蒼炎の魔法使い

山野

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第十二話 実践!一ヵ月の成果、俺この戦いが終わったら結婚するんだ…

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森の中を疾走する人影が二つ。 北に向かって馬などでは追いつかない速度で駆け抜けている

白いワンピースと月夜に輝く長くさらさらとした銀髪をもった赤い瞳の女と、黒髪黒目で平らな顔の男がローブに長さの違う刀と呼ばれる剣を二本さしていた。

「ルー後どれくらいで着くの?」

「後1時間もすれば着くと思う」

俺たちは今北の森の中にあるとある集落に向かっていた。

リールモルトを中心として四方に広がる広大な森の東西南北にはそれぞれ主がいる。

東に狼の主、南に空の主、西に大蛇の主そして俺たちが今向かっている北にいるのはアンデッドの主だ

主達は知能を持ち意思疎通を図れるので、主同市とリールモルト王国は不可侵条約を結んでいるのだが、最近森に不穏な動きを感じるとのことで調査と森全体の動きに詳しい北の主に助力を求めるべく向かっていた。

「王女様なのにこういう事もするんだな!」

「王女でもあるけど、私は国では結構な実力者に入るから。 それに今回集落に向かうだけだから流石に何もない。」

「なんかその言い方やめて…」

まだ小さいがフラグが立ちかけているように感じる…

「まだかかるからこの辺りで少し休もう」

「結構長い事走ったもんなー、オーラで結構魔素使ったしそろそろ休憩したかったんだよね」

大きな石の上に腰を下ろすとルーも隣に来て頭を俺の方に乗せ、腰を落ち着けた。

あの騎士叙任式から一週間程経ち、あれ以来二人の距離が前よりも近づいた。 完全に二人の世界を作りまくったあの騎士叙任式…

ちょっとした黒歴史なのだが、街であれのマネをしている小さい子たちを見つけて恥ずかしさに悶えた…

かっこよく写る角度を見つけるために自撮で撮りまくったデータが流出した時と同じ位のダメージはあった。

「一ヵ月でショウは少し男らしくなった」

「ルーの隣に立てるように頑張ったからね」

「…そう。」

嬉しい…そう。頂きました!

少しも頬も赤いらしい。

「そういえば魔力操作はどう?」

騎士になったことで寝る時以外は四六時中護衛の為に一緒にいるのでその時間を利用して俺はルーに魔力の扱いを、ルーは俺に魔素の扱いを教え合っていた

が俺は詠唱の言葉を何一つ聞き取れなかった。魔術言語という特殊な言語らしい。魔術を使うの自体諦めている。いいんだ…俺には魔法があるから…

「まだ難しい…で も新しい事覚えるの楽しい」

「多分魔力操作が上達すればルーの目の力も制御できると思う、俺がルーのお父さんの【王者の威圧】やルーの【魅了】が全く効果ないのって俺が常に魔力を薄い膜みたいにして全身を覆っているからだと思うんだよね」

何故俺が効かないのか、理由はわかっていた。 洗練された魔力の膜は状態異常を防ぐのだ。 ルーが全身を洗練された魔力膜で覆えるようになるにはおそらく膨大な時間がかかるだろう。 しかし目だけを覆えば他人を無差別に【魅了】するのを抑えれるはずなのだ。

俺は魔素の扱いを教えてもらったが、魔力と魔素をどちらにも性質を変化できるようになっていた。もしかしたら出来るのではないかと思いやってみたら出来てしまった。

「まだまだだけど、これを練習すれば誰とでも目を見て話せると思うと頑張れる。」

「念願叶うね!」

「うん…ショウは【魅了】されないからちゃんと顔みて話せる。 貴方の顔ちゃんと見れるの嬉しい」

肩から頭を離し俺の方に向き直り頬を撫でる。

「…まぁがっつり本物の魅力に魅了されてるけどね」

撫でてくれている手を握り、反対の手でルーの頬を撫でる。

辺りに一気にアマアマのシュガーエアーが満ちる

「…何か来てる。20…いや30?」

ルーの【気配感知】は俺よりも広いらしい

ったく人がイチャコラ楽しんでるっつーのに、リア充爆発しろとか喚く昔の同士かコノヤロー!

「団体様のご到着かよ、【レーダー】」

【レーダー】は魔力の波を飛ばし跳ね返る魔力で情報を得る魔法、沢山のDQNにゲーセンで絡まれて逃げる時に即席で作った魔法だ。 これがなけりゃ財布の中身取られた挙句にジャンプさせられていただろう。

「俺この戦いが終わったら国に戻って結婚するんだ…」

「…ショウ…そういうことを言うと必ず戦死するっていう言い伝えがある」
何? フラグという概念があるだと?!

