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第八十七話 不死者とかけまして、万年ヒラ社員と解きます…
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彼がシャロを連れて帰って来たのが昨日。
みんな別段変わった様子はなく、いつもの様におかえりと声を掛けただけなのにあの子泣き出しちゃって。
私はそれが可愛くてつい抱きしめてしまったわ。
そんなに目を腫らしたら折角可愛い顔してるのに台無しよ?
そして今日、しょうは文官たちに捕まり缶詰状態で退屈な私は、シャロが冒険者ランクをみんなに合わせたいと言い出したから、シャロとエクランの冒険者ギルドに向かっている所なのだけれど、私が付いてくる事が意外だったのか今もオドオドしててとても可愛いくてつい頬が綻んでしまったのに気づかれたみたいね
「どうしたのです?」
「あなたがあんまりオドオドしていたからよ、私が来たのがそんなに意外?」
「正直意外なのです… 」
「誰かが冒険者活動する時は私かルチルが付いていく事にしてるの、安全面もそうだけど彼と連絡取れるのは私達だけだからね。 彼は全員と念話出来るよう研究してるらしいけどまだ成果はでそうにないみたいだし、暫くはそんな感じよ」
「フララさんは人の為には動かない人だと思ってました」
「その通りよ、でもね、あなたにもしもの事があったら私は必ず後悔する。 だから結局自分の為でもあるのよ。 それにやっと本当のあなたに会えたしね」
彼女は日傘をくるくる回しながらシャロに優しく微笑んだ。 するとシャロはその笑顔に罪悪感が生まれたのかさっきまでピクピクしてた耳が垂れ下がり、揺れていた尻尾も下がってるしまった。
「約束破ってごめんなさいなのです…」
この子の感情はルチルと一緒だわかりやすいわね、ただ少し違うのはシャロは演技もすると言う事。
そういうあざとい所も私は可愛いと思うけど
「それはもう過去の事よ。 そんな事に負い目を感じる事なくありのままのあなたでいる事がみんなの望んでる事なんじゃないかしら?」
「うぅ… みんなの温かさが染み渡るのですぅー」
「あなたと一緒で其々色々あったからかしらね、あなたを放って置けないのよ。 さて着いたわね」
エクランの冒険者ギルドは元あった建物が老朽化して来たのもあって輝人達が新たに立て直した事により、ステンドグラスや綺麗な装飾を施され無骨で荒くれた汚いイメージだったギルドが華のあるクリーンな場所へと変貌を遂げていた。
中には入り依頼書が張り出された場所へ行くと変わった依頼が冒険者達の視線を集めており、自然と2人もその依頼書へと目をやる
「スファンの谷での人探し、報酬は銀貨1枚。 依頼者ロメオだぁ?! あんな危ない所銀貨1枚で行く奴なんているわきゃないだろ!! あそこはAランクでも生きて帰れるかわからない場所だ!!」
1人の冒険者が依頼書を見てバカにした様に荒げた声に次々と他の冒険者も頷き賛同していく。
「確かに命を危険に晒すのに銀貨1枚は安い対価ね… これなんていいんじゃないかしら?」
「マタワ村迄の護衛… 夜には帰れそうで魅力的なのです! あっ、でもこれBランク以上って… シャロはまだDなのです…」
「大丈夫よ、私はSランクだから」
「フララさん一体何者なのですか?!」
「ただのしがないアンデッド女王よ」
「…確かに死がないのです…」
「でもこれよく見れば6人以上のパーティーにお願いしたいと書いてあるわね」
「本当なのです、他にはよさそうなのもないですしどうしましょう?」
「お嬢さん方、それなら私達とパーティーを組んで依頼を受けませんか?」
私とシャロが依頼書を手に取って話していると後ろから男の声でそう声を掛けられたので振り返ると、男二人女二人の冒険者が立っていた。
話しかけて来たのは剣を持つ軽鎧を付けたいかにも冒険者タイプなリーダーらしき男性、その後ろには使い込まれたフルプレートアーマーを身にまとった戦士風の男性と、ローブを着こみ杖を持った魔術師らしき女性に、弓を持った後衛タイプの女性が控えておりこの四人でパーティーを組んでいるのだろう
「俺達もその依頼を狙ってたんだけど、人数が足りなくて後二人誰か来ないかずっと張ってたんだ」
フルプレートアーマー越しに発せられる籠った声男の声でそう続けた
「あたしらこれでもBランクのベテランだから一緒に組んでも問題ないと思うよ?」
「ねぇうちらと組もうよ! 女の子だけだと不安でしょ?」
魔術士の女性と弓も畳みかけてくる
「シャロ、どうする? 私は別に構わないけれど」
