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第八十三話 ラブ注入(物理)
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ショウとルーメリアの武器が火花を散らして激しく衝突する音が辺りに木霊す街の外れで、シャロが息を乱しながら先程切り落としたフラミレッラの首をみていた。
すると転がったフラミレッラの生首の目が突然見開かれ、シャロと目が合うやいなやニヤリと口角をあげる。
恐怖の余り腰を抜かしたシャロとは対照的に、フラミレッラの首がない胴体はゆっくりと起き上がり、切断面から滴る血で手を汚しながらがら地面に転がっている首を拾い上げ、未だ心臓が脈打つ度に血が溢れ出る切断面に生首を乗せた。
合わせた場所を指でなぞると何もなかったかのように元通りになり改めてシャロに微笑んだ。
「酷いことするじゃない、顔が血で汚れてしまったわ。 でも綺麗に切ってくれたお陰で案外簡単にくっ付いたわね」
日傘を拾い上げハンカチで顔に付着した血液を拭いながら優しい口調で腰を抜かしたシャロに声を掛けるが
、見下ろしたその目は笑っておらす、蒼い瞳から向けられる視線は刃物かの如く鋭く、視線だけで心臓を直接握られている様な…… え?
「ギャーー!!」
シャロは余りの苦しみにたまらず声をあげた。
フラミレッラがいつの間にかシャロの前でしゃがみ込み死霊魔術を使い彼女の心臓を直接握っていたのだ
「うふふ、苦しい? もっと鳴いてみせて」
フラミレッラが恍惚とした表情で心臓を握る度にシャロの絶叫がフラミレッラの耳に届き、苦しみに悶えるその声や表情は彼女に取ってみればとても甘美な物で、苦しむ声を聞けば聞くほど、苦しむ顔を見れば見るほど満たされていく。
そんな苦しみが少し続いた後、突然フラミレッラは満足した表情を浮かべ心臓を握る手を引き抜き、自分の血とシャロの血で真っ赤になった手をそっとシャロの頬に置いた
「これでおあいこね、私なんて首を刎ねられたんだからまだ足りない位よ? まぁ神聖属性じゃないと私を殺す事なんて出来ないんだけど」
先程迄の恐ろしさなどは微塵もなく、その表情はシャロを抱きしめた時と同じ妹を想う姉の様な優しいものだ
「どうして…」
シャロは胸に残る傷口の痛みよりも、彼女の温かい手が頬を撫でる事によって染み渡る彼女の優しさの方が痛かった
「本当はあんまり良い声で鳴く物だから殺してしまいそうになったのだけど、それをやってしまうと彼が悲しむから」
未だ激しくぶつかり合うショウとルーメリアの方を一瞥して小さくため息をつくと再度シャロの方へと向き直る
「聞きたい事があるんだけど、いいかしら」
血に濡れた手でシャロの髪を紅に染めながら頭を撫で優しく問いかけた
「はい」
「何で私との約束守らなかったの?」
「…そっちですか?」
「二人の事ならそのうち何とかなるでしょう、それより約束よ」
「言いたくありません」
無表情でそう告げるシャロにフラミレッラは溜息をつく
「あなたも強情ね、まぁそれならそれで構わないわ。 じゃあ次の質問で終わりにするわ。 …私達と居て楽しかった?」
シャロは終始無表情を貫いていたが、この質問をした時にだけ僅かに揺らいだ心の動きをフラミレッラは見逃さなかった
「いいえ。 全然です」
ゆっくりと首を振るシャロをフラミレッラは上から下迄ゆっくりとみてクスっと笑う
