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博愛主義!ヤンデレンジャー!!

石竹桃という少女(2)

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 十九時五十分、パフェを食べ終えた先輩は「夕飯食べられなくなっちゃうな」と笑っている。
 大体こんな時間からパフェを食べに行く計画自体が少し無理やりな気がする、もしかしてイエローと何かあったのかな。無理やり泣きついて先輩を連れて行こうとしたとか?あのガキはちょっとわがままな所があるからあり得ない話じゃない。だとしたらいい子ぶって譲らないほうが良かったかな。でも結果的にあの雌ガキの好感度を下げることが出来ただろうから大丈夫かな。

 先輩の事をなんにも知らないで気遣いもできない雌ガキより、先輩の食べ物の子のみから好きな女性のタイプまで全部知り尽くしてその通りに合わせてくれる子の方が好きになるに決まってるもんね。昨日帰ってからすぐに桃は先輩のSNSを、先輩が覚えていないくらい昔のものまで全部遡って先輩の事調べてあげたんだよ。これだけ先輩に尽くしてくれる女の子何て他にいないよ。桃が可愛いのは間違いないけど、先輩のことを知れば知るほど先輩は桃の事が好きになる、そうしたら確実に桃に告白してくれる。
「待っててね、先輩」
 今から楽しみだなぁ。先輩が桃の彼氏になった時、桃は世界一可愛くて強いヒーローになれるんだ。
「あ、先輩がお店から出る・・・ついていかなくちゃ」
 見失わない、けど向こうに見つからないような程よい距離を保ちつつ此方も後を追う。すると、ポケットに入ったスマホがなった。
「うわ、出動命令だ」
 ここから車で二十分ほどのビルで火災が発生したので現場に直行しろっていう博士からの連絡、先輩のことを見守るっていう大事な仕事があるけど仕方ないか。


 駅のトイレに入り、スクールバックからヒーロースーツを取り出す。桃専用のピンク色のスーツはミニスカートにニーハイソックスのようなシルエットで他のヒーローよりも可愛くできている。
「いくら可愛くても顔が見えないからあんまし意味ないんだけどね」
 正体がバレないように薄灰色の液晶で目元が覆われたマスク、これのせいでフィランスピンクが美少女だという事実は世間には浸透していない。ネット上ではたびたびヒーローの人気投票なんてものが行われているけど、ヒーロー歴が長くて最強なフィランスレッドはともかく、グリーンに負けるのは不満で仕方がない。フィランスグリーン・・・鶯さんはヒーロー歴三年とそれなりにベテランのくせに能力は桃と大差ないのに無駄にデカい胸のせいで人気がある。スーツさえ着ていなければ冴えない地味女なのに、桃の方がずっとずっと可愛いのに、素顔を知らない世の中の馬鹿共はそんなこともわからない。

「変身完了っと」
 いつものように窓から脱出して、そのままさっきまでいたファミレスの屋根の上に飛び乗る。えっと、火災現場はあっちの方だね。車で二十分といっても桃の脚なら一分もかからず到着できる。寧ろ着替え時間のロスの方が大きいくらい。これだけ何でもありの技術力を持っているんだから一瞬でヒーローに変身できる発明品とか作ってくれないのかな、今度聞いてみよ。

「あれ?空先輩だ」
 屋根から見下ろすと見失ったと思っていた空先輩が紫雲堂から出てきたところだった。そっか、イエローを基地まで送り届けていたんだ。これはチャンスかも。

「せーんぱい!」
「?」
「上ですよ、上!」
 すかさず紫雲堂の屋根に移動して声をかける。
「フィランスピンク!?」
「えー、桃って呼んでくださいよぉ」
「いやいや、その恰好の時に本名は呼べないって・・・」
「言われてみればそうかも?まぁいいや、これから出動なんですけどお仕事見学しませんか?」

 昨日会った時に先輩はヒーローに憧れを持っているようなことを言っていた、桃が活躍する姿を見せるのは好感度アップにつながるし、できれば先輩の指導係として密接な関係を気付いておきたい。

「え、いや、でも・・・」
「時間がもったいないから、連れて行っちゃいますね?」
 眼を瞑り、桃は自分の姿を強く強く思い描く。鏡をじっと見てメイクをする桃、セーラー服姿の桃、水着を試着する桃、なるべく鮮明に、可愛く。
「・・・いい感じかな」
 強くイメージした桃自身の姿で頭がいっぱいに満たされると同時に、胸に描かれたハートの模様が微かに光る。自分の指先までエネルギーが充満したのを確認して、先輩の手を取る。
「さぁ、桃についてきてください」
 戸惑う先輩の手をしっかりと握ると桃達の周囲に薄桃色の空間が発生する。そのまま高く飛び上がり目的の方角へ跳んでいく。
「えっ、な、なにこれ」
 戸惑う先輩は桃の手をしっかりと握りってる、可愛いな。
「桃は機動力が高いヒーローなんです、こうすると手をつないでいる人も一緒に飛んでいくことが出来るんですよ」
「す、すごいね・・・」
 つまり手を離すと高速移動の空中から真っ逆さま、それに気づいた先輩は恥ずかしさも忘れて桃の腕に捕まってくれる。どうせならキスしないと駄目っていう設定にすればよかったかな、なんて。
「もっとくっついててもいいんですよ?先輩」

 あっという間に目的地に到着。空先輩は途中から眼を瞑って私の腕にしがみついてた。
「・・・」
「せんぱーい?」
「あっ!ご、ごめん」
 足元に地面があることに気付いて慌てて手を放す。もうちょっとからかいたいけど、ちゃんとお仕事しなきゃね。
「じゃ、桃は善良な市民のみなさまを助けに行きますので、そこで見ててくださいね?」
 パチンっとウインクを決めて再び空に向かって勢いよく跳び上がる。
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