79 / 138
第七十四話 告白
しおりを挟む
「空間魔法【空間把握】」
俺の頭の中に膨大な情報が流れ込んで来る
敵の位置情報などが全てわかるのだが他の情報も大量に流れ込んで来るので【思考加速】を使っていても処理しきれず頭が痛くなるので余り使いたくない魔法だ
エメとのフィールド展開がいかに優秀か実感できる
「シャロ! 左斜めから二体!」
「はいなのです! 幻狐舞踊【火車の舞】」
シャロの扇子から飛び出した炎の輪が三体を捕らえ焼き尽くす
姿が見えなければ幽霊も怖くはないようだ、逆に助かった
「蒼炎魔法【蒼炎弾】」
頭の痛みを堪えながらも敵を確実に燃やしていく
「右後ろ三体来るぞ!」
「はいなのです! 幻狐舞踊【弄火の舞】 」
シャロは後方から迫ってきた敵を舞う様に華麗な動きで躱しながら燃え盛る扇子でレイス達を切り裂き確実に浄化していく
「中々やるようですねではこれではどうでしょう?幻霧魔術【幻影】 頼みましたよ」
霧で良くは見えないが、男が女性にそう告げている姿が黒い影でなんとなく理解出来た
戦術を変えて来たか… 次はどんな事を…
「?! ルー…か?」
「…そう。 どうして受け止めたの?」
俺は今突然何処からともなく現れたルーが放った大鎌の重い一撃を刀で受け止め、鍔迫り合いになる
「ふふふ、お客人の一番愛しい人なのだろう? 君に攻撃できるのかね?」
「………ふざけんな! 蒼炎二刀嘯風弄月流【鬼火】」
俺は一旦距離を取りルーの幻影を二刀流の居合で切り伏せた
「何だと?! 愛しい人を何故そんなに容易く切れる?!」
「あれがルーな訳がない! 俺の好きな匂いがしないじゃないか!」
毎日の様に彼女の香りをクンカクンカ堪能している俺だ、あの匂いだけでご飯三杯は行ける程好きな匂いを持たない彼女など彼女ではない!
「まさかそんな事で私の術を破るとは思いませんでしたよ。 まぁ一人足止め出来ただけでも良しとしましょう」
俺は換気扇から香る肉の焼ける匂いだけでご飯を食べれる位に匂いに敏感なのだ、匂いの力を見くびるな!
霧の中で良く見えないが、【空間把握】から入ってくる情報でシャロが誰かと対峙しているのはわかる。
それにかなり手こずっているようだ
「姑息な手を使いますね、それに幸せがどうのとか言いながら平気で使い捨てしてるじゃないですか」
俺は蒼炎刀でマスクをかぶった男を切るが霧となり消えてしまう
「それはそれ、これはこれなのですよ。」
うちはうち、他所は他所ってか? おかんルール持ちだすな!
「それに本当に大事な人は大事にしてますからご安心下さい」
そう言ってシャロの方に居る女性の方を見た
「安心って俺達関係ないけどなっ! 蒼炎魔法【蒼炎風】」
「ふふふ、それもそうですね。 霧魔術【ミストウェーブ】」
神聖属性を宿した蒼炎が激しい風と共に男へと向かうが巨大な霧の波とぶつかり二つの力は打ち消し合った
霧なのに質量を持っているのか、やっぱり一筋縄ではいかないな
強い力同士がぶつかった事により周囲の霧が少し晴れたのでシャロの方を一瞥すると、狐耳を持った女性と戦っており、攻撃を受け流すだけで自分からは攻撃できず一方的に攻撃されていた
あのままじゃ時間の問題だな、どうにか戦況を覆さないと
「霧魔術【ミストランス】」
辺りにある霧が槍を模り俺を囲み一度に攻撃するが空間把握で何とか避けるが避けても避けても周りの霧が槍になり襲い掛かってくる
まともにやってたらこちらの攻撃は当てられない… あれしかないな… だがあれは相手が油断していないと成功率は低い。 チャンスは一度きり外せば二人共死ぬだろう
「ぐっ…」
どうやって勝つか思考を巡らせていると、体をひ捻るのが少し遅れ槍が深く肉にめり込み鮮血が舞い膝をつく
「どうやらここまでの様ですね」
男が俺に決定的な一撃を与えたと思って油断している今がチャンス!
