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5.時間
305.酸いも甘いも
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授業が始まる直前に穂が戻ってきて、同時に先生が入ってきたから、話せなかった。
次の休み時間も彼女は永那の席に行って、何かを話す。
また授業が始まるギリギリまで話して、席に戻ってくる。
目が合って、ニコリと笑われた。
あたしは目をそらす。
放課後、穂に肩を叩かれた。
振り向くと、穂の口元が緩んでいた。
「あのさ…今日、千陽の家に泊まってもいい?」
「は?」
心臓が飛び跳ねる。
「さっき…授業中、スマホ見てたでしょ?…見えちゃったの…」
あたしは目を細める。
「ご、ごめんね?でも、授業中にスマホはダメだと思って、注意しようとしたら…見えちゃったの…」
ニヤけそうになる唇を、噛む。
「2人きりじゃ、なくて…その…永那ちゃんも一緒じゃ、だめかな?」
「あたし、ひとりぼっちにされない?」
「しない」
「じゃあ…いいよ…。でも、永那は、いいの?」
穂が首を傾げる。
…ああ、またわかってないやつか。
「永那ちゃんは、一緒にいられれば良いって言ってくれたよ」
「そうなんだ…」
「2人きりの日は、また別の日を考えるね」
そう言って、穂は笑った。
穂の家に寄って、2人が明日の授業の教材を鞄に入れる。
誉が「千陽!この間のやばかったな」と笑いかけてくるから、頷いた。
“やばかった”のは、ゲームの話。
あたしが過去一良い成績を出したときの話。
「誉、身長伸びたね」
「おー!」
あたしと同じくらいだったのに、ちょっと超されてる。
あたしも、あと3センチくらいほしかったな。
「そういえば、彼女とはどうなの?」
前に通話したとき、彼女と初キスをしたと報告された。
「んー…振っちゃった」
「やば、ひど」
「俺ってひどい…!?」
「うん。キスした後に振るとか…ないわ…。しかもまだ付き合って1ヶ月くらいでしょ?早すぎない?」
「えー…だってさ?だってさ、なんかイメージと違ったんだもん」
「なにそれ」
「いや…ほら…」
誉があたしの耳に口を寄せる。
「永那と姉ちゃんがしてるの見ると、もっと幸せそうっていうか…。でも、俺、その子とキスしても全然良さがわからなくて…。やっぱ、好きじゃないからダメなのかな?って思ったんだよ」
「ふーん」
…まあ、気持ちはわかる。
あたしだって、穂とするまでは、良さなんて全然わかんなかったもん。
「だから次は、ちゃんと好きな人と付き合おうって決めた」
「へえ。いいんじゃない?学びになって」
誉は何故か胸を張った。
誉と玄関で話していると、2人が準備を終えて戻ってきた。
服はあると伝えてあるから、2人はスクールバッグだけを肩にかけている。
「俺もいつか千陽ん家行きたい!」
「いつかね」
誉の頭をポンポンと撫でると、穂と永那も続いて彼の頭を撫でた。
「みんな子供扱いしすぎ!」と誉は言っていたけど、顔は嬉しそうだった。
3人で駅に向かう。
穂、永那、あたしの並びで歩くのは…こういう関係になってから、初めてかな?
最近は、穂を挟むようにして歩くことが多かったから。
「永那、ホントに家で良かったの?」
「ん?うん。千陽のこと放置してんなーとは思ってたし」
永那がニシシと笑う。
「ひど…わかってて放置するとか…」
心配して損した。
「いやー、ツンデレの千陽がいつデレるかなー?って実験だよ、実験」
「うざ」
「永那ちゃん、わかってたなら言ってよ」
穂が永那の服の袖をちょこちょこ引っ張る。
可愛い…。あたしもされたい。
穂は膨れっ面だ。
永那が楽しそうに笑う。
「まあでも、穂が思い悩んでるのには気づかなかったから…私、ちょっと浮かれすぎてたな。千陽が泣くとも…思ってなかったし」
永那の笑顔に自責の色が滲む。
「ごめんね。穂も、千陽も」
永那はポンポンとあたし達の頭を撫でた。
その優しさで、傷ついていたはずの心が、癒やされていく。
「…私も、永那ちゃんと千陽の気持ち、やっとわかった。嫉妬とかヤキモチとか、そういうのが、よくわかっていなくて…この前、2人の…キス…見て…永那ちゃんと付き合い始めた頃のことを思い出したの」
「あー…あのとき、穂泣いてたよね」
永那が懐かしむように宙を見た。
改札を通って、駅のホームに立つ。
「あの頃も、ハッキリ“嫉妬”とか“ヤキモチ”とか思ってたわけじゃなかった。ただ、千陽が…羨ましくて」
…ちょっとだけ、罪悪感。
でも、あのときのあたしも、孤独になりたくなくて…永那に捨てられたくなくて必死だったから、許してほしい。
「羨ましいって気持ちのほうが強くて、自分のなかで、そういう言葉に変換できていなかった。だから、2人の気持ちが、ちゃんとわかってあげられていなかった」
いや、もう…許されてるのか。
「優里ちゃんに、修学旅行で“ヤキモチ妬かないの?”って聞かれて“わからない”って答えたけど…もう、最初から妬いてたなって…」
穂が自嘲するように笑った。
「私、本当、恋愛に関して疎いんだなって…実感したよ…。恋愛というか人に関して、かな」
