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8.閑話
2.永那 中2 冬《古賀日和編》
「風邪引いちゃうよ?立てる?」
手を差し出してくれて、私は両手で持っていた荷物を慌てて片手で持った。
手を重ねると、引っ張り上げてくれる。
勢いのまま、彼女の胸に抱きつくような形になってしまった。
鼓動が激しくなって、顔が熱くなる。
たった数秒のことだったはずなのに、この時間が胸に刻み込まれるみたいに、長く感じた。
彼女が離れて、顔を覗き込まれる。
目を合わせられなくて、呼吸をするのも忘れた。
「あ、膝…血出ちゃってるね」
彼女は肩と耳で傘を挟んで、鞄の中を漁る。
財布を出して、その中から絆創膏が出てきた。
鞄からティッシュも出す。
少し考えてから「んー…手が足りないな」と楽しそうに笑った。
「歩ける?近くに公園あるけど、そこまで行ける?」
頷くと、私の傘を拾ってくれて、彼女が歩き出す。
公園のベンチは濡れていたから、彼女が滑り台の下に潜った。
ノートの紙をビリビリ破って、ピクニックシートみたいに地面に敷いてくれる。
「どうぞ。狭いですが」
ニシシと彼女が笑う。
「お、お邪魔します…」
傘を閉じて、私は座った。
膝をティッシュで拭いてくれる。
ティッシュを雨水に濡らして、もう一度拭いてくれた。
「よし。…帰ったら消毒しなよ?」
「…はい。ありがとうございます」
丁寧に絆創膏を貼ってくれる。
「教科書もびしょびしょだね」
砂利がついていたからか、ティッシュでパタパタと叩いてくれる。
「同じ学校だよね?1年生?」
「はい」
「私、2年。両角 永那、よろしくね」
「両角先輩…」
「永那でいいよ」
筆箱やお守りについている砂利を取ってくれた。
「…永那、先輩」
先輩のティッシュがなくなってしまう。
慌てて私のティッシュを渡そうとしたけど、鞄の中も濡れていて、とてもじゃないけど渡せる状態になかった。
「日和ちゃん…“ちゃん”付け面倒だから、日和って呼んでいい?」
「はい」
「日和は、何部?」
私達の中学校は、必ずどこかしらの部活動に参加しなくてはならない。
「映画部…です…」
「映画?」
「はい…」
「何するの?」
「映画を、見ます…」
ハハハッと永那先輩が笑う。
「楽しそうだね」
「…でも、週に1回も活動してないんです。やる気のある子は、脚本書いて、動画撮ったりしてますけど…私は…」
「そうなんだ。私も似たようなもんだよ。軽音部なんだけど…みんなは楽器弾いてるけど、私は何もしてない。ほとんど行ってすらない」
軽音部…明るい人達が入る部活…。
「たまに好きな曲弾いてもらって、カラオケみたいにしてるけど」
「カラオケ…生演奏ですね」
プッと笑って「たしかに!贅沢だ!」と先輩は言った。
「手作りのお守り?」
全部拭き終えて、渡してくれる。
「…はい。幼稚園のときの、先生から…」
「へえ。大事にしてるんだ」
「はい」
「いいね、そういうの」
“汚え!”
小学生のとき、男子に笑われた。
遠くに投げられて、走って拾いに行った。
ゲラゲラ笑う声が後ろで聞こえて、悲しくて、泣いたことを思い出す。
先輩が優しく微笑むから、よくわからないけど、涙が溢れた。
「どうした?」
指で拭われて、ドキドキする。
「ごめんなさい…」
「なんか、辛いことでもあった?話聞くくらいなら、できるけど」
「な、なにも!なにも…ないんですけど…。ただ、嬉しくて。…こんなに、優しくしてもらったこと…なかったから…」
フフッと彼女が笑う。
「べつに、優しくなんかないよ」
「優しいです!…先輩は、とても…優しい、です」
「…ありがと」
初対面なのに、何言ってるんだろう…私。
少しして小雨になったから、先輩が立った。
「そろそろ帰んなきゃ」
「すみません…!本当に、ありがとうございました」
私が頭を下げると、ポンポンと撫でられる。
敷いていた紙を先輩はくしゃくしゃに纏めて、おにぎりみたいにする。
「んじゃ、気をつけて帰ってね」
そう言って、走って行ってしまった。
首にかかっていたタオルに気づいたのは、もう彼女が公園から去ってしまった後だった。
帰ってからすぐにタオルを洗濯して、丁寧に畳んだ。
乾燥機にかけたから、ほかほかと温かい。
…明日、返しに行こう。
想像しただけでドキドキする。
綺麗だったな。かっこよかったな。優しかったな。
このとき初めて、幼稚園の先生への気持ちが恋だったのだと自覚した。
同じ感情を、先輩に抱いたから。
…でも、1つだけ、違ったことがあった。
寝る前、ベッドに潜って、いつものように恥部に触れた。
小学生4年生のとき、鉄棒に跨って、気持ち良さを知った日から、毎日のようにさわっている。
誰も知らない、私の秘密。
スマホでエッチな漫画や動画を自由に見られるようになってからは、“イく”ことを知った。
いつもは、特定の誰かを思い浮かべることもなく、ただ目を瞑って気持ちよさに浸るだけ。
なのに、この日は…先輩の顔が浮かんだ。
先輩が髪を拭いてくれたときの顔。手の感触。
涙を指で拭ってくれたときの表情。
今まで、声なんて出したこともなかったのに「あッ」と思わず恥ずかしい声が出た。
