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第四話 明かされた真実
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首なし男は懐から手帳を取り出すと、さらさらと文字を書き出し、私の前に差し出しました。
『お久しぶりです姫様。ご無事で何よりです』
達筆なその字は彼の人柄をよく表しています。
「カイウス様!? 本当にカイウス様なのですか?」
『はい。こんな姿でお恥ずかしいですが』
「どうしてこんなお姿に……?」
カイウス様は躊躇うようにペンの動きを止めたあと、弾けたように書き出しました。
そこに書き出されたことはとんでもない真実でありました。
『俺はロディアに殺され、その首を切り取られました。その首をミリアの魔法で魔王の物であるかのように偽装したのです』
私はもう言葉も発することが出来ませんでした。
「肉体は死んでいたが魂は死んでいなかった。なので我が同胞として転生させ、今ここにいるという訳だ。首から上がないのはおそらくその影響だろう」
「でもロディア様たちはなぜそんな酷いことを……?」
カイウス様はそれには答えなかった。それを認めたアルベルト様が口を開く。
「そうだな、それを知るためになぜ勇者というものが存在するのかを知る必要がある。お前はその理由を聞いたことがあるか?」
「えっと……魔王討伐を成し遂げて、世界に平和をもたらす為では?」
アルベルト様は首を横に振る。
「そうではない。そもそも我は人間からは魔王などと呼ばれているが、我らは自分等のことを『夜を統べる者』と呼んでいる」
「『夜を統べる者』?」
聞き慣れない会話に私は首を傾げます。
「そうだ。人間、我らの言葉で言うと『太陽を好む者』よりも魔法の扱いが上手く、力が強くて、協調性や人の気持ちを慮る能力に欠ける。ただそれだけの種族だ」
「では魔王が世界征服を目論むというのは真っ赤な嘘……?」
「はは、世界征服なんて仰々しいこと考えたこともない。むしろ我は昔から人間の王に外交を結ぶための便りを送っている……返事が返ってきたことはないがな」
魔王だと思っていた人が魔王でない。お父様はこんな話、一度もしてくれませんでした。
「では勇者とは……?」
「実は魔王討伐という目的があるということは間違ってない。ただそれよりも、魔結晶の入手というのが大きな目的だ」
「魔結晶って……アクセサリーによく使われているあの」
「そうだその魔結晶だ。昔は魔結晶というのは世界中どこででも発掘出来る、特に珍しくもない鉱石の一種だった。しかし人間らはそれを取りつくしてしまった」
「なぜ?」
「簡単に言うと人間が魔法を使うため。その為に必要不可欠なアイテムなのだ」
「では、勇者とは『夜を統べる者』たちの領地に入り、魔結晶を手に入れる人のこと。ということですか……?」
「そういうことになるな。少しぐらいなら我も目をつぶっていたのだがここ最近は目に余るものがある。ここでカイウスの話に戻るが、我は警告のために彼らの前に姿を現した。すると、話も聞かずに襲いかかってきたよ」
「それで……」
「軽く迎え撃つと、あっさりと降伏した。冷静になった彼らは、魔結晶を分けて欲しいということを頼んできた。それを了承した我は、当分ここに来る必要がなくなるぐらいの量を彼らに渡したのだ」
『その通りです』
カイウス様が肯定する。
『大量の魔結晶を手にし、王国に帰る途中、ミリアとセーラは恐ろしい計画を俺たちに提示しました』
『それはその魔結晶を独り占めし、勇者と姫の結婚式を妨害し、王国を乗っ取る計画でした』
『その計画に大反対した俺を二人は煩わしく思ったのでしょう、魔王との戦で疲れきっていたところを二人に唆されたロディアに襲われた俺は、抵抗することもなく殺されました』
『そしてその首を魔王のものと偽装することで、王や国民から莫大な信頼を得ることを思い付いたのでしょう』
最後の方の文字は震えていた。
「そんな……ではカイウス様は、仲間に殺されてしまった……」
『ロディアは優しいが気の弱い普通の男だった。本来は勇者になれる器などない。それを分かっていながらも俺は彼を止められなかった。彼もまた二人の女を止められなかったのです』
あまりにも残酷な真実に私は言葉を発することが出来ませんでした。今まで信じていたことが、根本から覆されてしまったようです。
「これが我が『魔王』と呼ばれながらもここにいる答えだ」
「私は……何にも知りませんでした。勇者が何をしているのか、お父様が何を考えていたのか、そして魔王とは何なのか」
ミリア様が私のことを役立たずと言った意味が分かったような気がします。
「私はこの世界の綺麗な部分しか見てこなかった。私は恥ずかしいのです、何も知ろうとしなかった自分が」
溢れだす涙を止めることが出来ませんでした。しかしそんな私をアルベルト様は優しく抱き締めてくれました。
「知らなかったことを恥じる必要はない。このことを知って、その後にお前がどうするかが重要なのだ」
ぽんぽんと子どもをあやすように頭を撫でてくれます。
「それに我は嬉しいぞ、魔王が言った話など、作り話だと受け入れて貰えないと不安だった。それでもお前は我を信じてくれた」
確かに魔王の話など、信じられなくても無理はないでしょう。しかし彼の余りにも澄んだ瞳を覗き込んで、私はこれが真実なのだと確信していました。
「我には人間の感情というものは理解が難しいが、恋を諦めるのも始めるのも時間がかかるものなのだろう? 今すぐ我を愛せとは言わない。時間をかけてゆっくりと夫婦になっていけたらそれで満足だ」
