蒼炎の魔法使い

山野

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第八十八話 好きな子程イジワルしたくなる

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「そっち?!」
シャロは思わず叫んでしまったのです。
フララさんはとても優しい人です、だからシャロはフララさんならほんの少しだけパーティを組んだ間柄だったとしても、悲しむのかと思っていたのに…

ショウさん風に言うと
「全然思ってたんと違う!  なのです!」

「もしかして私が坊や達が死んだ事に怒ったり悲しんだりしてると思ったの?  だとしたらそれは間違いね。 他人がどうなろうと知った事じゃないわ」
それはもう本当に興味なさげにそう言ったのです。 フララさんにとってはショウさんやルーメリアさん達が全てで、他の人達はその他大勢なのだと思うのです。

「とは言え依頼主は守らないと無駄になるわね。  死霊魔法【スカルウォール】」
頭蓋骨で出来た壁が外敵を寄せ付けないように馬車を取り囲んだが、馬車からは突然現れた禍々しい頭蓋骨に怯える声が僅かに聞こえる

「これで安心ね。  死霊魔法【骸の嘆き】」
地面から突如湧いて出た鋭利な巨大な骨がググビデ達を下から一瞬で串刺してしまい、巨大な骨が刺さり浮き上がった体は地に足をつける事を許されず血を流しながらバタバタともがいていた

「シャロは思うのです…  最初からこれをやっていれば何人か助かったんじゃないかと…」

「彼から貰った大事な日傘を汚されてそんな事を気にする余裕がなかったのよ」
フラミレッラは日傘に付着した肉片や臓物をみながら小さいため息を漏らした
フララさんからすれば日傘の方が他人の命より重いのですね…

「肺を貫いたから呼吸が出来ない苦しみを味わいながら死んで行くでしょう。  もっと苦しめて殺してあげたい所だけど、先を急ぐからこれぐらいで許してあげるわ。 遅れたら折角作ってくれるイレスティに悪いし」
シャロ達に向ける優しい可憐な笑顔じゃなく、残忍に笑うフララさんはとても怖いのです。

あの恐ろしい笑顔を自分に向けられたらと思うだけで震えが止まらないのですよ…

この時油断していたです。 気付いた時にはもう何者かに腕を掴まれていて、思いっきり投げ飛ばされ樹に物凄い勢いで激突した事により何か所も骨が折れてしまったのです。
シャロを呼ぶフララさんの声はかすかに聞こえていたのですが、そのま意識が遠くなっていくのを感じたのです

「……ャロ!」

「シャロ!」

目が覚めると心配そうな顔でシャロの顔を覗き込むいつもの優しいフララさんが居ました。その両脇には依頼主とそのパートナーの人もいます。
フララさんが魔物を全員やっつけたのですね、シャロを攻撃したのは… あぁ間違いなくあれなのです… 死体が目を背けたくなる位酷い事に… フララさんがシャロを傷けられた事に怒ってやったのだとしたら魔物さんには悪いけど少し嬉しいのです。

「…っ…」
どうやら声を出したいけど声を出せない程シャロはダメージを受けてしまっているみたいなのです…

「良かった… ポーションだけど、自力じゃ飲めそうにないわね。」
フララさんはレデリさんが持たせてくれたポーションを取り出し、口に含むとシャロに口移しでそれを飲ませました
レデリさんの調合したポーションは大概の怪我などは治してしまう位優秀なので、必ず何本か持たせているそうです。 フララさんの感触の良い唇を感じながら流れ込んで来るポーションのおかげで、骨が繋がっていく感覚がありダメージも抜け回復したのですが…

「うぅん… はぁ… あっ…」
舌の絡み合う音を立てながらシャロの艶っぽい声が漏れる
どうして舌を絡ませてくるですか?! でも… この舌使い… 癖になるのです… シャロそれ以上されたら…

女同士なのに… イケナイ事なのに…  拒否したいのに体が求めてしまう不思議なキス… もっと…
骨も繋がり動かせるようになった腕でフラミレッラを抱きしめて舌が絡むたびに彼女のゴシック調のワンピースをギュッと握ってしまう

