないのに。
どうして佐藤さんにとっては、永那ちゃんしかいないの?
どうして佐藤さんは、永那ちゃんしか信用できないの?
どうして佐藤さんが、あんなにも泣くほど…私なんかに縋りつくほど、寂しさを抱えているのか…。
私には、わからない。
わからない。
永那ちゃんが、佐藤さんにこだわる理由も。

「穂?私は…穂みたいに自制心があんまり利かないから…千陽には腕組ませたりすることしかできないけど…穂は…穂は…」
永那ちゃんは俯いて、眉間にシワを寄せた。
私は疲れきった体を起こして、彼女の頭を抱く。
「わかった。…でも、私は、永那ちゃんのだからね?」
腕のなかで、彼女が頷く。
「いつか、佐藤さんが、寂しくなくなる日は、くるのかな?」
「…わからない。でも、そう、あってほしい」
「そうだね」

しばらく彼女を抱いていた。
「好きだよ、永那ちゃん」と言うと、彼女の手が私の背中に回って、抱きしめ合う。
「穂は、私のどこが好き?」
初めての質問に、ドキッとする。
今までは、私から質問することが多かった。
もちろん“どんな食べ物が好き?”とか“趣味は?”とか、“誕生日は?”とか、そういうことは聞いてくれていた。
でも、こういう、本質的な質問は初めてだ。
「私の気持ちに、気づいてくれるところ。…私の世界を、変えてくれたこと。永那ちゃんだけが、私の手を、掴んでくれたから」
私の胸に顔をうずめていた彼女が、顔を上げる。
「世界を、変えた?」
彼女が首を傾げる。
それが可愛くて、頬が緩む。
寒くなって、私は下着も着けずにシャツを着る。
膝には、布団をかけた。

「私、お父さんが好きだったの」
彼女が姿勢を正す。
その姿も、愛おしい。
「お父さんとの記憶は、少ししかないんだけど…一緒にたくさん遊んで、悪ふざけもして、2人でお母さんに叱られたこともあった」
永那ちゃんの薄茶色の瞳が、まっすぐ私を見る。
「でも、離婚して…お父さんと会えなくなるって、知って」
フゥーッと息を吐く。
「悲しかった。…寂しかった」
彼女が手を握ってくれるから、嬉しくなる。
「お母さんは仕事で忙しくしていたし、誉はまだ赤ちゃんだったし…私がしっかりしなきゃいけないんだって気を張って。悪ふざけとか、そういうことも絶対しちゃだめなんだって思った。…そしたら、気づいたら、ひとりぼっちだった」
彼女の、私の手を握る力が強くなる。
「でもね、ひとりぼっちなことにも、全然気づかなかった。気づかないように、してた。全然平気だって、思い込んでた」

過去の自分を思い出す。
小学生のときから“優等生”だった。
“みんな、先生が話してるんだから、ちゃんと聞こうよ”
私の声が教室に響く。
“なんでちゃんと掃除ができないの?今は遊ぶ時間じゃないでしょ?”
みんなの引きつった顔。
“食事中は喋らない!肘もついちゃダメ!なんでそんなこともわからないの?”
おばあちゃんから教わったことを、同級生に教えるつもりで言っていた。
“しっかりしてよ!ちゃんとしてれば、こんなことにはならないでしょ?”
誰かが失敗しても、それが許せなかった。
誰かが悪ふざけしたら、それが許せなかった。
私が、お父さんと悪ふざけをしたから、失敗したから、お母さんは怒ったのかもしれないとか…そんなことを考えた日もあった。

自分が、許せなかった。

「永那ちゃんが、私の手を掴んでくれた、あの日…。もしかしたら、同じクラスになった日から…私は、私が何を言っても全然気にしない永那ちゃんが、好きだったのかもしれない。私が何度起こしても寝続ける。私が何を言っても笑ってる。…そんな永那ちゃんを、好きになった」
彼女をまっすぐ見ると、彼女は目を潤ませて、上唇を噛んでいた。
「永那ちゃん?」
永那ちゃんは眉間にシワを寄せて、唇をモゴモゴ動かした。
私はフフッと笑って、話し続ける。
「私のことなんて、無視できたと思う。でも、永那ちゃんは無視せずに、手を掴んでくれた。その手をどんどん引っ張って、私を…私の世界を、変えてくれた。いつぶりかの友達…もしかしたら、初めての友達も、永那ちゃんのおかげでできた。たくさんの感情を、知れた。…ああ、こんなに生きるのって楽しいんだなって、生きるのって難しいんだなって、思えたよ」
しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

乳首当てゲーム

はこスミレ
恋愛
会社の同僚に、思わず口に出た「乳首当てゲームしたい」という独り言を聞かれた話。

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

自習室の机の下で。

カゲ
恋愛
とある自習室の机の下での話。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

処理中です...