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9.移ろい
491.新学年
バタンッと痛そうな音がして、立ち止まる。
桜が大の字でアスファルトにうつ伏せになっていた。
「え…?」
燈夏が明らかに動揺する。
千陽がプッと吹き出して笑う。
仕方ないから私が桜のそばに行って、起こしてあげる。
「大丈夫?」
手の平と顔、膝に擦り傷が出来ている。
どうしたらこうなるんだ…。
「だいじょうぶれす…すびばせん…」
すごく痛そうだ…。
とりあえずティッシュを出して、血が出ているところを拭いてあげる。
「本当に、すびばせん…」
“すびばせん”ってなんだよ…。
つい失笑する。
「あ、眼鏡、ちょっと傷ついちゃったんじゃない?」
「え!?あっ…あー…っ」
私に体のそこかしこを拭かれながら、それを何も気にせず、眼鏡を眺めて悲しそうにする。
「可愛い」
気づいたら口をついていて、千陽に頭を叩かれた。
「いったっ」
「穂に言うからね?」
千陽がすごい怒ってる。
ブチギレてる。
「な、なんだよ…そんな怒ることないじゃん」
「あんたはそうやって、何人を沼に落としてきたの?」
「…落とす意思はありませんでした」
「有罪です」
「判決早くない!?」
無意識だったんだ!
子供みたいで可愛いなって、ちょっと思っただけじゃん!
「前科アリなので」
「前科があるからって即有罪だなんてあんまりだ!もっと検証すべきだ!私の話も聞いてくれ!」
「…どうぞ?」
「こう…なんていうか…私が体を拭いてあげてるのに」
「有罪です」
「まだ話の途中なんだけど!?」
「痴漢したと証言なさったので」
「違う違う!傷と汚れを拭いてあげてただけだって!」
隣から笑い声が聞こえてきて、そちらを見る。
燈夏が目の端を指で拭っていた。
「なんか、懐かしっ」
ああ、そうか…。
たしかに、最近は穂と優里と桜の5人でばかりいて、こういうやり取りは他の人に見せていなかったかもしれない。
私は、自分のことで手一杯だったし。
ポカーンとしている桜の傷に絆創膏を貼って、立ち上がる。
「行こっか。…桜、大丈夫?」
「あ、はい!ありがとうございます」
電車の中でも、千陽の惚気話が続いた。
千陽も、穂のせいでノリが悪くなったと言われたのが気に食わなかったんだろう。
私達は、私達の意思で、穂に合わせてるだけなのに。
でも、それにしても千陽がやけにノリノリに話している。
千陽が話す度に桜が何かしら反応する。
どうやら、それが千陽は楽しいらしい。
…さっき大の字で倒れたのも、ホテルの話をしたから?
ん…?桜って、結構そういう話、好きなの?
だとするなら、私も桜とちょっと話してみたい。
俄然、普段の千陽と桜のやり取りが気になってきた。
駅で2人と別れる。
燈夏と2人きりになって、腕を組まれた。
「誤解されるからやめて」
腕をモゾモゾ動かして離れると、燈夏が不貞腐れる。
「千陽には許してるじゃん」
「千陽は昔からだし」
「空井さんはそれでいいって?」
「うん。千陽、穂にもベタベタだしね」
「私は…」
燈夏が俯く。
…ふむ。
今日1日で、燈夏が突っかかってくる理由がやっとわかった。
確信に至ったというのが正しいか。
「寂しいの?」
「…寂しいよ」
「ごめんね?」
「ハァ」と燈夏が空を見上げる。
「べつに、いいけどっ」
「ふーん?」
「図書館、どこ?」
「10分くらい歩いたとこ」
「永那ん家はそこからどのくらいっ?」
「ん~、15分くらい?」
「結構遠いね」
「そう?ずっと住んでるから遠い感覚ないわ」
「…最近、さ?」
「うん?」
「優里とか、家に遊びに行ってるんでしょ?」
「あー…期末前とかね。遊びってか勉強会。穂が優里に勉強教えてんだよ」
「いいな~、私も行ってみたい」
「狭いから無理。定員オーバーです」
燈夏がブレザーのポケットに両手を突っ込み、俯く。
その横顔を見て、私は小さく息を吐いた。
「桜だって、誘ってないよ?マジで狭いから」
「そう…なんだ…」
安堵したような表情になる。
私と千陽のそばにはいつも優里がいた。
優里といると楽しかったし、あいつは素直だから一緒にいて居心地が良かった。
…と、私よりも、千陽がそう思っているんだと思う。
私は正直、誰といたいかなんてこだわりはなかった。
誰でも良かったし、誰といても変わらなかった。
千陽が優里を気に入っているから、気づいたら優里が私達のそばにずっといたんだ。
今、私達のそばに、当たり前みたいに桜がいるのと同じように。
でも、そばにいたのは優里だけじゃなかった。
いつも、他に誰かしらいた。
みんなでふざけて、みんなで笑って…それが私の高校1年生の日常だった。
誰かがそばにいるのは、中2、中3の時とも変わらなかった。
常に私と千陽は一緒にいるけど、そばにいる人はコロコロ変わった。
だから優里は特別で、優里以外の人に全く意識が向いていなかった。
思い返してみれば、燈夏だって1年、2年と同じクラス。
2年から3年に進級する時はクラス替えがないから、3年間同じクラスだということ。
燈夏はずっと千陽の取り巻きみたいなことをしていた。
つまり、燈夏もいつも私達のそばにいたんだ。
気づかなかったな。
桜が大の字でアスファルトにうつ伏せになっていた。
「え…?」
燈夏が明らかに動揺する。
千陽がプッと吹き出して笑う。
仕方ないから私が桜のそばに行って、起こしてあげる。
「大丈夫?」
手の平と顔、膝に擦り傷が出来ている。
どうしたらこうなるんだ…。
「だいじょうぶれす…すびばせん…」
すごく痛そうだ…。
とりあえずティッシュを出して、血が出ているところを拭いてあげる。
「本当に、すびばせん…」
“すびばせん”ってなんだよ…。
つい失笑する。
「あ、眼鏡、ちょっと傷ついちゃったんじゃない?」
「え!?あっ…あー…っ」
私に体のそこかしこを拭かれながら、それを何も気にせず、眼鏡を眺めて悲しそうにする。
「可愛い」
気づいたら口をついていて、千陽に頭を叩かれた。
「いったっ」
「穂に言うからね?」
千陽がすごい怒ってる。
ブチギレてる。
「な、なんだよ…そんな怒ることないじゃん」
「あんたはそうやって、何人を沼に落としてきたの?」
「…落とす意思はありませんでした」
「有罪です」
「判決早くない!?」
無意識だったんだ!
