12 / 18
第十一話 首なし戦士の日常
しおりを挟む
カイウス……ごめん……ごめんなさい。
あぁそんな顔するなよ親友、せっかく魔王討伐の任務を終えて帰る途中じゃないか。
自分の腹の辺りを見ると、深々と剣が刺さっていた。それを確認したとたん鋭い痛みが全身を駆け巡る。
いつもの悪夢で俺、カイウスは飛び起きた。親友ロディアに殺される夢。いつも彼は泣き笑いに似た顔をして俺に剣を突き立てる。
まさか首なし戦士として蘇らされ、魔王の部下になることになるとは当時の俺は思ってもいなかった。首から上がないので顔を洗う必要も歯を磨く必要もないのは楽で良いが、美味しいものを食べれないことは結構辛い。
ちなみにどうやって周りの様子を見ているのかというと……俺にもよく分からない。が、おそらく魔法というやつなのだろう。
「あらおはようカイウス」
今の主の妻であるイブマリーがにこやかに挨拶をする。
この前のシャルロットの一件でますますアルベルトと仲良くなったらしい。夫婦円満なのは良いことだ。
『おはようございます^-^』
喋れない俺は筆談で会話をする。もう慣れたもので目にも止まらぬ早さで筆を操ることができるようになった。
魔王の部下となった俺の仕事は、人間だった頃とさほど変わらない。主を守り、主の為に剣を振る。それだけだ。
ただ今の主に守護が必要だと思えないのだが、生き返らせて貰った恩があるので特に意見はしない。
「あ、そうそうカイウス。お願いがあるんだけど」
『なんでしょう』
「私に剣を教えて欲しいの」
剣を習いたい。そう懇願するイブマリーの瞳は真剣だ。
この箱入りだったお姫様は意外にも努力家で、魔法の腕もメキメキと上達しているらしい。
『しかし……怪我をするかもしれませんよ*_*?』
「構いません、私は強くなりたいのです。皆に守って貰わなくても生きていけるように」
どうもこの手の少女には弱い。俺は渋々それを承諾すると、のびのびと稽古がつけられるように、庭へと移動した。
『まずこの棒切れで俺に一発入れてみて下さい。俺は攻撃をしません、ただかわすだけです』
「分かりました」
木の棒を握り締めたイブマリーがこくりと頷く。
『本気で来て下さい。この課題をクリア出来なければ次の稽古はいけませんよ』
「はい!」
初めの合図と共に、イブマリーが棒を振り下ろす。が、勿論そう簡単には当たりはしない。闇雲に棒を振り回すイブマリーだが、その全てがスローモーションのように見える。
先に力尽きたのはイブマリーの方であった。肩で息をしながらその場に座り込む。
「はぁ、はぁ……全然当たりません……」
『まだまだ、へばるのは早いですよ』
呼吸を整え、再び攻撃を繰り返すイブマリーですが、その太刀筋は鮮明に見えています。
初めて剣技をやる人にしては上出来だと思います。しっかり体重移動も出来ているし、無駄な動きも少ない。女性にしては体力もありそうです。
『……少し休憩にしましょうか』
もう声も出せないイブマリーがこくりと頷きました。
◇◇◇
お茶を飲み、声が出せるようになったイブマリーがううと声をあげます。
「出来る気がしません……」
『一日二日で出来るものではありませんよ。ゆっくり頑張りましょう^-^』
はい、と答えるイブマリー。しばし無言の時間が訪れます。
風が優しく頬を撫で、草を揺らします。すると、不意にイブマリーが口を開きました。
「カイウスはロディア様のこと恨んでいますか?」
返事はノーだ。俺はロディアに殺されたが、あまり彼を恨む気持ちはない。
彼はただ弱いのだ。悪魔のような女二人に唆されて思わず過ちを犯してしまった。
それだけの男だ。
『いいえ、恨んでいません』
「そうなんですね……」
イブマリーの目はどこか寂しげで、それでいて何かを隠しているような色をしていた。
「何かやりたいこととかってありますか? 」
やりたいこと。この女性は不思議な質問をしてくるなぁと思う。
別にロディアたちに復讐したいとも思わないし、王国に戻りたいとも思っていない。でもまぁ強いていうなら。
『首を取り返したいですかね、自分の目で世界を見てみたいし、イブマリーの料理を食べてみたいです』
「首……」
そう呟く彼女は弾かれたように立ち上がった。
「カイウス、一度王国に行きませんか? カイウスの首はおそらく宝物庫におさめられていると思います。しかもそこに立ち入れるのは王族だけなのです」
俺は返事が思い付かなかった。いや、何と言ったら良いか分からなかったというのが正しい。
「もちろんロディア様やミリア様の目につかないようにこっそりとです」
『しかし……危ないのでは?』
「戦おうなんて思ってないです。もし危ないときはすぐに逃げます」
自分の首が戻ってくるかもしれない。微かな希望の光が俺の胸に灯りました。
『そうですね。では俺に一撃を当てられたらその計画、協力します』
