俺と私の公爵令嬢生活

桜木弥生

文字の大きさ
3 / 61

2話 俺と私の自己紹介を始めましょう

しおりを挟む
 三人を見送ったユーリンが部屋に戻り、「大丈夫ですか!?」「大丈夫よ」という会話を、メイド長に「いい加減お嬢様をお休みさせなさい!」とユーリンが叱られるまで繰り返され、やっと開放された。

 時刻は…多分夜23時とか?体感的にそのくらいの時間だと思う。

 この世界には細かい時刻がないので、日が昇ったら朝。
 日が沈んだら夜となっている。
 なので、実際の細かい時間というのはないので、体感的に…としか言えない。

 日が昇ったら起きてご飯を食べ仕事に行く。
 日が沈みかけたら、家に戻るという暮らしだ。


 さて。やっと一人になれたし、ちょっと整理をしよう。
 整理ついでにメモでも取っとくか…と思ったけど、そんなメモ、万が一誰かに見られたらおしまいな気がするのでやめておくことにする。


 とりあえず前世の事から整理を。

『俺』の名前は桐谷悠馬。
 17歳の高校三年生だった。
 自称中肉中背。姉から言わせたら「ガリガリのもやし野郎」と言われていたが、断固中肉中背だと言わせて頂く。

 17歳の夏。
 17歳の誕生日を3日程過ぎた日曜日。

 1歳上の姉が車の免許を取得して中古の車を買った。

 まだ免許取りたてで慣れていない姉に、「誕生日プレゼントの代わりに海に連れてけ!」と強請った。

 姉も買ったばかりの車を走らせたいからと了承して、二人で海に行く為に高速に乗って、次のインターチェンジで降りてすぐ海だねーなんて言って、無事これたねーなんて笑ってた。

 あとちょっと。
 あとちょっとでインターチェンジの降り口という所で、対向車線を走っていたトラックがガードレールを突き破って来た。

 そこで『桐谷悠馬』の人生は終了した。

 そしてこの世界に生まれたようだ。

 悪役令嬢『アンリエッタ・グレイス』として。


『私』の名前はアンリエッタ・グレイス。
 3日前に17歳になったばかり。
 グレイス公爵家の第二子にして長女。

 自慢の青銀髪はたてロールにきつめに巻かれて腰まであり、動くと軽やかに揺れる。
 瞳は父譲りの少し吊り上った眼に、色は母譲りの鮮やかなエメラルド色。
 唇は何も塗らなくても艶やかな桜色。
 肌は白く肌理細やかで細身な肢体。
 容姿端麗なだけでなく、頭もそこそこに良く、運動も…まぁ、普通程度にはできる。

 そして、第一王子の第一王妃予定。

『予定』というのは、まだ婚約をしていないから。

 この国では、王族は5人まで正妃として迎えられる。
 生まれたのが姫だった場合も5人まで夫を選べ、その内の一人が王になる。

 貴族は3人までだが、それはその貴族の懐具合によって変わる。
 そして双方の重婚は禁止されている。

 例えば、貴族A男が貴族B子・貴族C子・平民D子を嫁に貰った場合、貴族B子が他に旦那を作る事はできない。
 でも貴族A男の嫁が貴族B子だけだった場合、貴族B子は他に2人まで夫に迎えることができる。
 大体は爵位の高い方が多夫もしくは多妻になる。

 うちはお父様もお母様もラブラブで、伴侶はお互いのみと決めたらしく、幸い子供も2人生まれている為、父も母も一人づつだ。

 そしてアランという兄が一人いるが、これまた優秀。

 頭脳明晰、運動神経抜群、眉目秀麗という、この国の王子達を抜かしたら、『お婿さん』にしたい男ダントツNo1!
 そして性格も良いから男女問わずにモテる。
 しかも若くして王宮を守る、王宮騎士団の副団長というある意味チートなお兄様だ。

 ただ如何せん、妹激ラブで過保護。
 ちょっとした妹の我侭なら笑顔で叶えてくれるのは、明らかに甘やかしすぎだと思う。


 どうせならこっちに生まれ変わりたかったと思うのは、俺の我侭でしょうか…


 そして前世での記憶の中の『ゲームのアンリエッタ』について。
 姉がハマっていたゲーム『愛と友情の円舞曲』のライバルにして親友。
 街にお忍びで出ている際に人攫いに合い、主人公のサラ・リーバスに助けられる。
 そしてサラに「親友になってちょうだい」と言って親友になる。

 でも良く考えたら、立場上男爵より上の公爵令嬢に「親友になってちょうだい」なんて、明らかに断れない。
 つか「親友になりなさい」と命令しているも同然なんだよな…


 んで、ゲーム内のアンリエッタは第一王子の第一婚約者で、第一王子を愛している。

 その為、第一王子ルートだと第一王子に見初められたサラを途中から憎み、嫌がらせをして最終的に王子の怒りを買い、公爵家取り潰し。
 元凶のアンリエッタだけは死刑ということで、国民の前でのギロチン処刑。

 うん。乙女ゲームってコワイネ。


 さて、ここでちょっと気になることが出てきた。

 現在の『私』であるアンリエッタの記憶ではそこまで我侭娘ではなかった。
 そして公爵令嬢という立場から、王子に第二・第三の后が選ばれる事も容認できるはず。
 いくら自分の家が一夫一婦制であっても、法律は変えられないというのも理解できている。

 なのに何故『ゲームの中のアンリエッタ』は、醜い嫉妬に駆られて嫌がらせをしたのか。


 …はい。考えるまでもないですね…
 偏に『王子への愛』と『独占欲』だろう。

 ってことはだ、これ、結構簡単じゃね!?
 俺としては、男との結婚なんて絶対に嫌だし、王子とサラをくっつけてしまえば万事OKじゃね!?

