蒼炎の魔法使い

山野

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第七十六話 ケモミミは別腹

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冬の寒さが本格化した朝、隣で寝ているルーが寝返りを打った時に出来た隙間から入ってくる冷たい空気に意識を覚醒させられ温もりを求めて背中からルーを抱きしめながら綺麗な銀髪から香る匂いを堪能する

「もうすっかり冬だなぁ…」

「うぅ~ん… おはよう…どうしたの?」
全身でホールドする俺にルーはやや苦笑い気味のご様子だ

「寒くてさ…」

「…もうすっかり冬だから。 そろそろ雪も降る。」

「この季節は終わってから寝る前に服を着た方がいいかもね」
いつも営んだ後は裸で寝るのだがこの季節は朝が辛い

「…断固拒否。」

「何で?!」

「…ショウの温もりを直に感じたいから。」
はぁ可愛い

そんな幸せな朝を迎えているとドアが開きイレスティが入ってきて口を開いた

「ご主人様お客様がお見えになっております」

「こんな朝に?」

「はい、何でもお城から来られたみたいでお願いしたい事があるそうです」

「わかったよ、準備する」

「お召し物はこちらをどうぞ、サロンでお待ちしているそうです」

「了解」
そう言って彼女から渡されたローブを着て広い部屋を出てサロンへと向かう
昨日もシャロとサロンで話したんだよなぁ… その後の記憶がなくて、ルーにいきなり何処行ってたのか聞かれたけど外に出た事すら覚えてないからな…

自分に闇魔法【サイコメトリー】をかけて読み取ろうとしたけど霞みがかってよくわからなかったし、最近の俺なんか変

俺がサロンに姿を現すと二人の男が立ちあがり深々と頭を下げた。
あの二人か俺を訪ねて来たのは。 

「初めまして私はこの国の宰相シミムントと申します。 貴方が樹の大精霊様の伴侶のショウ様でお間違いありませんか?」
丁寧な口調で俺に問いかけて来たのは、髪が笹で出来た20代半ば程のイケメンだ

「はい、エメは俺の嫁です」

「うっひょーマジで樹の大精霊ちゃんの旦那なの?! それってかなり凄くね?! あ、うちはモニカ、この国の軍部のお偉いさんだよー」
続いて軽い感じでどこかイラッとする喋り方をした女は頭に黄色い花を三つ咲かせたパリピの様な草人だった

「は、はぁ… それで僕に何か用があるとかで」
苦手なんだよなぁこういう人… 人のパーソナルスペースを平気で犯してくるというか…

「そうなのです実は…」
笹の葉の髪の男は周りを一瞥し、人がいないことを確認して重い口を開いた

「ここだけの話にして欲しいのですが、この国の女王で有らせられるフロレガルド様が昨晩何者かに毒が仕込まれた刃物で刺され意識不明の昏睡状態なのです」

「それは気の毒ですね…」

「ショウちゃん、気の毒ってもんじゃないんだねぇー! 一大事だと思うっしょ? で、大精霊ちゃんの力を借りたいって訳なんだけど勿論OKだよね?」
いきなり肩を組んで来る感じとか怖い… 圧が凄い… しかも馴れ馴れしくちゃん呼びだし… この人異世界のウェイウェイ系だ… 男だったら絶対ツーブロックだ
俺が最も苦手とし、戦わずして無条件降伏してしまう人種…

「一応聞いてみないとわかりませんが、多分大丈夫だと思いますよ。 ここの女王様とエメは知り合いみたいでしたから」
俺はパーソナルペースを確保するために肩を組まれた腕からスルリと抜け距離を取る

「ちょっとショウさん、うちらもうダチじゃん! 何でそんなにツレナイの?」
友達認定早すぎない?! 友達って魔術契約書とか使って命かけてなるもんじゃないの?!

「やめんかモニカ… 嫁がすみません…」
エリート夫婦だな。 しかしこの嫁のテンションで困らされる感じ… 師匠のとこと同じだな…

俺はなんとなく同情した気持ちになってしまいシミムントさんの肩に手をおいた

「頑張って下さい」

「何を?!」

その後エメに事情を説明するとすぐに出発することになり城へと向かった

雲を突き抜ける賢者の樹の側にあるその城はとても温かみのある木で出来た城で、壁面には深い緑色の葉々がカーテンの様にかかっており所々から色鮮やかな花が顔を覗かせるその外観は流石は草人の国と言った感じだ
城の門や城内のドアは全て人が近づくと自動で開き、階段などは設置されておらず上の階に行きたい時は近くの樹に頼めば運んでくれるという仕組みだ。

そして城の上の階にある女王の寝室へと入ると、大きなベットの上で花冠を頭に乗せ様々なパステルカラーの花びらで出来たドレスを着た30代前半位の美しい女性が苦しそうに横たわっていた

