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第一章・悪役令嬢。9

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「遅れて申し訳ございません、レイヴァン様。ご挨拶を申し上げます」
「いや、ゆっくりお茶を飲みたかったから構わない。寝ていたらしいな? 夕食を食べていないのなら今食べろ」
「は、はい。心遣いありがとうございます。レイヴァン様はお食事の方は?」
「もう、食べてきた。レイナが夕食は一緒に食べたいと駄々をこねるから仕方がなく、それに付き合ってきた」
 めんどくさそうにため息を吐くレイヴァン様を見て、私はやっぱりと思った。
 彼女を愛しく思うのなら、そんな言い方はしないだろう。アカデミーでは、仲睦ましく見せてはいるが、本心ではないようだ。それを聞いて少しホッとする。
 席に座ると私は、夕食のディナーを食べる。その間、レイヴァン様は二杯目のお茶をおかわりしていた。食べながらチラッとレイヴァン様を見る。
 レイナ様に対して好意がないと知り、ホッとする反面不安もあった。まだ、レイナ様に対して好意があるのなら諦めがついたかもしれない。
 婚約破棄は、両方の意見が一致しないと出来ない決まり。勝手にする事も出来るが、そうなると政治や慰謝料などが大きく関わってくる。特に皇族ともなるとなおさらだ。
 しかしサファード公爵家は権力を高く、特殊な能力を持つ一族のため、繋がりを切られるのは皇族に取ってはまずい。
 だが、裏を返せばそれだけ強くも出られるという訳だ。私がそれをお父様に伝えれば、すぐにでも婚約破棄を申し出てくれただろう。そもそも最初の内は、婚約するのも反対していたぐらいだから。なのに、レイナ様とはそれ以上の感情はない様子。
「どうした? 食欲がないのか?」
「あ、すみません。起きたばかりか、あまりなくて」
「少しでも食べろ。お前はそうではなくても瘦せていて体力がないのに」
 レイヴァン様は、そう言いながらチキンを取り分けてくれた。
「ありがとうございます」
 私がお父様に報告が出来ないのは、こういうところにもあった。レイヴァン様は、ただ冷たい訳ではない。
 アカデミーや人前では、冷たい態度や私を冷遇するが皇宮の中では私の事を気にかけてくれる。暴力も一切振るってこないし、体調の心配もしてくれる。
 それがどういう目的でやっているのか私には理解出来ないが、突き放せない理由だった。彼の事を好きだからなおさら……。
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