「シャロも構わないのです、六人以上じゃないと受けられないですし丁度よかったのですよ。 これでイレスティさんのご飯に間に合うですね」
嬉しそうに耳をピコピコ、尻尾をフリフリさせるシャロはとても可愛い。 そう思うのは私だけじゃないみたいね
「シャロちゃんっていうの? その服も可愛いなぁ… あぁもうあたし我慢できない!」
「ヴィオだけズルイ! 私にもシャロちゃん抱かせて!」
向こうのパーティーの女性二人がシャロの可愛さにやられてしまい二人がかりでシャロを愛でまくっていた
「と言う事だからこの依頼をあなた達と受ける事にしたわ。 短い間だと思うけどよろしく」
「こんな美しく可憐な女性達とパーティーを組めるなんて幸せです、僕の名前はアウダ。 良かったらお名前を聞かせて貰えませんか?」
パーティーリーダーっぽい冒険者風の男が爽やかに微笑みかけ右手を差し出し握手を求めた。 顔の造形も悪くないし女性の扱いにも慣れてるわね、馬鹿な女ならこれでイチコロでしょうけど私には無駄よ
「悪いわね、あなたが触れていい程私の体は安くないわ。 わかったらその手を引っ込めて頂戴、坊や」
私がそう言い放つとその男は爽やかな笑顔が一転驚きの余りポカーンとした表情になり現実を受け入れられない様子だった
その様子をみたフルプレートアーマーの男から籠った笑いが起こる
「ははは! あの百戦錬磨のアウダがフラれたぞ! こんなの滅多に拝めるもんじゃねー! いいもん見せて貰ったよ!」
「僕はまだフラれた訳じゃないぞ! それにこういうじゃじゃ馬な女性の方が僕は好みなんだ!」
「あなたの趣味なんてどうでもいいわ、そんな事よりも早く依頼をこなしましょう」
「くっ」
リーダーらしき男は悔しそうに拳をギュッと握りしめた
「そりゃそうだ! おいヴィオ、ヴィラ行くぞ!」
籠った声でシャロを撫でまわしている二人に声をかけると二人は小さく舌打する
「お姉ちゃん、続きは護衛中にでも…」
「そうね… その時は今よりももっと激しく…」
「あわわわ、もう嫌なのですよぉ… フララしゃん… シャロは汚されたのです…」
私の胸に飛び込んで来たシャロは少し泣きべそをかいていたいたので小さくて可愛らしい頭を優しく撫でた
「大げさね、いつも誰かにやられてるじゃない」
「知らない人には愛でられたらダメってショウさんに言われたのですよ…」
「なぁアウダ、お前の時と全然対応違わないか? 見ろよあの優しい表情」
「あぁ…」
抱き着いているシャロの頭を慈愛に満ちた表情を浮かべて優しく撫でている、蒼い目の紫髪を持つ美しくも可憐な女性にアウダは目を奪われた。この時アウダは今までに感じた事のない感情が沸いてきていた事に自分でも驚く。 彼は綺麗な女性を沢山抱いており、経験も豊富で心を奪われるなどということはなかったのだが、フラミレッラを見ているだけで高鳴る胸の鼓動がよくわからない感情の正体を恋心だと確信させた。
◇ ◇ ◇ ◇
「いやー助かりましたよ、急な依頼だったので見つからないかと冷や冷やしてましてね…」
「僕達も割のいい仕事が見つかって良かったです、最近この辺りも物騒ですから商売も大変でしょう」
「ええ全くですよ」
私達は隣で依頼主の商人と話すアウダ?だっけ?と呼ばれた男を横目にマタオ村を目指していた
馬車の前方にフルプレートの男と女二人と依頼主のパートナーの男。 後方には私とシャロ、アウダ?と依頼主を配置している。
にしても何でこの男と一緒なのかしら? 私とシャロだけで十分だと思うのだけれど
「その日傘素敵ですね、でも森の中でも日傘って…」
冷たく突き放してるのにこの子ずっと話しかけて来るわね。 彼と同じでいじめられるのが好きなのかしら? 彼ったら私と二人でする時はいつも… まぁそれは良いとして日傘を褒められるのは悪い気はしないわね
「デザインは及第点と言ったところだけど、私の一番のお気に入りよ」
しょうが贈ってくれた物だからこのレースの黒い日傘が今では一番のお気に入り。 【眷属召喚】で彼に呼び出される時だって日傘を持って登場したいが為に事前に差しちゃう位気に入ってるんだから
「結構歩きましたけど喉渇いてませんか?」
「渇いてないわ、それに私は水を飲まなくても死なないもの。 死ねないと言う方が正しいかしら?」
「どういう意味ですか?」
「さぁどういう意味かしらね?」
私が少し悪戯心を込めて微笑むと感じた事のない力に坊やの背筋に悪寒が走ったのか顔色が悪くなった。 うふふふごめんなさい、ちょっとからかいたくなっただけよ。 でもやっぱりからかうなら彼が一番ね。
「冒険者の皆さん少し休憩にしませんか? 少し気分が悪いみたいだ」
「フララさんちょっとやりすぎなのですよ」