「あらそうなの、それは残念ね。 それじゃあ二人の行く末でも見守りましょう」
言われるまでもなくシャロにはもう戦意などはなかった。 戦っても敵わないから。 傷を負ったから。 違う… そんなの嘘だ。 本当は…
シャロとフラミレッラが一段落した頃、ショウとルーメリアの戦いは更に激しさを増していた
ショウは今ルーメリアの重い一撃を受け体が宙へと浮き上がったが何とか刀で受け流し、続く攻撃を躱し一旦距離を取る
力勝負ではそもそも勝ち目はないのだが、冷静さを失ったショウは技術など何もなくただ力任せに切りかかっていただけだった
「何で… 何であんな事… それにお前笑ってたよな…」
俺は頭が熱くなりすぎて倒れそうだった。
「…ショウが見たのはただの幻。 現実じゃない。」
「そんなわけない… 現実じゃないのにこんなに苦しいわけがない…」
ルーメリアは必死に叫ぶがまるで聞く耳を持たない
「…私の言う事信じられないの? 愛してるって言ってくれたのは嘘?」
「信じたい気持ちだってある。 でも… お前が男に抱かれながら俺を見て笑った顔が脳裏に焼き付いて… 離れないんだよ!」
先程と同じ様に腕力だけでルーメリアを切りつけるが簡単に弾かれた。
こんなのはただの八つ当たりだ。 ルーを抱いた男も、ルーでさえも殺したい程憎い。 怒りと憎しみや悲しみで頭をぐちゃぐちゃにかき混ぜられ正気などは保っておられず、知らない男に腰を振られ快感で身をよじりながら浮かべた醜悪な笑顔で心はドス黒く濁らされた
あれが幻? 現実ではない? それならどんなにいいか… 好きだから信じたい。 好きだから信じられない。 好きであれば好きである程疑ってしまう。 何が本当で何が嘘か。 なんだっていい、全部壊せばいい。
でもさっきから何度もチャンスはあったのにこちらに攻撃してくる気配はない。 代わりに頭がさっきから…
「…そんなに私が憎い?」
俺が頭の痛みに少し気を取られていると、俺の剣を弾きながらルーが何事もないように聞いてくる様に腹が立ち明確に殺意を覚えた
「あぁ殺したい位に」
俺は刀をルー目掛けて突きを放つと彼女は優しく笑いながら「…わかった。」と言って大鎌から手を放し俺の突きを受け入れた
刀から伝わる肉にめり込んで感触、刀を伝って来る血の生暖かさ、ついこの前まで愛しくてしかたなかった彼女の香り
彼女は剣が刺さったまま苦しそうにこちらに歩を進め、気が付いた時には目の前で優しく微笑み俺の髪をくしゃりと優しく掴んだ
「…やっと捕まえた…」
「…どうして?」
俺は困惑していた、何故避けずに受けた? 何を企んでる? 俺を殺してあの男と…
「…殺したいって…言うから…」
苦しそうに呼吸をしながら俺の髪を愛おしそうに撫でる触り慣れたはずの彼女の細い指の感触がもう遠い昔の様に感じる
「だからって…」
頭が酷く痛い。 思考が制御される。 何で俺刺した?
「大丈夫。 だって貴方はこんなのよりもっと痛かったよね… もっと苦しかったよね… 貴方一人にだけ痛い思いなんてさせない…」
彼女は剣が刺さったまま更に歩を進める。 刀が更に深くめり込み鋭い痛みが彼女の体を駆け巡っているはずだが決して苦しそうな声は出さず、ショウの体を力一杯に抱きしめる。
辛い表情など一切見せないルーメリアだが、背中から突き出た黒い刀身にびっしりとついた血液が傷の深さを物語っていた。
「ショウの悲しみや怒り、憎しみ、やっと近くで感じる事が出来た…」
彼女の優しさが俺の行き場のない想いを全て包み込む。 何で俺ルーを傷つけてるんだ?
