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9.移ろい
502.パーティ
「ハァ」と体中の空気を吐き出すように、長く息を吐く。
少しでも時間稼ぎをするみたいに。
「穂、そろそろ帰んないと」
笑顔を、作る。
彼女が私を見る。
「駅まで送るよ」
繋いでいた手を離して、立ち上がる。
必死に作った笑顔を長時間見られたくなくて、食器を片付けるフリして穂に背を向けた。
「え~?」
お母さんが眠そうな声で不満を漏らす。
気持ちはわかるけど、私だって必死に我慢してるんだから、駄々をこねないでほしい。
さっきまで感じていた幸せが、急に刺々しいものに変わっていく。
ギリッと奥歯が鳴る。
「永那、何言ってるの~?」
「お母さん、何って…もう遅いんだし、穂は明日生徒会の行事があるから、そろそろ帰んなきゃいけないんだよ」
「そうなの?穂ちゃん」
思わずため息をつく。
「お母さん…!」
「本当、永那ちゃんは何を言っているんでしょうね?」
穂がお母さんに笑いかける。
「今日はお泊まりをする約束なのに」
ドクンと心臓が音を鳴らす。
穂の瞳が弧を描いて、私を見つめた。
「え…?」
「ほら~!永那がおかしいんだよ!やっぱり!」
「明日、生徒会があるのは本当ですよ?」
「あれ?そっか~!」
「でも、朝出れば間に合うので、大丈夫です」
「嘘…」
「私、嘘つかないよ?」
脳の処理が追いつかなくて、壁に手をついて、もたれかかる。
指先で頭を支え、ギュッと目を閉じた。
少しの沈黙。
「本当!?」
勢いよく穂を見る。
「本当」
言われた瞬間、彼女に抱きついていた。
飛びついて、抱きついて、床に押し倒していた。
「本当!?本当!?」
「本当だよ」
穂の眉はハの字になっているけど、その瞳は弧を描き続けたまま、口元には白い歯を見せていた。
「本当?」
「本当」
「永那~、何回言うの?」
お母さんが私達を見て笑う。
「だって…だって…信じられなくて」
「そういえば、家に誰かが泊まるのって、初めてかな?」
お母さんが入院していた期間を除けば、初めてだ。
「そうだね」
「良かったね、永那」
その微笑みは、昔大好きだったお母さんの笑顔だった。
お母さんの心は、まだまだ不安定だ。
だから苦しく思うこともたくさんある。
でも、それでも…こんな風にお母さんの笑顔が見られるなら、まだやっていける気がした。
まだ、私は大丈夫な気がした。
「うん。ありがとう、お母さん」
「いいよ。お母さんも楽しいし。…あ、お父さんがこの前泊まったね!穂ちゃんが初めてじゃなかった」
へへへとお母さんが笑う。
「じいちゃんは…まあ、いいじゃん?お母さんの父親なわけだし」
「そっか!じゃあ、やっぱり、穂ちゃんが初めて!」
「お邪魔します」
「お邪魔じゃないよ!大歓迎だよ~!」
その後、いつものようにお母さんの髪と背中を洗ってあげた。
その間、穂が残ったご飯を別のお皿によそっておいてくれる。
ドライヤーをかけてあげて、薬を飲ませて、布団を敷いて、寝かせる。
穂は、お皿を洗ってくれようとしたけど、お母さんが寝る邪魔にならないようにと、大人しく座っていた。
スゥスゥと寝息を立て始めたのを確認してから、襖を半分だけ閉めた。
「寝た」
「お疲れ様、永那ちゃん」
「全然疲れてないよ!穂が隣にいてくれるだけで、めちゃくちゃ元気になれる!」
「そう?」
「うん!元気100倍!」
「力が出なくなったら、パンをあげるね?」
「パンもいいけど、穂が作ったご飯が食べたい」
「いいよ」
「はぁ~っ」
ごろんと横になって、穂の膝に頭を乗せる。
「幸せ」
彼女が頭を撫でてくれる。
目を閉じると、すぐにでも眠ってしまいそうだ。
“疲れてない”とか言いながら、この様だ。
「永那ちゃん、寝ちゃうの?」
「…寝ないよ」
「寝ちゃうんじゃない?」
「寝ない…!」
寝ないために、起き上がった。
「うし!お皿洗うかー」
「私がやるよ?」
「いいよ」
「永那ちゃんは誕生日なんだから、休んでて?」
「…わかった。ありがとう」
「休まないの?」
お皿を洗う彼女の背中にぴったりくっついていた。
「休んでる」
「すごく洗い難いんだけどな」
「穂は木、私は群がる虫」
「…なに言ってるの?」
「わかんない」
彼女が私を無理矢理引き離すことはなく、ただ目を瞑って、水音に耳を傾けた。
「永那ちゃん」
「ん?」
「パジャマ、貸してね?」
「いいよ。ボロボロだけど」
「下着はちゃんと持ってきてるから」
「一応、替えもあるよ?」
「返してくれるの?」
「“替え”があるって言ってるの」
「いつ返してくれるのかな?」
「あれは私の宝物だもん。交換は受け付けます」
「新品と替えてもらおうかな」
「それは絶対ダメ。ちゃんと脱ぎたてでお願いします。むしろ脱ぎたてと交換して?」
「…お母さん起きてたらどうするの?」
「大丈夫。ちゃんと寝てるの確認したし」
「変態」
「その変態が好きな穂はもっと変態」
「違うもん」
「可愛い穂。大好き」
「私も…永那ちゃん、大好きだよ」
「キスしたい」
「後でね」
「待てない」
「これ終わったら」
「いつ終わる?」
「もうすぐ」
「もうすぐっていつ?」
「もうすぐはもうすぐ」
「いつ?」
フフッと彼女が笑う。
少しでも時間稼ぎをするみたいに。
「穂、そろそろ帰んないと」
笑顔を、作る。
彼女が私を見る。
「駅まで送るよ」
繋いでいた手を離して、立ち上がる。
必死に作った笑顔を長時間見られたくなくて、食器を片付けるフリして穂に背を向けた。
「え~?」
お母さんが眠そうな声で不満を漏らす。
気持ちはわかるけど、私だって必死に我慢してるんだから、駄々をこねないでほしい。
さっきまで感じていた幸せが、急に刺々しいものに変わっていく。
ギリッと奥歯が鳴る。
「永那、何言ってるの~?」
「お母さん、何って…もう遅いんだし、穂は明日生徒会の行事があるから、そろそろ帰んなきゃいけないんだよ」
「そうなの?穂ちゃん」
思わずため息をつく。
「お母さん…!」
「本当、永那ちゃんは何を言っているんでしょうね?」
穂がお母さんに笑いかける。
「今日はお泊まりをする約束なのに」
ドクンと心臓が音を鳴らす。
穂の瞳が弧を描いて、私を見つめた。
「え…?」
「ほら~!永那がおかしいんだよ!やっぱり!」
「明日、生徒会があるのは本当ですよ?」
「あれ?そっか~!」
「でも、朝出れば間に合うので、大丈夫です」
「嘘…」
「私、嘘つかないよ?」
脳の処理が追いつかなくて、壁に手をついて、もたれかかる。
指先で頭を支え、ギュッと目を閉じた。
少しの沈黙。
「本当!?」
勢いよく穂を見る。
「本当」
言われた瞬間、彼女に抱きついていた。
飛びついて、抱きついて、床に押し倒していた。
「本当!?本当!?」
「本当だよ」
穂の眉はハの字になっているけど、その瞳は弧を描き続けたまま、口元には白い歯を見せていた。
「本当?」
「本当」
「永那~、何回言うの?」
お母さんが私達を見て笑う。
「だって…だって…信じられなくて」
「そういえば、家に誰かが泊まるのって、初めてかな?」
お母さんが入院していた期間を除けば、初めてだ。
「そうだね」
「良かったね、永那」
その微笑みは、昔大好きだったお母さんの笑顔だった。
お母さんの心は、まだまだ不安定だ。
だから苦しく思うこともたくさんある。
でも、それでも…こんな風にお母さんの笑顔が見られるなら、まだやっていける気がした。
まだ、私は大丈夫な気がした。
「うん。ありがとう、お母さん」
「いいよ。お母さんも楽しいし。…あ、お父さんがこの前泊まったね!穂ちゃんが初めてじゃなかった」
へへへとお母さんが笑う。
「じいちゃんは…まあ、いいじゃん?お母さんの父親なわけだし」
「そっか!じゃあ、やっぱり、穂ちゃんが初めて!」
「お邪魔します」
「お邪魔じゃないよ!大歓迎だよ~!」
その後、いつものようにお母さんの髪と背中を洗ってあげた。
その間、穂が残ったご飯を別のお皿によそっておいてくれる。
ドライヤーをかけてあげて、薬を飲ませて、布団を敷いて、寝かせる。
穂は、お皿を洗ってくれようとしたけど、お母さんが寝る邪魔にならないようにと、大人しく座っていた。
スゥスゥと寝息を立て始めたのを確認してから、襖を半分だけ閉めた。
「寝た」
「お疲れ様、永那ちゃん」
「全然疲れてないよ!穂が隣にいてくれるだけで、めちゃくちゃ元気になれる!」
「そう?」
「うん!元気100倍!」
「力が出なくなったら、パンをあげるね?」
「パンもいいけど、穂が作ったご飯が食べたい」
「いいよ」
「はぁ~っ」
ごろんと横になって、穂の膝に頭を乗せる。
「幸せ」
彼女が頭を撫でてくれる。
目を閉じると、すぐにでも眠ってしまいそうだ。
“疲れてない”とか言いながら、この様だ。
「永那ちゃん、寝ちゃうの?」
「…寝ないよ」
「寝ちゃうんじゃない?」
「寝ない…!」
寝ないために、起き上がった。
「うし!お皿洗うかー」
「私がやるよ?」
「いいよ」
「永那ちゃんは誕生日なんだから、休んでて?」
「…わかった。ありがとう」
「休まないの?」
お皿を洗う彼女の背中にぴったりくっついていた。
「休んでる」
「すごく洗い難いんだけどな」
「穂は木、私は群がる虫」
「…なに言ってるの?」
「わかんない」
彼女が私を無理矢理引き離すことはなく、ただ目を瞑って、水音に耳を傾けた。
「永那ちゃん」
「ん?」
「パジャマ、貸してね?」
「いいよ。ボロボロだけど」
「下着はちゃんと持ってきてるから」
「一応、替えもあるよ?」
「返してくれるの?」
「“替え”があるって言ってるの」
「いつ返してくれるのかな?」
「あれは私の宝物だもん。交換は受け付けます」
「新品と替えてもらおうかな」
「それは絶対ダメ。ちゃんと脱ぎたてでお願いします。むしろ脱ぎたてと交換して?」
「…お母さん起きてたらどうするの?」
「大丈夫。ちゃんと寝てるの確認したし」
「変態」
「その変態が好きな穂はもっと変態」
「違うもん」
「可愛い穂。大好き」
「私も…永那ちゃん、大好きだよ」
「キスしたい」
「後でね」
「待てない」
「これ終わったら」
「いつ終わる?」
「もうすぐ」
「もうすぐっていつ?」
「もうすぐはもうすぐ」
「いつ?」
フフッと彼女が笑う。
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