子供みたいで可愛いなって、ちょっと思っただけじゃん!
「前科アリなので」
「前科があるからって即有罪だなんてあんまりだ!もっと検証すべきだ!私の話も聞いてくれ!」
「…どうぞ?」
「こう…なんていうか…私が体を拭いてあげてるのに」
「有罪です」
「まだ話の途中なんだけど!?」
「痴漢したと証言なさったので」
「違う違う!傷と汚れを拭いてあげてただけだって!」
隣から笑い声が聞こえてきて、そちらを見る。
燈夏が目の端を指で拭っていた。
「なんか、懐かしっ」
ああ、そうか…。
たしかに、最近は穂と優里と桜の5人でばかりいて、こういうやり取りは他の人に見せていなかったかもしれない。
私は、自分のことで手一杯だったし。
ポカーンとしている桜の傷に絆創膏を貼って、立ち上がる。
「行こっか。…桜、大丈夫?」
「あ、はい!ありがとうございます」
電車の中でも、千陽の惚気話が続いた。
千陽も、穂のせいでノリが悪くなったと言われたのが気に食わなかったんだろう。
私達は、私達の意思で、穂に合わせてるだけなのに。
でも、それにしても千陽がやけにノリノリに話している。
千陽が話す度に桜が何かしら反応する。
どうやら、それが千陽は楽しいらしい。
…さっき大の字で倒れたのも、ホテルの話をしたから?
ん…?桜って、結構そういう話、好きなの?
だとするなら、私も桜とちょっと話してみたい。
俄然、普段の千陽と桜のやり取りが気になってきた。
駅で2人と別れる。
燈夏と2人きりになって、腕を組まれた。
「誤解されるからやめて」
腕をモゾモゾ動かして離れると、燈夏が不貞腐れる。
「千陽には許してるじゃん」
「千陽は昔からだし」
「空井さんはそれでいいって?」
「うん。千陽、穂にもベタベタだしね」
「私は…」
燈夏が俯く。
…ふむ。
今日1日で、燈夏が突っかかってくる理由がやっとわかった。
確信に至ったというのが正しいか。
「寂しいの?」
「…寂しいよ」
「ごめんね?」
「ハァ」と燈夏が空を見上げる。
「べつに、いいけどっ」
「ふーん?」
「図書館、どこ?」
「10分くらい歩いたとこ」
「永那ん家はそこからどのくらいっ?」
「ん~、15分くらい?」
「結構遠いね」
「そう?ずっと住んでるから遠い感覚ないわ」
「…最近、さ?」
「うん?」
「優里とか、家に遊びに行ってるんでしょ?」
「あー…期末前とかね。遊びってか勉強会。穂が優里に勉強教えてんだよ」
「いいな~、私も行ってみたい」
「狭いから無理。定員オーバーです」
燈夏がブレザーのポケットに両手を突っ込み、俯く。
その横顔を見て、私は小さく息を吐いた。
「桜だって、誘ってないよ?マジで狭いから」
「そう…なんだ…」
安堵したような表情になる。
私と千陽のそばにはいつも優里がいた。
優里といると楽しかったし、あいつは素直だから一緒にいて居心地が良かった。
…と、私よりも、千陽がそう思っているんだと思う。
私は正直、誰といたいかなんてこだわりはなかった。
誰でも良かったし、誰といても変わらなかった。
千陽が優里を気に入っているから、気づいたら優里が私達のそばにずっといたんだ。
今、私達のそばに、当たり前みたいに桜がいるのと同じように。
でも、そばにいたのは優里だけじゃなかった。
いつも、他に誰かしらいた。
みんなでふざけて、みんなで笑って…それが私の高校1年生の日常だった。
誰かがそばにいるのは、中2、中3の時とも変わらなかった。
常に私と千陽は一緒にいるけど、そばにいる人はコロコロ変わった。
だから優里は特別で、優里以外の人に全く意識が向いていなかった。
思い返してみれば、燈夏だって1年、2年と同じクラス。
2年から3年に進級する時はクラス替えがないから、3年間同じクラスだということ。
燈夏はずっと千陽の取り巻きみたいなことをしていた。
つまり、燈夏もいつも私達のそばにいたんだ。
気づかなかったな。
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