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春
第1話 これがイルゼルム
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「と、いう訳なんです」
全て話終えて顔をあげると、町長カールは何とも言えないような顔をしてお茶をすすっていた。
「つまり、正式な学園を卒業した神父ではないと……? 」
「そういうことになりますね、実質退学ですし」
あ、明らかに残念そう。少し離れて様子を見ていた村長の孫娘もため息を吐いている。
それも仕方ないだろう、俺は厄介払いのためにここに飛ばされた名ばかりの神父なのだから。
その証拠に俺はレシピオ家の家系図からは名前を消されている。あ、そう言えば思い出したけど、ミリーナのやつ、別れの挨拶にも来なかったな。一応元婚約者だというのに冷たいやつだ。
「そんなことだろうとは思ってたよ、こんな町に神父様が来るなんておかしいと……」
「で、でも神父業務以外のことなら何でもやります! 害虫駆除、迷子猫の捜索、魔物退治何でも! 」
せっかく縁があったのだ、俺だって出来ることはやりたいと思っている。
……しかし神父業務はまだこなせたことがない。
「そうか、まぁよろしく頼むよ。君たちが住む教会を案内しよう」
そして近くにいたカールは孫娘にヒソヒソと耳打ちをする。
その言葉は耳が良い俺にはしっかり聞こえていた。
「シャロン、頼んだ。私は少し眠る……」
よろよろと体を引きずるようにして寝室に引きこもる村長。そこまでガッカリされるとは思っていなかったので罪悪感に駆られる俺。
「私がご案内します。こちらです」
シャロンと呼ばれた少女が渋々といった風に俺たちの案内を始めるのであった。
黒髪ロングに前髪をピンで留めている。清楚な美少女といった容姿をしていたが、その眉間には皺が刻まれていて、どうやら気苦労に絶えない様子であった。
そして彼女は俺をあまり良く思っていないことは明らかであった。
◇◇◇
「ほー、随分寂れた町じゃのう」
教会へと向かう途中、物珍し気に辺りを見渡すフレイア。
そんなフレイアをじろりと睨みつけるシャロン。
「昔は活気があったんですよ。でも今は魔物と魔王のせいでこんな有様に」
そういえばこの辺りに魔王の住む城があると聞いたことがある。
魔王城が近いということは魔物の被害も大きいのは想像に難くない。
「ふーん? でも……」
あまりピンと来ていない様子のフレイアを黙らせる為に俺は口を挟む。
これ以上余計なことを言われてシャロンを不機嫌にさせたくはない。
「で、で、で、でも建物の手入れはいき届いているし綺麗な街並みですね! 」
「当たり前です、いつ皆が帰ってくるか分からないもので」
開店している様子はないが、宿屋、道具屋といった施設やたくさんの民家が並んでいる。
しかしどこかもの寂しい空気が漂っている。
そう言えばここに来るまで誰ともすれ違っていないな。と俺は気が付いた。
まだ空はオレンジ色に染まっていて、人が寝静まる時間ではない。
しかしこの町に来てから、村長カールとその孫娘シャロンにしか出会っていないのだ。
そしてぽつりとシャロンが呟いた。
「神父様が来て教会が復活すればね、この町の復興の第一歩になると思ったんです」
「復興? 」
思わず聞き返す俺。
「ええ、大昔のイルゼルムは活気のある町だったんです。施設が復活して、人が戻って、活気を取り戻して……そんなバカみたいな夢です」
来た神父が俺で本当にすいません。と心の中で謝る俺。
「俺も手伝いますから、復興していきましょうよ」
「どうやって? 」
ふん、と鼻で笑うシャロン。そして更に言葉を続ける。
「この町には魔物から私たちを守ってくれる騎士はいない。私たちはいつ来るかもわからない魔物の襲撃に怯えて、ひっそり暮らしていかなきゃいけないの! 」
顔を真っ赤にして叫ぶシャロン。どうやら俺は彼女の地雷を踏み抜いてしまったようだ。
「お、落ち着いて」
「貴方は平和な王国でぬくぬく暮らして来たから簡単にそんなことが言えるのよ!! 」
何とかなだめようとするが彼女の怒りは収まることがない。
言いたいことを言い終えたのかシャロンは落ち着きを取り戻すと、最後に呟くようにこう言った。
「私たちは、シェルターでひっそり暮らすしかないんだわ。……ごめんなさい、カッとなってしまいました」
そしてくるりと背を向け、すたすたと足早に前に進んでいった。
慌てて彼女の後を追おうとしたのだが、それを何者かが制する。
「なぁ、アレス」
それはちょいちょいと俺の服を引っ張るフレイア。
「何だフレイア? 早く彼女の後を追わないと」
「あの女の魂、貰ってもいいかのう」
平然と物騒なことを口にするフレイア。良い訳ないだろ! と叫ぶ俺。
「……ちっ」
不満そうに舌打ちをするフレイアが、何かしでかさないか俺は心配で仕方がなかった。
だってこの女は普通ではないのだから……。
「頼むから、大人しくしてくれよ。俺はこの町の人たちと仲良くやっていきたいんだから」
「はーい」
本当に分かってくれているのだろうかこの女は……。
不安ではあるが今は信じるしかない。
そのとき、シャロンのものと思われる悲鳴が前方から聞こえてきたのだった。
全て話終えて顔をあげると、町長カールは何とも言えないような顔をしてお茶をすすっていた。
「つまり、正式な学園を卒業した神父ではないと……? 」
「そういうことになりますね、実質退学ですし」
あ、明らかに残念そう。少し離れて様子を見ていた村長の孫娘もため息を吐いている。
それも仕方ないだろう、俺は厄介払いのためにここに飛ばされた名ばかりの神父なのだから。
その証拠に俺はレシピオ家の家系図からは名前を消されている。あ、そう言えば思い出したけど、ミリーナのやつ、別れの挨拶にも来なかったな。一応元婚約者だというのに冷たいやつだ。
「そんなことだろうとは思ってたよ、こんな町に神父様が来るなんておかしいと……」
「で、でも神父業務以外のことなら何でもやります! 害虫駆除、迷子猫の捜索、魔物退治何でも! 」
せっかく縁があったのだ、俺だって出来ることはやりたいと思っている。
……しかし神父業務はまだこなせたことがない。
「そうか、まぁよろしく頼むよ。君たちが住む教会を案内しよう」
そして近くにいたカールは孫娘にヒソヒソと耳打ちをする。
その言葉は耳が良い俺にはしっかり聞こえていた。
「シャロン、頼んだ。私は少し眠る……」
よろよろと体を引きずるようにして寝室に引きこもる村長。そこまでガッカリされるとは思っていなかったので罪悪感に駆られる俺。
「私がご案内します。こちらです」
シャロンと呼ばれた少女が渋々といった風に俺たちの案内を始めるのであった。
黒髪ロングに前髪をピンで留めている。清楚な美少女といった容姿をしていたが、その眉間には皺が刻まれていて、どうやら気苦労に絶えない様子であった。
そして彼女は俺をあまり良く思っていないことは明らかであった。
◇◇◇
「ほー、随分寂れた町じゃのう」
教会へと向かう途中、物珍し気に辺りを見渡すフレイア。
そんなフレイアをじろりと睨みつけるシャロン。
「昔は活気があったんですよ。でも今は魔物と魔王のせいでこんな有様に」
そういえばこの辺りに魔王の住む城があると聞いたことがある。
魔王城が近いということは魔物の被害も大きいのは想像に難くない。
「ふーん? でも……」
あまりピンと来ていない様子のフレイアを黙らせる為に俺は口を挟む。
これ以上余計なことを言われてシャロンを不機嫌にさせたくはない。
「で、で、で、でも建物の手入れはいき届いているし綺麗な街並みですね! 」
「当たり前です、いつ皆が帰ってくるか分からないもので」
開店している様子はないが、宿屋、道具屋といった施設やたくさんの民家が並んでいる。
しかしどこかもの寂しい空気が漂っている。
そう言えばここに来るまで誰ともすれ違っていないな。と俺は気が付いた。
まだ空はオレンジ色に染まっていて、人が寝静まる時間ではない。
しかしこの町に来てから、村長カールとその孫娘シャロンにしか出会っていないのだ。
そしてぽつりとシャロンが呟いた。
「神父様が来て教会が復活すればね、この町の復興の第一歩になると思ったんです」
「復興? 」
思わず聞き返す俺。
「ええ、大昔のイルゼルムは活気のある町だったんです。施設が復活して、人が戻って、活気を取り戻して……そんなバカみたいな夢です」
来た神父が俺で本当にすいません。と心の中で謝る俺。
「俺も手伝いますから、復興していきましょうよ」
「どうやって? 」
ふん、と鼻で笑うシャロン。そして更に言葉を続ける。
「この町には魔物から私たちを守ってくれる騎士はいない。私たちはいつ来るかもわからない魔物の襲撃に怯えて、ひっそり暮らしていかなきゃいけないの! 」
顔を真っ赤にして叫ぶシャロン。どうやら俺は彼女の地雷を踏み抜いてしまったようだ。
「お、落ち着いて」
「貴方は平和な王国でぬくぬく暮らして来たから簡単にそんなことが言えるのよ!! 」
何とかなだめようとするが彼女の怒りは収まることがない。
言いたいことを言い終えたのかシャロンは落ち着きを取り戻すと、最後に呟くようにこう言った。
「私たちは、シェルターでひっそり暮らすしかないんだわ。……ごめんなさい、カッとなってしまいました」
そしてくるりと背を向け、すたすたと足早に前に進んでいった。
慌てて彼女の後を追おうとしたのだが、それを何者かが制する。
「なぁ、アレス」
それはちょいちょいと俺の服を引っ張るフレイア。
「何だフレイア? 早く彼女の後を追わないと」
「あの女の魂、貰ってもいいかのう」
平然と物騒なことを口にするフレイア。良い訳ないだろ! と叫ぶ俺。
「……ちっ」
不満そうに舌打ちをするフレイアが、何かしでかさないか俺は心配で仕方がなかった。
だってこの女は普通ではないのだから……。
「頼むから、大人しくしてくれよ。俺はこの町の人たちと仲良くやっていきたいんだから」
「はーい」
本当に分かってくれているのだろうかこの女は……。
不安ではあるが今は信じるしかない。
そのとき、シャロンのものと思われる悲鳴が前方から聞こえてきたのだった。
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