シャロが私に小さく耳打ちして気付いたけど、少し魔力を出し過ぎたみたいね。 まだ私は彼ほど魔力をうまく扱えない。
「いいじゃない、そろそろ休憩したかった頃でしょうし」
「シャロちゃーん!」
「お姉ちゃん私も!」
前の方から魔術師と弓を持った女二人がシャロに駆け寄り前から後ろから抱き着いて愛で倒す
「も、もう嫌なのですぅー! あっ…そこは… だめぇ…」
「何やっとるんだあいつらは… 仕事中だというのに気が抜けて仕方ないな」
フルプレートアーマーの中から呆れた籠った声が聞こえた
「フララさんと言うお名前なのですね? 僕もそう呼んでいいですか?」
「やめて貰えるかしら? 坊やに気安くそう呼ばれるのは不快だわ」
今ではみんなそう呼ぶけど、最初にそう呼んだのは彼なんだから。 他の男になんて呼ばれたくないわ
フルプレートアーマーの中から口笛が鳴る
「くぅー! その女王様っぷりいいねぇ! 俺もちょっと癖になってきたよ!」
「お、おい!この人は僕が…」
はぁ… 中々しつこいわね、こういう手合いは何人も居たけど全く興味が沸かないわ
その時愛でられてるシャロの耳がピコピコと動いた
「皆さん! 近くに何か潜んでいるのです! 人数はおそらく12体!」
「ひぃ! 私達は馬車の荷台にいますから後はお願いしますね!」
そう言って商人二人は荷台へとそそくさと隠れた
「12体か、うちと姉さんが荷台の上から狙い打ちするよ」
冒険者の二人は意識を瞬時に切り替え荷台の上に辺りを見渡した。 こういう切り替えの早さは流石冒険者と言った所かしら、それにしても面倒ね。 私は働くのが大嫌いなのよ。
「大丈夫です、僕があなたを守ります」
好都合ね、私の趣味は皆があくせく働くのを何もしないでダラダラ見る事
「あら、それじゃあ守ってもらおうかしら、頑張ってね坊や」
「その坊やってやめてもらえませんか?」
「守り切れたら考えてあげても良いわよ」
「頑張ります!」
「恋の力は凄いねぇ」
フルプレートの男が両手斧を持ちながら茶化した
「いた! 盗賊よ!!」
姿を現したのは盗賊だった。 囲みもせず固まって襲って来るなんて無能な盗賊ね。 でもこの冒険者達に任せてたら時間がかかりそうね。
「シャロ、行きなさい」
「はいなのです!」
シャロは元気よく返事をした後二枚の扇子を取り出し盗賊の方へと駆けて行く
「ダメだ! シャロちゃんはまだDランク、とても12人なんて相手に出来るもんじゃない! まずは魔術と弓で牽制しながら…」
リーダーの男は全てを言わなかった。 なぜなら美しく二枚の扇子を使って華麗に舞う様に攻撃を避けては敵を無慈悲に切り刻むシャロの姿が目に映っていたからだ
「ふぅ終わったのです、この人が親玉らしいですよ、有名人なのですか?」
切り離した盗賊の生首を髪を掴んで持ち上げ、 返り血を浴びた顔でその生首に笑いかけるシャロを見て冒険者達は戦慄した。
彼女から漂っている雰囲気は先程迄の可愛い物ではなくどこか危なっかしいが魅かれる雰囲気だ、一歩間違えば何か得体の知れない物に引きずり込まれそうなそんな危険な色気が漂っている。
「あ、あぁこの辺りじゃ有名な盗賊の親玉だよ… 確か手配ランクAでAランク以上の冒険者しか討伐依頼を受けられないんだけど…」
アウダは唖然としていた、Dランクの冒険者がAランクの手配者を容易く葬った実感がまだわかなかった
「残念ね、これじゃあ守り切ったとは言えないわ、坊や」
「…貴女は… 一体何者なんですか?」
「うふふふ、ただの死がない女王様よ」
「しがない女王様か、確かにあんた高飛車で女王様だもんね!」
荷台の上に乗っていた冒険者の女性二人もこちらへと戻ってきていた
「にしてもあんたら凄いよ! ねぇこのままパーティ組んじゃおうよ!」
「お姉ちゃんそれいい! うちらと組んで上目指そうよ!」
「それはちょっと無理な相談ね。 またギルドで会った時に条件が合えば今回みたいに臨時パーティーって形なら構わないけど」
私が一緒に居たいのは彼やルーメリア達でこの人達ではないのよね
「んーまぁしょうがないか、それでもあたしらは大分助かるしね、特にアウダは嬉しいんじゃない?」
そう言われて肘で小突かれたアウダは顔を真っ赤にした
「ははは! アウダにそんな一面があったとはな、こりゃ本気で恋しちまったみたいだ! 今回の仕事は報酬以外にもかなりの物が手に入ったな!」
「本当だね、この先ずっとこの事言い続けていじめようよお姉ちゃん!」
和気あいあいとはこういうことを言うのかしらね、きっとこのパーティはうまく連携も取れていて実力もあるはず。 地道に行けば四人だけでも十分に上にいけるんじゃないかしら?
