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第七十五話 はっはっはっ…何処へ行こうと言うのかね?
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ショウ達の住む街、エクラン近くの草原で狐耳巫女服の少女が五体のオークと戦っていた
二枚の扇子を広げてオークの棍棒を使った強力な一撃を受け流しては切り裂き、着実に仕留めていていたのだが、華麗に宙を舞い着地する時に草履の鼻緒が切れバランスを崩してしまい、前から地面へと倒れ込んでしまう
そして倒れ込んだ彼女の背中を三体になったオーク達の棍棒が襲う
「ぐはぁ!」
棍棒で殴る鈍い音が何度もその場に木霊し、体を迸る痛みに耐えながら彼女は吐血し、走馬灯の様にこれまでの人生を振り返り思わず言葉が漏れる
「退屈な人生だったなぁ… 」
彼女の人生に楽しい思い出など殆ど何もなかった。
思い出されたのはただ一つの物だけを望み、震えながら怯えて過ごした毎日…
彼女が欲しかった物はたった一つだけ。
だがそれが手に入る事はなかった。
散々棍棒で殴り倒し抵抗出来ないほど弱らせた後はオーク達のお楽しみの時間だ。
ボロボロになった彼女をひっくり返し、足袋以外を引き裂いた
引き裂かれた巫女服の間から、豊満で弾力のある艶やかな胸が露わになりオーク達の興奮も最高潮だ
いやらしい笑みを醜い顔に貼り付けながら彼女に覆いかぶさり彼女の体を弄る
女としてただ体を使われるという絶望的状況なのだが、彼女は口元を土と血で汚しながら笑みを浮かべていた
最近その身に起きた事を思い出したのだ、みんなで食べた騒がしい食卓、誰かと旅する楽しさ、初めて経験した異性の唇の感触、抱きしめられた時に感じた純粋な優しさ…
全てここ何日かの事なのに、それが彼女の経験した楽しい事、嬉しい事の全てだった
思い出すだけで心が温かくなり、そして苦しくなる。
苦しくなる原因は彼女しか知らないが、それから逃げる様にショウ達の所から出てきてしまったのだ。
瞳はすでに光を失い朦朧とした意識で醜いオークの顔を見ていると、突然オークの首が何かに切断され醜い笑みを浮かべたまま彼女の胸元にズルリと落ち彼女の胸は断面から流れ出る血に汚され、両脇に居た残りのオーク達も見覚えのある蒼白いに焼かれて塵と化す
そして彼女の楽しく嬉しかった記憶の全ての中心にいる人物の声が、朦朧とした意識でもしっかりと彼女の鼓膜を震わせた
「シャロ! 大丈夫?!」
俺は慌てて彼女へと駆け寄りオークをどかしぐったりとしている彼女を起こした
「ショウさん…どうして来たですか…」
「どうしてってまだ依頼も終わってないし、シャロを守るって約束したじゃん」
「それはどっちのショウさんがどっちのシャロをですか?」
彼女は時々わけのわからない事を言う。 今はオークにぼこぼこにやられて混乱しているのだろう
「【リカバリー】これで少しは落ち着いた?」
「はい… ありがとうなのです…」
女の子座りで胸を隠しながら耳が垂れ下がっていた
「どうして何も言わずにいなくなったの?」
「それは… シャロがショウさんを危ない目に遭わせてしまったからなのです…」
おそらく嘘だ。 でも聞いても本当の事は言ってくれないだろう
「冒険者なんだから当たり前だろ、全く…どこへ行こうというのかね?」
「ショウさん… なんだかその言い方、はっはっはって笑い声が聞こえてくるようで非常に嫌なのです。」
何処の大佐だよ
グゥゥ
シャロのお腹の音が俺達の会話を遮る
「ははは、シャロ朝まだなんでしょ? 一緒に食べよう! みんな待ってるから! 早く帰らないとルチルがうるさいぞ」
俺は立ち上がり、そっと手を差し出しすと、シャロもその手を取り立ち上がる
「はい! 帰るです!」
シャロもまた何か抱えているんだろう、道中聞いた家族の事などを聞いた事があるが浮かない顔をしていたのを思い出す
いつか話したくなったら話してくれるだろう
【転移】で家まで戻りいつもの様にがやがやと食卓を囲んだのだが、何でもない事なのにシャロの表情は本当に楽しそうで誰よりもはしゃいでいた
俺はこの子の笑顔の為ならなんだって出来る。 愛しい人を殺す事さえ… 愛しい人を殺す? 何故?
