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4.踏み込む
236.先輩
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「そっか。良かった…本当に」
「先輩の、おかげです」
「え?」
「先輩が、いろいろ教えてくれたから」
彼女が吹き出すように笑う。
「先輩は、今…」
「ほら、彼女待たせちゃダメでしょ?…とりあえず瑠那先輩には私からも連絡してみるから」
「あ…ありがとうございます」
「じゃあ、またね」
「はい」
通話が切れる。
「ハァ」
やっとまともに息ができた気がした。
手すりに掴まって立ち上がる。
家に入ると「永那どこ行ってたの~!遅いー!」とお母さんに怒られた。
「ごめんごめん」
もうテーブルにはご飯が並べられていた。
穂が心配そうに私を見る。
千陽はご飯を眺めて止まってる。
「親子丼!すご~い!いっただっきま~す!」
穂と千陽がそれに続いて、私も「いただきます」と呟いた。
「あ、お母さん、さっき何か言おうとしてたよね?何?」
お母さんはブーッと膨れっ面になる。
「今日穂ちゃんが親子丼作ってくれるんだってって言おうとしただけだもん」
「そっか…ごめんね」
眉根を下げて、笑みを作る。
「お母さん、穂にガーデニングのこと言った?」
「あ!忘れてた!」
「ガーデニング?」
「そ~!ベランダでお花育ててるんでしょ?私もやってみたいな~って!」
「まあ、家はベランダ小さいから、ちょっとしかできないかもだけど…良ければ教えてほしいなって」
穂が目をまん丸くさせてから、弧を描く。
「わかった。…ああ、でも、テスト終わってからでもいいかな?」
「テスト?」
お母さんが首を傾げる。
「もうすぐテストがあるんだよ」
「へ~!みんなえらいね~」
「勉強会も、するんです」
千陽が親子丼を両頬に詰めながら言う。
…どんだけ穂のご飯好きなんだよ。
「勉強会!楽しそ~!…あ!みんな家で勉強会したらいいんじゃない?」
「い、いいんですか!?」
穂が珍しく乗り出し気味に言う。
「うん!だって~楽しそうだし~。みんなが来てくれたら嬉しいし~!」
穂がキラキラした顔をこちらに向ける。
可愛い。
「あ、あの…もう一人いても大丈夫ですか?」
「もう一人?いいよ~!すごい!賑やかになりそう」
お母さんが楽しそうに笑う。
週の2日間は家に来ることになって、3日は穂の家と決まった。
自分が我慢しなければいけないと思っていたこと…自分にはできないのだと諦めていたこと…どんどん穂が、叶えてくれる。
「穂」
穂と千陽が玄関で靴を履く。
「ん?」
「明日、朝、早く来れない?」
「いいけど…なんで?」
「話したい」
穂が笑みを浮かべて「わかった」と答えてくれる。
2人の背中が見えなくなるまで、お母さんと2人で玄関前の通路に立った。
「風が気持ちいいねえ」
「そうだね」
もう秋が感じられる風。
暑くもなく、寒くもない、心地いい季節。
お母さんのことは、好きだ。
でも、私は、自分のしたいことも、したい。
穂がそばにいてくれる。…千陽も。
頑張ってみよう。
いつも通り千陽を迎えに行って、朝一番に学校につく。
ほんの少し後に、穂が来た。
「あたし、どっか行くね」
「千陽…いいから」
千陽が目を大きく開く。
「いても、大丈夫だから」
千陽は伏し目がちに、頷いた。
穂と向き合う。
「穂…私、穂に言ってなかったことがあって」
「なに?」
ゴクリと唾を飲む。
「ハァ」と息を吐いて、視線を落とす。
「私の…初めての相手…初めて、セックスした相手の話…聞きたく、ない、かも、しれないけど…」
首を掻く。
「聞かせて」
穂を見ると、まっすぐ私を見てくれていた。
「中1のとき…両親が離婚して、お母さんがおかしくなって…お母さんが、働けなくなって」
深呼吸する。
「お姉ちゃんがバイトして、なんとかもってたんだけど、それでもお金が足りなくなって…そのことを、お姉ちゃんが、ある人に相談したんだ」
穂が頷く。
「そしたら、その人に話しかけられて。その人と、セックスした。すごく、助けてもらった。でも、あのときの私には、それがよくわかっていなくて。ただ、都合のいい道具みたいに扱われているような気さえした」
穂の眉間にシワが寄る。
曖昧に濁してるから、どういうことか、わからないよね。
…でも、話したくない。
“セックスする代わりにお金をもらってた”なんて、言えない。
千陽は…理解できているのかも、しれないけど。
「半年ちょっと、そういう関係が続いて…“本当の彼女になりたい”って言われて、振ったんだ。それから、連絡を取ってなかった」
穂は黙って聞いてくれる。
「で…昨日、頑固でプライドが高いお姉ちゃんが、私達の事情を話せる相手だったんだよなって、ふと思って。私からお姉ちゃんに直接言っても、どうせ意味がないから…その人に、相談した」
「電話の、相手?」
「そう」
フゥッと息を吐く。
「そしたら、その人が、お姉ちゃんに言ってくれるって」
穂は目を見開く。
「良かったね!」
すぐに彼女は笑った。
「そっか…じゃあ、永那ちゃん、修学旅行に行けるかもしれないんだ!」
