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第百二十二話 サンレヴァン軍VSイオレース軍
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精霊達の力でペネアノ西側の守りが薄い事を知っていたサンレヴァン軍は、西側にそれまで無かった沼がいくつか出来て地形が大きく変わっていた事に困惑していた。
そしてその沼から、幾多の戦場を生き残って来た屈強な兵達でさえ後退ってしまう程の邪気を放つ、六つの蛇頭を持つ悍ましい蛇が這い出て来たのを皮切りに、蛇の軍勢が続々と現れサンレヴァン軍と向き合う形となり、暫く膠着状態が続いているという状態だ。
本陣でこめかみをトントン叩きながら青い髪が少し後退した頭を悩ませている40代後半の男は、サンヴァンの知将と名高いハミルド。
「やはり父上の予想通り、一瞬六頭邪神竜が消えただけで、特に動きがありませんね、罠でしょうか?」
険しい顔で机に敷かれた地図を見ている父に、声を掛けたのは、青と金が絡まった柄が描かれた柄の十字槍を背に携え、うねりのある青い髪がセクシーなグスタフだ。
ハミルドとその息子のグスタフは、突然現れた未知の魔物への対処を、本陣にて本国からの指示を待っていた。
「いや、違うな。あれは誰かの命令に従ってあそこを守護しているのだろう。距離を詰めねば攻撃を仕掛けてくることはないだろう。一瞬消えたというのは恐らくその誰かの召喚に応じたのであろうな。ペネアノは魔物に魂でも売ったのやもしれんぞ」
「災害級の魔物が誰かの配下だと申されるのですか? ご冗談を…… あんな魔物、個人が所有出来るとは思えませんよ。それに六頭邪神竜なんて聞いた事もありません」
「とはいえその考えが一番しっくり来る。北西に現れたアンデットも同じ者の配下と考えるのが妥当だろう。あちらの状況型が分かればいいのだが……」
「アンデットを使役するなんて不可能ですよ父上……あちらはドラゴンゾンビが二匹ばかしいるみたいですが、問題なく処理できるでしょう」
「だと……良いのだがな」
「失礼します将軍閣下! 本国からの通達! 六頭邪神竜なる魔物の情報はなし、構わず進軍せよ。との事です……」
部下の報告を聞いたハミルドは、周辺地図の敷かれたテーブルをドンと強く叩いて怒りを露わにした。
「本国の馬鹿供が!! 新種の魔物の能力がわからない現状では前代未聞の被害が出るやもしれんと言うのに進軍だと?! あの脳足りんの王になってから我が国は衰退する一方だ!! 帝国に踊らされるだけだと言うのが何故わからん!!」
「父上、それ以上は兵達の士気にも関わります……気持ちはわかりますが抑えて下さい……」
ハミルドの言葉に指揮官クラスの表情も曇り、本国に不信感さえ抱いてるようにも見える。
「お前達だってわかっているだろう。戦に勝てども戦後処理には皇帝自らが出てくるだろう。それに対してこっちは使えない奴ばりで旨味のある権利を掠め取られる。貧乏くじを引かされるのなんて目に見えてるのだぞ」
「それ以上は私達国王陛下直属部隊、エスカダも黙っていませんよ?」
何処からともなく現れた10名程の黒い集団が声を荒げるハミルドに声を掛けた。
サンレヴァンの汚れ仕事を一手に引き受ける特殊部隊、それがエスカダである。
「何の用だ?」
「ハミルド将軍はどうやら国王陛下の事を良く思ってないようですので。我々は口を出したり邪魔はしませんので将軍の好きに戦って下さい」
「要するに監視役という事か。それで従わなければどうする? 殺すか?」
「さぁ、それはどうでしょうか?ですが私達の仕事ぶりはご存知ですよね? 被害は貴方当人だけではなく、家族からその友人にまで及ぶ事をお忘れなく」
丁寧にお辞儀した黒尽くめの男に舌打ちを浴びせて悪態を付く
「クズ共が」
「父上が命令に背く等という事はありえません、今は戦の前で今気が立っておられるのだ。余り刺激する様な事を言わないで頂きたい」
一触即発の重苦しい空気を感じ取り、グスタフが間に入り仲裁した