「シャロ下がれ! 蒼炎魔法【蒼炎連弾】」
ガトリングの様に無数の蒼い炎の球がシャロの戦っている女性に向かって飛んでいく
「は、はいなのです!」
「何をしているのですか? 今更もう一人のお客人を助けた所で…」
「空間魔法【チェンジ】」
「ん? ぐぅぉぉぉお!!」
男は俺の放った魔法が着弾し全身神聖な蒼い炎に包まれていた、もう助からないだろう
空間魔法【チェンジ】は対象にした者との場所を入れ替える魔法だ
敵を仕留めたと思った時が一番油断するんだぜ?! 少年誌でも呼んで勉強し直せ!
男は炎に焼かれながら…笑っていた
「これでやっと…」
彼はシャロと戦っていた女性に手を伸ばすが、その女性は全く別の方向を向いている
その手は彼女へと届く事はなく蒼白い炎に焼かれ消滅していくと周りを覆っていた霧の結界は晴れ、霧に囚われていた人々の姿も徐々に消えていく
そして俺は理解した。 何故彼が舞踏会という催しの最中不自然にホールの真ん中にいたのか
おそらく彼も俺達と同じ様に認識されていなかったのだろう、彼もまたここで一人だったのでは…
最後に手を伸ばした彼女に男は認識されたかったんだろうなぁ
幻を見せていた男が実は一番幻にかかりたかったのではないだろうか?…
今となって何故彼が人の魂を捕らえ幻を見せていたのかはわからないが…
いやもうやめよう彼の事を知った所でもう意味はない。
それに知れば知るほど心に霧がかる事になるのをアラトラスとの戦いで俺は学んでる
俺は思考を切り上げ傷だらけのシャロの下へと駆け寄った
「シャロ無事か?」
「何とか無事ですぅ… ショウさんも傷だらけなのですね」
「全然魔素も回復しないし、節約して戦ってたからね」
現在は霧が晴れた事により急速に回復している
「折角作ってくれた服がボロボロなのですよ」
シャロは残念そうに巫女服の袖をつかみ広げて見せた
「シャロが無事なのが一番だよ、またイレスティに治してもらおう」
俺はシャロの頭を撫でながら言う
「ショウさんはシャロが好きなのですか?」
彼女からは寒気を感じる程の危ない色気が漂っていて瞳の片方が紫になっていた
「俺は…俺はシャロの事…」
「しょう!」
窓が割れる破砕音と共に、女性の声が少し朦朧とした俺の耳に届いた
「いててて、フララか、どうしたの?」
「どうしたのじゃないわよ! どれだけ心配したと思ってるの!」
俺が後ろから聞こえて来た声に振り向くと同時に、フララが俺に飛び込んできて受け止めきれず倒れ込んでしまっていた
霧が晴れた事によってルーが俺の居場所を特定したのだろう。 特定厨乙
「ごめんね」
「無事でよかった…」
彼女は心底安心したように俺の胸に顔を埋めて来たので俺は優しく頭を撫でた
「…心配した。」
「ルー…」
俺がルーに気付くとフララが俺の上からどいたので俺は立ち上がって彼女を抱きしめた
ふわっと香るルーの香りが俺の鼻腔をくすぐり、俺を安心させる
この匂いなんだよなぁ… この匂いの香水があれば買い取るので是非ご一報下さい
「ごめん、心配かけた」
「…帰ってきてくれるなら何でもいい。」
彼女の抱きしめる腕に力が入る
「絶対に帰って来るよ、俺はルーより先に死ねない約束だからね」
「…ちゃんと守ってる様で何より。」
彼女は少し離れ女神の様に美しい笑顔で俺の頭を撫でた
その光景をシャロが何ともいえない表情で見ていることにフララが気付き手招きしながら口を開く
「シャロ、こっちへいらっしゃい」
「は、はいなのです」
緋袴をギュッと握りながら恐る恐る近づいてくるシャロをフララが優しく抱きしめる
「あなたも無事でよかったわ。 それと…」
フララが耳元で何かを囁いている
「………」
シャロの目は驚愕で見開かれ口をパクパクとさせていた
一体何を言ったのだろう?
