悲劇の清純ヒロインやめて神様のしもべになりました。

寿司

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第2話 魔物を倒してみよう

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 村を出たあたしたちは村人たちから熱烈なエールを受けた。

「しっかりやりなよ、ルーナ」

 あたしの、というよりルーナのお母さんが涙目であたしの手を取る。

「うん、頑張るよー」

「……何だか軽いわね。本当に大丈夫? 貴女は聖女としてアレイス様から力を授かったのよ」

 アレイス様……? アレイス様ってなんだっけ?

 何とか記憶を引っ張りだそうと翔との会話を思い出す。

 アレイス様は確か黒幕である闇の神 レイズの対になる存在で、味方。でも彼を復活させるためにルーナは自分の命を犠牲にする。

 じゃあアレイス様って私にとっては悪いやつじゃん……。こいつを復活させずにレイズを倒せれば良いってことだよね? 

「おっけいおっけい。任せてよ」

「本当に大丈夫かしらこの子は……それにギルくんとお近づきになるチャンスよしっかりやりなさい」

「ギル? 」

「勇者様の花嫁になれるなんて幸せじゃない」

 お母さんはうっとりとした表情であたしを見る。ギルの方をちらりと見ると、彼はまんざらでもなさそうな顔でこちらをチラチラ見ていた。

「ま、まあ貰ってやらないこともないけど」

「えー、でもあたしギルはあんまりタイプじゃないな」

 その途端に空気がぴしりと凍るのが分かった。
 確かにギルは不細工ではないけどガキっぽいというか、どっちかというと女の子みたいな顔してる。
 あたしはもっとクールで切れ長の目をしたイケメンが好きなのだ!

「な、何を言うのルーナ」
 
 お母さんの声が震えているのが分かった。
 やたらと慌てている。

「へ? 何か変なこと言った? 」

「まあまあ良いじゃないか旅立ち前に水をさすのは。さあギルもルーナも戦い方は覚えているね? 」

 空気を変えようとしたのか村長らしい人が声をあげた。

「……ああ。俺が剣で魔物たちを倒し、ルーナが俺の傷を癒すんだろ? 」

 若干テンションが落ちているギルが答える。

「そうだ。聖女のルーナはしっかりギルをサポートしてやるんだぞ」

「サポートかぁ……」

 何だかつまんないな。せっかくならあたしも敵をバタバタと倒してみたいんだけどなぁ。

「お、丁度良いところにスライムがいるじゃないか。ほら、二人の力で倒してみなさい」

 見ると緑色でドロドロとした液体状の何かがうごめいていた。

「うえ?! 気持ち悪い! 」

 思わず後ずさりをするあたしとは対照的に、ギルが果敢にも切りかかった。

 ぷるんとした体に刃が突き刺さる。すると何とも言えない甲高い悲鳴がその液体から発せられた。

「くっ、一撃じゃ死なないな。ルーナ防御魔法を頼む! 」

「ぼ、ぼーぎょまほー?! 」

 何それ何それ?!
 聞いてないんだけど?!

 まず魔法ってどう使うの?
 パニックになったあたしは反射的に手に持っている大きな杖をスライムに叩きつけた。

 べちゃりという嫌な感触が手に伝わった後、青白い光がスライムの体を包み込んだ。そしてその光が消えたかと思うと、スライムがいた場所には何枚かの金貨が落ちていた。

「え、何これ」

 あたしはその金貨を拾い上げる。キラキラと光るそれは紛れもなくお金だ。

「まさかルーナに先を越されるとは……魔物を倒すとそうやってお金が貰える。運が良いとアイテムを落とすこともあるぞ」

「お金?! 魔物を倒すだけでお金が貰えるの?! 」

 思わずあたしは村長さんに詰め寄る。

「ああそうだ。強い魔物を倒せば倒すほどたくさんお金が貰えるんだぞ」

「何それ? 接客バイトより割りが良いじゃん。魔物を倒すだけでお金が手に入るなんて……」

 これ凄くない? じゃあウザイお客に接客することもなくたくさんお金が手に入るってこと? 

 ファンタジー世界って凄いな……俄然冒険のやる気が出てきたぞ。

「おいルーナ、俺は防御魔法を使えって言っただろ」

「そんなこと言われたって……魔法ってどう使うの? 」

「……冗談だろ? 」

 ギルが目を見開いてあたしを見る。そんな顔されても知らないものは知らない。
 彼は呆れたようにため息をつくと、やれやれとでも言いたげにこう言い出した。

「目を閉じて念じてみろ、すると今の自分が使える魔法が分かるだろ? 」

「目を閉じて……念じる……」

 言われた通りに目を閉じる。んで、念じてみる。
 するとぼんやりと頭に聞きなれない単語が浮かび上がってくるのが分かった。

回復魔法ヒール
防御魔法プロテクト
解毒魔法ケア
光の矢シャイニングアロー
解呪魔法フレア

 小難しい単語ばかりだ……。

「ふーん、この単語を言えば魔法になるわけね。ファンタジー世界って凄っ」

「ファンタジー世界……? どういう意味だ? 」

「ま、あんまり気にしないで。早速使ってみるわよ! 光の矢シャイニングアロー! 」

 すると天空から光の矢が降ってきた。しかしその矢はコントロールを失い、ギルすれすれのところに落ちると、しゅわしゅわと消えてしまった。矢の落ちた場所にはわずかに地面がえぐれた跡が残っており、そこそこの威力を物語っていた。

「おー、面白いねこれ」

 「お、お、お、お、お、おい!!! 何てことするんだ! 」

「へ?! 」

「聖女の魔法は人に向かって使っちゃいけないんだぞ! 」

 顔を真っ赤にして怒り狂うギル。

「え、そうなの? 」

 別にギルを狙ったわけではないんだけど……コントロールが難しいのだ。

「聖女の魔法で人の命を奪ってはいけないんだ。これはこの世の禁忌に触れるんだ! 」

「そ、そうなんだ。気を付ける気を付ける」

 てへぺろっと舌を出して誤魔化す私。
 ま、さっきのでおおよそコントロールの仕方は掴んだし、次からは大丈夫だろう。

「じゃあいってみますかー!」

 心配そうな村人やギルは置いといて、私は金稼ぎ……ではなく冒険へと出発したのだった。

 
 
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