照れながらぎこちなく微笑むアルベルト様の顔が眩しくて、私は何やら気恥ずかしくなり、目を伏せてしまいました。
『お久しぶりです姫様。ご無事で何よりです』
達筆なその字は彼の人柄をよく表しています。
「カイウス様!? 本当にカイウス様なのですか?」
『はい。こんな姿でお恥ずかしいですが』
「どうしてこんなお姿に……?」
カイウス様は躊躇うようにペンの動きを止めたあと、弾けたように書き出しました。
そこに書き出されたことはとんでもない真実でありました。
『俺はロディアに殺され、その首を切り取られました。その首をミリアの魔法で魔王の物であるかのように偽装したのです』
私はもう言葉も発することが出来ませんでした。
「肉体は死んでいたが魂は死んでいなかった。なので我が同胞として転生させ、今ここにいるという訳だ。首から上がないのはおそらくその影響だろう」
「でもロディア様たちはなぜそんな酷いことを……?」
カイウス様はそれには答えなかった。それを認めたアルベルト様が口を開く。
「そうだな、それを知るためになぜ勇者というものが存在するのかを知る必要がある。お前はその理由を聞いたことがあるか?」
「えっと……魔王討伐を成し遂げて、世界に平和をもたらす為では?」
アルベルト様は首を横に振る。
「そうではない。そもそも我は人間からは魔王などと呼ばれているが、我らは自分等のことを『夜を統べる者』と呼んでいる」
「『夜を統べる者』?」
聞き慣れない会話に私は首を傾げます。
「そうだ。人間、我らの言葉で言うと『太陽を好む者』よりも魔法の扱いが上手く、力が強くて、協調性や人の気持ちを慮る能力に欠ける。ただそれだけの種族だ」
「では魔王が世界征服を目論むというのは真っ赤な嘘……?」
「はは、世界征服なんて仰々しいこと考えたこともない。むしろ我は昔から人間の王に外交を結ぶための便りを送っている……返事が返ってきたことはないがな」
魔王だと思っていた人が魔王でない。お父様はこんな話、一度もしてくれませんでした。
「では勇者とは……?」
「実は魔王討伐という目的があるということは間違ってない。ただそれよりも、魔結晶の入手というのが大きな目的だ」
「魔結晶って……アクセサリーによく使われているあの」
「そうだその魔結晶だ。昔は魔結晶というのは世界中どこででも発掘出来る、特に珍しくもない鉱石の一種だった。しかし人間らはそれを取りつくしてしまった」
「なぜ?」
「簡単に言うと人間が魔法を使うため。その為に必要不可欠なアイテムなのだ」
「では、勇者とは『夜を統べる者』たちの領地に入り、魔結晶を手に入れる人のこと。ということですか……?」
「そういうことになるな。少しぐらいなら我も目をつぶっていたのだがここ最近は目に余るものがある。ここでカイウスの話に戻るが、我は警告のために彼らの前に姿を現した。すると、話も聞かずに襲いかかってきたよ」
「それで……」
「軽く迎え撃つと、あっさりと降伏した。冷静になった彼らは、魔結晶を分けて欲しいということを頼んできた。それを了承した我は、当分ここに来る必要がなくなるぐらいの量を彼らに渡したのだ」
『その通りです』
カイウス様が肯定する。
『大量の魔結晶を手にし、王国に帰る途中、ミリアとセーラは恐ろしい計画を俺たちに提示しました』
『それはその魔結晶を独り占めし、勇者と姫の結婚式を妨害し、王国を乗っ取る計画でした』
『その計画に大反対した俺を二人は煩わしく思ったのでしょう、魔王との戦で疲れきっていたところを二人に唆されたロディアに襲われた俺は、抵抗することもなく殺されました』
『そしてその首を魔王のものと偽装することで、王や国民から莫大な信頼を得ることを思い付いたのでしょう』
最後の方の文字は震えていた。
「そんな……ではカイウス様は、仲間に殺されてしまった……」
『ロディアは優しいが気の弱い普通の男だった。本来は勇者になれる器などない。それを分かっていながらも俺は彼を止められなかった。彼もまた二人の女を止められなかったのです』
あまりにも残酷な真実に私は言葉を発することが出来ませんでした。今まで信じていたことが、根本から覆されてしまったようです。
「これが我が『魔王』と呼ばれながらもここにいる答えだ」
「私は……何にも知りませんでした。勇者が何をしているのか、お父様が何を考えていたのか、そして魔王とは何なのか」
ミリア様が私のことを役立たずと言った意味が分かったような気がします。
「私はこの世界の綺麗な部分しか見てこなかった。私は恥ずかしいのです、何も知ろうとしなかった自分が」
溢れだす涙を止めることが出来ませんでした。しかしそんな私をアルベルト様は優しく抱き締めてくれました。
「知らなかったことを恥じる必要はない。このことを知って、その後にお前がどうするかが重要なのだ」
ぽんぽんと子どもをあやすように頭を撫でてくれます。
「それに我は嬉しいぞ、魔王が言った話など、作り話だと受け入れて貰えないと不安だった。それでもお前は我を信じてくれた」
確かに魔王の話など、信じられなくても無理はないでしょう。しかし彼の余りにも澄んだ瞳を覗き込んで、私はこれが真実なのだと確信していました。
「我には人間の感情というものは理解が難しいが、恋を諦めるのも始めるのも時間がかかるものなのだろう? 今すぐ我を愛せとは言わない。時間をかけてゆっくりと夫婦になっていけたらそれで満足だ」
照れながらぎこちなく微笑むアルベルト様の顔が眩しくて、私は何やら気恥ずかしくなり、目を伏せてしまいました。
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