「約束よ?」
「は、はい…」
シャロの表情は複雑だ
「よし、それじゃあ帰ろう!」
まだまだ転移出来る程回復は出来てないのでベリルを呼び出し空を飛んでエクランの城へと戻ると、安心したのか泣きそうになったイレスティを抱きしめ、ダイビングハグをしてきたエメを受け止めて頭を撫で、力になれず落ち込んでいるルチルと名作映画ごっこを再度行い、リンデには仕事をさぼった事をしっかりと怒られる…
膨大な魔素と魔力が一日で回復しない位消費してしまったので次の日の旅はお休みとしてその日は床に就いたのだが、心配させた罰としてルー、フララ、イレスティ、エメに体を貪られるご褒美を頂き一日を終えた
◇ ◇ ◇ ◇
「もう街の人達も大分元気になって来たわね」
「リンデとレデリの薬のおかげだね」
旅の続きは明日からなので今日は街の視察という名のただの散歩だ、お相手はリンデ。 昨日の四人はへとへとになってしまい動くことが出来ず、レデリは新薬開発の為に錬金室に籠り、ルチルはまだ寝ていたので消去法だ
「にしても凄い人気だなお前」
「当たり前じゃない、私は聖女よ?」
ドヤ顔の彼女だが、彼女は何処に行っても握手を求められたり、病気や傷を治してもらった事を感謝されたりと光属性全快だ
「はいはいゴリラ聖女乙」
「ゴリラなんていうのはあんた達だけよ、罰当たりね」
「罰って神様いないじゃん」
「そうね…」
やっぱりまだこれは整理ついてないのかな?
「どうしてリンデは神がいないと知ってもまだ聖女なんてやってんの?」
「確かに神はいないかもしれないけど、教えが間違ってるとは思わないのよ。」
「そっか、リンデは強いね」
「本当は強くなんてないのかも」
彼女がいつもの様に眩しく笑った
やっぱり強いよお前は、俺も見習わないと
その後も他愛もない話をしながら歩いていると孤児院の前に来たので、中に入ると子供達はすぐに気付きこちらへと駆け寄って来た。
特にリンデは大人気であちらこちらから手を引かれててんてこ舞いだ
「お、兄貴! 今日もさぼり?」
「ちげーよお前の髪型の視察だよ」
俺はストフにデコピンをかます
「イテッ! 昨日しっかり手入れしたからばっちりだよ!」
いつもより青々としている感じが何かやだ…
「そういえばあいつら元気にしてる?」
俺が殺さなかった王族の二人の事だ
「元気にやってるよ、二人共勉強が好きでさ、将来は兄貴の為に働くって張り切ってるんだ」
俺は彼、彼女に取って命の恩人的な物らしい。 そして二人とも子供とは思えない程優秀だ。 文官について仕事をしっかりと学んでる。
将来的には重要なポストを任せても問題ないだろう。
恨んで欲しくて生かしたのになぁ… なんてことを思いながら思わず苦笑いしてしまう
そして俺は先送りにしていた事に今回でケリをつけるつもりだ
「ストフちょっといいか」
「どうしたの兄貴? 改まっちゃって」
「ちょっとな」
俺はストフを少し離れた場所へと連れて行き、新しく小屋を建てるために置いてあった丸太の上に二人で腰を下ろした
「お前に言わなきゃいけない事がある」
滅多にない俺の真面目な表情を見てストフも緊張気味だ
「俺は…お前の父親を知ってる」
「え? そうなの? 誰?!」
「スリの元締めだった男いるだろう? あいつだよ」
「本当なの?! 確かに変に優しい時とかあって変な人だと思ってたけど… でもあの人死んだって…」
「…俺が…殺したんだ…」
俺は手に汗を大量にかきながら拳を強く握った。
こちらを向いていたストフが下を向き押し黙ると、そよ風が吹き体の体温を奪っていく
「なんとなくわかってたよ」
顔を上げた彼の表情に悲壮感はなかった
「え?」
「兄貴があのペンダントを俺に渡した時の表情がさ、何ていうか苦しそうっていうか… 仕方なかったんでしょ?」
「…ごめん」
「良いよ別に、父親っていう実感ないし。 それに今は兄貴の方が大事だしね!」