最近たまにありえない事を考えてしまう事が増えた、何かが俺の思考を少しづつ蝕んで行くような…
◇ ◇ ◇ ◇
旅の続きをするために転移で最終地点まで戻ろうかと思ったのだが、最後が海上だったのと、シャロが何か約束があるらしく今日中には着きたいと懇願されたのでベリルに乗ってそのまま空から草人国家ヴァルゼンへと入国することになった
シャロのお願いは何故か断れる気がしない。 まるで一番愛してるルーにお願いされてる時のように。 一番…愛してる?
「ご主人様どうかされましたか?」
「お兄ちゃんは基本的にいつでもボーっととしてるからね」
「そうなのじゃ、主様の引き締まった顔なんぞ滅多に拝める物ではないと思うがの」
「酷いなお前ら」
今回の旅のお供はイレスティ、ルチル、エメだ。
イレスティは一緒に依頼を受けたので必須だし、ルチルは前回中途半端であったので続きだ。
エメに取って草人は眷属の様な物で女王とも知り合いなので久々に会いたいという事でついて来た
暫くベリルに乗り空の旅を楽しんでいると大きな町が見えてくる
「あそこが草人国家ヴァルゼンなのです!」
シャロが指さした先には雲を超える高さの巨大な大樹が聳え立っており俺は思わず息をのんだ
「世界樹きたーーーー?!」
「お兄ちゃん…世界樹なんて存在しないよ」
「………え?! あのでかさだよ?! 世界一でかい樹でしょ?」
「世界一大きいのはそうだけど、あの樹は賢者の樹って呼ばれてるよ」
「嘘だろ?! 大体世界一大きい樹って世界樹とかユグドラシルっていうのが基本じゃないか」
「もうお兄ちゃんは本当にファンタジー脳なんだから。 あの樹の雫で味方全員が回復したり、葉っぱで誰かを生き返らせたりとかできないからね!」
「それぐらいはわかってるわ!」
「でもあのおじいちゃんは、色々な事知ってるから聞いてみたらいいよ」
「俺でも樹と話し出来るの?」
「出来るよ、意思があるから」
それもかなりファンタジーだな
大精霊の事やSSS級モンスターの事も何か知っているのかもしれないな
俺達は少し離れて場所で降ろしてもらい
ヴァルゼンへと向かう
「ここ門番とかいないのか?」
「あの人みたいにあの樹の穴にステータスカードを入れれば自動的に入国審査は終わるのです、凶悪な犯罪者などは…」
「うわ! なんだこれ?! 離せ! わぁぁあああ!」
小汚い格好の男に樹が巻き付き、遠くへと乱雑に投げ飛ばした
「あんなふうに弾いてくれるのです」
地球でも色々な所が無人化が進んでいたけど、入国審査なんかはまだまだ無理そうだった。
それを思ったらかなり進んでそうな国だな、機械の代わりに自立的に動く樹が色々やってくれる感じかな?
サクサクと進みすぐに俺達の番になり無事に入国できた
門を潜ると建造物全てが木で出来ており、木独特の温かみのある味わい深い建物ばかりだ。
そして冬だというのに青々と生い茂る樹々や、色とりどり花々がそこらかしこにあり、街中花のいい匂いで満ちていた
街には髪が草の者や、手足が樹の根であったり、見た目は人間だか頭に花が咲いているパリピの様な者であったり、様々な草人が7割を占め、獣人が2割、普通の人間が1割といった所だ
そして入国してすぐに問題が起こった…
「貴方様は!」
近くにいた一人の者がこちらに気付き物凄い勢いで駆け寄り跪いた
「樹の大精霊様… まさかお見掛けする事が出来るなんて」
そう彼らにはエメが大精霊だと一発でバレる、それに神として信仰の対象なのでエメを見るや否や泣き出す者までいるのだ
他の者もすぐにエメに気付き人がわんさか集まり渋谷のハロウィンの様な状態になる
あんな所に行くパリピは仮装なぞしていなくてもボッチで人見知りの俺からすればすでにモンスターだ!
マネーオアトリートなんて言いながらカツアゲされる未来しか見えてこない!
