いたずらはため息と共に

常森 楽

文字の大きさ
516 / 595
8.閑話

31.永那 中2 春《相澤芽衣編》

なに、それ…。
「“またさわらせてほしい”って言われて…なんて答えればいいかわからなくて、“いいよ”って言っちゃった…」
「それは…たぶん、告白しても、また振られると思うよ。嫌なら、断ったほうがいいと思う」
「ど、どうして…?」
フゥッと息を吐く。
「私、今からめっちゃ嫌なこと言う」
風美は一瞬怯えたような顔になって、覚悟を決めたように頷いて真っ直ぐ私を見た。
「永那は、風美が好きだからキスしたり胸をさわったりしたんじゃない。なんとな~く、そういうことをする人なの」
「な、なんとなく…」
「そう。だから、きっと…このままズルズル永那の望むままに応えていたら、風美が傷つくと思う。はっきり断ったほうが、風美のため…だと、私は思う」
風美は小さくため息を溢して、俯いた。

「どうやって断ればいいの…?」
「え、それは」
「私、永那のこと、好きなんだよ?」
肩をギュッと掴まれる。
胸が、痛い。
私だって、好きだし…。
「永那、落ち込んでるみたいだったし…私に出来ることがあるなら…してあげたい、とも思う」
「私から、言ってみようか?そういうことしちゃダメって。“出来ること”って、キスさせたり、胸さわらせてあげることだけじゃないでしょ?」
風美は眉間にシワを寄せて、また俯く。
「…もう少し、考えてみる。相談乗ってくれて、ありがとう」
眉をハの字にして、彼女は笑った。

風美が離れて、即行スマホを出す。
『会いたい』
やばい…佐藤千陽を避けてたら他の女に取られる…。
悠長にしてる場合じゃなかった。
春休み毎日一緒にいたし、“恋愛は押しすぎてもダメ”ってよく聞くから、私と過ごさない期間があれば、少しは“寂しい”って思ってくれるかな?って、期待していた。
佐藤千陽を避けたいのも相まって、逃げた結果がこれ…。
もう…!

いつもはすぐに返事が来るのに、来ない。
何やってんの?
佐藤千陽と…セックス…とか…?
ああ…こういうことを考えたくなかったから、会いたくなかったんだよ…!
夜になっても返事が来なかったから『明日、多目的室で待ってる』と送った。
何度も何度もスマホを確認してしまう。
余裕のない自分が嫌…。

翌朝『行くね』と返ってきて、ホッとする。
エッチしよう。絶対しよう。
永那を、私に、引き留めさせないと…。
恋が叶わなくたって、1番でいたいと願うのは…滑稽かな?
でも、“ずっと1番であり続ければ、いつか…”なんて、まだ淡い夢を抱いている。

ガラガラと扉が開く。
永那は笑みを見せてくれたけど、その目の下にはクマができていた。
「芽衣、なんか、久しぶりだね」
「永那…」
ケースにギターを入れて、駆け寄る。
彼女の頬を両手で包んで、キスをした。
いつもなら、そのまま永那のほうからたくさんしてくれるのに、ぎこちなく笑うだけで、永那からはしてきてくれない。
…私、嫌われた?何か、した?
“何か”もなにも…私は、そもそも連絡すら取っていないんだった…。
「連絡しなくて、ごめんね…」
「大丈夫だよ。芽衣、勉強忙しくなるって言ってたし」
…受験勉強なんて…してるけど…永那に会えないほど忙しいわけじゃない。
「永那、何かあった?」
「…どうして?」
「目の下、クマできてる」
永那はそっと自分の目の下に触れた。
「そう?最近、鏡見てなかったからわからなかった」
へへへと永那が笑う。

「芽衣…芽衣の歌、聞きたい」
永那の苦しそうな笑顔を見た瞬間、胸が締め付けられた。
「うん。何が良い?」
「んー…明るい歌」
永那の手を引いて、座る。
明るい歌、明るい歌…。
「夏の雲が 降らした雨は 君との時を ほんのちょっとだけのばす 君が笑う 雫が弾ける キラキラした世界の中 スカートが舞う」
…こんな曲じゃなくて、何か、もっと励ませるような歌、作っておけばよかった。
作っておけば…って…私、そんな柄じゃない。
永那が、また大袈裟に拍手する。
「私、この歌好き!」
「知ってる」
へにゃっと笑って、永那が私に近づく。
「私と芽衣の歌だもんね」
去年の夏休み、部活帰りに雨が降った。
たまたま2人きりになる機会があって、一緒に途中まで帰った。
ゲリラ豪雨で、傘も持っていなかったし、2人で慌ててバス停の屋根の下で雨宿りした。
横から雨が入ってくるから、身を寄せ合って笑った、いい思い出。

私がギターを置くと、入れ替わるように永那が膝に頭を乗せた。
彼女の髪を撫でる。
「永那…明日も私、来るよ」
「…うん。…でも、まだ千陽がクラスのみんなと馴染めてないんだ。1人にしておくのは、心配」
「なんで、千陽ちゃんがそんなに心配なの?放っておけばいいじゃん。千陽ちゃんだって、永那にばっかり頼るんじゃなくて、自分でクラスに馴染んでいかなきゃ」
「そうかもしれないけど…あいつ…男に言い寄られて、怖がってるみたいだから…。女子の笑い声とかも、千陽に対して笑ってなくても、怖いみたいで…」
どうしてそこまで人に優しくできるのか…。
スゥスゥと寝息が聞こえてくる。
私、また…自分のことばっか考えてた。
感想 56

あなたにおすすめの小説

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

小さくなって寝ている先輩にキスをしようとしたら、バレて逆にキスをされてしまった話

穂鈴 えい
恋愛
ある日の放課後、部室に入ったわたしは、普段しっかりとした先輩が無防備な姿で眠っているのに気がついた。ひっそりと片思いを抱いている先輩にキスがしたくて縮小薬を飲んで100分の1サイズで近づくのだが、途中で気づかれてしまったわたしは、逆に先輩に弄ばれてしまい……。

会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)

久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。 しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。 「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」 ――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。 なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……? 溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。 王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ! ✽全28話完結 ✽辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。 ✽他誌にも掲載中です。 ✽2026.4/11 エブリスタ用に使用している表紙に変更しました。 →表紙はイラストをGrok タイトルをChatGPTでAI生成しています。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

身体だけの関係です‐三崎早月について‐

みのりすい
恋愛
「ボディタッチくらいするよね。女の子同士だもん」 三崎早月、15歳。小佐田未沙、14歳。 クラスメイトの二人は、お互いにタイプが違ったこともあり、ほとんど交流がなかった。 中学三年生の春、そんな二人の関係が、少しだけ、動き出す。 ※百合作品として執筆しましたが、男性キャラクターも多数おり、BL要素、NL要素もございます。悪しからずご了承ください。また、軽度ですが性描写を含みます。 12/11 ”原田巴について”投稿開始。→12/13 別作品として投稿しました。ご迷惑をおかけします。 身体だけの関係です 原田巴について https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789 作者ツイッター: twitter/minori_sui

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。