俺は卑怯だ。答えは決まっているはずなのにイブマリーに決定権を委ねている。
そんな卑怯な俺にもイブマリーは分かりました。と答えます。
そして木の棒を握り直すと、俺と対峙します。その目には強い意思が宿っていました。
まさに電光石火の一撃。
しなやかで無駄のない動きで彼女の武器は俺の剣を弾き飛ばしていた。
勿論俺が油断していたという理由もある。しかし、今の一撃はただの姫君の太刀筋ではない。
からんと、剣が地面に落ちる乾いた音がした。
「私の勝ちですね」
その妖艶な笑みはまさに魔王の嫁にふさわしい――俺はとんでもない人にお仕えしてる。命がいくつあっても足りないな、と心の中で呟いた。
あぁそんな顔するなよ親友、せっかく魔王討伐の任務を終えて帰る途中じゃないか。
自分の腹の辺りを見ると、深々と剣が刺さっていた。それを確認したとたん鋭い痛みが全身を駆け巡る。
いつもの悪夢で俺、カイウスは飛び起きた。親友ロディアに殺される夢。いつも彼は泣き笑いに似た顔をして俺に剣を突き立てる。
まさか首なし戦士として蘇らされ、魔王の部下になることになるとは当時の俺は思ってもいなかった。首から上がないので顔を洗う必要も歯を磨く必要もないのは楽で良いが、美味しいものを食べれないことは結構辛い。
ちなみにどうやって周りの様子を見ているのかというと……俺にもよく分からない。が、おそらく魔法というやつなのだろう。
「あらおはようカイウス」
今の主の妻であるイブマリーがにこやかに挨拶をする。
この前のシャルロットの一件でますますアルベルトと仲良くなったらしい。夫婦円満なのは良いことだ。
『おはようございます^-^』
喋れない俺は筆談で会話をする。もう慣れたもので目にも止まらぬ早さで筆を操ることができるようになった。
魔王の部下となった俺の仕事は、人間だった頃とさほど変わらない。主を守り、主の為に剣を振る。それだけだ。
ただ今の主に守護が必要だと思えないのだが、生き返らせて貰った恩があるので特に意見はしない。
「あ、そうそうカイウス。お願いがあるんだけど」
『なんでしょう』
「私に剣を教えて欲しいの」
剣を習いたい。そう懇願するイブマリーの瞳は真剣だ。
この箱入りだったお姫様は意外にも努力家で、魔法の腕もメキメキと上達しているらしい。
『しかし……怪我をするかもしれませんよ*_*?』
「構いません、私は強くなりたいのです。皆に守って貰わなくても生きていけるように」
どうもこの手の少女には弱い。俺は渋々それを承諾すると、のびのびと稽古がつけられるように、庭へと移動した。
『まずこの棒切れで俺に一発入れてみて下さい。俺は攻撃をしません、ただかわすだけです』
「分かりました」
木の棒を握り締めたイブマリーがこくりと頷く。
『本気で来て下さい。この課題をクリア出来なければ次の稽古はいけませんよ』
「はい!」
初めの合図と共に、イブマリーが棒を振り下ろす。が、勿論そう簡単には当たりはしない。闇雲に棒を振り回すイブマリーだが、その全てがスローモーションのように見える。
先に力尽きたのはイブマリーの方であった。肩で息をしながらその場に座り込む。
「はぁ、はぁ……全然当たりません……」
『まだまだ、へばるのは早いですよ』
呼吸を整え、再び攻撃を繰り返すイブマリーですが、その太刀筋は鮮明に見えています。
初めて剣技をやる人にしては上出来だと思います。しっかり体重移動も出来ているし、無駄な動きも少ない。女性にしては体力もありそうです。
『……少し休憩にしましょうか』
もう声も出せないイブマリーがこくりと頷きました。
◇◇◇
お茶を飲み、声が出せるようになったイブマリーがううと声をあげます。
「出来る気がしません……」
『一日二日で出来るものではありませんよ。ゆっくり頑張りましょう^-^』
はい、と答えるイブマリー。しばし無言の時間が訪れます。
風が優しく頬を撫で、草を揺らします。すると、不意にイブマリーが口を開きました。
「カイウスはロディア様のこと恨んでいますか?」
返事はノーだ。俺はロディアに殺されたが、あまり彼を恨む気持ちはない。
彼はただ弱いのだ。悪魔のような女二人に唆されて思わず過ちを犯してしまった。
それだけの男だ。
『いいえ、恨んでいません』
「そうなんですね……」
イブマリーの目はどこか寂しげで、それでいて何かを隠しているような色をしていた。
「何かやりたいこととかってありますか? 」
やりたいこと。この女性は不思議な質問をしてくるなぁと思う。
別にロディアたちに復讐したいとも思わないし、王国に戻りたいとも思っていない。でもまぁ強いていうなら。
『首を取り返したいですかね、自分の目で世界を見てみたいし、イブマリーの料理を食べてみたいです』
「首……」
そう呟く彼女は弾かれたように立ち上がった。
「カイウス、一度王国に行きませんか? カイウスの首はおそらく宝物庫におさめられていると思います。しかもそこに立ち入れるのは王族だけなのです」
