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5.時間
304.酸いも甘いも
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穂がハンカチであたしの涙を拭いた。
彼女を睨む。
「千陽、ちょっと…行こう」
手を引っ張られて、校舎裏に連れて行かれた。
「千陽、言って?」
眉間にシワが寄る。
「寂しい?」
ドキッとする。
…わかってるなら、放置しないでよ。
「ごめんね」
涙が頬を伝う。
「して…」
やっと出た声が震える。
彼女の顔がそっと近づいて、唇が重なる。
すぐに離れてしまって、寂しさが増す。
ギュッと抱きしめられて、彼女の肩に涙の染みを作った。
「3人で、するんじゃないの?…まだ、永那は満足できないの?あたし…寂しいよ…」
「3人で…」
「穂は、あたしが離れていかないってわかって、もうする気失せた?」
「え…っ」
胸が抉られるように痛む。
「ひどいよ…ひどい、よ…」
「千陽」
あたしを抱きしめる彼女の手の力が強くなる。
「そうじゃ、なくて、ね…私、3人でするって、全然想像できていなくて。その…最初から…。永那ちゃんに言われて、千陽にも言われて…私って3人でシたいのかな?ってずっと、考えてた。全然答えが出なくて。まだ、出なくて」
わけわかんない。
穂が言ったから考えたのに。
穂が言ったから、期待したのに。
「永那ちゃんがこのことについて、今どう思っているのか、私にはわからない。…でも、私、今、気持ちがけっこう、ぐちゃぐちゃで」
「どういうこと?なに言ってるの?穂」
不安になる。
“やっぱり3人ではシたくない”ってこと?
「永那ちゃんと千陽がキスした日…胸が、ザワザワしたっていうか…なんか…」
「永那があたしとキスするのが、嫌だった?」
もう、これ以上、傷つきたくない。
「ハァ」と深く息を吐いて、彼女の答えを待つ。
「違う」
「じゃあ…なに…」
絞り出すように言った。
「私…私…あのとき…2人に嫉妬した。永那ちゃんにも、千陽にも」
…あたしも、よく同じことを思う。
「私…自分が思っていたよりも、わがままみたいで…自分が、嫌になる。千陽から連絡がこなくなって、すごく不安になった。永那ちゃんがそばにいてくれるのに、だよ?おかしいよね。“千陽何してるかな?”とか“千陽の声聞きたいな”とか…何度も思った」
「じゃあ、連絡してくれれば良かったじゃん…!」
「うん…うん…。でも永那ちゃんが、私と一緒にいて幸せだって笑ってくれて、そんな…千陽のこと考えていていいのか、わからなくて…わからなくて…連絡していいのか、わからなくて…」
「やっと“浮気してる”って自覚したんだ」
フッと笑ってしまう。
「うわ…き…。そっか…そっか…。これが、浮気なんだ」
「その気持ち、永那に隠してるからぐちゃぐちゃになるんじゃないの?永那は、ずっと、あたし達の関係を、許してくれてたじゃん」
「そっか…」
彼女が心底感心するみたいに言う。
…感心するとこじゃないし。
予鈴が鳴る。
穂と手を繋ぐ。
久しぶりだった。
あたしは必死に彼女を繋ぎ止めようとする自分が嫌で、前に永那にしたみたいにはしたくなくて、彼女に触れなくなっていた。
彼女のぬくもりに、ホッとする。
穂…浮気してるって、本当に全然わかってなかったんだ。
…あたしからキスしたのが原因ではあるけど。
まさか許されるなんて、あのとき、思ってなかったし。
穂は、頭良いのか悪いのか、ホント、全然わかんない。
“大事にする”、“離れないでほしい”ばかりが先行して、自分の気持ちが追いついてなかったんだろうな。
変な人。
“本末転倒じゃん”って永那に笑われるよ?
「千陽、ごめんね。不安にさせて…寂しい思い…させて…“大事にする”って言ったのに」
絶対あたしの気持ちなんか察してないのに、彼女は欲しい言葉をくれる。
深呼吸して、教室に入る前、繋ぐ手を離した。
「ちゃんと、大事にしてね?」
「うん」
彼女がまっすぐあたしを見る。
心がくすぐったくなって、あたしは目をそらした。
スマホが振動して、授業中だけど、机の下でスマホを見た。
『ママ、今から例の人のところに行ってくるね♡パパが帰る前には帰るから』
例の人…彼氏のこと。
何人目の彼氏なのか、あたしは知らない。
『わかった』
返事をして、ポケットにしまう。
休み時間、あたしは後ろを向く。
「穂」
「なに?」
「明日、誕生日だよね」
「知ってたの?」
「当たり前でしょ」
そんなの、とっくに永那から聞いた。
「いつか、2人で過ごせる?」
あたしは下唇を噛んで、膝の上で手をギュッと握った。
「永那ちゃんに聞いてみるね」
今日は、パパが出張で、いつも通りママが彼氏のところに行く、寂しい夜。
一緒に過ごしたい。
…でもさすがに、こんな大事な日を、奪えない。
永那のことだから、0時ちょうどに祝いたいんだろうし。
あたしが頷くと、穂が立って永那のところに行った。
…行動早っ。
目覚めの良くなった永那の肩を叩いて、穂が永那を起こす。
あたしは次の授業の準備をした。
彼女を睨む。
「千陽、ちょっと…行こう」
手を引っ張られて、校舎裏に連れて行かれた。
「千陽、言って?」
眉間にシワが寄る。
「寂しい?」
ドキッとする。
…わかってるなら、放置しないでよ。
「ごめんね」
涙が頬を伝う。
「して…」
やっと出た声が震える。
彼女の顔がそっと近づいて、唇が重なる。
すぐに離れてしまって、寂しさが増す。
ギュッと抱きしめられて、彼女の肩に涙の染みを作った。
「3人で、するんじゃないの?…まだ、永那は満足できないの?あたし…寂しいよ…」
「3人で…」
「穂は、あたしが離れていかないってわかって、もうする気失せた?」
「え…っ」
胸が抉られるように痛む。
「ひどいよ…ひどい、よ…」
「千陽」
あたしを抱きしめる彼女の手の力が強くなる。
「そうじゃ、なくて、ね…私、3人でするって、全然想像できていなくて。その…最初から…。永那ちゃんに言われて、千陽にも言われて…私って3人でシたいのかな?ってずっと、考えてた。全然答えが出なくて。まだ、出なくて」
わけわかんない。
穂が言ったから考えたのに。
穂が言ったから、期待したのに。
「永那ちゃんがこのことについて、今どう思っているのか、私にはわからない。…でも、私、今、気持ちがけっこう、ぐちゃぐちゃで」
「どういうこと?なに言ってるの?穂」
不安になる。
“やっぱり3人ではシたくない”ってこと?
「永那ちゃんと千陽がキスした日…胸が、ザワザワしたっていうか…なんか…」
「永那があたしとキスするのが、嫌だった?」
もう、これ以上、傷つきたくない。
「ハァ」と深く息を吐いて、彼女の答えを待つ。
「違う」
「じゃあ…なに…」
絞り出すように言った。
「私…私…あのとき…2人に嫉妬した。永那ちゃんにも、千陽にも」
…あたしも、よく同じことを思う。
「私…自分が思っていたよりも、わがままみたいで…自分が、嫌になる。千陽から連絡がこなくなって、すごく不安になった。永那ちゃんがそばにいてくれるのに、だよ?おかしいよね。“千陽何してるかな?”とか“千陽の声聞きたいな”とか…何度も思った」
「じゃあ、連絡してくれれば良かったじゃん…!」
「うん…うん…。でも永那ちゃんが、私と一緒にいて幸せだって笑ってくれて、そんな…千陽のこと考えていていいのか、わからなくて…わからなくて…連絡していいのか、わからなくて…」
「やっと“浮気してる”って自覚したんだ」
フッと笑ってしまう。
「うわ…き…。そっか…そっか…。これが、浮気なんだ」
「その気持ち、永那に隠してるからぐちゃぐちゃになるんじゃないの?永那は、ずっと、あたし達の関係を、許してくれてたじゃん」
「そっか…」
彼女が心底感心するみたいに言う。
…感心するとこじゃないし。
予鈴が鳴る。
穂と手を繋ぐ。
久しぶりだった。
あたしは必死に彼女を繋ぎ止めようとする自分が嫌で、前に永那にしたみたいにはしたくなくて、彼女に触れなくなっていた。
彼女のぬくもりに、ホッとする。
穂…浮気してるって、本当に全然わかってなかったんだ。
…あたしからキスしたのが原因ではあるけど。
まさか許されるなんて、あのとき、思ってなかったし。
穂は、頭良いのか悪いのか、ホント、全然わかんない。
“大事にする”、“離れないでほしい”ばかりが先行して、自分の気持ちが追いついてなかったんだろうな。
変な人。
“本末転倒じゃん”って永那に笑われるよ?
「千陽、ごめんね。不安にさせて…寂しい思い…させて…“大事にする”って言ったのに」
絶対あたしの気持ちなんか察してないのに、彼女は欲しい言葉をくれる。
深呼吸して、教室に入る前、繋ぐ手を離した。
「ちゃんと、大事にしてね?」
「うん」
彼女がまっすぐあたしを見る。
心がくすぐったくなって、あたしは目をそらした。
スマホが振動して、授業中だけど、机の下でスマホを見た。
『ママ、今から例の人のところに行ってくるね♡パパが帰る前には帰るから』
例の人…彼氏のこと。
何人目の彼氏なのか、あたしは知らない。
『わかった』
返事をして、ポケットにしまう。
休み時間、あたしは後ろを向く。
「穂」
「なに?」
「明日、誕生日だよね」
「知ってたの?」
「当たり前でしょ」
そんなの、とっくに永那から聞いた。
「いつか、2人で過ごせる?」
あたしは下唇を噛んで、膝の上で手をギュッと握った。
「永那ちゃんに聞いてみるね」
今日は、パパが出張で、いつも通りママが彼氏のところに行く、寂しい夜。
一緒に過ごしたい。
…でもさすがに、こんな大事な日を、奪えない。
永那のことだから、0時ちょうどに祝いたいんだろうし。
あたしが頷くと、穂が立って永那のところに行った。
…行動早っ。
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あたしは次の授業の準備をした。
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