穂は永那とあたしをまっすぐ見て、ペコリと頭を下げた。
「だから…2人とも、私のせいで、いろいろ振り回して、ごめんなさい」
次の休み時間も彼女は永那の席に行って、何かを話す。
また授業が始まるギリギリまで話して、席に戻ってくる。
目が合って、ニコリと笑われた。
あたしは目をそらす。
放課後、穂に肩を叩かれた。
振り向くと、穂の口元が緩んでいた。
「あのさ…今日、千陽の家に泊まってもいい?」
「は?」
心臓が飛び跳ねる。
「さっき…授業中、スマホ見てたでしょ?…見えちゃったの…」
あたしは目を細める。
「ご、ごめんね?でも、授業中にスマホはダメだと思って、注意しようとしたら…見えちゃったの…」
ニヤけそうになる唇を、噛む。
「2人きりじゃ、なくて…その…永那ちゃんも一緒じゃ、だめかな?」
「あたし、ひとりぼっちにされない?」
「しない」
「じゃあ…いいよ…。でも、永那は、いいの?」
穂が首を傾げる。
…ああ、またわかってないやつか。
「永那ちゃんは、一緒にいられれば良いって言ってくれたよ」
「そうなんだ…」
「2人きりの日は、また別の日を考えるね」
そう言って、穂は笑った。
穂の家に寄って、2人が明日の授業の教材を鞄に入れる。
誉が「千陽!この間のやばかったな」と笑いかけてくるから、頷いた。
“やばかった”のは、ゲームの話。
あたしが過去一良い成績を出したときの話。
「誉、身長伸びたね」
「おー!」
あたしと同じくらいだったのに、ちょっと超されてる。
あたしも、あと3センチくらいほしかったな。
「そういえば、彼女とはどうなの?」
前に通話したとき、彼女と初キスをしたと報告された。
「んー…振っちゃった」
「やば、ひど」
「俺ってひどい…!?」
「うん。キスした後に振るとか…ないわ…。しかもまだ付き合って1ヶ月くらいでしょ?早すぎない?」
「えー…だってさ?だってさ、なんかイメージと違ったんだもん」
「なにそれ」
「いや…ほら…」
誉があたしの耳に口を寄せる。
「永那と姉ちゃんがしてるの見ると、もっと幸せそうっていうか…。でも、俺、その子とキスしても全然良さがわからなくて…。やっぱ、好きじゃないからダメなのかな?って思ったんだよ」
「ふーん」
…まあ、気持ちはわかる。
あたしだって、穂とするまでは、良さなんて全然わかんなかったもん。
「だから次は、ちゃんと好きな人と付き合おうって決めた」
「へえ。いいんじゃない?学びになって」
誉は何故か胸を張った。
誉と玄関で話していると、2人が準備を終えて戻ってきた。
服はあると伝えてあるから、2人はスクールバッグだけを肩にかけている。
「俺もいつか千陽ん家行きたい!」
「いつかね」
誉の頭をポンポンと撫でると、穂と永那も続いて彼の頭を撫でた。
「みんな子供扱いしすぎ!」と誉は言っていたけど、顔は嬉しそうだった。
3人で駅に向かう。
穂、永那、あたしの並びで歩くのは…こういう関係になってから、初めてかな?
最近は、穂を挟むようにして歩くことが多かったから。
「永那、ホントに家で良かったの?」
「ん?うん。千陽のこと放置してんなーとは思ってたし」
永那がニシシと笑う。
「ひど…わかってて放置するとか…」
心配して損した。
「いやー、ツンデレの千陽がいつデレるかなー?って実験だよ、実験」
「うざ」
「永那ちゃん、わかってたなら言ってよ」
穂が永那の服の袖をちょこちょこ引っ張る。
可愛い…。あたしもされたい。
穂は膨れっ面だ。
永那が楽しそうに笑う。
「まあでも、穂が思い悩んでるのには気づかなかったから…私、ちょっと浮かれすぎてたな。千陽が泣くとも…思ってなかったし」
永那の笑顔に自責の色が滲む。
「ごめんね。穂も、千陽も」
永那はポンポンとあたし達の頭を撫でた。
その優しさで、傷ついていたはずの心が、癒やされていく。
「…私も、永那ちゃんと千陽の気持ち、やっとわかった。嫉妬とかヤキモチとか、そういうのが、よくわかっていなくて…この前、2人の…キス…見て…永那ちゃんと付き合い始めた頃のことを思い出したの」
「あー…あのとき、穂泣いてたよね」
永那が懐かしむように宙を見た。
改札を通って、駅のホームに立つ。
「あの頃も、ハッキリ“嫉妬”とか“ヤキモチ”とか思ってたわけじゃなかった。ただ、千陽が…羨ましくて」
…ちょっとだけ、罪悪感。
でも、あのときのあたしも、孤独になりたくなくて…永那に捨てられたくなくて必死だったから、許してほしい。
「羨ましいって気持ちのほうが強くて、自分のなかで、そういう言葉に変換できていなかった。だから、2人の気持ちが、ちゃんとわかってあげられていなかった」
いや、もう…許されてるのか。
「優里ちゃんに、修学旅行で“ヤキモチ妬かないの?”って聞かれて“わからない”って答えたけど…もう、最初から妬いてたなって…」
穂が自嘲するように笑った。
「私、本当、恋愛に関して疎いんだなって…実感したよ…。恋愛というか人に関して、かな」
穂は永那とあたしをまっすぐ見て、ペコリと頭を下げた。
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