蒼炎の魔法使い

山野

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第百二十三話 汚された聖女

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「ドリンとやら、忠告感謝する。が、我らに退却の選択肢はない。国の為、家族の為、理由は様々だが、我らは背水の陣での攻めの一手のみ! 最大火力で速やかに排除する! 時間はそう掛からん、耐えれるのなら耐えてみよ! 全軍陣形を展開せよ!」

 ハミルドの一言で速やかに陣形が組まれ戦いが始まろうとしている時、イオとフラミレッラはお互いに顔を見合わせていた。

「やる気なのね、良いわ付き合ってあげる。代償は大きいわよ?」

「勿論わかっている。どんな代償でも払うつもりだ」
 精霊によって伝えられたハミルドの言葉を吟味してフラミレッラがイオレースに問いかける。

「イオレース、あなたはこの状況をどう見るかしら?」

「恐らくお前とわしの考えは同じだろう。だがまだ確証はない。もしわし達の考え通りなら長い戦いになるな」

「え? 何どういう事? これから向こうが死ぬ気で攻めて来るって事じゃないの? いや、じゃないのか?」
 私はすっかりドリンとしてのキャラを演じるのを忘れて二人に問うた。

「説明は後、ストリンデ、【セイントサークル】を展開して頂戴」
 だから今の私はドリンなんだってば! うぅなんですぐに見破られたんだろう?
 私の変装は完璧だったはずなのに……街の人だって傷を治してくれてありがとうドリンさんって言われたし私が聖女だなんて思いもしなかっただろうなぁ!
 あれ? でも傷を治してたのって仮面をつけてない時だったような……

「別に良いけど、フラミレッラは弱体化するの大丈夫なの?」
【セイントサークル】は弱いアンデットなら一瞬で消滅するし、上位アンデッドでもかなりの力を削ぐことが出来る上に神聖魔術の威力を上げ、サークル内に居る生者の治癒効果もある優れた魔術だ。

「ええ大丈夫、今回に限ってはね、死霊魔術【生への冒涜】」
 フラミレッラの声と共にそこら中に転がっている蛇の死骸や、兵の死体がゾンビとなって蘇った。

 うえぇ……この魔術結構グロテスクなんだよねぇ……原形を留めてる者は良いけど、そうじゃない者は腹から零れた腸を拾ってお腹に収めようとしてたり、取れそうな目玉を穿ってたりするし、一回死んでるから大体見た目がちょっとね……

 多くの者をゾンビとして蘇らせて使える代わりに、パラメーターと知能は半減する上に使い捨で、先程の戦いでゾンビにした1500人は今回使う事が出来ないらしい。

 昔の聖女ストリンデなら間違いなく発狂するような所業だけど、今では仲は良いとは言えないが生活を共にしているし、認めたくないけど好きな男が一緒だったりと、距離感がよくわからない相手でもある。

「どうなっても知らんぞ? 【セイントサークル】」
 戦いが始まったと同時に、広範囲サークルが展開され、その範囲はサンレヴァン軍の大半まで及んだ。

「ええ、今回は逆にこの方が良いわ。それと貴女……」
 私がフラミレッラの事を少し苦手に思っているのは、アンデッドと聖女で考え方もまるで違う水と油の様な存在だから……ではない!

「また大きくなったんじゃないの? 全くけしからん胸だこと。何がどうしたらこうも大きくなるのかしら? 信仰心で大きくなるなら私もエメでも信仰しようかしらね?」
 これが苦手意識の最大の原因……逃げようにも実力差が大きく開いてるから回り込まれる……
 彼女は隙あらば後ろから私の胸を揉みしだいて来るんだけど、その手付きが何だかいやらしくて……

「……やめてよ……うぅん……ちょっと、そこはダメだっていってるでしょ……」
 段々変な気になってくる……

「何色っぽい声出してるの? うふふ、貴女も好きね」
 以前ショウの寝室に起こしに入った時に見た、フラミレッラがルーメリアにしていた卑猥な事を何故か今思い出し、仮面の下の私の顔は火が拭きそうな位赤くなっていた

 あれは……ちょっと刺激が強すぎて私にはまだ早すぎたんだ……

「お願い……もうやめて……力が抜ける……」
 体は火照り、腰が抜けた所をフラミレッラが支えながら先程よりも緩急を付けて揉み続け、私の耳を甘噛みしながら吐息交じりの艶のある声で囁く