「それに… 殺したい位私を愛してるっていうのも伝わったから…」
致命傷のはずなのに恍惚とした表情でそう告げた彼女に見惚れていると、彼女は耳元へと顔をぐっと近付けた
「貴方が裏切ったら… 私も殺してあげる。 一番残酷な殺し方で。」
彼女の言った言葉は普通じゃない。 狂ってる。 だが俺はこの狂った言葉に喜びを覚えてしまう。 耳から伝わる彼女の狂気的な愛情が俺を蝕んで行き、俺の持つ彼女への愛情もより一層狂気的になりただ殺すだけでは満足できなくなっていた… 俺を裏切ったのだから… こんなに愛してるのに… そうだ… 腹を裂いて引きずり出した腸で口を縛り、爪を一枚一枚剥いだ後そこに針を刺そう… その後は手足を丁寧に引きちぎり、頭を割って手を突っ込んで脳味噌をぐちゃぐちゃに掻きまわした後………
愛情が行きすぎてどう殺したら苦しむかというのを考えていると頭の中で何かが切れる様な感覚があり、今までのドス黒かった心が一気に澄み渡り、怒りや悲しみと言った負の感情は消失し殺したい位に狂おしい愛情だけが残り、俺が見ていたのが一瞬で幻だと理解出来た
何かの術が解けたっぽいな… 愛の力と言えば綺麗なんだが… 何か違う! いつから俺こんなに歪んだし…
「ごめんやっと理解出来たよ」
とは言え今回は全面的にルーのおかげだ… こんなに頑張ってくれたから元に戻れた。 彼女への愛おしさが戦っている最中に更に増したことによって術が解けたのだろう…
「…そう。」
緊張の糸が切れた様で彼女が安心したように俺に体重を預けて来たので優しく受け止める。
「もう迷わない。 疑わない。」
「…そう。」
ルーは嬉しそうに俺の胸に顔を埋めローブをギュッと握った
俺は刺さった刀を抜いて【リカバリー】をかけ傷を治していると、フララが胸の辺りを抑えているシャロを連れてこちらへと来くるなり胸の辺りを指さす
「ちょっと心臓を握ってたらケガしたのよ、こっちも治してくれるかしら?」
ちょっと心臓を握るってどういう状態だよ
「そんな手を握る様なノリで心臓握るなよ」
「昔の貴方なら手を握るより心臓握る方が軽いノリだったんじゃないかしら?」
それは一理あるな、今でこそ普通に触れたりできるわけだが、手を握るというのは元の俺からすればかなりのビックイベントな訳で握手会以外で握った事なかったもんな… 握手会でも汗気持ち悪いとか思われそうだったから毎回手術用のゴム手袋してたし。 それがエチケットってもんだよね? 男女の接触にゴム製品は基本中の基本! この世界じゃ必要ないけど、元の世界でデートすることになっていれば家出る時から0.02先輩着用してただろうからな絶対。
「みんなのおかげで大分抗体が付きました。 じゃあこっちおいで」
俺がシャロに手招きするとトボトボこちらに来て物凄く気まずそうにこちらを見ていたのでそれがつい可愛く感じてしまい、つい頭に手を置いてしまうとシャロが小さく「あっ」と漏らした
「どうした?」
「ごめんなさい…」
「いいよ」
それでも未だ耳は垂れ下がったままだ
「そう言えば前に裏切られたらどうする? って俺に聞いたの覚えてる?」
シャロが小さく頷く
「殺すことにしたよ」
「え?! それは怖すぎるのです! 恐ろしいのです!」
それは見慣れた彼女だ、やっと見れて内心ほっとした
「やっぱりシャロじゃん」
「………」
そう言った俺に彼女は複雑そうな顔で少し口角を上げるだけだった
傷も癒し終わり一段落ついたのだが、誰かが何かを話すでもなく時だけが過ぎて行く。
何も聞いてこず冷たい風が優しく歌うだけのその空間に耐えかね、大きな石に俺と隣同士で座るシャロが膝を抱えながら頭を膝に着けて顔だけをこちらに向け口を開いた
「何も聞かないんですか?」
「話してくれるの?」
「………」
隣にいるシャロの方を向くが彼女は表情を変えずただ黙った
「じゃあ母親に…やらされてたの?」
「………」
「無言は肯定と取られるよ?」
「私の独断です。」
とても本当に思えない。
「独断ね。 俺を利用してヴァルゼンの女王を刺して、失敗しても戦争を起こしどさくさに紛れて殺すとかそういう感じかな?」
「そうですね」
「そんな事する理由は?」
「さぁもう忘れました。」
本当に忘れてしまった事を自嘲するかのように儚げに笑う彼女を見ていると何故か胸が痛い
「そっか」
「ショウさんは戦争を止める為に来たんですよね? このゲームは私の完全に負けです。 なので自分で国王に話しますから安心してください。」
シャロが国王に話せば確かに丸く収まるだろう、というか納めるしかないのだろうが。
「自分が全部やったって言うの?」
「だってそれが真実ですから」
「本当の事言ってくれないか?」
「本当の事しか言ってませんよ」
話は平行線だ。 この事に関して彼女は全く譲る気がない。
「…なぁシャロ」
俺は隣に座る彼女の頭に手を置き撫でる
「何ですか?」
シャロは撫でられる時にいつも自然に出ていた嬉しそうな表情を浮かべた。 この顔が嘘なんて思えない
「お前俺達と居て楽しかった?」
暫く沈黙した後彼女は抱えた膝に顔を埋め
「いいえ。 全然なのです」
と抑揚なくそう言ったのでどんな表情なのかは全くわからなかった
「そっか」
暫く頭を撫でていると、彼女はおもむろに立ち上がり俺達三人に一人一人笑いかけた後、城の方へと向かっていく背中を見送っていると、途中で少し振り返り声には出してないが口元は確かに「さようなら」と動いていたのを視界に捉えた
「嘘つきの癖に嘘下手すぎだろ」
俺はシャロが座っていた大きな石の一部分が濡れているのに気付き頬を掻く
泣きながら未だに俺の作らせた巫女服着て楽しくなかったなんて言われても説得力ねぇーよ
その後国中にシャロが今回の騒動の元凶だという事が伝えられ、彼女の公開処刑が四日後と決まった
すると転がったフラミレッラの生首の目が突然見開かれ、シャロと目が合うやいなやニヤリと口角をあげる。
恐怖の余り腰を抜かしたシャロとは対照的に、フラミレッラの首がない胴体はゆっくりと起き上がり、切断面から滴る血で手を汚しながらがら地面に転がっている首を拾い上げ、未だ心臓が脈打つ度に血が溢れ出る切断面に生首を乗せた。
合わせた場所を指でなぞると何もなかったかのように元通りになり改めてシャロに微笑んだ。
「酷いことするじゃない、顔が血で汚れてしまったわ。 でも綺麗に切ってくれたお陰で案外簡単にくっ付いたわね」
日傘を拾い上げハンカチで顔に付着した血液を拭いながら優しい口調で腰を抜かしたシャロに声を掛けるが
、見下ろしたその目は笑っておらす、蒼い瞳から向けられる視線は刃物かの如く鋭く、視線だけで心臓を直接握られている様な…… え?
「ギャーー!!」
シャロは余りの苦しみにたまらず声をあげた。
フラミレッラがいつの間にかシャロの前でしゃがみ込み死霊魔術を使い彼女の心臓を直接握っていたのだ
「うふふ、苦しい? もっと鳴いてみせて」
フラミレッラが恍惚とした表情で心臓を握る度にシャロの絶叫がフラミレッラの耳に届き、苦しみに悶えるその声や表情は彼女に取ってみればとても甘美な物で、苦しむ声を聞けば聞くほど、苦しむ顔を見れば見るほど満たされていく。
そんな苦しみが少し続いた後、突然フラミレッラは満足した表情を浮かべ心臓を握る手を引き抜き、自分の血とシャロの血で真っ赤になった手をそっとシャロの頬に置いた
「これでおあいこね、私なんて首を刎ねられたんだからまだ足りない位よ? まぁ神聖属性じゃないと私を殺す事なんて出来ないんだけど」
先程迄の恐ろしさなどは微塵もなく、その表情はシャロを抱きしめた時と同じ妹を想う姉の様な優しいものだ
「どうして…」
シャロは胸に残る傷口の痛みよりも、彼女の温かい手が頬を撫でる事によって染み渡る彼女の優しさの方が痛かった
「本当はあんまり良い声で鳴く物だから殺してしまいそうになったのだけど、それをやってしまうと彼が悲しむから」
未だ激しくぶつかり合うショウとルーメリアの方を一瞥して小さくため息をつくと再度シャロの方へと向き直る
「聞きたい事があるんだけど、いいかしら」
血に濡れた手でシャロの髪を紅に染めながら頭を撫で優しく問いかけた
「はい」
「何で私との約束守らなかったの?」
「…そっちですか?」
「二人の事ならそのうち何とかなるでしょう、それより約束よ」
「言いたくありません」
無表情でそう告げるシャロにフラミレッラは溜息をつく
「あなたも強情ね、まぁそれならそれで構わないわ。 じゃあ次の質問で終わりにするわ。 …私達と居て楽しかった?」
シャロは終始無表情を貫いていたが、この質問をした時にだけ僅かに揺らいだ心の動きをフラミレッラは見逃さなかった
「いいえ。 全然です」
ゆっくりと首を振るシャロをフラミレッラは上から下迄ゆっくりとみてクスっと笑う
「あらそうなの、それは残念ね。 それじゃあ二人の行く末でも見守りましょう」
言われるまでもなくシャロにはもう戦意などはなかった。 戦っても敵わないから。 傷を負ったから。 違う… そんなの嘘だ。 本当は…
シャロとフラミレッラが一段落した頃、ショウとルーメリアの戦いは更に激しさを増していた
ショウは今ルーメリアの重い一撃を受け体が宙へと浮き上がったが何とか刀で受け流し、続く攻撃を躱し一旦距離を取る
力勝負ではそもそも勝ち目はないのだが、冷静さを失ったショウは技術など何もなくただ力任せに切りかかっていただけだった
「何で… 何であんな事… それにお前笑ってたよな…」
俺は頭が熱くなりすぎて倒れそうだった。
「…ショウが見たのはただの幻。 現実じゃない。」
「そんなわけない… 現実じゃないのにこんなに苦しいわけがない…」
ルーメリアは必死に叫ぶがまるで聞く耳を持たない
「…私の言う事信じられないの? 愛してるって言ってくれたのは嘘?」
「信じたい気持ちだってある。 でも… お前が男に抱かれながら俺を見て笑った顔が脳裏に焼き付いて… 離れないんだよ!」
先程と同じ様に腕力だけでルーメリアを切りつけるが簡単に弾かれた。
こんなのはただの八つ当たりだ。 ルーを抱いた男も、ルーでさえも殺したい程憎い。 怒りと憎しみや悲しみで頭をぐちゃぐちゃにかき混ぜられ正気などは保っておられず、知らない男に腰を振られ快感で身をよじりながら浮かべた醜悪な笑顔で心はドス黒く濁らされた
あれが幻? 現実ではない? それならどんなにいいか… 好きだから信じたい。 好きだから信じられない。 好きであれば好きである程疑ってしまう。 何が本当で何が嘘か。 なんだっていい、全部壊せばいい。
でもさっきから何度もチャンスはあったのにこちらに攻撃してくる気配はない。 代わりに頭がさっきから…
「…そんなに私が憎い?」
俺が頭の痛みに少し気を取られていると、俺の剣を弾きながらルーが何事もないように聞いてくる様に腹が立ち明確に殺意を覚えた
「あぁ殺したい位に」
俺は刀をルー目掛けて突きを放つと彼女は優しく笑いながら「…わかった。」と言って大鎌から手を放し俺の突きを受け入れた
刀から伝わる肉にめり込んで感触、刀を伝って来る血の生暖かさ、ついこの前まで愛しくてしかたなかった彼女の香り
彼女は剣が刺さったまま苦しそうにこちらに歩を進め、気が付いた時には目の前で優しく微笑み俺の髪をくしゃりと優しく掴んだ
「…やっと捕まえた…」
「…どうして?」
俺は困惑していた、何故避けずに受けた? 何を企んでる? 俺を殺してあの男と…
「…殺したいって…言うから…」
苦しそうに呼吸をしながら俺の髪を愛おしそうに撫でる触り慣れたはずの彼女の細い指の感触がもう遠い昔の様に感じる
「だからって…」
頭が酷く痛い。 思考が制御される。 何で俺刺した?
「大丈夫。 だって貴方はこんなのよりもっと痛かったよね… もっと苦しかったよね… 貴方一人にだけ痛い思いなんてさせない…」
彼女は剣が刺さったまま更に歩を進める。 刀が更に深くめり込み鋭い痛みが彼女の体を駆け巡っているはずだが決して苦しそうな声は出さず、ショウの体を力一杯に抱きしめる。
辛い表情など一切見せないルーメリアだが、背中から突き出た黒い刀身にびっしりとついた血液が傷の深さを物語っていた。
「ショウの悲しみや怒り、憎しみ、やっと近くで感じる事が出来た…」
彼女の優しさが俺の行き場のない想いを全て包み込む。 何で俺ルーを傷つけてるんだ?
「それに… 殺したい位私を愛してるっていうのも伝わったから…」
致命傷のはずなのに恍惚とした表情でそう告げた彼女に見惚れていると、彼女は耳元へと顔をぐっと近付けた
「貴方が裏切ったら… 私も殺してあげる。 一番残酷な殺し方で。」
彼女の言った言葉は普通じゃない。 狂ってる。 だが俺はこの狂った言葉に喜びを覚えてしまう。 耳から伝わる彼女の狂気的な愛情が俺を蝕んで行き、俺の持つ彼女への愛情もより一層狂気的になりただ殺すだけでは満足できなくなっていた… 俺を裏切ったのだから… こんなに愛してるのに… そうだ… 腹を裂いて引きずり出した腸で口を縛り、爪を一枚一枚剥いだ後そこに針を刺そう… その後は手足を丁寧に引きちぎり、頭を割って手を突っ込んで脳味噌をぐちゃぐちゃに掻きまわした後………
愛情が行きすぎてどう殺したら苦しむかというのを考えていると頭の中で何かが切れる様な感覚があり、今までのドス黒かった心が一気に澄み渡り、怒りや悲しみと言った負の感情は消失し殺したい位に狂おしい愛情だけが残り、俺が見ていたのが一瞬で幻だと理解出来た
何かの術が解けたっぽいな… 愛の力と言えば綺麗なんだが… 何か違う! いつから俺こんなに歪んだし…
「ごめんやっと理解出来たよ」
とは言え今回は全面的にルーのおかげだ… こんなに頑張ってくれたから元に戻れた。 彼女への愛おしさが戦っている最中に更に増したことによって術が解けたのだろう…
「…そう。」
緊張の糸が切れた様で彼女が安心したように俺に体重を預けて来たので優しく受け止める。
「もう迷わない。 疑わない。」
「…そう。」
ルーは嬉しそうに俺の胸に顔を埋めローブをギュッと握った
俺は刺さった刀を抜いて【リカバリー】をかけ傷を治していると、フララが胸の辺りを抑えているシャロを連れてこちらへと来くるなり胸の辺りを指さす
「ちょっと心臓を握ってたらケガしたのよ、こっちも治してくれるかしら?」
ちょっと心臓を握るってどういう状態だよ
「そんな手を握る様なノリで心臓握るなよ」
「昔の貴方なら手を握るより心臓握る方が軽いノリだったんじゃないかしら?」
それは一理あるな、今でこそ普通に触れたりできるわけだが、手を握るというのは元の俺からすればかなりのビックイベントな訳で握手会以外で握った事なかったもんな… 握手会でも汗気持ち悪いとか思われそうだったから毎回手術用のゴム手袋してたし。 それがエチケットってもんだよね? 男女の接触にゴム製品は基本中の基本! この世界じゃ必要ないけど、元の世界でデートすることになっていれば家出る時から0.02先輩着用してただろうからな絶対。
「みんなのおかげで大分抗体が付きました。 じゃあこっちおいで」
