勇者ご一行に復讐を誓った姫は、魔王の嫁になります!

寿司

文字の大きさ
13 / 18

第十二話 潜入大作戦

しおりを挟む
「本当に大丈夫か? イブマリー」

「だ……大丈夫です」

 久々の我が家なのに足がガクガク震えて止まりません。

 時間は真夜中。私イブマリーは、カイウスの首を取り返しに行くため故郷、セレンシア王国のすぐ近くの茂みに身を隠していました。

 アルベルトは初めは私たちの計画を聞いて大反対していましたが、自分も同行することを条件に、許可してくれました。

 アルベルトの姿は目立ちすぎるので小さい子猫の姿に化け、私のローブのポケットにすっぱり収まっています。

 首がないことがバレたら国中大騒ぎなのでカイウスもすっぽり厚いフードを被り、占い師のような風貌です。

 どう見ても怪しい二人と一匹ですので、やることをさっさと済ませたいと思います。

「ここ城壁が一部欠けているんです。ここからなら門番にバレることなくこっそり侵入出来ますよ」

 私はそびえ立つ城壁にひっそり空いた穴を指差します。

「なるほど、確かにここなら入れそうだ」

『こんな穴あったんですね、長年ここで生活していましたが気づかなかったです』

 これは二人には内緒なのですが、実は私がこっそり散歩するために開けた穴なのです。まぁこの話は置いておきましょう。

「早く行きましょう、警備兵が来たら大変です」

「あぁ、そうだな」

 私がカイウスを先導し、どうにか城壁の中に入ることに成功しました。

 久々の故郷。見慣れているはずなのに、とある違和感が辺りに漂っています。

「……誰もいませんね」

 確かに今は真夜中。人通りが少ないのは当たり前なのですが、そうではなく、人の気配が一切ないのです。まるで皆どこかへ行ってしまったみたいです。

「……ふむ、向こうからは微かだが魔力を感じるな」

 アルベルトがポケットから頭を出し、辺りを見回す。

「そうですね、行ってみましょう」

 細心の注意を払い、私たちは民家の立ち並ぶエリアから、商店街の方へと足を進めていきます。
 確かにどの民家を覗いても、一切灯りがついていません。民たちは一体どこへ……?

 嫌な予感が胸をざわつかせます。

「しっ!! 誰かいるぞ」

 アルベルトの鋭い声を合図に、私たちは近くの家の影に身を隠します。少しだけ体を傾けて覗くと、人々が集まっているのが分かりました。

「ここに住んでる人たちのようですね……良かった。いなくなったのかと思っていました」

『しかしこんな時間に何の集まりでしょうか? 』
 カイウスがサラサラと文字を綴る。

「何やら焦げ臭いな、それにちらりと炎が見える」
 アルベルトが鼻をひくひくと動かします。

「お祭りか何かでしょうか? でも……それにしては盛り上がってなさそうです」

「もうちょっと近付いてみましょう。カイウスはここで待ってて下さい」

『分かりました。何かありましたらすぐに駆け付けます』

 私はこくりと頷き、顔が見えぬようにフードを深く被り直しました。アルベルトもすっぽりと姿を隠しています。

 そろりそろりと人混みに近づくと、確かに肉を焼いたような臭いが強くなってきました。

「何でしょうこの臭い……」

 人混みの間から、ちらりと炎が見えます。そしてそこにあったのは――。

 それを見た私は思わずその場で吐いてしまいました。

 磔にされている数人の人間、そしてその足元には燃え盛る火炎。
 それを眺めてニヤニヤと笑みを浮かべているのはあのミリアさん。

「何ですか……これ……」

 私は目の前の光景が信じられず、呆然と立ち尽くすばかりでした。アルベルトも何も言えないのでしょう、身動きひとつしません。

 すると近くにいた見知らぬ男の人が私にこっそりと耳打ちをしてくれました。

「君見ない顔だね。旅人か何かか? 悪いことは言わない、さっさとこの国から出た方が良い」

「何をしてるんですか? 人が……人が……焼かれています」

「勇者たちがこの国を支配してからというもの徐々に洗脳魔法が解ける者たちが現れたんだ。そんな人々を毎日こうやって処刑しているのさ……」

 するとその隣にいた女性が声をあげる。

「そうなのよ、私たちだってとっくにもう洗脳は解けているの。だけれど、それがバレたら殺されるから……こうしてまだ魔法がかかっているフリをしているのよ」

「そんな……おとうさ……国王は一体どうしているのですか? 」

 男の人は眉間に皺を寄せ、ゆるゆると首を振る。

「ミリアに近しい者ほど魔法が解けづらく遠い者ほど解けやすい、彼女と同じ場所で生活する王はまだ操り人形のままさ」

「そういえばお妃様の姿を最近みないわね……一体どうしていらっしゃるのかしら」

 お妃……お母様のことです。お母様の身に何かあったのでしょうか? 心臓がバクバクと高鳴ります。

 すると

「ちょっとそこ、うるさいわよ。あんたたちも殺されたいのかしら? 」

 その声を合図に、集まっていた人が、さっと波が引くようにひれ伏す。そして立っているのは、私だけです。

「あら、あんた見ない顔ね? 外部からのお客さんは閉め出してるはずなんだけど」

 まずい状況です。つかつかと近付いてくるミリア様。私を顔を下に向けたまま、ただ押し黙ります。

「どっかで見たことあるような気がするわ……ふーん」

 もうミリア様が私の目の前に立っています。手を伸ばせば触れられる距離。冷たい汗が肌を伝います。

「あんた喋れないの? ちょっと顔見せなさいよ」

 顔だけは見せられない。もしイブマリーだなんてバレたら……殺されるに決まっています。

「黙ってないで何か返事しなさいよ! 」

 私のフードに手をかけ、もう終わりだと覚悟したとき、何者かに路地裏へ引っ張りこまれました。

 その衝撃でポケットからアルベルトが飛び出してしまいました。

「アルベ……!! 」

 名前を呼ぼうとしましたが、その誰かに口を塞がれ、願いは叶いませんでした。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

初夜の床で「愛はない」と言った自分に返ってきたのは「愛はいらない食はくれ」と言う新妻の言葉だった。

いさき遊雨
恋愛
「僕に君への愛はない。」 初夜の床でそう言った僕に、 「愛はいらないから食事はください。」 そう言ってきた妻。 そんな風に始まった二人の夫婦生活のお話。 ※設定はとてもふんわり ※1話完結 の予定 ※時系列はバラバラ ※不定期更新 矛盾があったらすみません。 小説家になろうさまにも登録しています。

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

番など、今さら不要である

池家乃あひる
恋愛
前作「番など、御免こうむる」の後日談です。 任務を終え、無事に国に戻ってきたセリカ。愛しいダーリンと再会し、屋敷でお茶をしている平和な一時。 その和やかな光景を壊したのは、他でもないセリカ自身であった。 「そういえば、私の番に会ったぞ」 ※バカップルならぬバカ夫婦が、ただイチャイチャしているだけの話になります。 ※前回は恋愛要素が低かったのでヒューマンドラマで設定いたしましたが、今回はイチャついているだけなので恋愛ジャンルで登録しております。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない

ラム猫
恋愛
 幼い頃に、セリフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セリフィアはそれを喜んで受け入れた。  その後、十年以上彼と再会することはなかった。  三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セリフィアはその場を離れた。  しかし治療師として働いているセリフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。  それどころか、シルヴァードはセリフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。 「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」 「お願い、セリフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」 ※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。 ※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

処理中です...