どいつもこいつも俺よりも強いやつばっかりでいかに自分が小さいかがわかる、みんな前向いてるんだよな。
俺なんて後ろを向きながら後ろ歩きで前に進んでる感じなのに
「そっか、ありがとう」
「何それ」
「俺の親友がよくやってたんだよ、まぁ気を許した者同士の挨拶みたいな感じ?」
俺はストフに拳を突き出していた
「へぇ、なんかゴリラの求愛みたいだね」
そう言って笑いながら拳を合わせて来る
「ははそうだな、これからもよろしくな、お前の助けが必要になると思うから」
「任せといてよ! 最近のオイラ凄いんだぜ? この前なんて…」
そうしてストフの他愛もない話を夕方まで聞いた、彼は本当に気にしている様子はなく、将来はこの街の為に色々やりたいと目を輝かせていた
そして夕食時になり今はリンデと一緒に城に帰る所だ
「言えたんだ」
リンデが笑顔で下から俺の顔を覗き込む、可愛すぎるのでやめてほしい
「よくわかったな」
「あんたの顔見たらわかるわよ」
「前は全然俺の顔見ても分からないなんて言ってたのに」
「それはルーメリアみたいに細かすぎる情報は顔からは読み取れないって事よ」
「リンデのおかげでもあるよ、なんていうかリンデを見てると前向きになれるんだよね」
「ははーんさては惚れたな? うりうりー」
リンデが目を細め俺をからかうように指をグリグリとしてくる…が
「あぁ…惚れたよ。 俺リンデが好きだわ」
完全に俺はリンデが好きだ。 彼女の眩しい笑顔や、真っすぐな所、他にも沢山好きな所がある。 もう誤魔化せない…
「な、何言ってんのよ、ばっかじゃないの? あ、あんたみたいな女誑しお断りなんだから! 早く帰るわよ!」
そう言って彼女は顔を真っ赤にしながら速足で行ってしまった
こりゃ長期戦になりそうだな… 頑張ろう…
俺は溜息と共に彼女の背中を追いかけた
そして次の朝になりシャロとの旅を再開すべく朝食と共に食堂で彼女を待っていたのだが…
「シャロが部屋に居ない?!」
俺の頭の中に膨大な情報が流れ込んで来る
敵の位置情報などが全てわかるのだが他の情報も大量に流れ込んで来るので【思考加速】を使っていても処理しきれず頭が痛くなるので余り使いたくない魔法だ
エメとのフィールド展開がいかに優秀か実感できる
「シャロ! 左斜めから二体!」
「はいなのです! 幻狐舞踊【火車の舞】」
シャロの扇子から飛び出した炎の輪が三体を捕らえ焼き尽くす
姿が見えなければ幽霊も怖くはないようだ、逆に助かった
「蒼炎魔法【蒼炎弾】」
頭の痛みを堪えながらも敵を確実に燃やしていく
「右後ろ三体来るぞ!」
「はいなのです! 幻狐舞踊【弄火の舞】 」
シャロは後方から迫ってきた敵を舞う様に華麗な動きで躱しながら燃え盛る扇子でレイス達を切り裂き確実に浄化していく
「中々やるようですねではこれではどうでしょう?幻霧魔術【幻影】 頼みましたよ」
霧で良くは見えないが、男が女性にそう告げている姿が黒い影でなんとなく理解出来た
戦術を変えて来たか… 次はどんな事を…
「?! ルー…か?」
「…そう。 どうして受け止めたの?」
俺は今突然何処からともなく現れたルーが放った大鎌の重い一撃を刀で受け止め、鍔迫り合いになる
「ふふふ、お客人の一番愛しい人なのだろう? 君に攻撃できるのかね?」
「………ふざけんな! 蒼炎二刀嘯風弄月流【鬼火】」
俺は一旦距離を取りルーの幻影を二刀流の居合で切り伏せた
「何だと?! 愛しい人を何故そんなに容易く切れる?!」
「あれがルーな訳がない! 俺の好きな匂いがしないじゃないか!」
毎日の様に彼女の香りをクンカクンカ堪能している俺だ、あの匂いだけでご飯三杯は行ける程好きな匂いを持たない彼女など彼女ではない!
「まさかそんな事で私の術を破るとは思いませんでしたよ。 まぁ一人足止め出来ただけでも良しとしましょう」
俺は換気扇から香る肉の焼ける匂いだけでご飯を食べれる位に匂いに敏感なのだ、匂いの力を見くびるな!
