勇者ご一行に復讐を誓った姫は、魔王の嫁になります!

寿司

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第六話 姫様はレベルアップがしたい

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「何? 魔法を教えて欲しい?」

 今日は一日休みだと聞いていたので、私はアルベルトにあるお願いをしていました。

「はい、恥ずかしながら、私は生まれてこの方魔法を使ったことがないのです。だから教えて頂けないかと……」

「あのミリアとかいう女を見返す為か?」

 ギクリとした。確かにミリア様とセーラ様にぶつけられた魔法も剣も使えない役立たずの癖に! という言葉は呪いのように私の心を縛り付けています。

「それもあります……しかし、彼女は魔法で国民を操り、私を追放しました。それならば私の魔法で皆を元に戻すことも出来るんじゃないかと思って」

「イブマリーは元の場所に帰りたいのか……?」

 しょんぼりと眉を下げるアルベルトを見て私は慌てて釈明します。

「そうではありません! 私は人が人に操られるなどあってはいけないことだと思います。他人を魔法の力で思いのままにするなんて……許せません」

 と言いつつも私は少し自分に驚いていました。今私の中には、生まれて初めてどす黒い感情が渦巻いています。恐らくこれが怒り、憎悪という感情なのでしょうか? 頭では分かっているのですがこんな感情を抱いている自分に吐き気がしてしまいます。

「それに……アルベルトは幻滅するかもしれませんが私はやっぱりミリア様やセーラ様、そしてロディア様を許せそうにありません。どうしても王国を取り戻し、彼らには罪を認めて欲しいのです」

 滑り落ちるように本音がこぼれ落ちてしまいました。

 ふむ……とアルベルトは呟くと私の肩に優しくそっと手を置いた。

「我らの中の諺でこんなものがある『やられたらやり返せ』。妻がここまでこけにされてやられっぱなしは性に合わないな、喜んで協力しよう」

 彼の口の奥にある鋭い犬歯がきらりと光り、私は少しだけ恐怖を覚えてしまいました。

◇◇◇

 まず私は、そもそも魔法とは何か? という根本的なものから教わることになりました。

「この世界には魔素と呼ばれるものが空気中に漂っている。これを取り込み、魔力として変換することで我らは炎を出したり、光の矢を降らせたり、様々なことが出来るようになる」

「魔素? でも人間は魔結晶を使わなければ魔法を使えないのでは?」

「そう、これは我ら『夜を統べる者』の話だ。前にも言った通りイブマリーたち、『太陽を好む者』はその魔結晶がないと魔法を使えない。それは彼らは空気中の魔素を取り込んで魔力に変換することが出来ないからという理由だ」

「つまり魔結晶とは、魔素が結晶化したもの……?」
 鋭いな、とアルベルトは口角を上げる。

「その通りだ。人間は魔素が結晶化した魔結晶を体内に取り込むことで初めて魔法が使えるようになる。一般的にはその取り込んだ量が多いほどより高等な魔法が扱える。が、勿論個人差がある」

「なるほど……操られた民を見たとき、何やらピンクの霧のようなものが漂っているのを見ました。あれだけの魔法を使えるミリヤ様は相当秀でた魔法使いなのですか?」

「そうだな、あれだけの人数を操れる人間は、我も長らく生きてきたがお目にかかったことはない。おそらく取り込んだ魔結晶も膨大なのだろうが本人の才能もあるだろう」

 ただしだ。と彼は付け加えました。

「我はその魔法を目で見ることが出来たお前に驚いている」

「え?」

「そのように操る魔法などは他人が見て分かってしまっては手の内を明かしているようで意味がないだろう? 見えるということはそれを破られる可能性が出来てしまうからだ。かけた魔法を見られてしまう理由は二つある」

 アルベルトが指を一本立てます。

「まず、術者が未熟な場合だ。不馴れな者が唱えた呪はバレやすい。しかしミリアとやらはそこそこ腕が立つようだしこの理由は考えにくい」

「ではもう一つとは……」

「見る者、この場合はイブマリーの魔法の才能が、術者よりも桁違いに優っている場合だ」

「け、桁違い……? 私が……?」

「まだそれは芽吹いたばかりかもしれない。しかしお前には底知れぬ魔法の才が眠っている可能性が高い」

 私は恐る恐る自分の手のひらを広げて見てみました。何の変わりもないいつもの私です。こんな私に魔法の才能が……?

「訓練次第ではきっと魔法を使えるようになるだろう。我の教えは厳しいぞ? 付いてこれるかな?」

「はい! よろしくお願いします!」

 才能があろうがなかろうが、もはややるしかないのです! 
 
 よろしいと満足げにアルベルトは頷きます。

「ではまず、炎をイメージしてみろ」

「イメージ?」

 予想とは違った教え方に私は思わずすっとんきょんな声をあげてしまいました。そんな私の気持ちを見抜いてか、アルベルトは言葉を続ける。

「魔素を魔力に変換して別の物質を得る感覚を掴めなければ、魔結晶を取り込んだところで魔法は使えない。深く呼吸をしながら自身の腹の内に意識を集中させて、燃え盛る炎を想像するのだ」

 この辺りだな、と私の鳩尾のあたりにアルベルトが触れる。私は少しだけ体が強張るのが分かりました。

 燃え盛る炎を……想像……。
 お腹に意識を集中させて……。
 呼吸は深く、ゆっくりと。

 私のお腹に触れているアルベルトの大きくてゴツゴツした手。衣服ごしですが彼の体温が伝わってきます。…………って私は一体何を考えているのでしょう!!

「イブマリー? 顔が赤いが大丈夫か? まさか風邪……!?」

 私の変化に気がついたアルベルトが慌てて私の額に自分のおでこを押し当てます。

「ふむ、熱はないようだが……」

 より一層体が熱くなるのを感じました。

「大丈夫です!! 熱はないのでちょっと離れてください!」

「離れてください……!? 我は何かイブマリーが嫌がることをしてしまったのか!?」

「ち、ち、違いますけど!! 嫌ではないですけど!! ……あつっ」

 じゅっと髪の毛が焼ける音がして、私は思わず身をそらしました。しかしよく見ると、私の手のひらにすっぽりとおさまるぐらいの炎が私の指先で赤々と燃えていました。

「あ、見てください……!! これ、成功ですか?」

 誤魔化すように私はアルベルトに炎を見せつけましたが彼は唖然とした表情で私を見つめています。

「イブマリー……お前は魔結晶を取り込んだことはないよな……?」

「はい、勿論です。ん、あれ? どうして私は魔法が使えたのでしょう?」 

「……人間でありながら魔素を魔力に変換出来るのか。イブマリー、君は……」

 君は?

「我の想像よりずっと強くなるかもしれないな」

 強くなる。一先ず当面の目標が決まりました。

 私はミリア様を超える魔法使いになってみせるのです!
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