いたずらはため息と共に

常森 楽

文字の大きさ
332 / 595
5.時間

331.考える

しおりを挟む
「穂、起きて」
囁かれて、私は起き上がる。
千陽も起きて、抱きしめられた。
「ありがと」
洗面台のほうから、永那ちゃんが顔を洗う音がする。
チュッとキスされて、鼻が触れた。
その鼻が冷たくて、指で摘んだ。
「なに」
千陽が笑う。
「冷たいから」
千陽は顔を左右に振って、私の手をどかす。
その笑顔が可愛くて、愛しくて、本当に…千陽が、家族だったら…って…。
「なに?」
永那ちゃんが言っていたことを思い出す。
誉と、千陽が…結婚したら…。
「千陽、誉と結婚すればいいんだよ!」
「え!?」
「…穂、それは内緒だぞー?」
永那ちゃんがコップにお茶を注ぐ。
「は?…なに言ってんの?」
「だって、千陽が誉と結婚したら、私、千陽と家族になれる!」
「穂」
永那ちゃんの声がいつもより低い。

「ハァ」とため息をついて、私達のそばに永那ちゃんが座る。
「それは、私達が勝手に考えたことで、千陽と誉に押し付けちゃダメ」
子供に叱るように、優しく、まっすぐ、注意される。
「穂、自分でも言ってたでしょ?“誉はまだ小学生”って。あいつにはあいつの人生があるし…千陽にだって千陽の人生がある。2人がこれから、どんな人を好きになるのか…そんなの、私達が決めることじゃないでしょ?」
「でも」
「“でも”じゃないよ。私は、誉にいろいろ話してるけど、“仕込んだ”って言ったけど…あくまで、希望的観測というか…そうなったらいいかな?って、思っただけだよ。それを本人達に言っちゃダメだよ。逆に2人の関係が気まずくなるでしょ?」
「…ごめんなさい」
髪をわしゃわしゃと撫でられる。

「千陽、今の戯言だから。気にすんな」
「無理でしょ…」
フッと永那ちゃんが笑う。
「穂…あたし、男は…。誉は、嫌いじゃないけど…」
「うん。…ごめんね」
…思ったことを、勢いで言ってしまう癖。
全然、直ってないな。
また、振り回してしまうところだった。

「てか千陽さー、夜寝られなかったって、今日・・、楽しみにし過ぎじゃね?」
「悪い?」
ハハハッと永那ちゃんが軽快に笑う。
「私もめっちゃ楽しみにしてた」
「へえ」
千陽が座卓に頬杖をつく。
「もう、する?」
永那ちゃんがニヤニヤ笑うから、私は彼女の肩をポカポカ叩いた。
「永那ちゃんのバカ!」
「ホント、もうちょっとムードとか考えたら?」
「ムード?」
永那ちゃんは私の手を受け止めながら、左眉を上げる。
「ムードってなによ?」
「…穂とするとき、いつもそんな感じなの?」
「うん」
千陽が私を見る。
恥ずかしくなって、俯く。

「じゃあさ、千陽は、どんなムードがいいわけ?」
「は?」
千陽の耳が赤くなる。
「教えてよ」
永那ちゃんが意地悪な顔をして笑う。
「無理…」
「えー…自分で言ったんじゃん」
「私も…知りたい…」
千陽が眉間にシワを寄せて、口を結んでしまう。
私と永那ちゃんに見つめられ続けて、観念したように千陽は「ハァ」とため息をついた。
「まずは、可愛いとか…そういう言葉から、でしょ…」
「千陽可愛い」
永那ちゃんが言って、私の胸がズキリと痛む。
「…だから!ムードが全然ないんだって!」
「え?可愛いって言ったじゃん」
「うざ」
「はー!?」
ぐぅっとお腹が鳴って、永那ちゃんと千陽に見られる。
「あ、朝ご飯…食べよっか」
「だね」
永那ちゃんは楽しそうに表情を緩めた。

3人で昨日の夕飯の残りを食べる。
「おいし」
千陽が呟いて、タンポポの綿毛のように心がふわふわする。
「この揚げ出し豆腐、私が作ったんだよ」
永那ちゃんが言う。
「へえ」
千陽は豆腐を口に入れて、飲み込むと、すぐに次の豆腐を食べた。
「明日から3週間私の家だから…掃除とかしないとね」
「あー、そだね」
「また?」
千陽が言って、私は首を傾げる。
小さく首を振って、千陽はご飯を食べた。

「少し、寝ていいかな?」
朝ご飯を食べ終えて、私が言うと、2人が頷いた。
「あたしも、寝たい」
「んじゃ、3人で寝るか」
「永那も?」
千陽が目を細める。
「だめなの?」
永那ちゃんの眉間にシワが寄る。
「べつに…いいけど…」

2枚並んだ布団に、永那ちゃんを真ん中にして、寝転ぶ。
こうして3人で寝るのにも慣れた。
ホッとする。
永那ちゃんのお腹で、千陽と指を絡ませて手を繋ぐ。
「ねえ、私さ、敷布団も掛け布団も、ちょうど境なんだけど。ちょっと寒いんだけど」
「しょうがないでしょ」
千陽がぶっきらぼうに言う。
「なんでだよ!」
私は思わず笑ってしまう。
「もう…2人であったまるしかないか」
そう言って、永那ちゃんは私達を引き寄せた。
永那ちゃんの顔が、いつもより近い。
千陽の顔も…。
頬にキスができそうなくらい近くて、唇を触れさせると、永那ちゃんがへへへと笑った。
「2人ともエッチだなあ」
「うざ」
「どこがエッチなの?」
「ん?…同時にキスしてくるあたり」
そう言われて、一気に顔が熱くなった。
千陽も…してたんだ…。
繋ぐ手を、ギュッと握ると、ほとんど同時に、彼女からも握られた。
トクトクと、小さく心臓が鳴る。
息を吐いて、私は目を閉じた。
しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合短編集

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

乳首当てゲーム

はこスミレ
恋愛
会社の同僚に、思わず口に出た「乳首当てゲームしたい」という独り言を聞かれた話。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...