イった後、もっと恥ずかしくなって、布団を頭から被った。
手を差し出してくれて、私は両手で持っていた荷物を慌てて片手で持った。
手を重ねると、引っ張り上げてくれる。
勢いのまま、彼女の胸に抱きつくような形になってしまった。
鼓動が激しくなって、顔が熱くなる。
たった数秒のことだったはずなのに、この時間が胸に刻み込まれるみたいに、長く感じた。
彼女が離れて、顔を覗き込まれる。
目を合わせられなくて、呼吸をするのも忘れた。
「あ、膝…血出ちゃってるね」
彼女は肩と耳で傘を挟んで、鞄の中を漁る。
財布を出して、その中から絆創膏が出てきた。
鞄からティッシュも出す。
少し考えてから「んー…手が足りないな」と楽しそうに笑った。
「歩ける?近くに公園あるけど、そこまで行ける?」
頷くと、私の傘を拾ってくれて、彼女が歩き出す。
公園のベンチは濡れていたから、彼女が滑り台の下に潜った。
ノートの紙をビリビリ破って、ピクニックシートみたいに地面に敷いてくれる。
「どうぞ。狭いですが」
ニシシと彼女が笑う。
「お、お邪魔します…」
傘を閉じて、私は座った。
膝をティッシュで拭いてくれる。
ティッシュを雨水に濡らして、もう一度拭いてくれた。
「よし。…帰ったら消毒しなよ?」
「…はい。ありがとうございます」
丁寧に絆創膏を貼ってくれる。
「教科書もびしょびしょだね」
砂利がついていたからか、ティッシュでパタパタと叩いてくれる。
「同じ学校だよね?1年生?」
「はい」
「私、2年。両角 永那、よろしくね」
「両角先輩…」
「永那でいいよ」
筆箱やお守りについている砂利を取ってくれた。
「…永那、先輩」
先輩のティッシュがなくなってしまう。
慌てて私のティッシュを渡そうとしたけど、鞄の中も濡れていて、とてもじゃないけど渡せる状態になかった。
「日和ちゃん…“ちゃん”付け面倒だから、日和って呼んでいい?」
「はい」
「日和は、何部?」
私達の中学校は、必ずどこかしらの部活動に参加しなくてはならない。
「映画部…です…」
「映画?」
「はい…」
「何するの?」
「映画を、見ます…」
ハハハッと永那先輩が笑う。
「楽しそうだね」
「…でも、週に1回も活動してないんです。やる気のある子は、脚本書いて、動画撮ったりしてますけど…私は…」
「そうなんだ。私も似たようなもんだよ。軽音部なんだけど…みんなは楽器弾いてるけど、私は何もしてない。ほとんど行ってすらない」
軽音部…明るい人達が入る部活…。
「たまに好きな曲弾いてもらって、カラオケみたいにしてるけど」
「カラオケ…生演奏ですね」
プッと笑って「たしかに!贅沢だ!」と先輩は言った。
「手作りのお守り?」
全部拭き終えて、渡してくれる。
「…はい。幼稚園のときの、先生から…」
「へえ。大事にしてるんだ」
「はい」
「いいね、そういうの」
“汚え!”
小学生のとき、男子に笑われた。
遠くに投げられて、走って拾いに行った。
ゲラゲラ笑う声が後ろで聞こえて、悲しくて、泣いたことを思い出す。
先輩が優しく微笑むから、よくわからないけど、涙が溢れた。
「どうした?」
指で拭われて、ドキドキする。
「ごめんなさい…」
「なんか、辛いことでもあった?話聞くくらいなら、できるけど」
「な、なにも!なにも…ないんですけど…。ただ、嬉しくて。…こんなに、優しくしてもらったこと…なかったから…」
フフッと彼女が笑う。
「べつに、優しくなんかないよ」
「優しいです!…先輩は、とても…優しい、です」
「…ありがと」
初対面なのに、何言ってるんだろう…私。
少しして小雨になったから、先輩が立った。
「そろそろ帰んなきゃ」
「すみません…!本当に、ありがとうございました」
私が頭を下げると、ポンポンと撫でられる。
敷いていた紙を先輩はくしゃくしゃに纏めて、おにぎりみたいにする。
「んじゃ、気をつけて帰ってね」
そう言って、走って行ってしまった。
首にかかっていたタオルに気づいたのは、もう彼女が公園から去ってしまった後だった。
帰ってからすぐにタオルを洗濯して、丁寧に畳んだ。
乾燥機にかけたから、ほかほかと温かい。
…明日、返しに行こう。
想像しただけでドキドキする。
綺麗だったな。かっこよかったな。優しかったな。
このとき初めて、幼稚園の先生への気持ちが恋だったのだと自覚した。
同じ感情を、先輩に抱いたから。
…でも、1つだけ、違ったことがあった。
寝る前、ベッドに潜って、いつものように恥部に触れた。
小学生4年生のとき、鉄棒に跨って、気持ち良さを知った日から、毎日のようにさわっている。
誰も知らない、私の秘密。
スマホでエッチな漫画や動画を自由に見られるようになってからは、“イく”ことを知った。
いつもは、特定の誰かを思い浮かべることもなく、ただ目を瞑って気持ちよさに浸るだけ。
なのに、この日は…先輩の顔が浮かんだ。
先輩が髪を拭いてくれたときの顔。手の感触。
涙を指で拭ってくれたときの表情。
今まで、声なんて出したこともなかったのに「あッ」と思わず恥ずかしい声が出た。
イった後、もっと恥ずかしくなって、布団を頭から被った。
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