勇者ご一行に復讐を誓った姫は、魔王の嫁になります!

寿司

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第三話 結婚は大変

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「ま、魔王よ! 迎え撃ちなさい!」
 何とか正気を取り戻したミリア様が、無数の火の玉をアルベルト様に浴びせます。しかし彼はそんなこと気にしもしてない様子で、私を魔法から守ってくれています。

「まったく、せっかくのプロポーズなのに邪魔が入ってしまった」
「え、あの……!?」

 アルベルト様が私の耳元で小さく、掴まってと囁きました。私は促されるままに彼のローブを掴みますか。

「飛ぶよ!!」
「え? え、ええええええええ」
 アルベルト様が私を抱き抱えたかと思うと、強く地面を蹴り、天空へと飛び立ちました。私はただ、情けない声をあげるばかりでした。

 逃がすな! 殺せ! と叫ぶミリア様とセーラ様の歪んだ顔が視界の端で見えた気がします。

◇◇◇

 アルベルト様に連れてこられたのは障気の森と私たちは呼んでいる呪われた地でした。障気と呼ばれる毒ガスがあちこちから噴き出していて、生物は生きていけないと小さい頃から教えられてきました。

 しばらく私はアルベルト様に抱えられたまま空を飛んでいましたが、遥か下にある黒い建物目掛けてゆっくり降下していきました。

 「さぁ着いたぞ。あれが我らの城だ」

 私は思わずほぅと溜め息を漏らしてしまいました。黒を基調としていていながらも恐ろしいいかにも魔王の根城! という印象はなく、上品で堂々とした立派なお城でした。

 すとんと城の目の前に着地すると、優しく私を下ろしてくださいました。

「今日からここがお前の住む場所だ。しばらくしたら式を挙げるからそれまでゆっく……」

「ま、ま、ま、待ってください!」
 何事もなかったかのように話を進めるアルベルト様の言葉を遮り、私は声を荒げる。

「何だ?」

「何もかも唐突すぎて頭がおかしくなりそうです。アルベルト様はどうして私を!?」

 アルベルト様は何かを考え込むように小さく唸りました。

「そうだな……その辺りの話をしたい。立ち話もなんだし、中へ」

 ◇◇◇

 応接間のようなところに通され、ふかふかのソファに促されました。目の前に香りの良いハーブティーが置かれ、優しい香りが部屋に広がります。

「我自慢のハーブティーだ。飲んでみてくれ」
「頂きます」
 ほっとするような暖かさが胸一杯に広がります。
「まず、我がお前を嫁にした理由だが……率直に言うと一目惚れだ」
 私は思わず口に含んだハーブティーを噴き出してしまいました。しかし、そんなことをお構いなしにアルベルト様は話を続けます。

「初めて君の姿を見たとき全身に電流が走ったようだった。こんなに可憐で美しい存在がこの世にいるのかと思ったほどだ……。直接話しかけてみたかったが、人間から魔王と呼ばれている以上、それは叶わなかったが」
「はぁ……」
 歯の浮くような誉め言葉に私は何だか恥ずかしくなってしまいました。

「だから鳥や子猫に姿を変えて密かにお前と関わったことがある。思った通りお前は笑顔が素敵で清らかで優しくて、朗らかで……」
「もう良いです! 十分分かりました!! アルベルト様はえっとその、私を、気に入ってくれたということですね……?」
「そうだ。だがお前はあのロディアという男と結婚すると聞いた。我は魔王でお前は姫、元々叶わない恋だと諦めていたが年甲斐もなく嫉妬したものだ」
 年甲斐もなく……ってこの方おいくつなのでしょう?
「しかしだな」
 そこでアルベルト様は言葉に怒りをにじませます。
「何の間違いかお前が処刑されると聞いた。我はいてもたってもいられなくなり、思わず飛び出してしまったということだ」
「それで……あの不思議な声は」
「もちろん我だ。あのままお前が死を望んだらどうしようかとひやひやしたぞ」
 なるほど、とりあえず私が魔王様の妻にされた理由は分かりました。自分で言うのも恥ずかしいですけど、一目惚れということのようです。

「それで、お前からの質問はあるか?」

「そうです、私はロディア様から魔王を討伐したとお聞きしました。それなのにアルベルト様は今生きています。これは一体どういうことなのでしょうか?」
「その質問に答えるのは簡単だな。そのロディアという男が嘘をついているということだ」
「嘘? でも私は確かに魔王の首を見ました!」
「魔王の首か……それなら彼から話を聞いた方が早いだろう。おい、入ってこい」

 静かに音を立てて扉か開きました。そこにいたのは筋肉質で大柄な男性。しかしその体の首から上はありませんでした。私は思わず小さく悲鳴を漏らしてしまいました。

「この者は喋れないから我が代わりに紹介しよう。彼こそそのお前が見たという首の持ち主、勇者一向として魔王討伐に乗り出したはずの戦士――カイウスだ」

 
「イブマリー?」
「は、はい!」

 唐突に名前を呼ばれて変な声が出てしまいました。処刑寸前の罪人から一転して、花嫁として私は漆黒のドレスを見に纏い、魔王と婚約しようとしているのです。

「どうした? 儀式の途中だぞ」

「す、すいません。魔王様との結婚式での礼儀作法は分からなくて」

 するとアルベルト様はふわりと口元に笑みを浮かべる。

「なぁに、人間のやる儀式よりずっと簡単だ。この魔結晶の指輪をお互いの指にはめ合う。ただそれだけで一組の夫婦がここに」
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