「エ、エメ! 何とかしてくれ!」
「な、何とかって言われても… あ、この人はエメの伴侶だからもっと大事にして!」
「大精霊様の伴侶?! ありがたやありがたや…」
俺の方にも少しでも近づこうと人がわんさかやって来た
「おい余計に悪化させんな!」
「そんな事言われても… 無理!」
エメはすっと俺の中に逃げ込んだ
『卑怯だぞ!』
『エメがいる方が騒ぎが大きくなるから!』
それもそうか
「みんな逃げるぞ!」
「ご、ご主人様?!」
俺はイレスティをお姫様抱っこしていた。 なんだか懐かしい
強くなったとは言えまだまだ俊敏性が乏しいイレスティなのだ
そうして嬉しそうに自分の噛み跡を擦るイレスティを抱きかかえたまま、建物の上を忍者の様に飛び跳ねて移動することで何とか熱狂的な信者達を撒けたので、偶然近くにあった冒険者ギルドへと依頼完了の報告をしに中へと入る
イレスティを下ろした時に、あっと思わず名残惜しそうな顔で漏らした切ない声がとても可愛くご飯4杯は行けた
「一時はどうなる事かと思ったよ」
「大変でしたね…」
「でも結構わらわ楽しかったのじゃ」
「シャロはもういやなのですー」
『しばらくはお兄ちゃんの中にいるね』
『了解』
俺達がぐったりとしながら列に並んでいると屈強な大男が下品な笑い声を上げながらやって来た
「がははは! お前いい女連れてるじゃねぇーか! 俺にもおこぼれくれよ!」
と言いながら俺の肩に手を置かれたので、俺は思わずため息をついた
「はいはい、並んでる所間違ってるんでしょ? あっちでした? 親切にありがとうございます」
「お、おう。 知ってたのかよ。 邪魔して悪かったな」
男はそう言い残し去っていく
俺にはテンプレ展開なんて起こらない事がすでにテンプレ化してんだよ! 残念だったながはははは!
『お、お兄ちゃんが成長している?! 一体どこに向かっているというのかね?!』
『考えてみたら? 三分待ってやる。』
『そっちに寄せるのはやめてよお兄ちゃん…』
『お前発信だろうに…』
下らないやり取りを心の中でしているとシャロが口を開いた
「シャロが先に報告してくるのでショウさん達は待っててほしいのです」
「ん? 別に一緒で良くないか? …わかった待ってるよ」
あれ? 何で俺了承したんだ?
そうしてシャロは一人報告をしに行く背を俺を見ていた
「ご主人様どうかされました?」
「なぁシャロって時々目紫にならない? 後なんて言うかゾクリと感じる時があったり」
「私は特に何も感じませんが…」
「わらわも思った事ないの」
「そっか…」
暫くするとシャロが戻ってきたので入れ違いに俺達が報告へと行くとイレスティはBランクへと無事昇格し大層喜んでいた
俺達はギルドでの用事も終わり外に出たのだが…
依頼も終わったしシャロとはお別れか…なんか寂しいな…
「これからどうするの?」
「シャロはここでの用事を済ませた後デルベックへ帰るのです」
「そうなんだ、俺達もデルベックに行く予定だから一緒に行かない?」
「いいのです?!」
そんな事を言われると思ってなかったのか耳がピンと立ち尻尾がゆらゆらと揺れていた
「勿論!」
「わーい嬉しいのです!」
そう言って俺に抱き着き頭をグリグリ押し付ける彼女の頭を優しく撫でると嬉しそうに目を細めた
「それじゃあ用事済ましておいで、終わったらエクランに戻ろう」
「用事は夜なのですよ… なので今日はこの街に泊って行くというのはどうなのです?」
シャロはこの街に泊って行きたい様だ
「いやーでもなー」
ルー達も向こうで待ってるし…
「そうしようか!」
あれ? 何でよく考えずにまた了承したんだ?
