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5.時間
281.一緒
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「わかんないよ」
「みんな、永那ちゃんを大事に思ってるんだよ。永那ちゃんが何も話してくれないほうが、辛い。怒っていいんだよ。もっと、泣いていいんだよ。無理に笑わなくて、いいんだよ。そう教えてくれたのは、永那ちゃんでしょ?」
「わかんないよ…!」
両手で目を覆って、鼻を啜る。
「本当のこと言ったって、引かれるだけじゃん」
「私は、引いてない」
「みんなの楽しい雰囲気壊すだけじゃん」
「永那ちゃんが無理に笑ってるほうが、楽しくない」
「千陽は、怖がってた」
「それは、私にはわからないけど…。千陽、3人でシたいって言ってたよ」
ようやく、永那ちゃんが顔を上げる。
「は?」
「言ってたよ」
永那ちゃんはボリボリと勢い良く頭を掻いて、涙を服の袖で拭った。
やっと自然に笑って、上を見る。
「意味わかんねえ」
彼女を抱きしめる。
「好きだよ、永那ちゃん」
そっと抱きしめ返してくれる。
「私、ずっと…本当に修学旅行来ていいのか、わからなかった」
「うん」
「お母さんのことは、大切だから」
「うん」
「でも、私だって、楽しいことしたい」
「うん」
「本当は、お母さんのこと、邪魔だって思ってる」
「そっか」
「…最低だよ」
「永那ちゃんは、十分、頑張ったよ」
永那ちゃんの肩が震える。
「優しい、お母さんなんだ。でも、なんで私が世話しなきゃいけないのか、わからなくて。…なんでお姉ちゃんが帰ってこないのか、めっちゃわかる。私だって帰りたくない。私だって、お母さんから逃げたい。最低なんだ、私…私…」
ギュッと、強く、強く、抱きしめる。
永那ちゃんが、初めて、声を出して泣いた。
「私のせいでお母さんが死んじゃったら、どうしよう…」
彼女の頭を胸で抱えて、髪を撫でる。
「一緒に…私が、一緒に、いるよ。永那ちゃんにこれ以上我慢してほしくないって願った。私も、永那ちゃんともっといたいって願った。だから…永那ちゃんが最低なら、私も一緒。もしお母さんが死んじゃったら、私のせいでもある」
「そんなわけ…ないじゃん」
「永那ちゃんが修学旅行に来られるように、お母さんに話し続けたのは私だよ?永那ちゃんはずっと迷ってたのに」
「私が来たかったんだ」
「だから、一緒に背負わせて。私だけでは無理だけど、永那ちゃんと2人なら…。もしかしたら千陽も、一緒にいてくれるかもしれない。優里ちゃんも。そしたら、4人で。一緒に背負わせて。何もかもを背負って、代わってあげられるわけじゃないけど…少しでも」
永那ちゃんの顔を上げる。
彼女とまっすぐ見つめ合う。
「だから、ちゃんとみんなに話そう?…みんな、絶対に引いたりしない。話したことで楽しくなくなるなんて、あり得ない。みんな、そんな人達じゃないから。大丈夫だから」
「…敵わないな、穂には」
永那ちゃんは眉を下げながら笑う。
永那ちゃんと手を繋いで、鍵を開けて部屋に帰る。
部屋には誰もいなかった。
テーブルに『お風呂の時間なので行ってきます』とメモが置かれていた。
「ごめん、穂」
「私が引き止めたんだよ?」
「でも、ごめん」
「謝るくらいなら、キスして?」
私が笑うと、永那ちゃんの目が見開いて、ニヤリと笑った。
「いいの?」
「いいよ」
永那ちゃんが奪うように唇を合わせた。
貪るように熱い吐息を交換する。
彼女が私の髪を耳にかける。
そのまま後頭部を押さえられて、唾液が混ざり合う。
まるで夏の暑い日にかぶりつく真っ赤なスイカみたいに、ほんのり甘い。
芯から燃えるように体が熱くなる。
何か起きたとしても、引き返す気なんてないけれど、もう絶対に引き返せないのだと思わされる。
彼女の舌が私のに絡みついて、唾液が鎖のように巻きつく。
彼女の手が私の胸に触れる。
「だめ?」
「少しだけだよ?」
永那ちゃんが嬉しそうに笑って、また口付けを交わす。
制服のシャツが肌に擦れる。
ガチャッとドアが開く音がして、私が一歩後ずさる。
永那ちゃんが左眉を上げて、笑みを浮かべる。
「あれ?開いてる…。穂ちゃん?永那?」
私はすり足でドアまで行く。
永那ちゃんはジッと立ったまま顎を擦って、私を見下ろすように見ていた。
「おかえり」
鍵は2つあった。
私が部屋を出る前、1つはテーブルに置いてあって、もう1つは私がポケットに入れていた。
…ポケットに入れていなかったら、今頃部屋の前で待ちぼうけていたところだった。
「お風呂、入れなかったね」
「うん…シャワー浴びるよ」
生理の人は部屋に付属のシャワーを使っていいことになっている。
…生理じゃないけど、仕方ない。
私、本当に柔軟になったなあ。
前の私なら、何がなんでも時間厳守していた。
「あ!永那!…このー!!」
優里ちゃんがいつもの調子で永那ちゃんをポカポカ叩く。
「千陽」
千陽はもう澄まし顔になっていて「おつかれ」と肩に手を置かれた。
私はその手を掴んで、彼女を見つめる。
彼女の瞳も、まっすぐ私を見た。
「千陽、ありがとう」
「なに言われるのかと思ったら…」
フッと彼女が笑って「何かお礼してね?」と言った。
森山さんは汗を拭きながら、そろりそろりと部屋に入っていった。
…みんなの変わらない姿が嬉しくなる。
千陽が部屋に入って、私も続く。
永那ちゃんが優里ちゃんから逃げていた。
思わず、笑ってしまう。
「みんな、永那ちゃんを大事に思ってるんだよ。永那ちゃんが何も話してくれないほうが、辛い。怒っていいんだよ。もっと、泣いていいんだよ。無理に笑わなくて、いいんだよ。そう教えてくれたのは、永那ちゃんでしょ?」
「わかんないよ…!」
両手で目を覆って、鼻を啜る。
「本当のこと言ったって、引かれるだけじゃん」
「私は、引いてない」
「みんなの楽しい雰囲気壊すだけじゃん」
「永那ちゃんが無理に笑ってるほうが、楽しくない」
「千陽は、怖がってた」
「それは、私にはわからないけど…。千陽、3人でシたいって言ってたよ」
ようやく、永那ちゃんが顔を上げる。
「は?」
「言ってたよ」
永那ちゃんはボリボリと勢い良く頭を掻いて、涙を服の袖で拭った。
やっと自然に笑って、上を見る。
「意味わかんねえ」
彼女を抱きしめる。
「好きだよ、永那ちゃん」
そっと抱きしめ返してくれる。
「私、ずっと…本当に修学旅行来ていいのか、わからなかった」
「うん」
「お母さんのことは、大切だから」
「うん」
「でも、私だって、楽しいことしたい」
「うん」
「本当は、お母さんのこと、邪魔だって思ってる」
「そっか」
「…最低だよ」
「永那ちゃんは、十分、頑張ったよ」
永那ちゃんの肩が震える。
「優しい、お母さんなんだ。でも、なんで私が世話しなきゃいけないのか、わからなくて。…なんでお姉ちゃんが帰ってこないのか、めっちゃわかる。私だって帰りたくない。私だって、お母さんから逃げたい。最低なんだ、私…私…」
ギュッと、強く、強く、抱きしめる。
永那ちゃんが、初めて、声を出して泣いた。
「私のせいでお母さんが死んじゃったら、どうしよう…」
彼女の頭を胸で抱えて、髪を撫でる。