「わからないよ。その人が言っても、ダメかもしれないし」
「先輩の、おかげです」
「え?」
「先輩が、いろいろ教えてくれたから」
彼女が吹き出すように笑う。
「先輩は、今…」
「ほら、彼女待たせちゃダメでしょ?…とりあえず瑠那先輩には私からも連絡してみるから」
「あ…ありがとうございます」
「じゃあ、またね」
「はい」
通話が切れる。
「ハァ」
やっとまともに息ができた気がした。
手すりに掴まって立ち上がる。
家に入ると「永那どこ行ってたの~!遅いー!」とお母さんに怒られた。
「ごめんごめん」
もうテーブルにはご飯が並べられていた。
穂が心配そうに私を見る。
千陽はご飯を眺めて止まってる。
「親子丼!すご~い!いっただっきま~す!」
穂と千陽がそれに続いて、私も「いただきます」と呟いた。
「あ、お母さん、さっき何か言おうとしてたよね?何?」
お母さんはブーッと膨れっ面になる。
「今日穂ちゃんが親子丼作ってくれるんだってって言おうとしただけだもん」
「そっか…ごめんね」
眉根を下げて、笑みを作る。
「お母さん、穂にガーデニングのこと言った?」
「あ!忘れてた!」
「ガーデニング?」
「そ~!ベランダでお花育ててるんでしょ?私もやってみたいな~って!」
「まあ、家はベランダ小さいから、ちょっとしかできないかもだけど…良ければ教えてほしいなって」
穂が目をまん丸くさせてから、弧を描く。
「わかった。…ああ、でも、テスト終わってからでもいいかな?」
「テスト?」
お母さんが首を傾げる。
「もうすぐテストがあるんだよ」
「へ~!みんなえらいね~」
「勉強会も、するんです」
千陽が親子丼を両頬に詰めながら言う。
…どんだけ穂のご飯好きなんだよ。
「勉強会!楽しそ~!…あ!みんな家で勉強会したらいいんじゃない?」
「い、いいんですか!?」
穂が珍しく乗り出し気味に言う。
「うん!だって~楽しそうだし~。みんなが来てくれたら嬉しいし~!」
穂がキラキラした顔をこちらに向ける。
可愛い。
「あ、あの…もう一人いても大丈夫ですか?」
「もう一人?いいよ~!すごい!賑やかになりそう」
お母さんが楽しそうに笑う。
週の2日間は家に来ることになって、3日は穂の家と決まった。
自分が我慢しなければいけないと思っていたこと…自分にはできないのだと諦めていたこと…どんどん穂が、叶えてくれる。
「穂」
穂と千陽が玄関で靴を履く。
「ん?」
「明日、朝、早く来れない?」
「いいけど…なんで?」
「話したい」
穂が笑みを浮かべて「わかった」と答えてくれる。
2人の背中が見えなくなるまで、お母さんと2人で玄関前の通路に立った。
「風が気持ちいいねえ」
「そうだね」
もう秋が感じられる風。
暑くもなく、寒くもない、心地いい季節。
お母さんのことは、好きだ。
でも、私は、自分のしたいことも、したい。
穂がそばにいてくれる。…千陽も。
頑張ってみよう。
いつも通り千陽を迎えに行って、朝一番に学校につく。
ほんの少し後に、穂が来た。
「あたし、どっか行くね」
「千陽…いいから」
千陽が目を大きく開く。
「いても、大丈夫だから」
千陽は伏し目がちに、頷いた。
穂と向き合う。
「穂…私、穂に言ってなかったことがあって」
「なに?」
ゴクリと唾を飲む。
「ハァ」と息を吐いて、視線を落とす。
「私の…初めての相手…初めて、セックスした相手の話…聞きたく、ない、かも、しれないけど…」
首を掻く。
「聞かせて」
穂を見ると、まっすぐ私を見てくれていた。
「中1のとき…両親が離婚して、お母さんがおかしくなって…お母さんが、働けなくなって」
深呼吸する。
「お姉ちゃんがバイトして、なんとかもってたんだけど、それでもお金が足りなくなって…そのことを、お姉ちゃんが、ある人に相談したんだ」
穂が頷く。
「そしたら、その人に話しかけられて。その人と、セックスした。すごく、助けてもらった。でも、あのときの私には、それがよくわかっていなくて。ただ、都合のいい道具みたいに扱われているような気さえした」
穂の眉間にシワが寄る。
曖昧に濁してるから、どういうことか、わからないよね。
…でも、話したくない。
“セックスする代わりにお金をもらってた”なんて、言えない。
千陽は…理解できているのかも、しれないけど。
「半年ちょっと、そういう関係が続いて…“本当の彼女になりたい”って言われて、振ったんだ。それから、連絡を取ってなかった」
穂は黙って聞いてくれる。
「で…昨日、頑固でプライドが高いお姉ちゃんが、私達の事情を話せる相手だったんだよなって、ふと思って。私からお姉ちゃんに直接言っても、どうせ意味がないから…その人に、相談した」
「電話の、相手?」
「そう」
フゥッと息を吐く。
「そしたら、その人が、お姉ちゃんに言ってくれるって」
穂は目を見開く。
「良かったね!」
すぐに彼女は笑った。
「そっか…じゃあ、永那ちゃん、修学旅行に行けるかもしれないんだ!」
「わからないよ。その人が言っても、ダメかもしれないし」
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