まぁみんな呼んでこの街を観光するのもありだな
冒険者ギルドでおすすめの宿を聞き、一番広い部屋を借りてみんなを呼んでこの街を夜になるまで観光した
とても陽気な街で、そこら中にパフォーマーがおり街中に笑顔が溢れている。
治安もとてもよく子供一人でも出歩いているのをよく見かけた。 自律的に街のそこらかしこに生えている樹々が犯罪を取り締まってくれているようだ
料理も野菜中心だったのだが肉の様な味がする野菜なんかもありとても満足できる物ばかりだった。
とても気に入ったのでエメにエクランでも栽培してもらおう
そして夜…
シャロに後でサロンで話がしたいと呼び出された
「シャロどうかしたの?」
俺はシャロに呼び出された宿のサロンへと向かい、先に席についていた彼女の前に座る
「遅くに呼び出してごめんなさいなのです… 実は…」
そして彼女が一瞬止まり、口を開いたのだが俺は何を話したのか内容を全く覚えてない…
彼女の瞳の片方が紫色に妖しく光っていた事以外は…
二枚の扇子を広げてオークの棍棒を使った強力な一撃を受け流しては切り裂き、着実に仕留めていていたのだが、華麗に宙を舞い着地する時に草履の鼻緒が切れバランスを崩してしまい、前から地面へと倒れ込んでしまう
そして倒れ込んだ彼女の背中を三体になったオーク達の棍棒が襲う
「ぐはぁ!」
棍棒で殴る鈍い音が何度もその場に木霊し、体を迸る痛みに耐えながら彼女は吐血し、走馬灯の様にこれまでの人生を振り返り思わず言葉が漏れる
「退屈な人生だったなぁ… 」
彼女の人生に楽しい思い出など殆ど何もなかった。
思い出されたのはただ一つの物だけを望み、震えながら怯えて過ごした毎日…
彼女が欲しかった物はたった一つだけ。
だがそれが手に入る事はなかった。
散々棍棒で殴り倒し抵抗出来ないほど弱らせた後はオーク達のお楽しみの時間だ。
ボロボロになった彼女をひっくり返し、足袋以外を引き裂いた
引き裂かれた巫女服の間から、豊満で弾力のある艶やかな胸が露わになりオーク達の興奮も最高潮だ
いやらしい笑みを醜い顔に貼り付けながら彼女に覆いかぶさり彼女の体を弄る
女としてただ体を使われるという絶望的状況なのだが、彼女は口元を土と血で汚しながら笑みを浮かべていた
最近その身に起きた事を思い出したのだ、みんなで食べた騒がしい食卓、誰かと旅する楽しさ、初めて経験した異性の唇の感触、抱きしめられた時に感じた純粋な優しさ…
全てここ何日かの事なのに、それが彼女の経験した楽しい事、嬉しい事の全てだった
思い出すだけで心が温かくなり、そして苦しくなる。
苦しくなる原因は彼女しか知らないが、それから逃げる様にショウ達の所から出てきてしまったのだ。
瞳はすでに光を失い朦朧とした意識で醜いオークの顔を見ていると、突然オークの首が何かに切断され醜い笑みを浮かべたまま彼女の胸元にズルリと落ち彼女の胸は断面から流れ出る血に汚され、両脇に居た残りのオーク達も見覚えのある蒼白いに焼かれて塵と化す
そして彼女の楽しく嬉しかった記憶の全ての中心にいる人物の声が、朦朧とした意識でもしっかりと彼女の鼓膜を震わせた
「シャロ! 大丈夫?!」
俺は慌てて彼女へと駆け寄りオークをどかしぐったりとしている彼女を起こした
「ショウさん…どうして来たですか…」
「どうしてってまだ依頼も終わってないし、シャロを守るって約束したじゃん」
「それはどっちのショウさんがどっちのシャロをですか?」
彼女は時々わけのわからない事を言う。 今はオークにぼこぼこにやられて混乱しているのだろう
「【リカバリー】これで少しは落ち着いた?」
「はい… ありがとうなのです…」
女の子座りで胸を隠しながら耳が垂れ下がっていた
「どうして何も言わずにいなくなったの?」
「それは… シャロがショウさんを危ない目に遭わせてしまったからなのです…」
おそらく嘘だ。 でも聞いても本当の事は言ってくれないだろう
「冒険者なんだから当たり前だろ、全く…どこへ行こうというのかね?」
「ショウさん… なんだかその言い方、はっはっはって笑い声が聞こえてくるようで非常に嫌なのです。」
何処の大佐だよ
グゥゥ
シャロのお腹の音が俺達の会話を遮る
「ははは、シャロ朝まだなんでしょ? 一緒に食べよう! みんな待ってるから! 早く帰らないとルチルがうるさいぞ」
俺は立ち上がり、そっと手を差し出しすと、シャロもその手を取り立ち上がる
「はい! 帰るです!」
シャロもまた何か抱えているんだろう、道中聞いた家族の事などを聞いた事があるが浮かない顔をしていたのを思い出す
いつか話したくなったら話してくれるだろう
【転移】で家まで戻りいつもの様にがやがやと食卓を囲んだのだが、何でもない事なのにシャロの表情は本当に楽しそうで誰よりもはしゃいでいた
俺はこの子の笑顔の為ならなんだって出来る。 愛しい人を殺す事さえ… 愛しい人を殺す? 何故?