「き、気を付けるよ!それよりここは俺に任せてくれない?28体いる」

「そんなに沢山… ここは開けてる場所じゃないし、広範囲の蒼い炎は使えない。 大丈夫なの?」

「考えはあるよ、それに特訓の成果見せないとね!」

一ヵ月の特訓で戦闘のバリエーションがかなり増えていたのでいい機会だしここでルーにいい所を見せておく。

「わかった… でも数が多い。 強いモンスターだったらすぐ逃げる。 いい?」

「了解、それじゃあ下準備っと」

身体強化、【反応強化】【思考加速】【オーラ】

身体強化とオーラのバフ二重掛けで身体能力が爆発的に上昇する。

「【魔糸】」

無属性魔法の不可視の糸、【魔糸】を木と木の間に張り巡らせ、刀を二本抜き、団体様到着を待つ。

地響きと共に魔物達が姿を表していく。

あれは… ミノタウロス?! ダンジョンに居るやつじゃないの普通?!

「ショウあれはまずい、逃げた方がいい。」

「いやあの速度なら多分逃げ切れるしやれるところまでやっていいかな?」

「わかった。 私も戦う用意しとく」

そういってアイテムボックスから赤黒い大鎌を出して構えた。 相変わらずかっけぇ

斧を持ったミノタウロス達が俺たちを見つけると獲物を見つけたと言わんばかりに全速力で迫ってくる。

が木と木の間に張り巡らされた【魔糸】に当たるとバターを切るようにスーッとミノタウロスの体がバラバラになった。馬鹿めそこは罠だ!

実はこの糸、高速で振動させているので物凄い切れ味なのだ!魔力を扱えないと不可視だし、断ち切る事さえできない。

土埃が舞いどうなったのかわからない。

「…やったか?」
フラグやめて!いつものルーなら『…やった?』でしょ?なんであえてフラグっぽくするの?!

土埃が晴れ、見てみると一気に20体を肉塊に変えていた、【魔糸】を避けるように4体ずつに左右に分かれ迂回してこちらに来る、ほれみぃ速攻でフラグ回収乙。

左はルーがいるのでまずあちらからの足止めを優先する。

「【封印空間シーリングボックス】」
右手をあげ鼻息荒いミノタウロス達に言い放つと、半透明な五枚の板が現れ4体のミノタウロスを囲む四角い箱になると、全方位から亜空間が開き太い鎖がじゃらじゃらと箱に絡みつき、封と書かれた札が張られたどでかい南京錠でガチャリと閉まり封印した。

ルーがガチャリと音がしたところで体びくりと振るわせた、未知の現象を見て驚いたのだろう。やん、キャワキャワ!

「【封印空間シーリングボックス】」は空間魔法と封印魔法を合わせた複合魔法だ、ダメージこそ与えることはできないが、ちょっとやそっとの攻撃では破る事は出来ないので足止めには最適だった。

「さぁーてお前らには特訓の成果味わってもらうぞ!二刀疾風流…【花嵐】」

視認できない程の速度で飛び出し一瞬で一体目のミノタウロスへと距離を詰め、目にも止まらぬ斬撃の嵐。 飛び散る鮮血が風で舞う花びらの様に夜空に舞い散る。 華麗な連撃で切り刻み一体目を屠る。

疾風流は剣速、回避、手数の多さに重きを置いた流派だ。

「ギャオーーーーーーーーー」

横からミノタウロスが斧をショウに向けて振り下ろす

「二刀水明流…【水鏡】」

金属同士がぶつかり滑り火花が散る。 流れるような動作で振り下ろされた斧を右手に持つ長刀で受け流し、バランスを崩させ、相手の力を利用し体を回転させたその勢いで左手に持つ小太刀を使い首をスパンと切り落とす。

水明流は攻撃を受け流し、その力を利用し反撃するカウンタータイプの流派だ。

うん、上々!体の動きも悪くない、この程度なら兵士長との戦いの方が辛かった…

思い出してブルリと震えた…

「一気に行くか…【雷刀】【氷刀】」

そうつぶやくと、長刀の方は雷を、小太刀は冷気を放っていた。

一気に飛び出し長刀でミノタウロスを切るが受け止められる。

が、受け止めたその瞬間刀を伝ってミノタウロスに高電圧の電流が流れ込みスタンする
【雷刀】はいくら武器で防いでも追加攻撃で電流が流れるガード不可の攻撃だ!