霧の中で良く見えないが、【空間把握】から入ってくる情報でシャロが誰かと対峙しているのはわかる。
それにかなり手こずっているようだ
「姑息な手を使いますね、それに幸せがどうのとか言いながら平気で使い捨てしてるじゃないですか」
俺は蒼炎刀でマスクをかぶった男を切るが霧となり消えてしまう
「それはそれ、これはこれなのですよ。」
うちはうち、他所は他所ってか? おかんルール持ちだすな!
「それに本当に大事な人は大事にしてますからご安心下さい」
そう言ってシャロの方に居る女性の方を見た
「安心って俺達関係ないけどなっ! 蒼炎魔法【蒼炎風】」
「ふふふ、それもそうですね。 霧魔術【ミストウェーブ】」
神聖属性を宿した蒼炎が激しい風と共に男へと向かうが巨大な霧の波とぶつかり二つの力は打ち消し合った
霧なのに質量を持っているのか、やっぱり一筋縄ではいかないな
強い力同士がぶつかった事により周囲の霧が少し晴れたのでシャロの方を一瞥すると、狐耳を持った女性と戦っており、攻撃を受け流すだけで自分からは攻撃できず一方的に攻撃されていた
あのままじゃ時間の問題だな、どうにか戦況を覆さないと
「霧魔術【ミストランス】」
辺りにある霧が槍を模り俺を囲み一度に攻撃するが空間把握で何とか避けるが避けても避けても周りの霧が槍になり襲い掛かってくる
まともにやってたらこちらの攻撃は当てられない… あれしかないな… だがあれは相手が油断していないと成功率は低い。 チャンスは一度きり外せば二人共死ぬだろう
「ぐっ…」
どうやって勝つか思考を巡らせていると、体をひ捻るのが少し遅れ槍が深く肉にめり込み鮮血が舞い膝をつく
「どうやらここまでの様ですね」
男が俺に決定的な一撃を与えたと思って油断している今がチャンス!
「シャロ下がれ! 蒼炎魔法【蒼炎連弾】」
ガトリングの様に無数の蒼い炎の球がシャロの戦っている女性に向かって飛んでいく
「は、はいなのです!」
「何をしているのですか? 今更もう一人のお客人を助けた所で…」
「空間魔法【チェンジ】」
「ん? ぐぅぉぉぉお!!」
男は俺の放った魔法が着弾し全身神聖な蒼い炎に包まれていた、もう助からないだろう
空間魔法【チェンジ】は対象にした者との場所を入れ替える魔法だ
敵を仕留めたと思った時が一番油断するんだぜ?! 少年誌でも呼んで勉強し直せ!
男は炎に焼かれながら…笑っていた
「これでやっと…」
彼はシャロと戦っていた女性に手を伸ばすが、その女性は全く別の方向を向いている
その手は彼女へと届く事はなく蒼白い炎に焼かれ消滅していくと周りを覆っていた霧の結界は晴れ、霧に囚われていた人々の姿も徐々に消えていく
そして俺は理解した。 何故彼が舞踏会という催しの最中不自然にホールの真ん中にいたのか
おそらく彼も俺達と同じ様に認識されていなかったのだろう、彼もまたここで一人だったのでは…
最後に手を伸ばした彼女に男は認識されたかったんだろうなぁ
幻を見せていた男が実は一番幻にかかりたかったのではないだろうか?…
今となって何故彼が人の魂を捕らえ幻を見せていたのかはわからないが…
いやもうやめよう彼の事を知った所でもう意味はない。
それに知れば知るほど心に霧がかる事になるのをアラトラスとの戦いで俺は学んでる
俺は思考を切り上げ傷だらけのシャロの下へと駆け寄った
「シャロ無事か?」
「何とか無事ですぅ… ショウさんも傷だらけなのですね」
「全然魔素も回復しないし、節約して戦ってたからね」