 しかも、『私』としてだけだったら確かに王子を愛して暴走というのはあったかもしれないけど、今は『俺』も中にいる状態だからそれは絶対に無いと断言できる!
 よし!今後の方針は、『王子とサラをくっつけよう!』作戦で行こう!そうしよう!!


 さて。ついでに今の状況も整理すると、現在『アンリエッタ・グレイス』の身体中に『桐谷悠馬』と、『アンリエッタ・グレイス』の二人の人格がある。
 ただ、優先順位としては、『俺』の人格が9割に対して、『私』の人格は1割。

『私』の人格はゲーム内のアンリエッタの末路を知ってしまった事が思いの他ショックが大きかったらしく消えかけている。
 けれども『私』の意地なのかまだ若干残っている。

 むしろずっと残ってくれないと俺が困るんだけど。

 マナーや立ち振る舞い等の記憶や行動は、『私』が9割、『俺』が1割。

 流石に17年前の男としての立ち振る舞いよりも、新しい17年間のお嬢様の振る舞いの方が勝ったらしい。
 なので、この先の生活は特に支障はないだろう。

 あれだ。これってあれだ。
『身体はアンリエッタ・心は桐谷悠馬』ってやつだ。
 前世で見た漫画とかアニメっぽいやつだ。

 まぁとりあえず現状整理はできたし、メイドさん達が整えてくれたふっかふかのベッドに横にでもなって、明日に備えますかね…ちょっと色々ありすぎて、疲れたよ…

 とりあえず明日からの対策は、明日にしよう…
 ってことで、分厚いくせに軽い掛け布団を身体に掛けて、おやすみなさい…
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。

星名柚花
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。 引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。 見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。 つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。 ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。 しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。 その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…? 果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!? ※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【長編版】悪役令嬢は乙女ゲームの強制力から逃れたい

椰子ふみの
恋愛
 ヴィオラは『聖女は愛に囚われる』という乙女ゲームの世界に転生した。よりによって悪役令嬢だ。断罪を避けるため、色々、頑張ってきたけど、とうとうゲームの舞台、ハーモニー学園に入学することになった。  ヒロインや攻略対象者には近づかないぞ!  そう思うヴィオラだったが、ヒロインは見当たらない。攻略対象者との距離はどんどん近くなる。  ゲームの強制力?  何だか、変な方向に進んでいる気がするんだけど。

彼女が高級娼婦と呼ばれる理由~元悪役令嬢の戦慄の日々~

プラネットプラント
恋愛
婚約者である王子の恋人をいじめたと婚約破棄され、実家から縁を切られたライラは娼館で暮らすことになる。だが、訪れる人々のせいでライラは怯えていた。 ※完結済。

【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!

ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。 ※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。

モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します

みゅー
恋愛
乙女ゲームに、転生してしまった瑛子は自分の前世を思い出し、前世で培った処世術をフル活用しながら過ごしているうちに何故か、全く興味のない攻略対象に好かれてしまい、全力で逃げようとするが…… 余談ですが、小説家になろうの方で題名が既に国語力無さすぎて読むきにもなれない、教師相手だと淫行と言う意見あり。 皆さんも、作者の国語力のなさや教師と生徒カップル無理な人はプラウザバック宜しくです。 作者に国語力ないのは周知の事実ですので、指摘なくても大丈夫です✨ あと『追われてしまった』と言う言葉がおかしいとの指摘も既にいただいております。 やらかしちゃったと言うニュアンスで使用していますので、ご了承下さいませ。 この説明書いていて、海外の商品は訴えられるから、説明書が長くなるって話を思いだしました。

自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~

浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。 本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。 ※2024.8.5 番外編を2話追加しました!

【完結】ど近眼悪役令嬢に転生しました。言っておきますが、眼鏡は顔の一部ですから!

As-me.com
恋愛
 完結しました。 説明しよう。私ことアリアーティア・ローランスは超絶ど近眼の悪役令嬢である……。  気が付いたらファンタジー系ライトノベル≪君の瞳に恋したボク≫の悪役令嬢に転生していたアリアーティア。  原作悪役令嬢には、超絶ど近眼なのにそれを隠して奮闘していたがあらゆることが裏目に出てしまい最後はお約束のように酷い断罪をされる結末が待っていた。  えぇぇぇっ?!それって私の未来なの?!  腹黒最低王子の婚約者になるのも、訳ありヒロインをいじめた罪で死刑になるのも、絶体に嫌だ!  私の視力と明るい未来を守るため、瓶底眼鏡を離さないんだから!  眼鏡は顔の一部です! ※この話は短編≪ど近眼悪役令嬢に転生したので意地でも眼鏡を離さない!≫の連載版です。 基本のストーリーはそのままですが、後半が他サイトに掲載しているのとは少し違うバージョンになりますのでタイトルも変えてあります。 途中まで恋愛タグは迷子です。

処理中です...