スタンしたスキを逃すハズもなく、急所を一突きして絶命させた。

最後の一体がこちらに走ってるのを、スライディングで又抜けし後ろに回り、小太刀で背中を切りつけると液体窒素に入ったように氷漬けになった。
【氷刀】は切った所に冷気の魔力を流しこみ内側から凍らせる刀だ。当たったら全身氷漬けになる
頭を粉砕してまた一匹あの世に送る

「やっぱりオーラも纏ってないただの魔物だと効果抜群だなこれ!」

と初めて魔物に使った威力に驚いていたのだがそれよりもルーの方が驚いていた

「ショウ凄い、正直驚いた。 一ヵ月でこんなに…」
辛かったけど、ルーと一緒にいる今を考えたらやってよかったよ

「手札が増えたのもあるけど、やっぱり魔力での身体強化と魔素のオーラの二重掛けでかなり動けるようになったよ! って残りの四体も倒さないとね」

封印されている南京錠に手を当て解除の言葉を掛ける

「解!」

その一言で鎖が弾けて一気にミノタウロスが出て来たので【バインド】で締めあげる。

風魔法の【オキシジェンコントロール】を唱えたとたんミノタウロスが口から涎を出して倒れた。

「ショウ何したの?」
この世界で普通に呼吸してるってことはおそらく空気の構成は地球と一緒、ならば酸素濃度を0にすればやはり昏睡するのかという実験だったが、どうやら成功の様だ。

「空気には実は毒にもなる成分が入ってるんだ。その濃度をちょっといじった結果こうなった…」

「…そう。おそろしい魔法ね。 それを大規模に使われたらそれだけで戦いが終わってしまいそうね…」

「俺の今の魔力じゃそんなに大規模には展開出来ないと思うよ… 多分…」

「やらないでね?」

「大丈夫だよ!」

「今なら私といい戦いになりそう。」

「どうかな? 兵士長には危険な魔法は使わないにしても、一回も勝てなかったからなぁ… それにルーは兵士長より強いんでしょ? まだまだ遠いよ…」

「それでもこの成長は凄い。 そういえばショウの持ってるの、変わった剣ね」

「これは刀っていうんだよ、兵士長から卒業祝いで貰ったんだ! 長さが違うのは同じ長さのが売ってなかっただけなんだけど…」
カチャリと二本とも鞘にしまう。

「こだわりがあるわけじゃないんだ。 ショウって変な所にこだわりあるから『異世界剣術と言えば二刀流の刀以外ありえないでしょ?!』とかいうかと思った。 疾風流と水明流がメインなの?」

…否定できないのが辛い。 しかも微妙に似てるのが何か嫌だ。 二刀流憧れるでしょ! ロマンじゃん二刀流って! 後刀で抜刀術とかさぁ、突進してから突くより、断然抜刀派だよね、オカタズケ♪オカタズケ♪

「うん、真向から受け止めて、高い攻撃力で攻めまくる炎火流派とは相性悪くってね… 三大流派だと疾風流メインで水明流がサブって感じかな」

「ショウの戦術は多彩、色んな手札で翻弄して次に何をされるかわからないのは脅威。」
自分でも手札は多いと思う、実際まだ結構ある。

「脚擦りむいてる。」

「あーさっき股抜けした時にスライディングしたからだね」

「じゃあこれ使って」

「…何それ?」

「草」
いや流石にそれは草www

「そういう事じゃなくて薬草か何かって事?」

「…そう。 これ折って塗ると治るのが早い」
アロエみたいなもんかね?

「再生魔法あるから大丈夫だよ、ほら!」
一瞬で傷が治る。

「ショウの魔法はずるい…」
せやかてるーさん

「小さい時から毎日のように魔法の事考えて暇さえあれば色々やってたからねぇ…」
そうボッチだったからね!

「でもこれ触れる位近くないと回復できないんだよ、白魔術だと結構遠くにいても回復できるでしょ?一長一短だよ」

「これからケガしたらショウに治してもらう。 会う口実が増えるね」
そこら中ミノタウロスバラバラになった死体だらけ、未だ死体からどくどく血が流れ出て血の匂い充満した場所で、飛び散った鮮血が頬に着いたのかと思うくらい顔を赤くしながら伝える。

「騎士は寝る時以外は一緒ですよ」

「…ゎた…は…る時も…ぃっしょ…ぃぃ」
俺は難聴系鈍感ラノベ主人公ではない。 主人公属性なんてそもそも持ってないからな! ラッキースケベ一切ないし! アメリアさんは… あれはラッキースケベではない… ただのスケベだ!

「さ、流石にまだまずいよ! でも… 堂々と誰にも文句言われないように頑張る!」
そんなすんばらしいご褒美待ってるなら俺は世界すら征服して半分をルーにあげちゃうわ! あれ? 今勇者の足音が…

「じゃあ今だけ少しこうさせて…」
細く白くきめ細かい手を刀で血塗られた手に絡ませ、後ろから抱きしめながら俺の頬にキスをして顔に着いた返り血を舐め取る

空を覆う程高く伸びた木々の隙間から差し込む月の光がスポットライトのように二人だけの舞台を照らす。 演出家は月だけ。 観客はみな死んでいた…
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