勇者ご一行に復讐を誓った姫は、魔王の嫁になります!

寿司

文字の大きさ
9 / 18

第八話 シャルロット、襲来

しおりを挟む

 当分アルベルトもカイウスも帰ってこないそうなので私は暇な日常を過ごしておりました。掃除はもう済ませてしまったし私一人だったらそこまで凝った食事を作る気にもなれません。魔法の方の訓練は続けておりますが、指導者がいないと何だか身に入らないのです。

 ぼんやりと窓から外を眺めていましたが、障気に覆われ淀んだ空は見ていてあまり面白いものではありません。しかし、その障気をくぐって何かがこちらに飛来してくるのが見えました。
 
 慌てて窓から離れると、ガシャンと大きな音と土煙を立ててそれは飛び込んできました。

 爆弾かと思い、私は身構えましたが、煙の中からゲホゲホと咳き込みながら出てきたのは可愛らしい少女の姿でした。

 燃えるような燈色の髪を二つ結びにして、ぱっちりとした瞳は強い意志を感じます。その手は鳥の翼のようで、下の方に目をやると鷹のようながっしりとした鳥の脚がそこにありました。
 
 この姿からしておそらくアルベルトのご友人か何かでしょうか? 私は恐る恐るこんにちは、と挨拶をしてみましたが、少女はただじろじろと私を見つめています。すると呟くこうにこう言いました。

「ふぅん……まぁ顔は悪くないわね。ただちょっと痩せすぎな気もするわ」

 すると少女がびしっと私を指差し、きっぱりとこう言い放ちました。

「あたしはアルの大切な幼なじみ、シャルロット! 覚悟しなさいこの泥棒猫!」

 泥棒猫……? 私はしばらく言われてる意味が理解出来ずあんぐりと口を開けてその場に静止してしまいました。そんな私をよそに、シャルロットさんはつつーっと半壊した窓の枠を指でなぞると、こちらに見せつける。

「ほーら! こんなに埃がついてるじゃない。アルのお嫁さんを名乗るにはなってないんじゃないの?」

「……それはシャルロットさんが窓を破って土煙をたたせたからだと思いますが」

「えっ!? あっ、そうだったかしら。それはあたしが悪いわね……」

 慌てふためくシャルロットさん。この人もしかして……。

「こ、こほん。掃除はもう良いわ!! 料理をチェックしに来たのよ。ほら、何か出しなさいよ」

「料理ですか……。うーん夕食にはまだ早いですしお昼御飯は食べてしまったし、おやつに作ったプリンしか……」

「ぷりん? 聞いたことないわねー。もう何でも良いわ! 早く出しなさい」

 私は言われるがままに彼女をテーブルへと案内すると、おやつに作っておいたプリンをシャルロットさんにお出しする。

「これがぷりん? 黄色いしプルプルしてるし、これほんとに食べ物なの? あたしたち『夜を統べる者』は食事を必要としないから味にこだわりがないとでも思ってるのかしら? あたしやアルベルトは美食家だからこんなんじゃ騙されないわよ」

「まぁまぁ、一口食べてみてください」

 ベラベラと喋り続けるシャルロットさんに少々うんざりしてしまいます。

「まったく、何であたしがこんな変なもの……毒でも入ってるんじゃない……」

 ぱくっと一口プリンを口に含んだシャルロットさん。目を丸々と見開くと、仏頂面だったのに輝かんばかりの笑顔に変わっていきます。

「美味しいですか?」

 あまりにも美味しそうに食べてくれるので私は思わず尋ねてしまいました。シャルロットさんははっと我に変えると、元のしかめ面に戻ります。

「ふん、まぁまぁね。こんなの美味しくないけど、あ、あたしは嫌いじゃないかな」
 
 どうやら気に入ってくれたようで、私は口許を緩ませてしまいました。そんな私を見て、シャルロットさんは笑うんじゃないわよ! と睨み付けてきますが全然怖くはありません。

 何をしに来たのかはよく分からないのですが、シャルロットさんは良い人のようです。

 すると、バタバタと慌ただしく足音が聞こえてきたかと思うと、アルベルトが肩で息をしながら飛び込んできました。

「あら、お帰りなさい」

「あぁただいま……いやそうじゃなくて。おいシャル!勝手なことをするな!」

 怒鳴りつけるアルベルト。ん、待って。シャル?
 
「アル! 結構速かったじゃない~」

 アル?

「まったく、イブマリーに迷惑をかけるな! とっとと帰るぞ」

 この二人はあだ名で呼び合うような仲なのでしょうか? 何だか胸の奥に棘がささったような気がします。しかも『帰る』とは……一体どこに帰るのでしょう?

「だってアルがいけないんだよ……あたしと結婚を誓ったのに、この女と内緒で結婚するなんて!」

 結婚を誓った……?
 顔がひきつるのが自分でも分かります。シャルロットさんもそれを察してか、得意気に鼻を鳴らす。

「そんな約束した覚えはない!」

「もう、一緒にお風呂入ったり同じベッドで寝たこともある仲じゃない。イブマリーさんはどうなのかしら? あれれ、夫婦なのにまだってことはないよね……? 」

「まだ子どものときの話だろ、何百年前の話をしてるんだ! 」

「ふふん、イブマリーさん、あたしは寛容だから愛人の一人や二人許してあげるわ。でもアルが本当に愛してるのはあたしだけだから、そこんとこはっきりさせたくて」

「シャル、お前はもう喋るな! イブマリー、本当に違うんだ……。こいつはただの幼なじみで……」

「……いーえアルベルト、全然気にしてないですよ」

「本当に……?」
 ニコニコ笑顔の私は不気味なのでしょう、アルベルトの顔色はよろしくありません。

「私たちはまだ正式な夫婦じゃないですし、まだ出会ったばかり。正妻さんがいても不思議ではありませんわ」

 自分でもどす黒い気持ちが止められません。こんなこと言いたい訳ではないのに、口が動いてしまいます。
 
「では、あとはお二人でごゆっくり!」

 私は何やら必死に弁解するアルベルトと笑顔のシャルロットさんを取り残すと、その部屋を後にしました。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

初夜の床で「愛はない」と言った自分に返ってきたのは「愛はいらない食はくれ」と言う新妻の言葉だった。

いさき遊雨
恋愛
「僕に君への愛はない。」 初夜の床でそう言った僕に、 「愛はいらないから食事はください。」 そう言ってきた妻。 そんな風に始まった二人の夫婦生活のお話。 ※設定はとてもふんわり ※1話完結 の予定 ※時系列はバラバラ ※不定期更新 矛盾があったらすみません。 小説家になろうさまにも登録しています。

幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない

ラム猫
恋愛
 幼い頃に、セリフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セリフィアはそれを喜んで受け入れた。  その後、十年以上彼と再会することはなかった。  三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セリフィアはその場を離れた。  しかし治療師として働いているセリフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。  それどころか、シルヴァードはセリフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。 「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」 「お願い、セリフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」 ※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。 ※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!

ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」 それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。 挙げ句の果てに、 「用が済んだなら早く帰れっ!」 と追い返されてしまいました。 そして夜、屋敷に戻って来た夫は─── ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

処理中です...