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8.閑話
65.永那 中3 夏〜冬《如月梓編》
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ホントにこの人、私と同い年?って何度も思う。
そもそも、放ってるオーラが違う感じがする。
大人っぽい魅力がありつつも、疲れてる大人みたいな雰囲気も感じ取れる。
どちらにしても同い年には見えない。
もしかしたら本当に、ドラキュラみたいな怪物なのかもしれない。…なんて。
夏休み最終日、永那と会う約束はしていなかった。
その日は塾がなかったから少し残念だった。
アイスが食べたくてコンビニに行くと、永那がいてビックリした。
声をかけようとしたけど、もう1人いることに気づいてやめた。
聞き慣れた声。
「永那先輩っ」
紬だった。
ああ…最悪…。
夏休み、ほとんど紬と会わなかった。
彼女は普段通りの塾、ピアノ、書道、部活の科学部にプラスして、サマースクールに行ったり、運動のためにプールに通ったりしていたから。
彼女の部屋の電気がつけば、“家に帰ってきたんだな”とわかるだけだった。
たまに塾ですれ違っても、会話は全くなかった。
紬のお兄ちゃんが、あの家に引きこもっているのだと知ってからは、複雑な感情が込み上げてきた。
向かいにある家を見る度に、“こんなに近くに住んでいても、わからないことばかりだな”と。
紬が忙しそうにしていればしている程、何もしてあげられないことを申し訳なく思った。
同時に勝手に比較して、自分を卑下した。
“まあ、私とは違うんだから、紬なら大丈夫だろう”とも思えた。
そんな私でも、紬よりも凄いと思えることが1つだけあった。
永那と一緒にいられたこと。
でも…もし…紬も夏休みに永那と会っていたとしたら…嫌だ。
私と同じように、会っていたとしたら…。
そんな最低なこと…してないよね?永那。
私は走ってコンビニを出て、家に帰った。
椅子に座って、ジッと紬の家を見ていた。
1時間経っても、紬と永那は来なかった。
部屋に入ってから、チラチラと紬の家を見ていたけど、やっぱり2人は帰ってこなかった。
ホッとした。
ただ、遊んでいただけだったんだと。
もちろん、そんなわけはなかった。
家には紬のお兄ちゃんがいるから、紬は永那を家に呼ばなかっただけだった。
夏休み明け、いつものように紬が私の腕に抱きついてきて、彼女が言った。
「永那先輩と仲良くなっちゃった」と。
ペロリと舌を出して、ニヤリと彼女が笑う。
「…あっそ」
「梓、どういう意味かわかってる?」
私は奥歯を強く噛んで、逃げるように紬の手を振り払った。
早歩きで学校に向かう間、1度も紬を見なかった。
永那からメッセージが来ても全部無視した。
1ヶ月無視し続けると、メッセージが来なくなった。
メッセージが来なくなると泣けてきて、一晩泣き明かして、結局返事をした。
「永那、紬と…ヤってるの?」
「…あぁ、紬から聞いた?」
ガリッと歯が擦れる。
「クズ!最低!」
フッと永那が笑う。
「そうだよ?梓は最初から、わかってたでしょ?」
視界がどんどんボヤけていって、瞬きをすると、涙が溢れた。
「私、家に帰りたくないんだよ」
なんの話かわからず、ただ涙をポタポタと流した。
「ハァ」と永那が深いため息をつく。
「去年は千陽とか先輩の家にいることが多かったんだけど、先輩は卒業しちゃって会えないし、千陽は忙しいって言うし…必要だったんだよ」
「必要…?なにが?」
「家にいない理由が」
「そ、それなら…毎日私の家に来れば良かったじゃん」
「そしたら、私のこと、本気で好きになっちゃうかもしれないでしょ?」
「クズ…。どんだけ自分に自信あんの…」
永那が笑う。
「じゃあ梓は、私のこと、本気で好きにならなかった?」
胸がギュゥギュゥに締め付けられて、チクチクと痛む。
涙が溢れて止まらない。
もう好きだよ…!もう、めちゃくちゃ好きだよ…!!
「ならなかった!クズって、知ってるもん…」
「…そっか。じゃあ、毎日行けば良かったかも」
「うぅぅっ、ぅぅっ」
しゃがみ込んで、必死に声を抑えようとするのに、涙が溢れて止まらない。
「千陽も毎日来ていいって言ってくれるんだけど…申し訳なくてさ、なんか。本当に毎日行っていいのか、わからないんだ。不安になる、いつも」
目だけ彼女に遣る。
彼女は、どこか遠くを見ていた。
「明確に“好き”って思えたら、そんな不安もなくなるのかな」
「知らないよ…」
「だよね。私もわかんない。だから、とりあえず色んな人と会ってる」
膝に顔をうずめて、深呼吸する。
「梓、もう会うの、やめとこうか。これで最後にしよう」
あぁ…この人は…何度もこういうことを繰り返してきたんだな。
「やめない…」
「え?」
「やめないってば。私達、セフレでしょ?」
「……うん!」
永那に抱きつかれて、床に押し倒された。
好きになった者負けだ。
私は定員割れしているような、名前を書くだけで合格するような高校に進学した。
紬は永那に本気で恋して、振られて、泣いていた。
それを私が慰めて、慰めた後に永那とヤる。
私も大概クズだ。
受験の時期に差し掛かると、自然と永那と会う頻度が減っていった。
メッセージを送っても返事が来なくなった。
『ごめん、もう会えない』
それが永那からの最後のメッセージ。
私達の関係なんてそんなもの。
あまりに虚しい。
泣いても泣いても、私には慰めてくれる相手なんていない。
自業自得だったし、慰めて欲しいとも思わなかった。
そもそも、放ってるオーラが違う感じがする。
大人っぽい魅力がありつつも、疲れてる大人みたいな雰囲気も感じ取れる。
どちらにしても同い年には見えない。
もしかしたら本当に、ドラキュラみたいな怪物なのかもしれない。…なんて。
夏休み最終日、永那と会う約束はしていなかった。
その日は塾がなかったから少し残念だった。
アイスが食べたくてコンビニに行くと、永那がいてビックリした。
声をかけようとしたけど、もう1人いることに気づいてやめた。
聞き慣れた声。
「永那先輩っ」
紬だった。
ああ…最悪…。
夏休み、ほとんど紬と会わなかった。
彼女は普段通りの塾、ピアノ、書道、部活の科学部にプラスして、サマースクールに行ったり、運動のためにプールに通ったりしていたから。
彼女の部屋の電気がつけば、“家に帰ってきたんだな”とわかるだけだった。
たまに塾ですれ違っても、会話は全くなかった。
紬のお兄ちゃんが、あの家に引きこもっているのだと知ってからは、複雑な感情が込み上げてきた。
向かいにある家を見る度に、“こんなに近くに住んでいても、わからないことばかりだな”と。
紬が忙しそうにしていればしている程、何もしてあげられないことを申し訳なく思った。
同時に勝手に比較して、自分を卑下した。
“まあ、私とは違うんだから、紬なら大丈夫だろう”とも思えた。
そんな私でも、紬よりも凄いと思えることが1つだけあった。
永那と一緒にいられたこと。
でも…もし…紬も夏休みに永那と会っていたとしたら…嫌だ。
私と同じように、会っていたとしたら…。
そんな最低なこと…してないよね?永那。
私は走ってコンビニを出て、家に帰った。
椅子に座って、ジッと紬の家を見ていた。
1時間経っても、紬と永那は来なかった。
部屋に入ってから、チラチラと紬の家を見ていたけど、やっぱり2人は帰ってこなかった。
ホッとした。
ただ、遊んでいただけだったんだと。
もちろん、そんなわけはなかった。
家には紬のお兄ちゃんがいるから、紬は永那を家に呼ばなかっただけだった。
夏休み明け、いつものように紬が私の腕に抱きついてきて、彼女が言った。
「永那先輩と仲良くなっちゃった」と。
ペロリと舌を出して、ニヤリと彼女が笑う。
「…あっそ」
「梓、どういう意味かわかってる?」
私は奥歯を強く噛んで、逃げるように紬の手を振り払った。
早歩きで学校に向かう間、1度も紬を見なかった。
永那からメッセージが来ても全部無視した。
1ヶ月無視し続けると、メッセージが来なくなった。
メッセージが来なくなると泣けてきて、一晩泣き明かして、結局返事をした。
「永那、紬と…ヤってるの?」
「…あぁ、紬から聞いた?」
ガリッと歯が擦れる。
「クズ!最低!」
フッと永那が笑う。
「そうだよ?梓は最初から、わかってたでしょ?」
視界がどんどんボヤけていって、瞬きをすると、涙が溢れた。
「私、家に帰りたくないんだよ」
なんの話かわからず、ただ涙をポタポタと流した。
「ハァ」と永那が深いため息をつく。
「去年は千陽とか先輩の家にいることが多かったんだけど、先輩は卒業しちゃって会えないし、千陽は忙しいって言うし…必要だったんだよ」
「必要…?なにが?」
「家にいない理由が」
「そ、それなら…毎日私の家に来れば良かったじゃん」
「そしたら、私のこと、本気で好きになっちゃうかもしれないでしょ?」
「クズ…。どんだけ自分に自信あんの…」
永那が笑う。
「じゃあ梓は、私のこと、本気で好きにならなかった?」
胸がギュゥギュゥに締め付けられて、チクチクと痛む。
涙が溢れて止まらない。
もう好きだよ…!もう、めちゃくちゃ好きだよ…!!
「ならなかった!クズって、知ってるもん…」
「…そっか。じゃあ、毎日行けば良かったかも」
「うぅぅっ、ぅぅっ」
しゃがみ込んで、必死に声を抑えようとするのに、涙が溢れて止まらない。
「千陽も毎日来ていいって言ってくれるんだけど…申し訳なくてさ、なんか。本当に毎日行っていいのか、わからないんだ。不安になる、いつも」
目だけ彼女に遣る。
彼女は、どこか遠くを見ていた。
「明確に“好き”って思えたら、そんな不安もなくなるのかな」
「知らないよ…」
「だよね。私もわかんない。だから、とりあえず色んな人と会ってる」
膝に顔をうずめて、深呼吸する。
「梓、もう会うの、やめとこうか。これで最後にしよう」
あぁ…この人は…何度もこういうことを繰り返してきたんだな。
「やめない…」
「え?」
「やめないってば。私達、セフレでしょ?」
「……うん!」
永那に抱きつかれて、床に押し倒された。
好きになった者負けだ。
私は定員割れしているような、名前を書くだけで合格するような高校に進学した。
紬は永那に本気で恋して、振られて、泣いていた。
それを私が慰めて、慰めた後に永那とヤる。
私も大概クズだ。
受験の時期に差し掛かると、自然と永那と会う頻度が減っていった。
メッセージを送っても返事が来なくなった。
『ごめん、もう会えない』
それが永那からの最後のメッセージ。
私達の関係なんてそんなもの。
あまりに虚しい。
泣いても泣いても、私には慰めてくれる相手なんていない。
自業自得だったし、慰めて欲しいとも思わなかった。
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