俺は返事が思い付かなかった。いや、何と言ったら良いか分からなかったというのが正しい。
「もちろんロディア様やミリア様の目につかないようにこっそりとです」
『しかし……危ないのでは?』
「戦おうなんて思ってないです。もし危ないときはすぐに逃げます」
自分の首が戻ってくるかもしれない。微かな希望の光が俺の胸に灯りました。
『そうですね。では俺に一撃を当てられたらその計画、協力します』
俺は卑怯だ。答えは決まっているはずなのにイブマリーに決定権を委ねている。
そんな卑怯な俺にもイブマリーは分かりました。と答えます。
そして木の棒を握り直すと、俺と対峙します。その目には強い意思が宿っていました。
まさに電光石火の一撃。
しなやかで無駄のない動きで彼女の武器は俺の剣を弾き飛ばしていた。
勿論俺が油断していたという理由もある。しかし、今の一撃はただの姫君の太刀筋ではない。
からんと、剣が地面に落ちる乾いた音がした。
「私の勝ちですね」
その妖艶な笑みはまさに魔王の嫁にふさわしい――俺はとんでもない人にお仕えしてる。命がいくつあっても足りないな、と心の中で呟いた。
1
あなたにおすすめの小説
【完結】転生したら悪役継母でした
入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。
その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。
しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。
絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。
記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。
夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。
◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆
*旧題:転生したら悪妻でした
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
初夜の床で「愛はない」と言った自分に返ってきたのは「愛はいらない食はくれ」と言う新妻の言葉だった。
いさき遊雨
恋愛
「僕に君への愛はない。」
初夜の床でそう言った僕に、
「愛はいらないから食事はください。」
そう言ってきた妻。
そんな風に始まった二人の夫婦生活のお話。
※設定はとてもふんわり
※1話完結 の予定
※時系列はバラバラ
※不定期更新
矛盾があったらすみません。
小説家になろうさまにも登録しています。
幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない
ラム猫
恋愛
幼い頃に、セリフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セリフィアはそれを喜んで受け入れた。
その後、十年以上彼と再会することはなかった。
三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セリフィアはその場を離れた。
しかし治療師として働いているセリフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。
それどころか、シルヴァードはセリフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。
「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」
「お願い、セリフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」
※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。
※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!
ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」
それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。
挙げ句の果てに、
「用が済んだなら早く帰れっ!」
と追い返されてしまいました。
そして夜、屋敷に戻って来た夫は───
✻ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる