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9.移ろい
507.パーティ
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2人で歯磨きをしてから、永那ちゃんがドライヤーをかけてくれた。
お母さんが起きちゃわないか心配だったけど、お母さんの部屋の襖をゆっくり開けた永那ちゃんが「大丈夫」と確認してくれたので、ホッとする。
2人で部屋に入る。
永那ちゃんが部屋の襖を閉めるので、少し緊張した。
置いておいた鞄をそばに寄せる。
包装紙に包まれたプレゼントを取り出して、彼女に渡す。
「なに?」
「プレゼント」
「さっきのピアスは…?」
「迷ったの、どっちにしようかな?って。すごく迷って、悩んで、結局どっちも買っちゃった」
へへへと笑うと、彼女が左眉を上げて、嬉しさを噛みしめるように、キュッと結んだ口元に弧を描く。
丁寧にテープを剥がして、包装紙を開ける。
ワッフル生地で出来ている、長袖のスウェット。
色は青色だけど、グレーが混ざったような青色。
いつも穿いている黒のパンツにも合うだろうし、私がプレゼントしたカーキのカーゴパンツにも合うかと思って、この色にした。
ピアスは王冠のスタッドピアスにした。
永那ちゃんは…怪獣だから…なんとなく…強いイメージの王冠が似合う気がした。
「嬉しい」
永那ちゃんが立ち上がって、スウェットを上半身に当てた。
「どう?」
「似合ってる」
「次のデートの時、着ていくね」
「うん!」
「そろそろ、もう1つ衣装ケース買わなきゃいけないかな」
「…ごめんね?物、増やしちゃって」
「ううん!めちゃくちゃ嬉しいよ!ホントに!…本当に」
丁寧に服を畳んで、胸元で抱きしめる。
「自分じゃ、欲しくても、あんまり服買わないから。じいちゃんが生活費くれるようになって、お姉ちゃんもくれてて、少しはお金に余裕が出来たけどさ?…やっぱ、なんか、申し訳なくて…自分の物は買いにくいんだ」
「そっか」
「だから、プレゼント、すごく嬉しい」
「良かった」
「それに…こんなにいっぱいサプライズがあるなんて、ホントにビックリだよ!」
「サプライズ、だからね」
「だね。…教室のいたずらも、嬉しかった。懐かしくて」
「今回は、ちゃんといたずらしたよ?」
「うん。すごい良かった」
衣装ケースの上に、畳んだ服を乗せる。
「穂、おいで」
座ったまま両手を広げられて、徐に彼女の胸に顔を寄せ、抱きしめる。
しっかりと抱きしめ返してくれる。
私が低い位置で彼女を抱きしめたから、彼女が覆いかぶさるような形になった。
…でも、それが、なんだか心地良い。
「ありがとう、穂。大好きだよ。こんなに幸せな誕生日は初めて」
鼓動が聞こえる。
「良かった。私も、永那ちゃん大好き。…あのね?」
「ん?」
「千陽も優里ちゃんも、森山さんも、クラスのみんなも、すごく協力してくれたんだよ」
「うん」
「私だけじゃなくて…。私だけじゃ、絶対に出来なかった」
「そっか。じゃあ、みんなに感謝しないと」
「うん」
「穂」
呼ばれて、顔を上げる。
彼女の指が顎に触れて、唇が触れ合った。
「好き」
「私も」
ぬくもりが、何度もやってくる。
雨が降るような激しさではなく、春の木漏れ日みたいな、優しくてあたたかいぬくもりを浴びる。
薄明かりの中で、彼女の柔らかな笑みが浮かぶ。
「好き」
「好き」
彼女の首に腕を回す。
正座する彼女の膝に乗ると、上下が逆転した。
上目遣いになった彼女の瞳に、豆電球の光が映る。
今度は私から、口づける。
見つめ合い、もう一度。
「穂、可愛い」
言われて、もう一度。
髪を耳にかけると、彼女の口角が上がる。
今度は私から、彼女へ、たくさんの愛を。
「穂」
「ん?」
「明日、何時?」
「え?」
「明日、何時に起きる?」
「んー…8時くらいかな?どうして?」
「いっぱいシたい」
胸がキュッと締め付けられる。
その言葉が、なんだか、切実な願いに聞こえて…。
「でも、8時じゃ…そんなに出来ないよね」
彼女の長い睫毛が下がる。
同時に、目が合わなくなった。
「一緒に住んでた時、私、朝からされたんだけどな?学校なのに」
「あの時は…」
「なんで今日は遠慮してるの?」
叱られた子供みたいに、彼女は目線を横に遣る。
彼女の両頬を手で包んで、強引にこちらを向かせる。
突き出された唇に、そっと自分のを重ねた。
「穂が、いっぱいプレゼントくれたから…だから…」
彼女の言葉を待つ。
「だから…ちょっと…我慢しなきゃいけないかなって」
「じゃあ、我慢してください」
「え!?」
「なに?」
「な、なんでも…ない…」
真に受けている彼女が可笑しくて、つい笑う。
…でも、さすがに私も“朝まで”なんて言われたら無理だ。
ここで“大丈夫だよ。たくさんシていいよ”なんて言おうものなら、どうなるかわからない。
だから、このまま。
訂正はしない。
ただ、口づけをする。
“早くシよ”って誘うみたいに。
舌を出すと、彼女が絡めてくれる。
腰を撫でていた手はゆっくりと上がっていき、私の胸に触れる。
私があげたプレゼントを大事そうに胸で抱えた時と同じように、彼女は私を大切にしてくれる。