息子の言葉に冷静さを取り戻したハミルドは眉間に皺を寄せ、威厳のある声で指揮官達に向かって声を発する。
「いいかお前達、今回の相手は難敵だ、はっきりってどれくらいの被害が出るか想像が付かん。死を恐れる者はここからすぐに立ち去れ!」
ハミルドの凄味を効かせた一喝は、その場に居合わせた指揮官達の目を点にさせ、中には笑い出す者までいた。
その笑っている者が一歩前に出て口を開く。
「恐縮ながら将軍閣下!! 我らは閣下の駒であり剣であり盾です!! 何なりと命じて下さい!!」
その場にいる者の顔はみな誇らしげで、どれだけハミルドの信頼が厚いのかを伺う事が出来た。
その言葉を聞いたハミルドの口角が僅かに上がり、目を少し瞑ってから彼らの覚悟に応える。
「死に急ぎの馬鹿共が……出陣だ! 準備を整えろ!」
ハミルドの言葉に威勢よく返事をした指揮官達が颯爽と出て行くのを見て、エスカダの者がニタリと嫌な笑いを浮かべて拍手を送っていた
「素晴らしい兵達ですね、国の為ならば命を捨てる事ですら恐怖しないとは。いや、貴方の為ならば、ですかね?」
「……ふん」
ハミルドはエスカダの男の言葉を鼻で笑いながら、こいつらが出張ってくるのだからやはり保険を打っておいて良かったと考えていた。
時間を稼げば本国から帰還命令がくる、ハミルドはそのことを知っているのだ。
◇ ◇ ◇ ◇
イオレースに与えられた命令はペネアノの守護。
その為特にこちらに何かしてくるでもない相手に、こちらから攻撃を仕掛ける様な事はしなかったので暫く膠着状態が続いていたのだが、サンレヴァン軍が動き出した事により、両陣営が激しくぶつかっていた。
辺りが沼地化している事で馬の機動力を活かした戦術は使えず、イオ達の方が優勢の様に見える。
「ほう、ここまで来れる者がおるとは中々楽しませてくれる」
多くの大蛇を切り伏せ、仲間を犠牲にしながら六人の部隊がイオレースの前へと姿を現した。
圧倒的強者の視線はゴミを見るそれで、その視線は心臓に直接蜷局を巻かれ締め付けられているかのような息苦しさを与え、腹にまで響く声は恐怖を掻き立て思わず誰もが後退る。
「怯むな! 取り囲んで確実にダメージを与えていけ!」
ハミルドはそんな精霊化した六人のサンレヴァン軍の小隊がイオを取り囲んで撃破に当たるのを、精霊を通して見ている所だ。
「ではお手並み拝見と行こうか。主殿にも退ければそれでいいと言われているのでな、少々手加減してやろう【結蛇・奪】【毒蛇・染】」
イオレースを中心に薄いオレンジ色の結界が展開されただけではなく、辺りの沼の色が毒々しい色へと変化していく。
かつてショウとルーの二人と戦った時にも使ったデバフ効果のある結界と、辺りの沼を徐々に体力を奪っていく毒沼に変化させる固有魔術だ。
「くっ……力が抜ける……同時攻撃だ!」
卓越したサンレヴァン軍の鋭い槍が巨体に当たるが、イオレースの皮膚を貫く事なく軌道がそれていく。
イオレースの皮膚は摩擦を軽減する特殊な作りで、通常の斬撃や刺突はまるで効果がない。
攻撃をされたのでイオレースは六つの口から牽制がてらに何気ない攻撃を吐き出し反撃をした。
吐き出された炎を受けた兵は、激しい炎に包まれ喉と肺を焼いた事で呼吸が出来ず、もがき苦しみながら黒焦げとなり、水球を受けた者はヘルムごと頭を半分を吹き飛ばされ、脳漿や脳味噌をまき散らして死亡。
砂を受けた者はギュッと圧縮された砂によって圧殺、破裂した体から目玉や臓器が血の海に転がっており、格子状の風の刃を受けた者は綺麗にダイスカットされ、頭からくちゃくちゃ音を立て崩れて肉塊へと変わった。
無数の結界の弾丸を受けた者は上半身が完全に吹き飛び、原形を留める事は出来ず、上半身と下半身を繋いでるのは伸び切った腸だけだ。
仲間達が無残な死に方をするなかまだ生きている者が居た。
と言っても酸を浴びて体が溶けて行っているのでまもなくなのだが……
かなりの激痛を伴いながら酸で焼けただれていくのは、死に方で言えば一番酷いと言えよう。
イオレースは進化した事で火、風、土、水、結界、毒と酸を扱えるようになったのだ。
「手加減したのに全員死んでしまったか。思ったより歯ごたえがないのだな」
六人の兵は死に、いつの間にか眷属の蛇達が何匹かイオレースの周りに集まっていた
「閣下の作戦通り……全滅です……」
ハミルドは悔しそうに拳を握るが、気持ちを切り替え次の指示を出す。
「よくやった……彼らの死は決して無駄にするな! 精霊結界を発動しろ!」
蛇の腹を突き破って何人かが飛び出し、再度イオレースを取り囲んだ者達が高速詠唱を完了させ魔術を発動させる
「「「「「「【精霊六方封印陣・サクリファイスチェーン】」」」」」」
イオレースを中心にして取り囲んだ六人に青白い線が結ばれると、使役している精霊を犠牲にして作られた青白い極太のチェーンがイオレースにじゃらじゃらと巻き着き動きを封じて力を奪った。
「どうだ、身動き取れまい! ハミルド様の言う通りうまく行ったぞ!」
「ほう、我が眷属の腹の中に隠れて近づいてくるとはな、通りでお前達の気配に気付けないわけだ。見事な作戦だな。優秀な指揮官に称賛を送ろう。中々に強力な鎖の様だが主殿にやられた封印魔法には及ばんな。解除にかかるのは……精々一時間から二時間と行った所か、それまでにケリを付けられるかな?」
身動きが取れずしてなお余裕の表情でチロチロと舌を出す六頭蛇に六人は冷や汗を流す。
本来であるならば簡単には抜け出せないこの封印なのだが、この魔物なら本当にその位の時間で破られるであろうという事が分かっているのだ。
戦いはハミルドの指揮の下、水と土系の精霊を使い沼地を逆に利用して蛇の軍勢を蹴散らして行った。
統率を失った魔物は大して強いわけではないのだ。
そしてハミルドはイオレースに王手をかけた
「私はサンレヴァンの将軍ハミルドだ、お前は一体何者だ?」
「わしは主殿の命でここを守っているだけだ。さて……そろそろだな」
イオレースを縛っていた鎖が引き千切れ、今までとは比べ物にならない程の禍々しいオーラが噴出してサンレヴァン軍を怯ませた。
ここからの戦いが本番なのだと兵士ゴクリと生唾を飲み込み身構え覚悟を決める。
両者睨み合い重苦しい緊張感が支配する空間に、所々骨がむき出しになった非行型のアンデッドから紫色の髪の女と、ふざけているとしか思えない仮面をつけた女が飛び降りて来て、紫髪の女が馬鹿にした様な口調で蛇に話しかけた。
「ちょっとイオレース何やられてるのよ? あなた進化したて強くなったんじゃなかったかしら?」
「ふん、小娘がギャーギャーとやかましい。そこのハミルドという奴が中々の曲者でな。これからが本番というところだ、邪魔をするな」
「邪魔をするつもりはないけど、早急に片づける方がショウも喜ぶんじゃない?」
「……それは一理あるな。小娘に助力を求めるのは癪だが、主殿の為とあらば止む無し」
「丸くなったわね、あなた。じゃあさっさと片付けましょう」
「お前こそな。さっさとやってしまおう」
イオレースとフラミレッラがやる気満々になった所で仮面をつけたストリンデが割って入って来た
「ちょっとちょっと、一応、引いてくれないか聞いてみないと! オホン……俺は正義と共に歩む者、今ここで引くならば我々ば手出ししない! ここはこのドリンに免じてひいてはくれまいか?」
両手を広げて仮面の下でにっこりと全力で笑っているが、全く見えないので何なら胡散臭ささえ醸し出している
そしてハミルドは思った、紫髪の女も相当ヤバイ奴だが、違う意味で一番ヤバいのはこの仮面の女だと……
「増援か……先程の非行型アンデッドの様子から察するに……あっちは全滅かもしれんな……」
「閣下、急ぎの報告です、アンデッド討伐は2000以上の兵を失い失敗。万が一そちらに紫髪蒼目の女と仮面の者が現れたら直ちに退却すべし、現状の戦力では勝つことは不可能! との事です」
「ふふふ、あやつめしぶとく生きておったか。だがもう少し早く言って欲しかったものだ。どの道エスカダ出て来た時点で退路は断たれているがな」
ハミルドは気を引き締めて目の前の敵と対峙し、自分の思惑が上手く伝わる事を願いながら、一体と二人対数千という圧倒的有利な状況にも関わらず全く安心感のない戦いが今始まろうとしていた。
そしてその沼から、幾多の戦場を生き残って来た屈強な兵達でさえ後退ってしまう程の邪気を放つ、六つの蛇頭を持つ悍ましい蛇が這い出て来たのを皮切りに、蛇の軍勢が続々と現れサンレヴァン軍と向き合う形となり、暫く膠着状態が続いているという状態だ。
本陣でこめかみをトントン叩きながら青い髪が少し後退した頭を悩ませている40代後半の男は、サンヴァンの知将と名高いハミルド。
「やはり父上の予想通り、一瞬六頭邪神竜が消えただけで、特に動きがありませんね、罠でしょうか?」
険しい顔で机に敷かれた地図を見ている父に、声を掛けたのは、青と金が絡まった柄が描かれた柄の十字槍を背に携え、うねりのある青い髪がセクシーなグスタフだ。
ハミルドとその息子のグスタフは、突然現れた未知の魔物への対処を、本陣にて本国からの指示を待っていた。
「いや、違うな。あれは誰かの命令に従ってあそこを守護しているのだろう。距離を詰めねば攻撃を仕掛けてくることはないだろう。一瞬消えたというのは恐らくその誰かの召喚に応じたのであろうな。ペネアノは魔物に魂でも売ったのやもしれんぞ」
「災害級の魔物が誰かの配下だと申されるのですか? ご冗談を…… あんな魔物、個人が所有出来るとは思えませんよ。それに六頭邪神竜なんて聞いた事もありません」
「とはいえその考えが一番しっくり来る。北西に現れたアンデットも同じ者の配下と考えるのが妥当だろう。あちらの状況型が分かればいいのだが……」
「アンデットを使役するなんて不可能ですよ父上……あちらはドラゴンゾンビが二匹ばかしいるみたいですが、問題なく処理できるでしょう」
「だと……良いのだがな」
「失礼します将軍閣下! 本国からの通達! 六頭邪神竜なる魔物の情報はなし、構わず進軍せよ。との事です……」
部下の報告を聞いたハミルドは、周辺地図の敷かれたテーブルをドンと強く叩いて怒りを露わにした。
「本国の馬鹿供が!! 新種の魔物の能力がわからない現状では前代未聞の被害が出るやもしれんと言うのに進軍だと?! あの脳足りんの王になってから我が国は衰退する一方だ!! 帝国に踊らされるだけだと言うのが何故わからん!!」
「父上、それ以上は兵達の士気にも関わります……気持ちはわかりますが抑えて下さい……」
ハミルドの言葉に指揮官クラスの表情も曇り、本国に不信感さえ抱いてるようにも見える。
「お前達だってわかっているだろう。戦に勝てども戦後処理には皇帝自らが出てくるだろう。それに対してこっちは使えない奴ばりで旨味のある権利を掠め取られる。貧乏くじを引かされるのなんて目に見えてるのだぞ」
「それ以上は私達国王陛下直属部隊、エスカダも黙っていませんよ?」
何処からともなく現れた10名程の黒い集団が声を荒げるハミルドに声を掛けた。
サンレヴァンの汚れ仕事を一手に引き受ける特殊部隊、それがエスカダである。
「何の用だ?」
「ハミルド将軍はどうやら国王陛下の事を良く思ってないようですので。我々は口を出したり邪魔はしませんので将軍の好きに戦って下さい」
「要するに監視役という事か。それで従わなければどうする? 殺すか?」
「さぁ、それはどうでしょうか?ですが私達の仕事ぶりはご存知ですよね? 被害は貴方当人だけではなく、家族からその友人にまで及ぶ事をお忘れなく」
丁寧にお辞儀した黒尽くめの男に舌打ちを浴びせて悪態を付く
「クズ共が」
「父上が命令に背く等という事はありえません、今は戦の前で今気が立っておられるのだ。余り刺激する様な事を言わないで頂きたい」
一触即発の重苦しい空気を感じ取り、グスタフが間に入り仲裁した
息子の言葉に冷静さを取り戻したハミルドは眉間に皺を寄せ、威厳のある声で指揮官達に向かって声を発する。
「いいかお前達、今回の相手は難敵だ、はっきりってどれくらいの被害が出るか想像が付かん。死を恐れる者はここからすぐに立ち去れ!」
ハミルドの凄味を効かせた一喝は、その場に居合わせた指揮官達の目を点にさせ、中には笑い出す者までいた。
その笑っている者が一歩前に出て口を開く。
「恐縮ながら将軍閣下!! 我らは閣下の駒であり剣であり盾です!! 何なりと命じて下さい!!」
その場にいる者の顔はみな誇らしげで、どれだけハミルドの信頼が厚いのかを伺う事が出来た。
その言葉を聞いたハミルドの口角が僅かに上がり、目を少し瞑ってから彼らの覚悟に応える。
「死に急ぎの馬鹿共が……出陣だ! 準備を整えろ!」
ハミルドの言葉に威勢よく返事をした指揮官達が颯爽と出て行くのを見て、エスカダの者がニタリと嫌な笑いを浮かべて拍手を送っていた
「素晴らしい兵達ですね、国の為ならば命を捨てる事ですら恐怖しないとは。いや、貴方の為ならば、ですかね?」
「……ふん」
ハミルドはエスカダの男の言葉を鼻で笑いながら、こいつらが出張ってくるのだからやはり保険を打っておいて良かったと考えていた。
時間を稼げば本国から帰還命令がくる、ハミルドはそのことを知っているのだ。
◇ ◇ ◇ ◇
イオレースに与えられた命令はペネアノの守護。
その為特にこちらに何かしてくるでもない相手に、こちらから攻撃を仕掛ける様な事はしなかったので暫く膠着状態が続いていたのだが、サンレヴァン軍が動き出した事により、両陣営が激しくぶつかっていた。
辺りが沼地化している事で馬の機動力を活かした戦術は使えず、イオ達の方が優勢の様に見える。
「ほう、ここまで来れる者がおるとは中々楽しませてくれる」
多くの大蛇を切り伏せ、仲間を犠牲にしながら六人の部隊がイオレースの前へと姿を現した。
圧倒的強者の視線はゴミを見るそれで、その視線は心臓に直接蜷局を巻かれ締め付けられているかのような息苦しさを与え、腹にまで響く声は恐怖を掻き立て思わず誰もが後退る。
「怯むな! 取り囲んで確実にダメージを与えていけ!」
ハミルドはそんな精霊化した六人のサンレヴァン軍の小隊がイオを取り囲んで撃破に当たるのを、精霊を通して見ている所だ。
「ではお手並み拝見と行こうか。主殿にも退ければそれでいいと言われているのでな、少々手加減してやろう【結蛇・奪】【毒蛇・染】」
イオレースを中心に薄いオレンジ色の結界が展開されただけではなく、辺りの沼の色が毒々しい色へと変化していく。
かつてショウとルーの二人と戦った時にも使ったデバフ効果のある結界と、辺りの沼を徐々に体力を奪っていく毒沼に変化させる固有魔術だ。
「くっ……力が抜ける……同時攻撃だ!」
卓越したサンレヴァン軍の鋭い槍が巨体に当たるが、イオレースの皮膚を貫く事なく軌道がそれていく。
イオレースの皮膚は摩擦を軽減する特殊な作りで、通常の斬撃や刺突はまるで効果がない。
攻撃をされたのでイオレースは六つの口から牽制がてらに何気ない攻撃を吐き出し反撃をした。
吐き出された炎を受けた兵は、激しい炎に包まれ喉と肺を焼いた事で呼吸が出来ず、もがき苦しみながら黒焦げとなり、水球を受けた者はヘルムごと頭を半分を吹き飛ばされ、脳漿や脳味噌をまき散らして死亡。
砂を受けた者はギュッと圧縮された砂によって圧殺、破裂した体から目玉や臓器が血の海に転がっており、格子状の風の刃を受けた者は綺麗にダイスカットされ、頭からくちゃくちゃ音を立て崩れて肉塊へと変わった。
無数の結界の弾丸を受けた者は上半身が完全に吹き飛び、原形を留める事は出来ず、上半身と下半身を繋いでるのは伸び切った腸だけだ。
仲間達が無残な死に方をするなかまだ生きている者が居た。
と言っても酸を浴びて体が溶けて行っているのでまもなくなのだが……
かなりの激痛を伴いながら酸で焼けただれていくのは、死に方で言えば一番酷いと言えよう。
イオレースは進化した事で火、風、土、水、結界、毒と酸を扱えるようになったのだ。
「手加減したのに全員死んでしまったか。思ったより歯ごたえがないのだな」
六人の兵は死に、いつの間にか眷属の蛇達が何匹かイオレースの周りに集まっていた
「閣下の作戦通り……全滅です……」
ハミルドは悔しそうに拳を握るが、気持ちを切り替え次の指示を出す。
「よくやった……彼らの死は決して無駄にするな! 精霊結界を発動しろ!」
蛇の腹を突き破って何人かが飛び出し、再度イオレースを取り囲んだ者達が高速詠唱を完了させ魔術を発動させる
「「「「「「【精霊六方封印陣・サクリファイスチェーン】」」」」」」
イオレースを中心にして取り囲んだ六人に青白い線が結ばれると、使役している精霊を犠牲にして作られた青白い極太のチェーンがイオレースにじゃらじゃらと巻き着き動きを封じて力を奪った。
「どうだ、身動き取れまい! ハミルド様の言う通りうまく行ったぞ!」
「ほう、我が眷属の腹の中に隠れて近づいてくるとはな、通りでお前達の気配に気付けないわけだ。見事な作戦だな。優秀な指揮官に称賛を送ろう。中々に強力な鎖の様だが主殿にやられた封印魔法には及ばんな。解除にかかるのは……精々一時間から二時間と行った所か、それまでにケリを付けられるかな?」
身動きが取れずしてなお余裕の表情でチロチロと舌を出す六頭蛇に六人は冷や汗を流す。
本来であるならば簡単には抜け出せないこの封印なのだが、この魔物なら本当にその位の時間で破られるであろうという事が分かっているのだ。
戦いはハミルドの指揮の下、水と土系の精霊を使い沼地を逆に利用して蛇の軍勢を蹴散らして行った。
統率を失った魔物は大して強いわけではないのだ。
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「私はサンレヴァンの将軍ハミルドだ、お前は一体何者だ?」
「わしは主殿の命でここを守っているだけだ。さて……そろそろだな」
イオレースを縛っていた鎖が引き千切れ、今までとは比べ物にならない程の禍々しいオーラが噴出してサンレヴァン軍を怯ませた。
ここからの戦いが本番なのだと兵士ゴクリと生唾を飲み込み身構え覚悟を決める。
両者睨み合い重苦しい緊張感が支配する空間に、所々骨がむき出しになった非行型のアンデッドから紫色の髪の女と、ふざけているとしか思えない仮面をつけた女が飛び降りて来て、紫髪の女が馬鹿にした様な口調で蛇に話しかけた。
「ちょっとイオレース何やられてるのよ? あなた進化したて強くなったんじゃなかったかしら?」
「ふん、小娘がギャーギャーとやかましい。そこのハミルドという奴が中々の曲者でな。これからが本番というところだ、邪魔をするな」
「邪魔をするつもりはないけど、早急に片づける方がショウも喜ぶんじゃない?」
「……それは一理あるな。小娘に助力を求めるのは癪だが、主殿の為とあらば止む無し」
「丸くなったわね、あなた。じゃあさっさと片付けましょう」
「お前こそな。さっさとやってしまおう」
イオレースとフラミレッラがやる気満々になった所で仮面をつけたストリンデが割って入って来た
「ちょっとちょっと、一応、引いてくれないか聞いてみないと! オホン……俺は正義と共に歩む者、今ここで引くならば我々ば手出ししない! ここはこのドリンに免じてひいてはくれまいか?」
両手を広げて仮面の下でにっこりと全力で笑っているが、全く見えないので何なら胡散臭ささえ醸し出している
そしてハミルドは思った、紫髪の女も相当ヤバイ奴だが、違う意味で一番ヤバいのはこの仮面の女だと……
「増援か……先程の非行型アンデッドの様子から察するに……あっちは全滅かもしれんな……」
「閣下、急ぎの報告です、アンデッド討伐は2000以上の兵を失い失敗。万が一そちらに紫髪蒼目の女と仮面の者が現れたら直ちに退却すべし、現状の戦力では勝つことは不可能! との事です」
「ふふふ、あやつめしぶとく生きておったか。だがもう少し早く言って欲しかったものだ。どの道エスカダ出て来た時点で退路は断たれているがな」
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本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
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