だんだんと頭がぼーっとして来た所でフララさんは唇を離してしまい、シャロは思わずあっと声を漏らしていたのです

「つい癖でいつもの様にしてしまったわ」
シャロは唇を離された時に何故か切なさを覚えフララさんに抱き着きながら綺麗なフララさんの顔を見つめてしまっていました
フララさんは唇についている絡ませた舌から垂れた唾液を舐めとりながら、物欲しそうな顔をしているシャロ見て笑って言ったのです

「うふふふ、もっと欲しいの?」
シャロは凄く恥ずかしかったけど小さくこくりと頷くと、フララさんもシャロの背中に腕を回して優しく唇を重ね、先程よりも情熱的な舌使いだったので漏れる吐息も先程よりも大きくなってしまっていました

二人は近くにいた依頼主達などそっちのけで再度絡み合う。 依頼主とそのパートナーが顔を赤くしながら見ていた

「いやーありがとうございました、色々な意味で」

「こんな別嬪さん二人のあんな姿を見れるなんて俺達はラッキーだよ、それじゃあまた縁があれば!」
そういって二人の男は去っていく。

「無事に依頼完了ね、四人死んだけど」

「それは無事というのですか?」
あの後何度か魔物に襲われたのだが、難なく撃退し二人を村に送り届けて帰る所だ

「それにしても今日の事は忘れて欲しいのです… あの時のシャロはちょっとおかしかったのですよ…」
思い出すだけで顔から火が出そうな位恥ずかしいのです…

「あら別にいいじゃない、私も十分楽しんだわよ? それに…」
シャロよりも少し背の高いフララさんはシャロの顎に人差し指を置いて目線を上げた後、シャロの唇を優しくなぞりながら顔を近づけてきたので思わず唇を突きだして目を瞑ってしまいました

「うふふふ、期待したかしら? 続きはまた今度ね」
正直期待していた自分が恥ずかしいのです… からかう様に笑うフララさんの顔はとても魅力的で女のシャロでもドキドキさせれてしまうのです

「フララさんイジワルなのですよ…」

「だって可愛いんですもの。 そういうむくれた顔も好きよ」
シャロも優しく頭を撫でてくれるフララさんが大好き。 他人には冷たくて冷酷な所もあるけど、優しくて愛情深くてみんなのお姉さん的存在のフララさん、男なら間違いなく好きになっているのです。 ショウさんは幸せ者なのですね。

「さぁ、みんなの所へ帰るわよ。」

「はいなのです!」

◇  ◇  ◇  ◇

「おかえり」

「ただいまなのです」
何故か皆さんのたまり場になっている執務室に入るとショウさんが暖かく迎えてくれました。

ごく当たり前にそう言ってくれるショウさんは、ここエクランの領主様なのです。 いつも仕事が嫌で抜け出してばかりのダメ領主様が納める地なのですが、ここは近々独立して国になるそうです。 ショウさんには感謝しても感謝しきれません。 シャロが当たり前の様にただいまなんて言える日が来るなんて思ってなかったのですから。

「今日はフララと一緒に冒険者活動してただろ? 無事に終わった?」

「いいえ、大問題が発生したわ」
フラミレッラとシャロがいつも座っている席に腰掛けるとイレスティーがすかさずお茶と焼き菓子を出す
優雅にお茶の香りを楽しんで紅茶を一口に含むと、フラミレッラが口を開いた

「今回は他の冒険者四人と一緒に依頼を受けたんだけど、その四人の一人がググビデが起こす爆発に巻き込まれて上半身が爆散してぐちゃぐちゃになったのよ」
優雅にお茶をしながらする会話ではないと思うのです… 