優しく触れる彼女の手から伝わる体温が、心地良い。
服越しなのに、やたらとあたたかい。
お母さんが起きちゃわないか心配だったけど、お母さんの部屋の襖をゆっくり開けた永那ちゃんが「大丈夫」と確認してくれたので、ホッとする。
2人で部屋に入る。
永那ちゃんが部屋の襖を閉めるので、少し緊張した。
置いておいた鞄をそばに寄せる。
包装紙に包まれたプレゼントを取り出して、彼女に渡す。
「なに?」
「プレゼント」
「さっきのピアスは…?」
「迷ったの、どっちにしようかな?って。すごく迷って、悩んで、結局どっちも買っちゃった」
へへへと笑うと、彼女が左眉を上げて、嬉しさを噛みしめるように、キュッと結んだ口元に弧を描く。
丁寧にテープを剥がして、包装紙を開ける。
ワッフル生地で出来ている、長袖のスウェット。
色は青色だけど、グレーが混ざったような青色。
いつも穿いている黒のパンツにも合うだろうし、私がプレゼントしたカーキのカーゴパンツにも合うかと思って、この色にした。
ピアスは王冠のスタッドピアスにした。
永那ちゃんは…怪獣だから…なんとなく…強いイメージの王冠が似合う気がした。
「嬉しい」
永那ちゃんが立ち上がって、スウェットを上半身に当てた。
「どう?」
「似合ってる」
「次のデートの時、着ていくね」
「うん!」
「そろそろ、もう1つ衣装ケース買わなきゃいけないかな」
「…ごめんね?物、増やしちゃって」
「ううん!めちゃくちゃ嬉しいよ!ホントに!…本当に」
丁寧に服を畳んで、胸元で抱きしめる。
「自分じゃ、欲しくても、あんまり服買わないから。じいちゃんが生活費くれるようになって、お姉ちゃんもくれてて、少しはお金に余裕が出来たけどさ?…やっぱ、なんか、申し訳なくて…自分の物は買いにくいんだ」
「そっか」
「だから、プレゼント、すごく嬉しい」
「良かった」
「それに…こんなにいっぱいサプライズがあるなんて、ホントにビックリだよ!」
「サプライズ、だからね」
「だね。…教室のいたずらも、嬉しかった。懐かしくて」
「今回は、ちゃんといたずらしたよ?」
「うん。すごい良かった」
衣装ケースの上に、畳んだ服を乗せる。
「穂、おいで」
座ったまま両手を広げられて、徐に彼女の胸に顔を寄せ、抱きしめる。
しっかりと抱きしめ返してくれる。
私が低い位置で彼女を抱きしめたから、彼女が覆いかぶさるような形になった。
…でも、それが、なんだか心地良い。
「ありがとう、穂。大好きだよ。こんなに幸せな誕生日は初めて」
鼓動が聞こえる。
「良かった。私も、永那ちゃん大好き。…あのね?」
「ん?」
「千陽も優里ちゃんも、森山さんも、クラスのみんなも、すごく協力してくれたんだよ」
「うん」
「私だけじゃなくて…。私だけじゃ、絶対に出来なかった」
「そっか。じゃあ、みんなに感謝しないと」
「うん」
「穂」
呼ばれて、顔を上げる。
彼女の指が顎に触れて、唇が触れ合った。
「好き」
「私も」
ぬくもりが、何度もやってくる。
雨が降るような激しさではなく、春の木漏れ日みたいな、優しくてあたたかいぬくもりを浴びる。
薄明かりの中で、彼女の柔らかな笑みが浮かぶ。
「好き」
「好き」
彼女の首に腕を回す。
正座する彼女の膝に乗ると、上下が逆転した。
上目遣いになった彼女の瞳に、豆電球の光が映る。
今度は私から、口づける。
見つめ合い、もう一度。
「穂、可愛い」
言われて、もう一度。
髪を耳にかけると、彼女の口角が上がる。
今度は私から、彼女へ、たくさんの愛を。
「穂」
「ん?」
「明日、何時?」
「え?」
「明日、何時に起きる?」
「んー…8時くらいかな?どうして?」
「いっぱいシたい」
胸がキュッと締め付けられる。
その言葉が、なんだか、切実な願いに聞こえて…。
「でも、8時じゃ…そんなに出来ないよね」
彼女の長い睫毛が下がる。
同時に、目が合わなくなった。
「一緒に住んでた時、私、朝からされたんだけどな?学校なのに」
「あの時は…」
「なんで今日は遠慮してるの?」
叱られた子供みたいに、彼女は目線を横に遣る。
彼女の両頬を手で包んで、強引にこちらを向かせる。
突き出された唇に、そっと自分のを重ねた。
「穂が、いっぱいプレゼントくれたから…だから…」
彼女の言葉を待つ。
「だから…ちょっと…我慢しなきゃいけないかなって」
「じゃあ、我慢してください」
「え!?」
「なに?」
「な、なんでも…ない…」
真に受けている彼女が可笑しくて、つい笑う。
…でも、さすがに私も“朝まで”なんて言われたら無理だ。
ここで“大丈夫だよ。たくさんシていいよ”なんて言おうものなら、どうなるかわからない。
だから、このまま。
訂正はしない。
ただ、口づけをする。
“早くシよ”って誘うみたいに。
舌を出すと、彼女が絡めてくれる。
腰を撫でていた手はゆっくりと上がっていき、私の胸に触れる。
私があげたプレゼントを大事そうに胸で抱えた時と同じように、彼女は私を大切にしてくれる。
優しく触れる彼女の手から伝わる体温が、心地良い。
服越しなのに、やたらとあたたかい。
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