いたずらはため息と共に

常森 楽

文字の大きさ
574 / 595
9.移ろい

507.パーティ

しおりを挟む
2人で歯磨きをしてから、永那ちゃんがドライヤーをかけてくれた。
お母さんが起きちゃわないか心配だったけど、お母さんの部屋の襖をゆっくり開けた永那ちゃんが「大丈夫」と確認してくれたので、ホッとする。
2人で部屋に入る。
永那ちゃんが部屋の襖を閉めるので、少し緊張した。
置いておいた鞄をそばに寄せる。
包装紙に包まれたプレゼントを取り出して、彼女に渡す。
「なに?」
「プレゼント」
「さっきのピアスは…?」
「迷ったの、どっちにしようかな?って。すごく迷って、悩んで、結局どっちも買っちゃった」
へへへと笑うと、彼女が左眉を上げて、嬉しさを噛みしめるように、キュッと結んだ口元に弧を描く。
丁寧にテープを剥がして、包装紙を開ける。
ワッフル生地で出来ている、長袖のスウェット。
色は青色だけど、グレーが混ざったような青色。
いつも穿いている黒のパンツにも合うだろうし、私がプレゼントしたカーキのカーゴパンツにも合うかと思って、この色にした。
ピアスは王冠のスタッドピアスにした。
永那ちゃんは…怪獣だから…なんとなく…強いイメージの王冠が似合う気がした。

「嬉しい」
永那ちゃんが立ち上がって、スウェットを上半身に当てた。
「どう?」
「似合ってる」
「次のデートの時、着ていくね」
「うん!」
「そろそろ、もう1つ衣装ケース買わなきゃいけないかな」
「…ごめんね?物、増やしちゃって」
「ううん!めちゃくちゃ嬉しいよ!ホントに!…本当に」
丁寧に服を畳んで、胸元で抱きしめる。
「自分じゃ、欲しくても、あんまり服買わないから。じいちゃんが生活費くれるようになって、お姉ちゃんもくれてて、少しはお金に余裕が出来たけどさ?…やっぱ、なんか、申し訳なくて…自分の物は買いにくいんだ」
「そっか」
「だから、プレゼント、すごく嬉しい」
「良かった」
「それに…こんなにいっぱいサプライズがあるなんて、ホントにビックリだよ!」
「サプライズ、だからね」
「だね。…教室のいたずらも、嬉しかった。懐かしくて」
「今回は、ちゃんといたずらしたよ?」
「うん。すごい良かった」
衣装ケースの上に、畳んだ服を乗せる。

「穂、おいで」
座ったまま両手を広げられて、徐に彼女の胸に顔を寄せ、抱きしめる。
しっかりと抱きしめ返してくれる。
私が低い位置で彼女を抱きしめたから、彼女が覆いかぶさるような形になった。
…でも、それが、なんだか心地良い。
「ありがとう、穂。大好きだよ。こんなに幸せな誕生日は初めて」
鼓動が聞こえる。
「良かった。私も、永那ちゃん大好き。…あのね?」
「ん?」
「千陽も優里ちゃんも、森山さんも、クラスのみんなも、すごく協力してくれたんだよ」
「うん」
「私だけじゃなくて…。私だけじゃ、絶対に出来なかった」
「そっか。じゃあ、みんなに感謝しないと」
「うん」

「穂」
呼ばれて、顔を上げる。
彼女の指が顎に触れて、唇が触れ合った。
「好き」
「私も」
ぬくもりが、何度もやってくる。
雨が降るような激しさではなく、春の木漏れ日みたいな、優しくてあたたかいぬくもりを浴びる。
薄明かりの中で、彼女の柔らかな笑みが浮かぶ。
「好き」
「好き」
彼女の首に腕を回す。
正座する彼女の膝に乗ると、上下が逆転した。
上目遣いになった彼女の瞳に、豆電球の光が映る。
今度は私から、口づける。
見つめ合い、もう一度。
「穂、可愛い」
言われて、もう一度。
髪を耳にかけると、彼女の口角が上がる。
今度は私から、彼女へ、たくさんの愛を。

「穂」
「ん?」
「明日、何時?」
「え?」
「明日、何時に起きる?」
「んー…8時くらいかな?どうして?」
「いっぱいシたい」
胸がキュッと締め付けられる。
その言葉が、なんだか、切実な願いに聞こえて…。
「でも、8時じゃ…そんなに出来ないよね」
彼女の長い睫毛が下がる。
同時に、目が合わなくなった。
「一緒に住んでた時、私、朝からんだけどな?学校なのに」
「あの時は…」
「なんで今日は遠慮してるの?」
叱られた子供みたいに、彼女は目線を横に遣る。
彼女の両頬を手で包んで、強引にこちらを向かせる。
突き出された唇に、そっと自分のを重ねた。

「穂が、いっぱいプレゼントくれたから…だから…」
彼女の言葉を待つ。
「だから…ちょっと…我慢しなきゃいけないかなって」
「じゃあ、我慢してください」
「え!?」
「なに?」
「な、なんでも…ない…」
真に受けている彼女が可笑しくて、つい笑う。
…でも、さすがに私も“朝まで”なんて言われたら無理だ。
ここで“大丈夫だよ。たくさんシていいよ”なんて言おうものなら、どうなるかわからない。
だから、このまま。
訂正はしない。
ただ、口づけをする。
“早くシよ”って誘うみたいに。
舌を出すと、彼女が絡めてくれる。
腰を撫でていた手はゆっくりと上がっていき、私の胸に触れる。
私があげたプレゼントを大事そうに胸で抱えた時と同じように、彼女は私を大切にしてくれる。
優しく触れる彼女の手から伝わる体温が、心地良い。
服越しなのに、やたらとあたたかい。
しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合短編集

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

乳首当てゲーム

はこスミレ
恋愛
会社の同僚に、思わず口に出た「乳首当てゲームしたい」という独り言を聞かれた話。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...