いたずらはため息と共に

常森 楽

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238.先輩

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穂がノートを出す。
いくつか水族館の名前が書かれていて、横にペンギンっぽい物やクマっぽい物、魚やクラゲも描かれていた。
「これ、穂が書いたの?」
「うん」
…なんだ、それ…可愛すぎか。
絵が絶妙に下手くそなのが、また可愛い。
「ここはね、シロクマがいるんだって。ここは、ペンギンが」
穂の横顔を見る。
真っ白な肌に、綺麗な黒髪。
耳にかかる髪が、好き。
舐めたらおいしい、彼女の首。
耳の後ろから肩にかけてが、すごくセクシー。
耳の後ろにホクロがあって、それが魅力を増している。
「永那ちゃん、聞いてる?」
「…あ、聞いてなかった」
「えー」
彼女が頬を膨らませる。
「ごめんね。もう一回教えて?」
「もー…」
彼女の調べた水族館の話を聞いて、候補を絞る。
千陽は隣でお菓子を食べていた。
優里とお母さんが楽しそうに話す。
…こんなふうに、楽しく過ごせる日がくるなんて、想像したこともなかった。

みんなは8時くらいまで家にいた。
千陽が心配になったけど、この前も穂が家まで送ったらしい…。
2人、キスしてそう。
ずるい。
…というか、穂も女の子なんだから、それはそれで心配でもある。
穂は「大丈夫」と防犯ブザーを自慢気に見せてきたけど、そういう問題じゃない。

朝、お母さんが寝た後、スマホを見た。
『瑠那先輩に話したよ。…少し、怒られちゃった。やっぱり私じゃ上手く説得できなかった。ごめんね』
心音先輩からだった。
昨日の夜にメッセージがきていた。
『いえ、ありがとうございます。…先輩、会えますか?』
送ったけど、すぐに既読はつかなかった。
返事がきたのは昼だった。
『会ってくれるの?』
『お礼も、言いたいですし。いつ、あいてますか?』
『今週の土曜日ならあいてるけど…急すぎるかな?』
『何時ですか?』
『何時でも』
『じゃあ、朝10時頃はどうですか?』
『いいよ。どこで会う?』
『先輩は、今も実家に住んでるんですか?』
『ううん、ひとり暮らししてるよ』
『じゃあ、その近くまで行きますよ』
先輩は、電車で1時間弱のところに住んでいた。
当然かもしれないけど、全然、何も知らなかった。

土曜日はあっという間にきた。
その少し前に、穂の突拍子もない爆弾発言・・・・によって脳内でパニックを起こしたけど…その話はまた別の機会に。
先輩の住む最寄り駅に、約束より1時間早くついた。
駅前にはスーパーやらお弁当屋さんやらが並んでいて、いかにもベッドタウンという感じだった。
ベンチって最高。
座って目を閉じていたら、すぐに意識がなくなる。
ハッと目を覚まして、飛び起きた。
「おはよう」
声をかけられて、横を向く。
大人びた、先輩がいた。
心臓が急に音を立て始める。
呼吸が荒くなって、何も話せない。
「永那、かっこよくなったね」
先輩はメイクをしていて、昔のイメージとは全然違うように思えた。
それでも、もちろん彼女の面影はちゃんとあって。

お店の時計が目に入った。
約束の時間から30分も経っていた。
「す、すみません…寝てて…」
「ううん。疲れてるんだろうなあって思って見てたよ。…すぐ、永那だってわかった」
私はフゥッと息を吐いて、俯いた。
「外じゃ、話しづらい内容だし、家…来る?」
心臓の音がうるさい。
私が頷くと、先輩が立ち上がる。
私は先輩の一歩後ろを歩いた。
「私、今大学通ってるんだよ。心理の勉強しててね。授業受けてると、ためになることが多くてびっくり」
先輩が私を見るから「そうなんですか」と答える。
先輩は寂しげに笑う。
「バイトもしてるんだ。カフェのバイト。…今度、彼女さんと来てよ」
私は曖昧に頷く。
彼女がフッと笑って「連れて来られるわけ、ないよね」と呟く。

彼女の家は10分くらいでついたけど、私にとっては1時間くらいにも感じられた。
細長いマンションの、4階。
「どうぞ」
「お邪魔します」
ワンルームだった。
シンプルだけど、あたたかみのある部屋だった。
二人掛けのソファがあって、そこに座る。
先輩がお茶を用意してくれて、隣に座った。
ほんの少し、距離を取る。
私はリュックからお菓子を出して「これ…あの…お姉ちゃんに言ってくれて、ありがとうございました」先輩が受け取ってくれる。
「ありがとう」
「いえ…本当、こちらこそ…ありがとうございます」
先輩はお菓子の箱をテーブルに置く。

しばらくの沈黙がおりてから、先輩が口を開いた。
「瑠那先輩、“まだ連絡取ってるの?”って、怒ってた。ちゃんと、説明はしたけど…」
彼女がため息をつく。
「怒っちゃってて、全然話を聞いてくれるような感じではなかったかも。一応、最後まで聞いてくれたけど」
「そうですか」
…やっぱり、修学旅行のとき、お姉ちゃんは帰ってきてくれないのか。
「ごめんね、何もしてあげられなくて」
「そんなこと、ないです。…言ってくれただけで、ありがたいです」
私はずっと、自分の手元を見ていた。
先輩を、直視できない。
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