最近たまにありえない事を考えてしまう事が増えた、何かが俺の思考を少しづつ蝕んで行くような…
◇ ◇ ◇ ◇
旅の続きをするために転移で最終地点まで戻ろうかと思ったのだが、最後が海上だったのと、シャロが何か約束があるらしく今日中には着きたいと懇願されたのでベリルに乗ってそのまま空から草人国家ヴァルゼンへと入国することになった
シャロのお願いは何故か断れる気がしない。 まるで一番愛してるルーにお願いされてる時のように。 一番…愛してる?
「ご主人様どうかされましたか?」
「お兄ちゃんは基本的にいつでもボーっととしてるからね」
「そうなのじゃ、主様の引き締まった顔なんぞ滅多に拝める物ではないと思うがの」
「酷いなお前ら」
今回の旅のお供はイレスティ、ルチル、エメだ。
イレスティは一緒に依頼を受けたので必須だし、ルチルは前回中途半端であったので続きだ。
エメに取って草人は眷属の様な物で女王とも知り合いなので久々に会いたいという事でついて来た
暫くベリルに乗り空の旅を楽しんでいると大きな町が見えてくる
「あそこが草人国家ヴァルゼンなのです!」
シャロが指さした先には雲を超える高さの巨大な大樹が聳え立っており俺は思わず息をのんだ
「世界樹きたーーーー?!」
「お兄ちゃん…世界樹なんて存在しないよ」
「………え?! あのでかさだよ?! 世界一でかい樹でしょ?」
「世界一大きいのはそうだけど、あの樹は賢者の樹って呼ばれてるよ」
「嘘だろ?! 大体世界一大きい樹って世界樹とかユグドラシルっていうのが基本じゃないか」
「もうお兄ちゃんは本当にファンタジー脳なんだから。 あの樹の雫で味方全員が回復したり、葉っぱで誰かを生き返らせたりとかできないからね!」
「それぐらいはわかってるわ!」
「でもあのおじいちゃんは、色々な事知ってるから聞いてみたらいいよ」
「俺でも樹と話し出来るの?」
「出来るよ、意思があるから」
それもかなりファンタジーだな
大精霊の事やSSS級モンスターの事も何か知っているのかもしれないな
俺達は少し離れて場所で降ろしてもらい
ヴァルゼンへと向かう
「ここ門番とかいないのか?」
「あの人みたいにあの樹の穴にステータスカードを入れれば自動的に入国審査は終わるのです、凶悪な犯罪者などは…」
「うわ! なんだこれ?! 離せ! わぁぁあああ!」
小汚い格好の男に樹が巻き付き、遠くへと乱雑に投げ飛ばした
「あんなふうに弾いてくれるのです」
地球でも色々な所が無人化が進んでいたけど、入国審査なんかはまだまだ無理そうだった。
それを思ったらかなり進んでそうな国だな、機械の代わりに自立的に動く樹が色々やってくれる感じかな?
サクサクと進みすぐに俺達の番になり無事に入国できた
門を潜ると建造物全てが木で出来ており、木独特の温かみのある味わい深い建物ばかりだ。
そして冬だというのに青々と生い茂る樹々や、色とりどり花々がそこらかしこにあり、街中花のいい匂いで満ちていた
街には髪が草の者や、手足が樹の根であったり、見た目は人間だか頭に花が咲いているパリピの様な者であったり、様々な草人が7割を占め、獣人が2割、普通の人間が1割といった所だ
そして入国してすぐに問題が起こった…
「貴方様は!」
近くにいた一人の者がこちらに気付き物凄い勢いで駆け寄り跪いた
「樹の大精霊様… まさかお見掛けする事が出来るなんて」
そう彼らにはエメが大精霊だと一発でバレる、それに神として信仰の対象なのでエメを見るや否や泣き出す者までいるのだ
他の者もすぐにエメに気付き人がわんさか集まり渋谷のハロウィンの様な状態になる
あんな所に行くパリピは仮装なぞしていなくてもボッチで人見知りの俺からすればすでにモンスターだ!
マネーオアトリートなんて言いながらカツアゲされる未来しか見えてこない!