現在は霧が晴れた事により急速に回復している
「折角作ってくれた服がボロボロなのですよ」
シャロは残念そうに巫女服の袖をつかみ広げて見せた
「シャロが無事なのが一番だよ、またイレスティに治してもらおう」
俺はシャロの頭を撫でながら言う
「ショウさんはシャロが好きなのですか?」
彼女からは寒気を感じる程の危ない色気が漂っていて瞳の片方が紫になっていた
「俺は…俺はシャロの事…」
「しょう!」
窓が割れる破砕音と共に、女性の声が少し朦朧とした俺の耳に届いた
「いててて、フララか、どうしたの?」
「どうしたのじゃないわよ! どれだけ心配したと思ってるの!」
俺が後ろから聞こえて来た声に振り向くと同時に、フララが俺に飛び込んできて受け止めきれず倒れ込んでしまっていた
霧が晴れた事によってルーが俺の居場所を特定したのだろう。 特定厨乙
「ごめんね」
「無事でよかった…」
彼女は心底安心したように俺の胸に顔を埋めて来たので俺は優しく頭を撫でた
「…心配した。」
「ルー…」
俺がルーに気付くとフララが俺の上からどいたので俺は立ち上がって彼女を抱きしめた
ふわっと香るルーの香りが俺の鼻腔をくすぐり、俺を安心させる
この匂いなんだよなぁ… この匂いの香水があれば買い取るので是非ご一報下さい
「ごめん、心配かけた」
「…帰ってきてくれるなら何でもいい。」
彼女の抱きしめる腕に力が入る
「絶対に帰って来るよ、俺はルーより先に死ねない約束だからね」
「…ちゃんと守ってる様で何より。」
彼女は少し離れ女神の様に美しい笑顔で俺の頭を撫でた
その光景をシャロが何ともいえない表情で見ていることにフララが気付き手招きしながら口を開く
「シャロ、こっちへいらっしゃい」
「は、はいなのです」
緋袴をギュッと握りながら恐る恐る近づいてくるシャロをフララが優しく抱きしめる
「あなたも無事でよかったわ。 それと…」
フララが耳元で何かを囁いている
「………」
シャロの目は驚愕で見開かれ口をパクパクとさせていた
一体何を言ったのだろう?
「約束よ?」
「は、はい…」
シャロの表情は複雑だ
「よし、それじゃあ帰ろう!」
まだまだ転移出来る程回復は出来てないのでベリルを呼び出し空を飛んでエクランの城へと戻ると、安心したのか泣きそうになったイレスティを抱きしめ、ダイビングハグをしてきたエメを受け止めて頭を撫で、力になれず落ち込んでいるルチルと名作映画ごっこを再度行い、リンデには仕事をさぼった事をしっかりと怒られる…
膨大な魔素と魔力が一日で回復しない位消費してしまったので次の日の旅はお休みとしてその日は床に就いたのだが、心配させた罰としてルー、フララ、イレスティ、エメに体を貪られるご褒美を頂き一日を終えた
◇ ◇ ◇ ◇
「もう街の人達も大分元気になって来たわね」
「リンデとレデリの薬のおかげだね」
旅の続きは明日からなので今日は街の視察という名のただの散歩だ、お相手はリンデ。 昨日の四人はへとへとになってしまい動くことが出来ず、レデリは新薬開発の為に錬金室に籠り、ルチルはまだ寝ていたので消去法だ
「にしても凄い人気だなお前」
「当たり前じゃない、私は聖女よ?」
ドヤ顔の彼女だが、彼女は何処に行っても握手を求められたり、病気や傷を治してもらった事を感謝されたりと光属性全快だ
「はいはいゴリラ聖女乙」
「ゴリラなんていうのはあんた達だけよ、罰当たりね」
「罰って神様いないじゃん」
「そうね…」
やっぱりまだこれは整理ついてないのかな?
