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9.移ろい
517.大人
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結婚…。
私も、永那ちゃんとしたいと思ってる。
そういう意味では、早すぎるってことはないのかもしれない。
実際、法律では出来るのだから…。
でも…なんなんだろう…この違和感は。
「一目惚れで、そんなに思えるものですか?」
「ん?んー…。きっかけは一目惚れだったよ?でもさ、頑張って接待してる姿とか見てたら、守ってあげたいって思ってさ」
「じゃあ、どうして千陽が怖がるようなことをしているんですか?」
そもそも、接待している姿を見て守りたいと思ったのなら、接待をさせないようにすればいいのに。
さっき“接待しなきゃ”と千陽に言ったのは、なぜ?
「え…?」
少しの沈黙が流れる。
「えっと…」
久米さんは引きつったような笑みを浮かべて、ポリポリと頭を掻いた。
「僕は…守ろうって…」
「千陽から“セクハラ”って言われてたんですよね?」
「それは、千陽ちゃんのことが知りたくて」
「無理に聞くことは、良いことですか?」
「あ…それは…」
「穂」
呼ばれて、振り向く。
「永那ちゃん」
「何してんの?…千陽は?」
「どこか、行っちゃった…」
「ふーん?」
永那ちゃんの目がスーッと細くなった。
すぐに優しい笑みに変わる。
「穂、ケーキ食べた?」
「え…!?ケーキ?」
「うん、美味しかったよ。桃さんが…あ、千陽のママね。桃さんが、すんごい良いところのやつ、わざわざ予約して買ったんだって」
「食べてない…」
「じゃあ、食べよ?…他にも、高級なお菓子たくさんだよ?」
「高級…?」
「そう!めちゃくちゃ高いんだってさ。なかなか食べられないよ~?」
言い方が可笑しくて、口元が緩む。
…あ。永那ちゃんと話しただけで、気づいたら、笑ってる。
「じゃあ、食べる」
「うん、行こ。苺のケーキもあるんだよ?」
手を差し出されるから、繋ぐ。
「苺?」
「穂、好きでしょ?」
頷く。
やっぱり、永那ちゃんと一緒にいると、楽しい。
「あ…!久米さん」
一歩踏み出して、止まる。
「千陽は、大丈夫なので」
「え…?大丈夫って…」
「あなたに守られなくても、千陽は、大丈夫なので」
「いや、でも…」
「千陽は、そんなに弱くありません。…お金の大切さは、私にもわかります。お金が守ってくれることがたくさんあるのも、知っているつもりです。でも、やっぱり、大事なのは、それだけじゃない」
「それは僕だってわかってる。お金で釣ろうって思ったわけじゃない!」
「でも…私には、そう見えました。大事なのは…もっと大事にすべきなのは、肉まんみたいな、遊び心だと思います」
「え…?」
「肉まん、すごく良かったです」
「肉まんってなに?」
永那ちゃんが顔を覗き込んでくる。
「久米さんのネクタイ、肉まんの柄なの」
久米さんがネクタイの端を手に持つ。
「ん!ホントだ!…なに、このさり気ない肉まん!」
永那ちゃんが遠慮なく、久米さんのネクタイを掴んで眺める。
「わざわざ特注したんだよ」
「特注!?ヤバいですね…。どんだけ肉まん好きなんですか…?特注でさり気なくネクタイに入れるって…相当なオタクですか…?オススメの肉まん、聞いてもいいですか?」
真顔で聞くから、可笑しくて声を出して笑ってしまう。
久米さんは苦笑する。
「永那ちゃん、行こ?」
「…そだね。じゃ」
ペコリと会釈して、2人で室内に入る。
「千陽のとこ、行くか」
永那ちゃんが囁くから、頷く。
苺のケーキや、たくさんのお菓子をお皿に山盛りに乗せて、2階に向かう。
「桃さん」
「永那~、どしたの?」
「千陽の部屋、行ってきます」
「え~、早く戻ってきてよ?」
「はいっ」
永那ちゃんの服の裾を掴みながら、居心地の悪さに耐えた。
「穂、大丈夫だった?なんか、傷つけられたりしてない?」
「大丈夫だよ」
「ん、良かった。…最後、穂、かっこよかったね」
「そう?」
「うん。めちゃくちゃかっこよかった」
褒められて、心がふわふわと宙に浮き始める。
千陽の部屋の前について、永那ちゃんがノックする。
「千陽~、いる~?」
「…いない」
「いないってさ。帰るか」
永那ちゃんが階段に向かおうとするので、焦る。
「え、永那ちゃん!?」
ガチャッとドアが開く。
涙で顔を濡らした千陽が出てきた。
「千陽…」
千陽を抱きしめる。
“うぅっ”と必死に声を押し殺して、彼女が泣く。
「中、入ろ」
永那ちゃんに言われ、千陽を抱きしめながら移動した。
3人で床に座る。
「はい。とりあえず、食べろ?」
泣く千陽の口元に、ケーキが運ばれる。
千陽が小さく口を開けて、一口食べた。
「おいしいでしょ?」
彼女が頷く。
「穂も、あーん」
私にも運ばれてきたので、食べる。
「ん、美味しい!」
「でしょー?」
「あたしも“あーん”がいい…」
「…今日だけだからね?」
千陽は涙を零しながらも、パッと表情が明るくなった。
「はい、あーん」
永那ちゃんから運ばれるケーキを、美味しそうに頬張る。
「もっと」
「え、私の分なくなるじゃん」
「もっと」
「もー、しょーがないなー」
私も、永那ちゃんとしたいと思ってる。
そういう意味では、早すぎるってことはないのかもしれない。
実際、法律では出来るのだから…。
でも…なんなんだろう…この違和感は。
「一目惚れで、そんなに思えるものですか?」
「ん?んー…。きっかけは一目惚れだったよ?でもさ、頑張って接待してる姿とか見てたら、守ってあげたいって思ってさ」
「じゃあ、どうして千陽が怖がるようなことをしているんですか?」
そもそも、接待している姿を見て守りたいと思ったのなら、接待をさせないようにすればいいのに。
さっき“接待しなきゃ”と千陽に言ったのは、なぜ?