「エ、エメ! 何とかしてくれ!」
「な、何とかって言われても… あ、この人はエメの伴侶だからもっと大事にして!」
「大精霊様の伴侶?! ありがたやありがたや…」
俺の方にも少しでも近づこうと人がわんさかやって来た
「おい余計に悪化させんな!」
「そんな事言われても… 無理!」
エメはすっと俺の中に逃げ込んだ
『卑怯だぞ!』
『エメがいる方が騒ぎが大きくなるから!』
それもそうか
「みんな逃げるぞ!」
「ご、ご主人様?!」
俺はイレスティをお姫様抱っこしていた。 なんだか懐かしい
強くなったとは言えまだまだ俊敏性が乏しいイレスティなのだ
そうして嬉しそうに自分の噛み跡を擦るイレスティを抱きかかえたまま、建物の上を忍者の様に飛び跳ねて移動することで何とか熱狂的な信者達を撒けたので、偶然近くにあった冒険者ギルドへと依頼完了の報告をしに中へと入る
イレスティを下ろした時に、あっと思わず名残惜しそうな顔で漏らした切ない声がとても可愛くご飯4杯は行けた
「一時はどうなる事かと思ったよ」
「大変でしたね…」
「でも結構わらわ楽しかったのじゃ」
「シャロはもういやなのですー」
『しばらくはお兄ちゃんの中にいるね』
『了解』
俺達がぐったりとしながら列に並んでいると屈強な大男が下品な笑い声を上げながらやって来た
「がははは! お前いい女連れてるじゃねぇーか! 俺にもおこぼれくれよ!」
と言いながら俺の肩に手を置かれたので、俺は思わずため息をついた
「はいはい、並んでる所間違ってるんでしょ? あっちでした? 親切にありがとうございます」
「お、おう。 知ってたのかよ。 邪魔して悪かったな」
男はそう言い残し去っていく
俺にはテンプレ展開なんて起こらない事がすでにテンプレ化してんだよ! 残念だったながはははは!
『お、お兄ちゃんが成長している?! 一体どこに向かっているというのかね?!』
『考えてみたら? 三分待ってやる。』
『そっちに寄せるのはやめてよお兄ちゃん…』
『お前発信だろうに…』
下らないやり取りを心の中でしているとシャロが口を開いた
「シャロが先に報告してくるのでショウさん達は待っててほしいのです」
「ん? 別に一緒で良くないか? …わかった待ってるよ」
あれ? 何で俺了承したんだ?
そうしてシャロは一人報告をしに行く背を俺を見ていた
「ご主人様どうかされました?」
「なぁシャロって時々目紫にならない? 後なんて言うかゾクリと感じる時があったり」
「私は特に何も感じませんが…」
「わらわも思った事ないの」
「そっか…」
暫くするとシャロが戻ってきたので入れ違いに俺達が報告へと行くとイレスティはBランクへと無事昇格し大層喜んでいた
俺達はギルドでの用事も終わり外に出たのだが…
依頼も終わったしシャロとはお別れか…なんか寂しいな…
「これからどうするの?」
「シャロはここでの用事を済ませた後デルベックへ帰るのです」
「そうなんだ、俺達もデルベックに行く予定だから一緒に行かない?」
「いいのです?!」
そんな事を言われると思ってなかったのか耳がピンと立ち尻尾がゆらゆらと揺れていた
「勿論!」
「わーい嬉しいのです!」
そう言って俺に抱き着き頭をグリグリ押し付ける彼女の頭を優しく撫でると嬉しそうに目を細めた
「それじゃあ用事済ましておいで、終わったらエクランに戻ろう」
「用事は夜なのですよ… なので今日はこの街に泊って行くというのはどうなのです?」
シャロはこの街に泊って行きたい様だ
「いやーでもなー」
ルー達も向こうで待ってるし…
「そうしようか!」
あれ? 何でよく考えずにまた了承したんだ?
まぁみんな呼んでこの街を観光するのもありだな
冒険者ギルドでおすすめの宿を聞き、一番広い部屋を借りてみんなを呼んでこの街を夜になるまで観光した
とても陽気な街で、そこら中にパフォーマーがおり街中に笑顔が溢れている。
治安もとてもよく子供一人でも出歩いているのをよく見かけた。 自律的に街のそこらかしこに生えている樹々が犯罪を取り締まってくれているようだ
料理も野菜中心だったのだが肉の様な味がする野菜なんかもありとても満足できる物ばかりだった。
とても気に入ったのでエメにエクランでも栽培してもらおう
そして夜…
シャロに後でサロンで話がしたいと呼び出された
「シャロどうかしたの?」
俺はシャロに呼び出された宿のサロンへと向かい、先に席についていた彼女の前に座る
「遅くに呼び出してごめんなさいなのです… 実は…」
そして彼女が一瞬止まり、口を開いたのだが俺は何を話したのか内容を全く覚えてない…
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【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
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