俺がシャロに手招きするとトボトボこちらに来て物凄く気まずそうにこちらを見ていたのでそれがつい可愛く感じてしまい、つい頭に手を置いてしまうとシャロが小さく「あっ」と漏らした
「どうした?」
「ごめんなさい…」
「いいよ」
それでも未だ耳は垂れ下がったままだ
「そう言えば前に裏切られたらどうする? って俺に聞いたの覚えてる?」
シャロが小さく頷く
「殺すことにしたよ」
「え?! それは怖すぎるのです! 恐ろしいのです!」
それは見慣れた彼女だ、やっと見れて内心ほっとした
「やっぱりシャロじゃん」
「………」
そう言った俺に彼女は複雑そうな顔で少し口角を上げるだけだった
傷も癒し終わり一段落ついたのだが、誰かが何かを話すでもなく時だけが過ぎて行く。
何も聞いてこず冷たい風が優しく歌うだけのその空間に耐えかね、大きな石に俺と隣同士で座るシャロが膝を抱えながら頭を膝に着けて顔だけをこちらに向け口を開いた
「何も聞かないんですか?」
「話してくれるの?」
「………」
隣にいるシャロの方を向くが彼女は表情を変えずただ黙った
「じゃあ母親に…やらされてたの?」
「………」
「無言は肯定と取られるよ?」
「私の独断です。」
とても本当に思えない。
「独断ね。 俺を利用してヴァルゼンの女王を刺して、失敗しても戦争を起こしどさくさに紛れて殺すとかそういう感じかな?」
「そうですね」
「そんな事する理由は?」
「さぁもう忘れました。」
本当に忘れてしまった事を自嘲するかのように儚げに笑う彼女を見ていると何故か胸が痛い
「そっか」
「ショウさんは戦争を止める為に来たんですよね? このゲームは私の完全に負けです。 なので自分で国王に話しますから安心してください。」
シャロが国王に話せば確かに丸く収まるだろう、というか納めるしかないのだろうが。
「自分が全部やったって言うの?」
「だってそれが真実ですから」
「本当の事言ってくれないか?」
「本当の事しか言ってませんよ」
話は平行線だ。 この事に関して彼女は全く譲る気がない。
「…なぁシャロ」
俺は隣に座る彼女の頭に手を置き撫でる
「何ですか?」
シャロは撫でられる時にいつも自然に出ていた嬉しそうな表情を浮かべた。 この顔が嘘なんて思えない
「お前俺達と居て楽しかった?」
暫く沈黙した後彼女は抱えた膝に顔を埋め
「いいえ。 全然なのです」
と抑揚なくそう言ったのでどんな表情なのかは全くわからなかった
「そっか」
暫く頭を撫でていると、彼女はおもむろに立ち上がり俺達三人に一人一人笑いかけた後、城の方へと向かっていく背中を見送っていると、途中で少し振り返り声には出してないが口元は確かに「さようなら」と動いていたのを視界に捉えた
「嘘つきの癖に嘘下手すぎだろ」
俺はシャロが座っていた大きな石の一部分が濡れているのに気付き頬を掻く
泣きながら未だに俺の作らせた巫女服着て楽しくなかったなんて言われても説得力ねぇーよ
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ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
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