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夏
第22話 海開きだ!
しおりを挟む「ただいまー」
今日から壁と町の入り口の補強のために城下町から雇った大工が来る。彼らはしばらくシャロンの経営する宿に泊まることになるので賑わいそうだ。
予定としては秋までかかるらしい。
そしておおまかな話し合いを終えた俺は帰宅したのだが……。
「のう、アレス、どっちの水着のが良いと思う?」
「は……? 」
そこにいたのはやたらと扇情的な水着を纏ったフレイアだった。
そういえばこの前こそこそと何かを買っていたような……。
「だから、水着はどっちが良いかのう? 」
「……」
理解が追い付かない。えっと……どういうことだ?
「だーかーら! 今日から海開きじゃろ? どの水着が良いか選んどるんじゃ」
あ、そういうことか……。
ちょっと歩くと海水浴場があるこの町は、一応夏の間は海で泳ぐことが出来るらしい。
と、言ってもまだ梅雨の時期なので海に入るには寒すぎるとは思うが。
現に今日も小雨がしとしとと降っていて傘が手放せなかった。
「まだ寒いだろ……気が早いぞ」
「こういうのは早ければ早ければ良いんじゃ! 」
「どういうことだよ……」
で、アレスはどっちが好み? と俺にすり寄るフレイア。
黒いビキニとフリルのついた女の子らしい水着、その他もろもろ……良くもまあこんなにも買い込んだものだ。
目の前に彼女の豊満な白い胸が揺れ、思わず俺は目線を反らす。
「……全部着れば良いだろ、日替わりで」
「そういえばそうじゃな! 天才じゃ! 」
ぽんと手を打つフレイア。そしていじわるっぽくにやりと笑みを浮かべる。
「わしの胸見てたじゃろ? 」
「見てない!! 断じて見てない!! 」
可愛いのうと言うと、後ろから俺に抱きつくフレイア。
「……アレスなら触ったって構わんよ」
耳元で囁かれる。いつもとは違う艶っぽい声。
「……何が望みだ? 」
努めて冷静に対応する。少しでも動揺してみろ、彼女の思う壺だ。
「今から一緒に海に行くならいつもの服装に戻ってやっても良いぞ」
ああなるほど、初めからそのつもりで……。
断る方法が見つからない俺は、渋々フレイアに連れられる形で海へと向かった。
◇◇◇
海岸まではそう遠くない。
初めて行ってみたが、想像以上に綺麗な場所だった。
青く澄んだ海に白い砂浜、空がどんよりと灰色なのは残念だが晴れている日に来ればさぞ美しいだろう。
「海じゃ! 凄いのう! 」
「絶対寒いぞ……別に今日じゃなくても良いだろ」
「甘い! わしは一番乗りで海に入りたいのじゃ。今日入らなければ出遅れてしまうかもしれん」
子どもか……と内心思ったが、フレイアはそれに、と小さく呟く。
「人がたくさんいると誰かに触れてしまうかもしれんし……」
俺は何も答えずにただ彼女の髪をくしゃくしゃ撫でた。フレイアなりの気遣いと配慮なのだろう。
「わわ!! 何をする! 」
「……分かったよ。今日一日付き合うよ」
ほんとか!? と満面の笑みを浮かべるフレイア。
「俺は嘘はつかない」
「やったー!! じゃあまず海に入って」
「え、待て、俺も入るのか!? 」
俺は水着じゃないし疲れてるんだけど!?
「付き合うって言ったじゃろ」
じとっと俺を睨むフレイア。
「入るとは言ってないぞ! 」
ええい、とフレイアは俺の襟を掴んだ。嫌な予感……。
「ごちゃごちゃ言ってないで入ってみい!! 」
そして予想通り俺は海に放り投げられたのである。バッシャーンと大きな水飛沫を立てて着水する俺。白い泡がしゅわしゅわと立つ。
「どうじゃ? ……怒った?」
良かった。浅瀬だったので足はつくようだ。
下着が濡れて気持ち悪いし、まだ水は冷たい。
でも、俺は何だかおかしくなってクスクスと笑い出した。たまにはこうして童心に帰るのも悪くないだろう。
そして俺はおろおろしてるフレイアに水をかける。
「……お返しだ」
こうして俺たちは子どものように、日が沈むまで海で遊んでいたのだった。
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