「どうしてリンデは神がいないと知ってもまだ聖女なんてやってんの?」
「確かに神はいないかもしれないけど、教えが間違ってるとは思わないのよ。」
「そっか、リンデは強いね」
「本当は強くなんてないのかも」
彼女がいつもの様に眩しく笑った
やっぱり強いよお前は、俺も見習わないと
その後も他愛もない話をしながら歩いていると孤児院の前に来たので、中に入ると子供達はすぐに気付きこちらへと駆け寄って来た。
特にリンデは大人気であちらこちらから手を引かれててんてこ舞いだ
「お、兄貴! 今日もさぼり?」
「ちげーよお前の髪型の視察だよ」
俺はストフにデコピンをかます
「イテッ! 昨日しっかり手入れしたからばっちりだよ!」
いつもより青々としている感じが何かやだ…
「そういえばあいつら元気にしてる?」
俺が殺さなかった王族の二人の事だ
「元気にやってるよ、二人共勉強が好きでさ、将来は兄貴の為に働くって張り切ってるんだ」
俺は彼、彼女に取って命の恩人的な物らしい。 そして二人とも子供とは思えない程優秀だ。 文官について仕事をしっかりと学んでる。
将来的には重要なポストを任せても問題ないだろう。
恨んで欲しくて生かしたのになぁ… なんてことを思いながら思わず苦笑いしてしまう
そして俺は先送りにしていた事に今回でケリをつけるつもりだ
「ストフちょっといいか」
「どうしたの兄貴? 改まっちゃって」
「ちょっとな」
俺はストフを少し離れた場所へと連れて行き、新しく小屋を建てるために置いてあった丸太の上に二人で腰を下ろした
「お前に言わなきゃいけない事がある」
滅多にない俺の真面目な表情を見てストフも緊張気味だ
「俺は…お前の父親を知ってる」
「え? そうなの? 誰?!」
「スリの元締めだった男いるだろう? あいつだよ」
「本当なの?! 確かに変に優しい時とかあって変な人だと思ってたけど… でもあの人死んだって…」
「…俺が…殺したんだ…」
俺は手に汗を大量にかきながら拳を強く握った。
こちらを向いていたストフが下を向き押し黙ると、そよ風が吹き体の体温を奪っていく
「なんとなくわかってたよ」
顔を上げた彼の表情に悲壮感はなかった
「え?」
「兄貴があのペンダントを俺に渡した時の表情がさ、何ていうか苦しそうっていうか… 仕方なかったんでしょ?」
「…ごめん」
「良いよ別に、父親っていう実感ないし。 それに今は兄貴の方が大事だしね!」
どいつもこいつも俺よりも強いやつばっかりでいかに自分が小さいかがわかる、みんな前向いてるんだよな。
俺なんて後ろを向きながら後ろ歩きで前に進んでる感じなのに
「そっか、ありがとう」
「何それ」
「俺の親友がよくやってたんだよ、まぁ気を許した者同士の挨拶みたいな感じ?」
俺はストフに拳を突き出していた
「へぇ、なんかゴリラの求愛みたいだね」
そう言って笑いながら拳を合わせて来る
「ははそうだな、これからもよろしくな、お前の助けが必要になると思うから」
「任せといてよ! 最近のオイラ凄いんだぜ? この前なんて…」
そうしてストフの他愛もない話を夕方まで聞いた、彼は本当に気にしている様子はなく、将来はこの街の為に色々やりたいと目を輝かせていた
そして夕食時になり今はリンデと一緒に城に帰る所だ
「言えたんだ」
リンデが笑顔で下から俺の顔を覗き込む、可愛すぎるのでやめてほしい
「よくわかったな」
「あんたの顔見たらわかるわよ」
「前は全然俺の顔見ても分からないなんて言ってたのに」
「それはルーメリアみたいに細かすぎる情報は顔からは読み取れないって事よ」
「リンデのおかげでもあるよ、なんていうかリンデを見てると前向きになれるんだよね」
「ははーんさては惚れたな? うりうりー」
リンデが目を細め俺をからかうように指をグリグリとしてくる…が
「あぁ…惚れたよ。 俺リンデが好きだわ」
完全に俺はリンデが好きだ。 彼女の眩しい笑顔や、真っすぐな所、他にも沢山好きな所がある。 もう誤魔化せない…
「な、何言ってんのよ、ばっかじゃないの? あ、あんたみたいな女誑しお断りなんだから! 早く帰るわよ!」
そう言って彼女は顔を真っ赤にしながら速足で行ってしまった
こりゃ長期戦になりそうだな… 頑張ろう…
俺は溜息と共に彼女の背中を追いかけた
そして次の朝になりシャロとの旅を再開すべく朝食と共に食堂で彼女を待っていたのだが…
「シャロが部屋に居ない?!」
0
あなたにおすすめの小説
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~
専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。
ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎
アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。
この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。
ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。
少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。
更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。
そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。
少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。
どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。
少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。
冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。
すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く…
果たして、その可能性とは⁉
HOTランキングは、最高は2位でした。
皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°.
でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる