蒼炎の魔法使い

山野

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第百十話 乱戦、混戦、接戦?

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 敵襲を知らせる鐘の音が響き渡り、往来を行き交っていた住民が民家へと避難した事で、今この場に居るのはルーメリア、イレスティ、シャロ、そして即死させられた兵士達の骸だけで、助けた母娘には避難する様言って帰らせた

「姫様、間も無く兵が集まってくると思われます」
 往来で堂々と襲われている母娘を助けた事により、侵入した事が見つかってしまい、飛び交う兵士の声で辺りが騒然としてきました

「……そう。  先にあれをなんとかしないと。」
 煌々と輝く月を映した空を見上げると、私達の真上にこちらを見ている何かが居る

「本国に情報を持ち帰られたらちょっと厄介なのです、早めに処理するのが吉なのですよ」
 空を飛んでいけば帝国までそんなに時間はかからないでしょう、こちらの作戦を見破られて騎士団達を始末されては全ての苦労が水の泡です

「でもどうやって攻撃範囲外の空を飛んでる相手に攻撃するのです? 」

「……まずシャロに私の鎌を掴んで貰います。」

「にぎにぎ……すごい重量感なのですね!  ふむふむ、それからどうするのです?」

「この新鮮な血液を瘡蓋で覆った果物をシャロ様に落とさない様、しっかり持って貰います」

「うぅ、見た目が相変わらずグロテスクなのです……  最初これにストローを挿して飲んでる2人を見た時、かなり引いたのですよ……  それからどうするのです?」

「……振りかぶって……」

「ルーメリアさん?  これってもしかして……もしかするのです?」

「……スゥ~ウィングッ!!」
 力一杯振られた鎌を掴んでいたシャロの足が地を離れ、巫女服をパタパタ靡かせ風を切り、勢い良く空に居る何かに向かって飛んで行く

「ファーー」
 はっ?!  私とした事がついつい注意を促してしまいました

「2人とも酷いのですぅ!!  2人共後で覚えていやがれなのですよ!  くらえ!なのです!」
 涙目になりながらも二枚の扇子を構えて、空に居る何かを仕留めに行くが、直線的な攻撃過ぎていとも容易く避けられてしまう

「うぅ、こんな攻撃避けられるに決まってるのですよ……」

「シャロ様、よくやってくれました! 鮮血魔術【あやとり】」
 シャロの持っていた悍ましい果物の瘡蓋が剥がれ、飛び出した糸状の鮮血が網を模り、飛んでいた何かを捕獲、地へと引きずり下ろす事に成功、落ちて来たシャロもルーメリアがしっかりと受け止め無傷で帰還

「もぉ酷いのです酷いのです! 今日のシャロの扱いは散々なのです! シャロはプンプンなのですよ?」
 お姫様抱っこで受け止められたシャロ様が涙ながらにポカポカとルーメリア様の胸を叩いておりましたが、その姿はとても愛らしく、当人は怒っているつもりなのでしょうが、全く凄味がなく微笑ましくすらありました

 そんなシャロ様をルーメリア様はゆっくりと降ろしてから抱き締め、労いの言葉を掛けます
「……シャロにしか出来ない事ばかりだったから。 本当によく出来ました。」

「うぅ…… ずるいのです…… そんな事で誤魔化されるシャロじゃ…… シャロじゃ…… ルーメリアさんもっと撫でて欲しいのですぅ……」
 ルーメリア様は言葉を尽くすのが余り得意な方ではないですが、その分行動で伝えようと日々努力しており、混じりけのない純粋な姫様の行動は、意図せず直に人の心に触れ、心を動かします。 
 シャロ様もすっかり毒気を抜かれてしまったようで、先程迄の怒りは一体どこへ行ったのでしょう? 今は猫なで声を上げて、姫様の胸に頭をすりすり擦り付け気持ちよさそうに撫でられています
 天然の人たらしですね、【魅了】の力よりも余ほど厄介なのではないでしょうか?

 ただ、ブラを勝手に取ったり、空中に無許可で放り投げたり、やった事自体は酷いと思いますので、謝るべきだとは思いますよ姫様。

「ハーピー……でございますね?」
 私の【あやとり】で作られた網の中には、手は翼で、脚は鳥類のそれ、所謂ハーピーと呼ばれる種族でしたが……

「……もう舌を噛んで死んでる。」

「帝国の者は、捕虜になる位なら舌を噛み切って死ねと教育されているのは有名な話なのですよ」
 情報漏洩をさせない為とはいえ、そんな厳しい掟が帝国にはあるのですね
 ハーピーが息を引き取ったのを確認したと同時に、私達はわらわらと集まり始めて来た兵士達に囲まれてしまい、三人背中合わせで対峙しました

 ざっと100人ぐらいでしょうか?