「確かにそれは大問題だ」

「それでね、その女の肉片やら臓物で日傘が汚れてしまったの。 大問題でしょ? だから新しい日傘を所望するわ」

「………そっち?!」
今ここにはみんな集まっているのですけど、多分みんなショウさんと同じ事を思ったのですよ

「当たり前じゃない、冒険者四人と日傘を天秤にかけたなら日傘の方が圧倒的に重いわよ?」

「日傘は人の命より重いって? どこの中間管理職発言だよそれは」
ショウさんは異世界人の為時々意味わからない事を言うのです。 基本的に意味わからない人なのですが。

「馬鹿ね… 貴方がくれた物だから大事なんじゃない」
いつも余裕たっぷりで凛と咲く花の様に堂々としているフララさんが、ショウさんの前だけ違った表情を見せるのです、フララさんが顔を赤く染めて恥ずかしそうにする姿はとんでもない破壊力。
きっとあの人… 名前忘れてしまったのですが、フララさんを好きになったあの冒険者の人もこういう表情を向けられたかったんでしょう… でも良かったのです、死んだことで永遠にフララさんの死霊魔術の一部として役に立てるのだから。 

「お、おう。 今度一緒に買いに行こうか」
恥ずかしそうに頬を掻くのはショウさんの癖です、自分では気付いてないのでしょうが、一日に何回もやっているのでそのうち頬から出血するのではないかと心配なのです。

「うふふふ、久々にデートね」
満足げに微笑むフララさんは見惚れる程とても綺麗なのです

「…シャロ、さっきからお姉様の顔ばかりみてどうしたの? それに少し顔も赤い。 お姉様と何かあった?」

「あわわわ、な、何でもないのですよ!」
シャロが慌てて手を振りながら否定すしながら焼き菓子を口に含み紅茶を流し込んだ
うっ、ルーメリアさんに見られていたのです… フララさんとした恋人同士でするような濃厚なキスの事思い出して顔が赤いなんて言えないのですよぉ…

「…口」

「どうしてフララさんとキスした事わかったですか?!」
シャロは思わずストリンデの様にテーブルをバンと叩いて立ち上がった、驚きの余り耳と尻尾がピンと硬直している

「…口…クッキーのカスが付いてるって言おうとしたんだけど…」
シャロの顔がどんどん赤くなり今にも恥ずかしさで倒れてしまいそうだ

「シャロはどうやらキスが好きみたいよ?」
フララさんが優雅にお茶を飲みながらそう言った

「…そうなの? じゃあ… 私ともしてみる?」
ルーメリアは銀髪の綺麗な長い髪を耳にかけてテーブルに身乗り出しシャロにゆっくりと桜色の唇を近づけて行く
え? ルーメリアさん本気なのですか? ドキドキ… シャロは胸の鼓動が早くなっていくのを感じて、目を瞑る

「…可愛い。 ちゅっ」
ルーメリアは頬にチュッとしてシャロの頭を撫で優しく笑いかけた

「うぅ… シャロは皆にからかわれてばかりなのです…」
シャロは恥ずかしそうに尻尾を抱え顔を真っ赤にする

「お兄ちゃんちょっとこの光景良いなって思ったでしょ?」

「兄さんは女の子同士の絡みも守備範囲なのか、相変わらず女なら何でもありのクソ野郎だね」

「うるさいな… ちょっとだけ… いや少しだけ… …実はかなりいいと思いまいしたけど何か?! 可愛い女の子同士の絡みが嫌いなやつなんていんの?!」
エメさんとレデリさんがちょっとエッチな顔でこちらを見ていたショウさんをからかっていました

「私も少しドキドキしてしまいましたよ」

「もう…イレスティさんまでやめて下さいなのです…」
シャロは余りの恥ずかしさの余り抱き着いた尻尾に顔を埋めた

「なんじゃシャロよ、チュー位でそんなに慌てて、わらわも我が子に達に沢山しておるのじゃ」
そういうのとは違うのですよルチルさん…

そんなこんなで今日もわいわいと騒がしいシャロの居場所はとっても暖かくて楽しい場所。 シャロはみんなが大好きなのです。

「ねぇちょっと話があるんだけどいい?」
シャロがモフモフの尻尾に顔を埋めて幸せを噛みしめる時、ストリンデがショウの所へ行き真面目な顔でそう言った
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