「それは楽しそうね、というわけで、はい!」
お姉ちゃんと呼ばれた女性が手を出しだしてきた。 握手を求めているようだ
「あんた、男とは握手したくないんでしょ? よっぽどの男嫌いか… それとも大事な人でもいるの?」
「うふふふ、同じ女にはわかる物よね、彼以外の男には触れられたくないのよ」
フラミレッラは笑いながら彼女の手を握る
「凄い男なのね、あんた程の女をそんなにどっぷり惚れさせるなんて」
「ええ、素敵な人よ」
お互いにニコっと笑い合うとその瞬間女同士で何かが通じたような気がした。
その様子を見ていたアウダがぐっと拳を握り意を決したように口を開く
「…それでも… それでも僕は貴女を諦めない! 僕はフララさんの事が本気で…」
「シャロ! 私の後ろに来なさい!」
「え?」
私は手を握ったままお姉ちゃんと呼ばれた女性の方に日傘を広げた。 日傘のせいで視界が遮られるがこの後何が起こるかは大体わかってる。 そして少しの衝撃と爆発音が辺りに轟き、妹であろう女性の声が日傘越しに聞こえて来た。
「え? お姉…ちゃん?! 嘘… お姉ちゃん?!」
フラミレッラの手を握っていた彼女の姉は何かに爆破された様に上半身が木っ端みじんになっており、その肉片や臓物がフラミレッラの日傘や他の三人飛び散っていた
彼女の叫びが虚しく響く中三体の魔物が気配もなく近づいて来る
「あれはググビデ! Sランクの魔物じゃないか! なんだってこんな所に!」
しょうが自慢気に語っていたのを聞いた事がある、気配遮断の能力が異常に高く爆発魔術を使いこなす三メートル程ある二足歩行の体の線が細い魔物なのだがその一番の特徴は…
「お願いやめて! 放して!」
肉片や臓物が飛び散った汚れた顔で姉の下半身を虚しく揺すっていた女性の髪をググビデが掴み力いっぱい引っ張ると彼女の絶叫と共に頭の皮がベロンと捲れ、頭蓋骨がむき出しになった
このググビデと言う魔物の特徴はその細い体から生まれる信じらない程の握力だ。 異常に発達した握力で握りつぶされたら人間などはひとたまりもない
「…よくも…」
血が滴り白くて綺麗な骨が剥き出しの千切れた腕を見ながらフラミレッラが怒りを漏らす
ググビデの爆発で弾け飛んだ彼女だが、握手で握っていた手は未だフラミレッラが握ったままだ。
フラミレッラは切り離された彼女のを手を強くギュッと握る。
「今助ける! おい! 邪魔だ! そこを退け!」
フルプレートの男が向かうのは髪を引っ張られながら宙吊りにされて白目をむいている女性の所だ。
自身の体の重みで捲れた皮は伸びており、生々しく血がこびり付いた頭蓋骨は痛々しい。
彼女の所へ急いで行きたい彼だが、別のググビデが立ちふさがったので彼は両手斧を力一杯に振り下ろすが簡単に受け止められる
「何?!」
彼が驚いたのも当然だ、握力だけで武器を破壊されてしまったのだから。 武器のない彼など魔物にとってはただの餌だ
「ぐわぁ! や、やめてくれ!! たの…」
ググビデが力任せにフルプレートの頭部を思い切り握り潰した後、上に引き抜くと首が背骨ごと捥ぎ取られ、捥がれた胴体から血が噴き出し絶命し、頭蓋骨がむき出しになった女性も頭を上から何度も殴られた事により頭蓋骨は陥没し、その時点で死んでいたのだが、ググビデは悪戯に上から下に殴り続け、自分の中を流れる血でぐちょぐちょになった頭部が胴体を通って股から飛び出していた
「…よくも…」
日傘で遮られた視界の向こうで行なわれてる残虐な行為を聞きながらフラミレッラはプルプルと震えながら涙を流していた… その感情は怒りや悲しみと言った単純な物ではなく、様々な物が交じり合った今までに彼女の感じた事のない物だった。
だが一つだけはっきりしているのは世界を滅ぼしてしまう程彼女は怒っている。 シャロもそれを背中越しに感じ、その恐ろしさに震えた
「みんなやられるなんて! フララさん貴女だけでも僕は絶対に守って見せる!」
アウガはフラミレッラの前に彼女を守るように剣を構えググビデと睨み合う。 彼は日傘で表情は見えないが怒りに震えるフラミレッラに気付いていた。 彼女は慈悲深い女性だ、今日会ったばかりのあの三人の為に泣いてくれてる優しい女性。 美しく、高貴で思わず跪きたくなってしまう程の気品を持つ女性。 例え彼女の瞳に映る男が僕じゃなくてもいい… 彼女に出会えた事が幸せなのだから… 彼女の為に死ねるのなら…
「フララ… 僕は君が好きだ! だから… 生きてくれ! ぉぉぉおおおおお!」
彼は三体のググビデの下へ駆け出して行く。 愛しい彼女が逃げる時間を稼ぐ為に。
振り下ろされた剣はいともたやすく防がれ二体が両脇に移動し片方ずつ腕を掴んだ
「フララ! 頼む… 逃げて!」
ググビデ二体は力一杯に彼の腕を引っ張ると両腕がおもちゃの様に取れ彼が絶叫を上げるがググビデはそれすらの楽しんでいるようだ
前に居たググビデが両腕がなくなり倒れた彼の足の片方を掴み、近くにある木に向かってフルスイング! 遠心力が加わり激しくぶつけられた彼自慢の整っていた顔面は、一撃でぐちゃぐちゃになり頭の中身が割れた頭からドロリと漏れ出していたが、ググビデは楽しむように何度も打ち付け頭の中身が全て出た所で飽きたのか彼を捨てた
「…よくも…」
フラミレッラの怒りが最高潮に達したのが背中に越しに伝わるシャロは思った。 短い時間とはいえ仲間として行動した者達が無慈悲に殺されていくのに怒っているのだろう。 親しい物の痛みに絶叫する声、肉の千切れる音、骨が砕かれる音、日傘で視界を遮られていても分かる耳から伝わる残虐非道な行為。 フラミレッラは一番自分を警戒していたにも関わらず、誰よりも一番最初に自分を受け入れてくれ、誰よりもシャロを理解している。 誰よりも優しいフラミレッラだ、冷静でいられるはずない。 そんなフラミレッラの心中を思い、シャロは心がズシリと重くなった…
少し静かになった所でフラミレッラが視界を遮っていた日傘を横へと向けた
目に飛び込んで来たのは先程迄楽し気に話していた四人の無残な残骸。 誰一人として原形を留めていない。
「…よくも… …よくも…」
シャロはこんな所をみたフラミレッラが心配だった… 優しい彼女が心配だった… 心配で彼女の服を摘まんで下唇を噛む
「フララさん…」
「…よくも一番お気に入りの日傘を汚したわね!」
握っていた女性の手をググビデに投げ捨てて言い放つと辺りは一瞬静まり返る。
シャロの理解が次第に追いついてきて肺一杯に息を貯めて一言。
「そっち?!」
なのです口調を忘れてしまう程動揺したシャロの声が森に響いた
みんな別段変わった様子はなく、いつもの様におかえりと声を掛けただけなのにあの子泣き出しちゃって。
私はそれが可愛くてつい抱きしめてしまったわ。
そんなに目を腫らしたら折角可愛い顔してるのに台無しよ?
そして今日、しょうは文官たちに捕まり缶詰状態で退屈な私は、シャロが冒険者ランクをみんなに合わせたいと言い出したから、シャロとエクランの冒険者ギルドに向かっている所なのだけれど、私が付いてくる事が意外だったのか今もオドオドしててとても可愛いくてつい頬が綻んでしまったのに気づかれたみたいね
「どうしたのです?」
「あなたがあんまりオドオドしていたからよ、私が来たのがそんなに意外?」
「正直意外なのです… 」
「誰かが冒険者活動する時は私かルチルが付いていく事にしてるの、安全面もそうだけど彼と連絡取れるのは私達だけだからね。 彼は全員と念話出来るよう研究してるらしいけどまだ成果はでそうにないみたいだし、暫くはそんな感じよ」
「フララさんは人の為には動かない人だと思ってました」
「その通りよ、でもね、あなたにもしもの事があったら私は必ず後悔する。 だから結局自分の為でもあるのよ。 それにやっと本当のあなたに会えたしね」
彼女は日傘をくるくる回しながらシャロに優しく微笑んだ。 するとシャロはその笑顔に罪悪感が生まれたのかさっきまでピクピクしてた耳が垂れ下がり、揺れていた尻尾も下がってるしまった。
「約束破ってごめんなさいなのです…」
この子の感情はルチルと一緒だわかりやすいわね、ただ少し違うのはシャロは演技もすると言う事。
そういうあざとい所も私は可愛いと思うけど
「それはもう過去の事よ。 そんな事に負い目を感じる事なくありのままのあなたでいる事がみんなの望んでる事なんじゃないかしら?」
「うぅ… みんなの温かさが染み渡るのですぅー」
「あなたと一緒で其々色々あったからかしらね、あなたを放って置けないのよ。 さて着いたわね」
エクランの冒険者ギルドは元あった建物が老朽化して来たのもあって輝人達が新たに立て直した事により、ステンドグラスや綺麗な装飾を施され無骨で荒くれた汚いイメージだったギルドが華のあるクリーンな場所へと変貌を遂げていた。
中には入り依頼書が張り出された場所へ行くと変わった依頼が冒険者達の視線を集めており、自然と2人もその依頼書へと目をやる
「スファンの谷での人探し、報酬は銀貨1枚。 依頼者ロメオだぁ?! あんな危ない所銀貨1枚で行く奴なんているわきゃないだろ!! あそこはAランクでも生きて帰れるかわからない場所だ!!」
1人の冒険者が依頼書を見てバカにした様に荒げた声に次々と他の冒険者も頷き賛同していく。
「確かに命を危険に晒すのに銀貨1枚は安い対価ね… これなんていいんじゃないかしら?」
「マタワ村迄の護衛… 夜には帰れそうで魅力的なのです! あっ、でもこれBランク以上って… シャロはまだDなのです…」
「大丈夫よ、私はSランクだから」
「フララさん一体何者なのですか?!」
「ただのしがないアンデッド女王よ」
「…確かに死がないのです…」
「でもこれよく見れば6人以上のパーティーにお願いしたいと書いてあるわね」
「本当なのです、他にはよさそうなのもないですしどうしましょう?」
「お嬢さん方、それなら私達とパーティーを組んで依頼を受けませんか?」
私とシャロが依頼書を手に取って話していると後ろから男の声でそう声を掛けられたので振り返ると、男二人女二人の冒険者が立っていた。
話しかけて来たのは剣を持つ軽鎧を付けたいかにも冒険者タイプなリーダーらしき男性、その後ろには使い込まれたフルプレートアーマーを身にまとった戦士風の男性と、ローブを着こみ杖を持った魔術師らしき女性に、弓を持った後衛タイプの女性が控えておりこの四人でパーティーを組んでいるのだろう
「俺達もその依頼を狙ってたんだけど、人数が足りなくて後二人誰か来ないかずっと張ってたんだ」
フルプレートアーマー越しに発せられる籠った声男の声でそう続けた
「あたしらこれでもBランクのベテランだから一緒に組んでも問題ないと思うよ?」
「ねぇうちらと組もうよ! 女の子だけだと不安でしょ?」
魔術士の女性と弓も畳みかけてくる
「シャロ、どうする? 私は別に構わないけれど」
「シャロも構わないのです、六人以上じゃないと受けられないですし丁度よかったのですよ。 これでイレスティさんのご飯に間に合うですね」
嬉しそうに耳をピコピコ、尻尾をフリフリさせるシャロはとても可愛い。 そう思うのは私だけじゃないみたいね
「シャロちゃんっていうの? その服も可愛いなぁ… あぁもうあたし我慢できない!」
「ヴィオだけズルイ! 私にもシャロちゃん抱かせて!」
向こうのパーティーの女性二人がシャロの可愛さにやられてしまい二人がかりでシャロを愛でまくっていた
「と言う事だからこの依頼をあなた達と受ける事にしたわ。 短い間だと思うけどよろしく」
「こんな美しく可憐な女性達とパーティーを組めるなんて幸せです、僕の名前はアウダ。 良かったらお名前を聞かせて貰えませんか?」
パーティーリーダーっぽい冒険者風の男が爽やかに微笑みかけ右手を差し出し握手を求めた。 顔の造形も悪くないし女性の扱いにも慣れてるわね、馬鹿な女ならこれでイチコロでしょうけど私には無駄よ
「悪いわね、あなたが触れていい程私の体は安くないわ。 わかったらその手を引っ込めて頂戴、坊や」
私がそう言い放つとその男は爽やかな笑顔が一転驚きの余りポカーンとした表情になり現実を受け入れられない様子だった
その様子をみたフルプレートアーマーの男から籠った笑いが起こる
「ははは! あの百戦錬磨のアウダがフラれたぞ! こんなの滅多に拝めるもんじゃねー! いいもん見せて貰ったよ!」
「僕はまだフラれた訳じゃないぞ! それにこういうじゃじゃ馬な女性の方が僕は好みなんだ!」
「あなたの趣味なんてどうでもいいわ、そんな事よりも早く依頼をこなしましょう」
「くっ」
リーダーらしき男は悔しそうに拳をギュッと握りしめた
「そりゃそうだ! おいヴィオ、ヴィラ行くぞ!」
籠った声でシャロを撫でまわしている二人に声をかけると二人は小さく舌打する
「お姉ちゃん、続きは護衛中にでも…」
「そうね… その時は今よりももっと激しく…」
「あわわわ、もう嫌なのですよぉ… フララしゃん… シャロは汚されたのです…」
私の胸に飛び込んで来たシャロは少し泣きべそをかいていたいたので小さくて可愛らしい頭を優しく撫でた
「大げさね、いつも誰かにやられてるじゃない」
「知らない人には愛でられたらダメってショウさんに言われたのですよ…」
「なぁアウダ、お前の時と全然対応違わないか? 見ろよあの優しい表情」
「あぁ…」
抱き着いているシャロの頭を慈愛に満ちた表情を浮かべて優しく撫でている、蒼い目の紫髪を持つ美しくも可憐な女性にアウダは目を奪われた。この時アウダは今までに感じた事のない感情が沸いてきていた事に自分でも驚く。 彼は綺麗な女性を沢山抱いており、経験も豊富で心を奪われるなどということはなかったのだが、フラミレッラを見ているだけで高鳴る胸の鼓動がよくわからない感情の正体を恋心だと確信させた。
◇ ◇ ◇ ◇
「いやー助かりましたよ、急な依頼だったので見つからないかと冷や冷やしてましてね…」
「僕達も割のいい仕事が見つかって良かったです、最近この辺りも物騒ですから商売も大変でしょう」
「ええ全くですよ」
私達は隣で依頼主の商人と話すアウダ?だっけ?と呼ばれた男を横目にマタオ村を目指していた
馬車の前方にフルプレートの男と女二人と依頼主のパートナーの男。 後方には私とシャロ、アウダ?と依頼主を配置している。
にしても何でこの男と一緒なのかしら? 私とシャロだけで十分だと思うのだけれど
「その日傘素敵ですね、でも森の中でも日傘って…」
冷たく突き放してるのにこの子ずっと話しかけて来るわね。 彼と同じでいじめられるのが好きなのかしら? 彼ったら私と二人でする時はいつも… まぁそれは良いとして日傘を褒められるのは悪い気はしないわね
「デザインは及第点と言ったところだけど、私の一番のお気に入りよ」
しょうが贈ってくれた物だからこのレースの黒い日傘が今では一番のお気に入り。 【眷属召喚】で彼に呼び出される時だって日傘を持って登場したいが為に事前に差しちゃう位気に入ってるんだから
「結構歩きましたけど喉渇いてませんか?」
「渇いてないわ、それに私は水を飲まなくても死なないもの。 死ねないと言う方が正しいかしら?」
「どういう意味ですか?」
「さぁどういう意味かしらね?」
私が少し悪戯心を込めて微笑むと感じた事のない力に坊やの背筋に悪寒が走ったのか顔色が悪くなった。 うふふふごめんなさい、ちょっとからかいたくなっただけよ。 でもやっぱりからかうなら彼が一番ね。
「冒険者の皆さん少し休憩にしませんか? 少し気分が悪いみたいだ」
「フララさんちょっとやりすぎなのですよ」
シャロが私に小さく耳打ちして気付いたけど、少し魔力を出し過ぎたみたいね。 まだ私は彼ほど魔力をうまく扱えない。
「いいじゃない、そろそろ休憩したかった頃でしょうし」
「シャロちゃーん!」
「お姉ちゃん私も!」
前の方から魔術師と弓を持った女二人がシャロに駆け寄り前から後ろから抱き着いて愛で倒す
「も、もう嫌なのですぅー! あっ…そこは… だめぇ…」
「何やっとるんだあいつらは… 仕事中だというのに気が抜けて仕方ないな」
フルプレートアーマーの中から呆れた籠った声が聞こえた
「フララさんと言うお名前なのですね? 僕もそう呼んでいいですか?」
「やめて貰えるかしら? 坊やに気安くそう呼ばれるのは不快だわ」
今ではみんなそう呼ぶけど、最初にそう呼んだのは彼なんだから。 他の男になんて呼ばれたくないわ
フルプレートアーマーの中から口笛が鳴る
「くぅー! その女王様っぷりいいねぇ! 俺もちょっと癖になってきたよ!」
「お、おい!この人は僕が…」
はぁ… 中々しつこいわね、こういう手合いは何人も居たけど全く興味が沸かないわ
その時愛でられてるシャロの耳がピコピコと動いた
「皆さん! 近くに何か潜んでいるのです! 人数はおそらく12体!」
「ひぃ! 私達は馬車の荷台にいますから後はお願いしますね!」
そう言って商人二人は荷台へとそそくさと隠れた
「12体か、うちと姉さんが荷台の上から狙い打ちするよ」
冒険者の二人は意識を瞬時に切り替え荷台の上に辺りを見渡した。 こういう切り替えの早さは流石冒険者と言った所かしら、それにしても面倒ね。 私は働くのが大嫌いなのよ。
「大丈夫です、僕があなたを守ります」
好都合ね、私の趣味は皆があくせく働くのを何もしないでダラダラ見る事
「あら、それじゃあ守ってもらおうかしら、頑張ってね坊や」
「その坊やってやめてもらえませんか?」
「守り切れたら考えてあげても良いわよ」
「頑張ります!」
「恋の力は凄いねぇ」
フルプレートの男が両手斧を持ちながら茶化した
「いた! 盗賊よ!!」
姿を現したのは盗賊だった。 囲みもせず固まって襲って来るなんて無能な盗賊ね。 でもこの冒険者達に任せてたら時間がかかりそうね。
「シャロ、行きなさい」
「はいなのです!」
シャロは元気よく返事をした後二枚の扇子を取り出し盗賊の方へと駆けて行く
「ダメだ! シャロちゃんはまだDランク、とても12人なんて相手に出来るもんじゃない! まずは魔術と弓で牽制しながら…」
リーダーの男は全てを言わなかった。 なぜなら美しく二枚の扇子を使って華麗に舞う様に攻撃を避けては敵を無慈悲に切り刻むシャロの姿が目に映っていたからだ
「ふぅ終わったのです、この人が親玉らしいですよ、有名人なのですか?」
切り離した盗賊の生首を髪を掴んで持ち上げ、 返り血を浴びた顔でその生首に笑いかけるシャロを見て冒険者達は戦慄した。
彼女から漂っている雰囲気は先程迄の可愛い物ではなくどこか危なっかしいが魅かれる雰囲気だ、一歩間違えば何か得体の知れない物に引きずり込まれそうなそんな危険な色気が漂っている。
「あ、あぁこの辺りじゃ有名な盗賊の親玉だよ… 確か手配ランクAでAランク以上の冒険者しか討伐依頼を受けられないんだけど…」
アウダは唖然としていた、Dランクの冒険者がAランクの手配者を容易く葬った実感がまだわかなかった
「残念ね、これじゃあ守り切ったとは言えないわ、坊や」
「…貴女は… 一体何者なんですか?」
「うふふふ、ただの死がない女王様よ」
「しがない女王様か、確かにあんた高飛車で女王様だもんね!」
荷台の上に乗っていた冒険者の女性二人もこちらへと戻ってきていた
「にしてもあんたら凄いよ! ねぇこのままパーティ組んじゃおうよ!」
「お姉ちゃんそれいい! うちらと組んで上目指そうよ!」
「それはちょっと無理な相談ね。 またギルドで会った時に条件が合えば今回みたいに臨時パーティーって形なら構わないけど」
私が一緒に居たいのは彼やルーメリア達でこの人達ではないのよね
「んーまぁしょうがないか、それでもあたしらは大分助かるしね、特にアウダは嬉しいんじゃない?」
そう言われて肘で小突かれたアウダは顔を真っ赤にした
「ははは! アウダにそんな一面があったとはな、こりゃ本気で恋しちまったみたいだ! 今回の仕事は報酬以外にもかなりの物が手に入ったな!」
「本当だね、この先ずっとこの事言い続けていじめようよお姉ちゃん!」
和気あいあいとはこういうことを言うのかしらね、きっとこのパーティはうまく連携も取れていて実力もあるはず。 地道に行けば四人だけでも十分に上にいけるんじゃないかしら?
「それは楽しそうね、というわけで、はい!」
お姉ちゃんと呼ばれた女性が手を出しだしてきた。 握手を求めているようだ
「あんた、男とは握手したくないんでしょ? よっぽどの男嫌いか… それとも大事な人でもいるの?」
「うふふふ、同じ女にはわかる物よね、彼以外の男には触れられたくないのよ」
フラミレッラは笑いながら彼女の手を握る
「凄い男なのね、あんた程の女をそんなにどっぷり惚れさせるなんて」
「ええ、素敵な人よ」
お互いにニコっと笑い合うとその瞬間女同士で何かが通じたような気がした。
その様子を見ていたアウダがぐっと拳を握り意を決したように口を開く
「…それでも… それでも僕は貴女を諦めない! 僕はフララさんの事が本気で…」
「シャロ! 私の後ろに来なさい!」
「え?」
私は手を握ったままお姉ちゃんと呼ばれた女性の方に日傘を広げた。 日傘のせいで視界が遮られるがこの後何が起こるかは大体わかってる。 そして少しの衝撃と爆発音が辺りに轟き、妹であろう女性の声が日傘越しに聞こえて来た。
「え? お姉…ちゃん?! 嘘… お姉ちゃん?!」
フラミレッラの手を握っていた彼女の姉は何かに爆破された様に上半身が木っ端みじんになっており、その肉片や臓物がフラミレッラの日傘や他の三人飛び散っていた
彼女の叫びが虚しく響く中三体の魔物が気配もなく近づいて来る
「あれはググビデ! Sランクの魔物じゃないか! なんだってこんな所に!」
しょうが自慢気に語っていたのを聞いた事がある、気配遮断の能力が異常に高く爆発魔術を使いこなす三メートル程ある二足歩行の体の線が細い魔物なのだがその一番の特徴は…
「お願いやめて! 放して!」
肉片や臓物が飛び散った汚れた顔で姉の下半身を虚しく揺すっていた女性の髪をググビデが掴み力いっぱい引っ張ると彼女の絶叫と共に頭の皮がベロンと捲れ、頭蓋骨がむき出しになった
このググビデと言う魔物の特徴はその細い体から生まれる信じらない程の握力だ。 異常に発達した握力で握りつぶされたら人間などはひとたまりもない
「…よくも…」
血が滴り白くて綺麗な骨が剥き出しの千切れた腕を見ながらフラミレッラが怒りを漏らす
ググビデの爆発で弾け飛んだ彼女だが、握手で握っていた手は未だフラミレッラが握ったままだ。
フラミレッラは切り離された彼女のを手を強くギュッと握る。
「今助ける! おい! 邪魔だ! そこを退け!」
フルプレートの男が向かうのは髪を引っ張られながら宙吊りにされて白目をむいている女性の所だ。
自身の体の重みで捲れた皮は伸びており、生々しく血がこびり付いた頭蓋骨は痛々しい。
彼女の所へ急いで行きたい彼だが、別のググビデが立ちふさがったので彼は両手斧を力一杯に振り下ろすが簡単に受け止められる
「何?!」
彼が驚いたのも当然だ、握力だけで武器を破壊されてしまったのだから。 武器のない彼など魔物にとってはただの餌だ
「ぐわぁ! や、やめてくれ!! たの…」
ググビデが力任せにフルプレートの頭部を思い切り握り潰した後、上に引き抜くと首が背骨ごと捥ぎ取られ、捥がれた胴体から血が噴き出し絶命し、頭蓋骨がむき出しになった女性も頭を上から何度も殴られた事により頭蓋骨は陥没し、その時点で死んでいたのだが、ググビデは悪戯に上から下に殴り続け、自分の中を流れる血でぐちょぐちょになった頭部が胴体を通って股から飛び出していた
「…よくも…」
日傘で遮られた視界の向こうで行なわれてる残虐な行為を聞きながらフラミレッラはプルプルと震えながら涙を流していた… その感情は怒りや悲しみと言った単純な物ではなく、様々な物が交じり合った今までに彼女の感じた事のない物だった。
だが一つだけはっきりしているのは世界を滅ぼしてしまう程彼女は怒っている。 シャロもそれを背中越しに感じ、その恐ろしさに震えた
「みんなやられるなんて! フララさん貴女だけでも僕は絶対に守って見せる!」
アウガはフラミレッラの前に彼女を守るように剣を構えググビデと睨み合う。 彼は日傘で表情は見えないが怒りに震えるフラミレッラに気付いていた。 彼女は慈悲深い女性だ、今日会ったばかりのあの三人の為に泣いてくれてる優しい女性。 美しく、高貴で思わず跪きたくなってしまう程の気品を持つ女性。 例え彼女の瞳に映る男が僕じゃなくてもいい… 彼女に出会えた事が幸せなのだから… 彼女の為に死ねるのなら…
「フララ… 僕は君が好きだ! だから… 生きてくれ! ぉぉぉおおおおお!」
彼は三体のググビデの下へ駆け出して行く。 愛しい彼女が逃げる時間を稼ぐ為に。
振り下ろされた剣はいともたやすく防がれ二体が両脇に移動し片方ずつ腕を掴んだ
「フララ! 頼む… 逃げて!」
ググビデ二体は力一杯に彼の腕を引っ張ると両腕がおもちゃの様に取れ彼が絶叫を上げるがググビデはそれすらの楽しんでいるようだ
前に居たググビデが両腕がなくなり倒れた彼の足の片方を掴み、近くにある木に向かってフルスイング! 遠心力が加わり激しくぶつけられた彼自慢の整っていた顔面は、一撃でぐちゃぐちゃになり頭の中身が割れた頭からドロリと漏れ出していたが、ググビデは楽しむように何度も打ち付け頭の中身が全て出た所で飽きたのか彼を捨てた
「…よくも…」
フラミレッラの怒りが最高潮に達したのが背中に越しに伝わるシャロは思った。 短い時間とはいえ仲間として行動した者達が無慈悲に殺されていくのに怒っているのだろう。 親しい物の痛みに絶叫する声、肉の千切れる音、骨が砕かれる音、日傘で視界を遮られていても分かる耳から伝わる残虐非道な行為。 フラミレッラは一番自分を警戒していたにも関わらず、誰よりも一番最初に自分を受け入れてくれ、誰よりもシャロを理解している。 誰よりも優しいフラミレッラだ、冷静でいられるはずない。 そんなフラミレッラの心中を思い、シャロは心がズシリと重くなった…
少し静かになった所でフラミレッラが視界を遮っていた日傘を横へと向けた
目に飛び込んで来たのは先程迄楽し気に話していた四人の無残な残骸。 誰一人として原形を留めていない。
「…よくも… …よくも…」
シャロはこんな所をみたフラミレッラが心配だった… 優しい彼女が心配だった… 心配で彼女の服を摘まんで下唇を噛む
「フララさん…」
「…よくも一番お気に入りの日傘を汚したわね!」
握っていた女性の手をググビデに投げ捨てて言い放つと辺りは一瞬静まり返る。
シャロの理解が次第に追いついてきて肺一杯に息を貯めて一言。
「そっち?!」
なのです口調を忘れてしまう程動揺したシャロの声が森に響いた
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