「フーちゃん!」
エメが倒れているその女性の下へと駆け寄り手を握ったが、その女性には何も反応がない

「この国一番の魔術師でも医者でも解毒できませんでした… 大精霊様、どうでしょうか?」
笹イケメンが心配そうな顔でエメに聞いた

「これは徐々に植物を死に至らしめる強力な毒だよ。 でも大丈夫! 私の力なら治してあげれる、お兄ちゃん元の姿に戻して!」

「はいよ」
俺はエメの頭に手を置き力を流し込むと20代半ばのスタイルのいい妖艶な元のエメに戻る

「…二人とも何してるの?」

「あ、あまりの神々しさについ…」

「あれ? うちどうしたんだろう? なんかこうしないといけないっていうか、したくなるっていうか?」
道案内でついて来た二人はエメの本来の神々しさに思わずひれ伏してしまっていたのだ

「旦那様。 元の姿の私でも完治させるのにとても時間がかかると思います… なので…」

「いいよ、どの道エメとは離れる事は出来ないんだから少しくらい離れてたって問題ないよ」

「そう言われると有難いような少し寂しい様な複雑な気持ちですね。 旦那様は旅を続けていて下さい。」

「わかった、毎日会いに来るよ」

「はい」
俺がそういうとエメは嬉しそうに頷いて、目を閉じ昏睡状態の彼女に力を流し始めるとエメの体が神々しい優しい光に包まれる。

「これが本来の樹の大精霊様の姿… なんとお美しい…」

「ちょ、ちょっと何見惚れちゃってんの? 確かに見惚れる程綺麗だけど… そんなことしたら知らないよ?! マジで知らないよ?」

「これをやった相手に心当たりはないんですか?」
夫婦ケンカが始まりそうだったので割って入った

「それが全くないんです。 この城は兵士は勿論樹々達も常に目を光らせている為侵入などほぼ不可能なんですよ」
確かにこの城全体が警備してる感じだもんな、俺みたいに魔法が使えれば別だけど普通の人じゃまず無理だと思う

「獣人に決まってる! あいつら性懲りもなくまた狙って来たんだ!」

「でも外部からはほぼ不可能なんでしょ? 内部の線は?」

「それは絶対にないです。 私達草人は草人に怒りなどの感情は沸きますが、攻撃的意識が沸かないのです」
人間もどうしてそういう作りにしなかったのやら…

「じゃあやっぱり外部ですね… 獣人というとデルベックという事ですか?」

「そうだよ、あそことは今停戦中なんだけど、ここ最近ちょっかい出して来てるからいつ戦争になってもおかしくない状態なんだよねー」

「半月に一度デルベックと会談の場を設けているのですが、フロレガルド様を狙って何物からの攻撃がここ最近増えてきているのです」

「今うちには大精霊ちゃんがいる、兵士達が知れば士気が一気にアゲアゲになって獣人どもなんか楽勝だよ!」

「確かにそれは一理あるな…」
何処の世界も争いばかりだな

「まぁ取り合えず俺もデルベックに向かうので調べれる事は調べてみますよ、エメの事よろしくお願いしますね」

「お任せください」

「ショウちゃんやっるぅー! 期待してるよ!」

彼女のテンションに苦笑いしながら、エメの邪魔をしないようにそぉっとその場を後にする


◇  ◇  ◇  ◇

そして俺達はデルベックに向かう為にヴァルゼンを出て旅の続きをしていた

「…今日中に着く?」

「シャロ、どうなの?」

「無理なのです、この速さでも2日はかかるですよ?」

「ベリルを呼べばよかったんじゃないかしら?」

今回はルーとフララが一緒だ、他のみんなはエクランへと送り返した。
相変わらずタクシー役に大きな虎型のアンデッドニコレーナに女性三人が乗り俺だけは走らされている
一応聞いてみたが、三人乗りらしい。 どう見ても座る余裕はあるが深く突っ込むのはやめた…

「魔力の扱い方を覚えてから、最近なんか具合が悪いらしいんだよ」
イオレースとベリルには魔力の扱い方を教えていたので最近はよく魔力を練るトレーニングをして具合が悪くなることが多いらしい。
本人達曰く体が作り替わる感覚なので進化の前なのではないかと言っていた。

まぁ元々呼ぶ気はないのだが… いくら自分の召喚獣とはいえあんまり足にするのは気が引ける、なんせ小心者だし…

「デルベックに着く前にマイセンの街着くですよ」

「なんだそのとんかつ屋みたいな名前は」

「…ショウとんかつって何?」

「貴方の故郷の何かかしら?」
そっか、エメが居ないからこんなしょうもないボケも誰でも突っ込んでくれないんだよなぁ…

「つかあの飛行型のアンデッド出してくれればいいじゃん」

「あら残念ね、出してもいいけどあれも三人用なの、どっちにしても貴方だけはあぶれるわよ?」
絶対嘘だ、なにえもんの世界の人数調整だよそれは
この世界でも俺はあぶれてしまうのか?!