「聖女なのにこういう事好きなの? いやらしい。貴女の胸って張りがあって形も良いし好きよ、もっと汚したくなっちゃう」
 ストリンデも甘く艶のある吐息が自然と漏れる

「……わ、私は……聖女じゃない……正義の……」

「聖女じゃないならもっとしても大丈夫よね? ねぇ、この手を彼のだと思って。今貴女は彼に後ろから乱暴に揉まれてるの。聖女としてじゃなく、ただのメスとして、ただの性のはけ口として」
 へたり込んでしまったストリンデに追い打ちをかける様に服の中に手を滑り込ませ、荒々しく豊満な胸を直接鷲掴みにした

「……私が……ショウに……うぅん!」
 ダメ……体が熱い……私は聖女……こんな事には屈しない……はずなのに……ショウのじゃないのに、否応なしに彼の手を思い出しちゃう。
 知らず知らずのうちに太ももは擦り合わされ、意識は朦朧とし、艶めかしい声が小さく漏れていた。

 飛び出た腸を引きずりながら戦うゾンビや、脳味噌が漏れないように片手で押さえながら戦うゾンビ、かつての仲間に生きながらにして臓物を生でブチブチと食い千切られるサンレヴァン兵。

 辺り一面血みどろの戦場で場違いに広がる官能的空間から、幾多の断末魔に紛れて聞こえる嬌声は明らかに異常だが、不思議と男達の視線を引き付ける妖しさを放っていた。

 そんな劣情を煽り立てる女二人の行為に終止符を打ったのは六頭を持つ悍ましい大蛇の呆れた声だ。

「何しとるんだお前達は」
 情欲に溺れそうになった私はイオレースの声にはっとして、慌ててフラミレッラから距離を取った

「その時の為の開発よ。折角良い所だったのに邪魔しないくれるかしら?」

「か、開発って何なの?! もうヤダ!! だからあんたの事嫌いなの!! この変態!!」

「あら残念ね、私は貴女の事結構好きよ」
 私の胸を揉みしだいていた指をペロリと舐めて、からかうように発したフラミレッラの言葉に思わず赤くなったけど仮面でバレてないはず……
 冷静になって周りを見てみるとこんな状況で良くあんな事できたなぁ……

 でも思ったより両陣営被害が少ない?

「ねぇ、これってどうなってるの?」

「気付いたのね。多分あのハミルドとかいう子のしたい事は時間稼ぎなのよ」

「然り。察するに何かに監視でもされておるのだろう。やらねば大方身内が殺されるとかな」
 私の理解が及ばず考えているとフラミレッラが続けた

「ほらさっき言ってたでしょ? 最高火力で排除する、時間はそう掛からないから耐えてみろって、それなのにあの陣形はおかしいのよ、防御型だしやっている事がちぐはぐ。あの子の言いたかった事は時間稼ぎに付き合ってくれって事ね」

「そんな事に付き合ってあげる意味あるの?」

「ええ、大きな貸しが作れるわ。そこは確認も取ったしね。サンレヴァンは精霊の国と言われるほど精霊と関わりが深い。ショウの探し物の役に立つかもしれないでしょ?」

「あちらが相手にするのは使い捨ての不死者、わし達には何の損もない。提案に乗ってやろうではないか」
 そういう事だったんだ、あの短いやり取りにそういう意味があったなんて全然わからなかった……

 サンレヴァン軍の被害は最小限で済み、その日の戦いが終わる。
 そして夜、ハルストルス公国軍、メーラ帝国軍を無事退けたショウ達が私達と合流したんだけど……

「なぁストリンデ、その変な仮面何?」
 何で易々見破るの?! 私の変装は完璧なのに!!

「バレてないと思ってるのは貴女だけよ」
 知らない面々も居たけど、私を知っている者は皆頷いていて、その言葉が真実だという事を物がっていた。

 レデリの嘘吐き! 「全然誰かわからなかったですー、ストリンデさんの変装って凄いですね!あ、こんな喋り方なんてどうですか?」
 何て白々しくあんな変な喋り方提案して! なんかニヤニヤしてたのはそういう事だったのか!

「ちなみにその仮面ちょっと透けてるわよ」
 私は今までの自分の言動の恥ずかしさに四つん這いになり手足でバタバタ地面を叩き、次の日に備えて休むのであった……
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