「一緒に…私が、一緒に、いるよ。永那ちゃんにこれ以上我慢してほしくないって願った。私も、永那ちゃんともっといたいって願った。だから…永那ちゃんが最低なら、私も一緒。もしお母さんが死んじゃったら、私のせいでもある」
「そんなわけ…ないじゃん」
「永那ちゃんが修学旅行に来られるように、お母さんに話し続けたのは私だよ?永那ちゃんはずっと迷ってたのに」
「私が来たかったんだ」
「だから、一緒に背負わせて。私だけでは無理だけど、永那ちゃんと2人なら…。もしかしたら千陽も、一緒にいてくれるかもしれない。優里ちゃんも。そしたら、4人で。一緒に背負わせて。何もかもを背負って、代わってあげられるわけじゃないけど…少しでも」
永那ちゃんの顔を上げる。
彼女とまっすぐ見つめ合う。
「だから、ちゃんとみんなに話そう?…みんな、絶対に引いたりしない。話したことで楽しくなくなるなんて、あり得ない。みんな、そんな人達じゃないから。大丈夫だから」
「…敵わないな、穂には」
永那ちゃんは眉を下げながら笑う。
永那ちゃんと手を繋いで、鍵を開けて部屋に帰る。
部屋には誰もいなかった。
テーブルに『お風呂の時間なので行ってきます』とメモが置かれていた。
「ごめん、穂」
「私が引き止めたんだよ?」
「でも、ごめん」
「謝るくらいなら、キスして?」
私が笑うと、永那ちゃんの目が見開いて、ニヤリと笑った。
「いいの?」
「いいよ」
永那ちゃんが奪うように唇を合わせた。
貪るように熱い吐息を交換する。
彼女が私の髪を耳にかける。
そのまま後頭部を押さえられて、唾液が混ざり合う。
まるで夏の暑い日にかぶりつく真っ赤なスイカみたいに、ほんのり甘い。
芯から燃えるように体が熱くなる。
何か起きたとしても、引き返す気なんてないけれど、もう絶対に引き返せないのだと思わされる。
彼女の舌が私のに絡みついて、唾液が鎖のように巻きつく。
彼女の手が私の胸に触れる。
「だめ?」
「少しだけだよ?」
永那ちゃんが嬉しそうに笑って、また口付けを交わす。
制服のシャツが肌に擦れる。
ガチャッとドアが開く音がして、私が一歩後ずさる。
永那ちゃんが左眉を上げて、笑みを浮かべる。
「あれ?開いてる…。穂ちゃん?永那?」
私はすり足でドアまで行く。
永那ちゃんはジッと立ったまま顎を擦って、私を見下ろすように見ていた。
「おかえり」
鍵は2つあった。
私が部屋を出る前、1つはテーブルに置いてあって、もう1つは私がポケットに入れていた。
…ポケットに入れていなかったら、今頃部屋の前で待ちぼうけていたところだった。
「お風呂、入れなかったね」
「うん…シャワー浴びるよ」
生理の人は部屋に付属のシャワーを使っていいことになっている。
…生理じゃないけど、仕方ない。
私、本当に柔軟になったなあ。
前の私なら、何がなんでも時間厳守していた。
「あ!永那!…このー!!」
優里ちゃんがいつもの調子で永那ちゃんをポカポカ叩く。
「千陽」
千陽はもう澄まし顔になっていて「おつかれ」と肩に手を置かれた。
私はその手を掴んで、彼女を見つめる。
彼女の瞳も、まっすぐ私を見た。
「千陽、ありがとう」
「なに言われるのかと思ったら…」
フッと彼女が笑って「何かお礼してね?」と言った。
森山さんは汗を拭きながら、そろりそろりと部屋に入っていった。
…みんなの変わらない姿が嬉しくなる。
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永那ちゃんが優里ちゃんから逃げていた。
思わず、笑ってしまう。
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