「お前達が侵入者だな?! たった三人でどうするつもりだ?」
 私とルーメリア様は近距離タイプ、シャロ様は中距離タイプで、私以外広範囲撲滅タイプの魔術等の持ち合わせはありませんし、私のも使用条件がありすぐにとはいきません

 個々の能力は高く、一対一ならばドラゴンですら倒せると思いますが、1000人相手では体力が持つかどうか……

「突撃!!」
 勇ましい掛け声と共に兵士達がこちらへと走って来ますが、突然勢いのあった兵士達の足が止まる事となります

 姫様の持つスキル【威圧】

 国王陛下譲りの【威圧】が屈強な兵を怯ませ、士気を大幅に削いだのです

「くっ、弓兵何をしている! 援護しろ!」
 指揮官らしき男が兵士達に檄を飛ばした事で、たじろいでいた兵士達の士気が僅かに上がり戦意を取り戻した様です

 多数の弓音と共に放たれた矢が私達目掛けて飛んできおり、まともにくらえば致命傷は免れないでしょう。
 ですが私達は落ち着いておりました

「紫炎武装【マゼンダ】」
 飛んで来た矢はルーメリアに届く寸前、突如発現した紫の炎に焼かれ、鏃の金属はドロリと溶け、木で出来ていた部分は灰と化す

 赤紫の炎が混ざり炎の鎧と化した【オーラ】は、近づく物を容赦なく焼き払う
 ショウの血を常飲する事で身体能力が上昇しただけではなく、自分の赤い炎とショウの蒼炎とが混ざり合い、赤い炎よりも威力の高い紫色の炎が扱えるようになったのだ

「鮮血魔術【凝血壁】【血遊び】」
 先程惨殺した死体の傷口から吸い上げられた血液で出来た球体に、手首を少し切って自分の血を少し吸わせると、彼女の目の前で半凝固した粘り気のある赤黒い壁となって全ての矢を防いだだけではなく、べっとりと血が付いた矢を血液操作の力で方向転換させ、兵士達へ反撃をお見舞いした

「幻狐舞踊【風狂の舞】」
 投げられた二枚の扇子は繋がっている紐の中心を軸にして、鋭い風を纏いながら風車の如く激しく回り、飛んでくる矢を絡め取りながら前方にいた兵士を真っ二つにして行く

「ひ、怯むな! 生死は問わん、ころ……せ……」
 無数に飛んで行った矢を全て凌がれた事に冷や汗を流しながらも、後方で果敢に激を飛ばして兵の士気を保っていた指揮官の男の首から突然大量の血が噴出し、理解が及ぶ前に力尽きた

 まだまだ下級の兵という事でしょうか? 
 まるで手応えがありませんが、ご主人様との朝のトレーニングがしっかりと身を結んでいるという証拠でもありますね

 気配もなく背後にいつの間にか現れたメイド服の女に指揮官の男を一瞬で殺されてしまった事で、兵達は統率を失ってしまう

「部隊長! お前一体どこから?! 何者なんだ?!」
 短剣で切られた綺麗な切り口から、血を吸い上げている悍ましい何かに、部隊長の側近であろう一人の兵士が剣を構えながら震えた声で問いかけると、その何かはハキハキとした口調で自己紹介を始めた

「これは失礼致しました。 私はご主人様に仕える忠実なメイドでございます。 短い期間ではありますが、お見知りおきを……」

「ご主人様って誰の……」
 自己紹介の最後にお辞儀をしていた彼女の姿は気付いた時にはもうなく、部隊長と同じ様に後ろからスパッと首を切られ大量に鮮血を噴き出しその生を終える事となる

 この位手を抜いた暗殺術での攻撃などは、ご主人様でしたらあくびをしながらスッと避けてスカートを捲る事でしょう

「……イレスティ…… 私の専属侍女だって事すっかり忘れてる。」
 明らかに近接タイプのルーメリアの攻撃を三人がかりで大楯を構えて受け止めようとするが、【闘気】も纏えていない盾などでガードしたところで、紫炎を纏った大鎌ならば盾ごと人体を切り裂く事は容易く、三人を一瞬で紫炎で焼き尽くし塵に変える

 流石でございます姫様、攻撃力だけで言えば私達の中ではルチル様と並ぶのではないでしょうか?

「次が来る前に減らすだけ減らすのですよ!」
 乱戦で身動きが取りずらい戦場を、優美かつ華麗に舞っているのはシャロだ
 幻魔術で認識をずらし、一人一人確実に屠っていく

 戦いの時のシャロ様は、いつもの愛くるしい雰囲気とは打って変わって、危なげな色気を放つ妖艶な舞姫。
 時折紫色に光る瞳は、覗き込んだ物を惑わし、 夜空に舞う血飛沫はシャロ様の舞に華を添える最高の引き立て役となります

 私も頑張らないとご主人様に褒めて頂けませんね

 烏合の衆と化した兵士達は、一方的に短剣で首を深々と切られ、大鎌で塵にされ、扇子で体を真っ二つにされて辺りに聞こえるのは、助けを乞うて泣き喚く声と、死ぬ間際に上げる耳障りな断末魔だけ

 これではどっちが悪役かわかりませんね……
 大方片付き、一息つきたいと思っていたら増援が現れ再度囲まれてしまいました

「……やっぱり来た。」

「さっきより多いのです……」

「私にお任せください。 鮮血魔術【葬送血雨そうそうけつう】」
 私の頭上にある血の球体に、先程自分で切った手首の傷から大量に血が抜かれ、球体が広範囲を覆う赤い雲となりました

「おい、おい、なんだありゃ…… この世の終わりか?」
 街の景色を赤く染めてしまう程広範囲に展開された赤黒く禍々しい血で出来た雲を見て、一人の兵士がそう呟きました
 その異様な光景に兵士の皆々様は恐れ戦きただ茫然とその場に立ち尽くしたのです

 そして大量の死者が流した血で出来た無念の雨が、静かに降り始めました

 これから始まるのは一方的な虐殺ですが、ご安心下さいませ、これだけ一緒に行けばきっと寂しくありませんから
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