「え…?」
少しの沈黙が流れる。
「えっと…」
久米さんは引きつったような笑みを浮かべて、ポリポリと頭を掻いた。
「僕は…守ろうって…」
「千陽から“セクハラ”って言われてたんですよね?」
「それは、千陽ちゃんのことが知りたくて」
「無理に聞くことは、良いことですか?」
「あ…それは…」
「穂」
呼ばれて、振り向く。
「永那ちゃん」
「何してんの?…千陽は?」
「どこか、行っちゃった…」
「ふーん?」
永那ちゃんの目がスーッと細くなった。
すぐに優しい笑みに変わる。
「穂、ケーキ食べた?」
「え…!?ケーキ?」
「うん、美味しかったよ。桃さんが…あ、千陽のママね。桃さんが、すんごい良いところのやつ、わざわざ予約して買ったんだって」
「食べてない…」
「じゃあ、食べよ?…他にも、高級なお菓子たくさんだよ?」
「高級…?」
「そう!めちゃくちゃ高いんだってさ。なかなか食べられないよ~?」
言い方が可笑しくて、口元が緩む。
…あ。永那ちゃんと話しただけで、気づいたら、笑ってる。
「じゃあ、食べる」
「うん、行こ。苺のケーキもあるんだよ?」
手を差し出されるから、繋ぐ。
「苺?」
「穂、好きでしょ?」
頷く。
やっぱり、永那ちゃんと一緒にいると、楽しい。
「あ…!久米さん」
一歩踏み出して、止まる。
「千陽は、大丈夫なので」
「え…?大丈夫って…」
「あなたに守られなくても、千陽は、大丈夫なので」
「いや、でも…」
「千陽は、そんなに弱くありません。…お金の大切さは、私にもわかります。お金が守ってくれることがたくさんあるのも、知っているつもりです。でも、やっぱり、大事なのは、それだけじゃない」
「それは僕だってわかってる。お金で釣ろうって思ったわけじゃない!」
「でも…私には、そう見えました。大事なのは…もっと大事にすべきなのは、肉まんみたいな、遊び心だと思います」
「え…?」
「肉まん、すごく良かったです」
「肉まんってなに?」
永那ちゃんが顔を覗き込んでくる。
「久米さんのネクタイ、肉まんの柄なの」
久米さんがネクタイの端を手に持つ。
「ん!ホントだ!…なに、このさり気ない肉まん!」
永那ちゃんが遠慮なく、久米さんのネクタイを掴んで眺める。
「わざわざ特注したんだよ」
「特注!?ヤバいですね…。どんだけ肉まん好きなんですか…?特注でさり気なくネクタイに入れるって…相当なオタクですか…?オススメの肉まん、聞いてもいいですか?」
真顔で聞くから、可笑しくて声を出して笑ってしまう。
久米さんは苦笑する。
「永那ちゃん、行こ?」
「…そだね。じゃ」
ペコリと会釈して、2人で室内に入る。
「千陽のとこ、行くか」
永那ちゃんが囁くから、頷く。
苺のケーキや、たくさんのお菓子をお皿に山盛りに乗せて、2階に向かう。
「桃さん」
「永那~、どしたの?」
「千陽の部屋、行ってきます」
「え~、早く戻ってきてよ?」
「はいっ」
永那ちゃんの服の裾を掴みながら、居心地の悪さに耐えた。
「穂、大丈夫だった?なんか、傷つけられたりしてない?」
「大丈夫だよ」
「ん、良かった。…最後、穂、かっこよかったね」
「そう?」
「うん。めちゃくちゃかっこよかった」
褒められて、心がふわふわと宙に浮き始める。
千陽の部屋の前について、永那ちゃんがノックする。
「千陽~、いる~?」
「…いない」
「いないってさ。帰るか」
永那ちゃんが階段に向かおうとするので、焦る。
「え、永那ちゃん!?」
ガチャッとドアが開く。
涙で顔を濡らした千陽が出てきた。
「千陽…」
千陽を抱きしめる。
“うぅっ”と必死に声を押し殺して、彼女が泣く。
「中、入ろ」
永那ちゃんに言われ、千陽を抱きしめながら移動した。
3人で床に座る。
「はい。とりあえず、食べろ?」
泣く千陽の口元に、ケーキが運ばれる。
千陽が小さく口を開けて、一口食べた。
「おいしいでしょ?」
彼女が頷く。
「穂も、あーん」
私にも運ばれてきたので、食べる。
「ん、美味しい!」
「でしょー?」
「あたしも“あーん”がいい…」
「…今日だけだからね?」
千陽は涙を零しながらも、パッと表情が明るくなった。
「はい、あーん」
永那ちゃんから運ばれるケーキを、美味しそうに頬張る。
「もっと」
「え、私の分なくなるじゃん」
「もっと」
「もー、しょーがないなー」
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