「はいはいわかりました、ちょっと飛ばすよ!」
俺は少しスピードを上げた

「…わかった…みんなしっかり捕まって。」
先頭に乗ったルーが勇まし気にみんなに注意を促す

「ルーメリア…これ私の眷属なんだけど…」
相変わらずの横乗り日傘で優雅に旅を楽しんでいるフララが呆れていた

「あわわわ、揺れるですー」
一番揺れる脚の上に立つシャロはバランスを保つのに必死だ。 いやお前座れよ。 こいつ妹キャラだよなぁ

「シャロって兄弟とかいるの?」

「弟がいるですよ」

「まさかの姉キャラ?!」

「と言ってもあんまり話した事ないし弟と言われても良くわからないのです」
弟とよく話した事がないってどういうことなんだろう。 複雑な家庭環境だったのだろうか

「あ、そういえばこの前シルメから手紙が届いてたよ」

「…なんて書いてあったの?」

「えっと確かね、国が出来たら真おにー様が国王になるのですから王妃が居ないと格好がつきません! なので早くさっさと早急にいち早く何よりも光の速さでお姉様と結婚して私を本当の妹兼宰相にしてくださいませ!って書いてあったよ…」
ルーの妹はとても可愛い子なのだが少し変わっているのだ…

「…結婚。」
ルーの顔が赤くなる

「じゃあ私は第二王妃って事になるわね、貴方のご両親にも挨拶言ってないのに勝手にしちゃっていいのかしら?」
最近俺の勘違いを正さなかったのは自分たちが結婚したいがためなのではないかという疑念が拭えない

「まぁ順番的にはあれだけど事後報告でもいいと思うよ」
つかあの二人なら俺の今の状況とか大晦日のお笑い番組見る感じ位のノリで見てんじゃないのか実際?! 俺の魔力なんて非にならない膨大な魔力持ってるからな…

「ショウさんモテモテなのですね… こんな人に私の初めてをあげたなんて…」

先程までのホンワカした雰囲気は何処かへ行ってしまい前を走る俺の背中から鋭い殺気が二つ

「違うんだよ! あれは医療行為だ!」
俺が振り返るとルーとフララの目は狂気じみていた

「…ショウkwsk」

「貴方ねぇ…詳細はよ」

「 何でネット用語風?!  死亡フラグktkr…」

正座させられ事細かに説明させられ何度か命の危機を感じたが無事生還出来て何よりだ…

シャロは詰められている俺を見てはクスクスと笑い楽し気だった、こいつこうなる事を知ってたな? 今度何かお返しをしてやろう

その後襲ってくる魔物をサクサクと切り伏せながら暫く進むと日が落ちる頃には大きな壁に囲まれた町が見えて来た

「あそこがデルベック領地のマイセンなのです!」
シャロが前の時の様にトイレに行くといって一旦離れた以外は特に何もなく無事に、入国し、門番から聞いたおすすめの宿へと向かう
街はやはりヴァルゼンとは違い獣人が圧倒的に多く、犬耳、猫耳、ヤギ耳、翼の様な耳の鳥耳なんかも居た

まさにパラダイス! この世界の男女の顔面偏差値は基本的に高いので街中に可愛いが溢れてる
可愛いケモミミフレンズ達を締まりのない顔で見ながら歩いていると目的地に着いた

入り口に着いた鈴が鳴ると猫耳の可愛い9歳位の女の子が俺達の下へと駆け寄ってくる

「グスン… ごめんなしゃい… お父さんとお母さんがまだ帰ってこないの… だから今日はお休みなの…」
一人で待っているのが不安だったのだろう両手で零れる大粒の涙を縫いながら言葉を絞り出していた

俺達が声をかける前にシャロが前に出て女の子を優しく抱き締め頭を撫でていると、少し少女が落ち着いて来た様だ

「何があったです?」
落ち着いてきた少女を引き剥がしてシャロが聞いた

「今日の夕食のお肉を取りに二人で街の出かけてそれから帰って来ないの…」
そろそろ暗くなるから街の門も締まるはずだ、今戻ってきてないのはおかしい

「どこに行ったか分からないですか?」

「いつも狩りは西の森でやってるからそこだと思う…」

「…シャロが探して来るです!」

「良いの?」

「シャロに任せるのです」
そう言って彼女は自分の胸をトン叩くと再び少女を抱きしめる

「だって… 一人って心細いもんね…」
何処か物悲し気な表情で子供にそういう彼女は時々感じるゾクリとした色気を持ちながら、バランスの悪い足場に立っているような危なっかしさを覚えた

「シャロ、街の人に任せた方がいいんじゃないか? もしかしたらもう…」
そう運悪く魔物に殺されていることだってあるのだ…

「そんなの行ってみないとわからないじゃない!」
その声には明らかに怒気が含まれている

「ショウさん達はゆっくりしてればいいのです、シャロ一人で行くから大丈夫なのですよ! それじゃあ!」
そう言って彼女はニコっと笑い、店の扉に付いてる鈴を激しく揺らし街の外へと急いで駆けていく

彼女の背中を見送り小さくなっていく鈴の音だけが店の中に鳴り響く中、先程の危なっかしいシャロの表情が脳裏に焼き付いて離れず俺は迷っていた

「貴方心配なんでしょ?」

「…今ならまだ間に合うから追いかけて」
俺の様子に気付いたのだろう、二人が優しく背中を押す

「ありがとう、二人は一緒にいてあげて! 何かあったらフララに連絡するから!」
俺もシャロの様に鈴を激しく鳴らし彼女を追いかける為に闇の中を駆け抜けた
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